偽龍の仔 作:贋子
28
「――――よく来てくれたね、二人とも」
とある日、Random_playのスタッフルームにて従業員三名が招集を掛けられる事になった。
招集をかけたのは、家長兼この店と家の財務担当、アキラ。
呼び出された形となったリンとギリュー。特に、リンの方は何やら後ろめたい事があるのかそっぽ向いて冷や汗を流しつつ下手な口笛を吹いている始末だ。
「まず、今月の収支について何だけど――――」
「あ、アレは違うの、お兄ちゃん!チョーッと、魅力的なカプセルトイがあって、偶々懐も温まってたからついついぶん回しちゃっただけで……!」
「カプセルトイ?リン、今は真面目な話だよ。ちょっと、困った事になってるんだ」
「え……?」
罪の懺悔をしていたリンだったが、思わぬ兄の言葉に首を傾げた。
「何が困ってる?」
「実はね、うちの電気代が今までと比べて、五倍になってるんだ」
「……Fairyのせい?」
「まあ、そうなるね。幸いというべきか、表稼業のビデオショップが好調だから収入が減ったとはいえ、生活する分には困らない程度には、貯蓄もある。でも、だからといって無視していい額でもないのは確かだ」
そう言って、アキラはチラリとH.D.Dの画面に映った瞳の様なアイコンを見やる。
「その辺りはどうだい?Fairy。君の意見を聞きたいな」
『申し訳ありません、よく聞き取れませんでした。もう一度おっしゃってください』
「こういう時に限って、無能な人工知能のフリをするんじゃない。いつも鼻高々に自分が如何に高性能かアピールしているんだから、しらばっくれても意味ないよ」
「というか、五倍って……つまり、私たちが寝てる夜にもフル稼働させてたって事?そこまでする必要があるの?Fairy?」
『回答。マスターと助手二号、三号。更に本店の安全などを考慮した上で防犯には必要な事です。防衛網を確立しておくには、二十四時間の稼働も必要です』
「むっ……」
ペラの回る人工知能だが、同時に真理を突いてもいる。
実際問題、プロキシ業はFairyが来たお陰でアカウントを喪失しながらも、様々な仕事を高い完成度で達成する事が出来ていた。
昇格試験も受けたお陰で、今後はより報酬のいい仕事も選べるだろう。
同時に、ビデオショップの方も客が増えた事により、防犯を意識せざるを得ない。
故に、言い訳がましくとも、Fairyを真正面から批判する事は難しい。高性能AIの無駄過ぎる活用である。
「……ハァ、どうにもこのまま論じても丸め込まれる気しかしないね。良いだろう、Fairy。とりあえず、今この場での追及は避けるよ」
『良い判断です、助手二号』
「やれやれ。さて、二つ目だ。こっちは、プロキシ業に関連してる。Fairy、例のメールを表示できるかい?」
アキラからの支持が飛び、Fairyが動く。
画面に表示されたのは、一通のメールの文面だ。
「コレは、ついさっき僕らの
「えっ……それ、ちょっと変じゃない?」
リンが首を傾げる。
「だって、今のアカウントって正直まだまだ新米のプロキシでしょ?なのに、態々指名してくる上に、こっちのメールアドレスを知ってるって事だし……」
「そう、そこなんだよ。僕らの新アカウントの知名度は、ぶっちゃけ対して高くない。パエトーンと比べれば猶の事、ね。アッチなら、お得意様の一つや二つ指名依頼が来ることなんて珍しくなかっただろうけど、今の僕らは違うんだから」
「Fairy。まさかとは思うけど、インターノットの方に宣伝目的でアカウントのメアド流したりしてないでしょうね?」
『否定。匿名フォーラムにそれら個人情報を流す事へのリスクは、リターンと釣り合っていない為、例えマスターのご命令でも再考を提案いたします』
「まあ、そうだろうね。ギリューが端末を操作できるとも思えないし、僕もリンもそんな愚を犯す様な事はしない。危ないからね」
「?」
いまいち話についていけていない黒髪頭が首を傾げる。
ビデオショップの手伝いは未だしも、プロキシ業に関しての主導は兄妹の方だ。電子機器関連はまだまだ触らせるには不安がある為だ。
となれば、気になるのはやはり相手の事。
「お兄ちゃん、依頼相手は誰なの?」
「そこは、調べがついてる。というか、アカウントの画像がそのままでね。Fairy」
『今回の依頼主は、“白祇重工”の関係者です』
「白祇重工?それって、この前のヴィジョン関連でニコが……あっ」
「……多分、リンと僕が考えている事は一緒だろうね」
兄妹の脳裏に浮かんだのは、目をディニーに変えて高笑いするピンク兎の事であった。
ただ、彼女は彼女で締める所はちゃんと締める真面目さも持ち合わせている。ディニーにつられる事はあれども、その一方で報酬を無視して義侠心に従う面がある事も事実。
判断がつかない。そこに、Fairyが提案を告げる。
『提案。現在とある番組に置いて、白祇重工の関係者が出演しています』
「テレビか。そういえば、白祇重工が新しく落札したんだったね。その関連かな。Fairy、そのチャンネルを映せるかい?」
『表示します』
機械音声と共に、スタッフルームのテレビが起動。砂嵐を経てから、とある番組が表示された。
スピーカーから流れるのは、ポップな音声。
「ボンプは知っている……?」
ギリューが呟く番組のタイトルコール。
チャカチャカ動き回るボンプと子供たち。そして、その番組中央置かれたソファに座るのは赤いメッシュが印象的な逆立った黒髪の大柄な男性、アンドー。それから、眠っているのか腕を組んで俯いているライオンの着ぐるみ。
「コレは、教育番組、かい?その割には、扱う内容が随分と難しい様な気がするけど」
「ヴィジョン撤退に、白祇重工の落札に……コレって、大人が見ても理解するのが難しいんじゃ……」
アキラとリンには不評らしい。
ただ、二人の懸念に反して淀みなく番組は進んでいく。
眼鏡をかけた賢そうな子供が、白祇重工の利点、ヴィジョンの汚職や所業を紹介していく。白祇重工の関係者であろう男性もまんざらでもないらしい。
だが、事はそう簡単に運ばない。
噛み付いてきたのは、寝ていた筈のライオンの着ぐるみ。
作り物の頭部越しにも分かる悪辣な雰囲気。
そして、その口から飛び出した数年前の白祇重工のスキャンダル。
アンドーが怒りの表情でライオンの着ぐるみの胸ぐらを掴み上げるが、相手もさる者引っ掻く者。声色でニヤニヤとした雰囲気を存分ににじませながら、白祇重工の社長が数年前に資金を持ち逃げして行方をくらました事をぶちまけた。
一触即発の状況となり、そのままカメラはフェードアウト。流石に、これ以上は番組が崩壊すると判断されたらしい。
テレビの画面を消して、アキラは首を振る。
「これがお茶の間に流れるのは、かなりヘヴィだ。ご両親と一緒に観ていた子供が居たのなら、お通夜の雰囲気だろうね」
「でも、気になる事もあったよね。先代社長の資金持ち逃げって話。アレ、アンドーさんが怒ったから、余計に信憑性が増しちゃったんじゃないかな」
「かもね。ただ、もう一つ分かった事がある」
「白祇重工からの依頼かもしれない、って奴?」
「そうだね」
『報告。DMを受信しました。文内に、“生きるか死ぬか”の文字を検知。読み上げます』
「また、凄く物騒……」
リンが呆れるが、しかしメールの文面はかなり切羽詰まっていた。
依頼内容こそハッキリと書いていなかったが、これまでの状況証拠から依頼相手は白祇重工でほぼほぼ確定。それも、業界内ではそこそこに名の通った企業の修羅場とくれば厄介事である事は想像に難くない。
「さて、どうしたものかな……面会の要求に、こちらをパエトーンであると断定した上での依頼文。聞いた相手はニコであるとして、非合法なプロキシへの依頼なんだ。十中八九、ホロウ関連の仕事だろうけど……」
「確か、白祇重工はホロウ関連の仕事も受けてる筈だよね。となれば、キャロットなんかも持ってるだろうし、従業員もエーテル適性が高い人が多くてもおかしくない……にも拘らず、こっちに依頼してくるんだもん。怪しく思っちゃうのも無理はないと思う」
「そうだね」
どうしたものか、と悩む二人。
プロキシ業は、人脈が力となる。しかし、だからといって誰彼構わず縁を結ぶ事も良い訳ではない。非合法の職であるからこそ、見極めねばならなかった。
とはいえ、断るにしても難しい。
「……ニコが窓口になってると仮定して、僕らがこの依頼を断ればまず間違いなく彼女からの鬼電が来る」
「それに、ニコの人を見る目は結構信用できるんだよねぇ……」
ニコ・デマラという女性の人を見る目は、結構信用できる。零細な何でも屋である邪兎屋の従業員を見ても、ソレは確かだろう。
そんな彼女が、プロキシとして自分達を紹介したとなれば、少なくとも目に適うものがあったという事。
更に、ダメ押しの情報がFairyから飛び出る。
『報告。前金として、先月の売り上げの内八割強の金額を確認』
「!ビデオショップが好調だけど、その分とプロキシ業合わせての八割か……」
「お兄ちゃん、やっぱり受けちゃおうか。ほら、面会にしたってギリューが居たら大丈夫じゃない?」
「まあ、並大抵の相手には負けないだろうね。最悪、ギリューがリンを抱えて逃げれば良い訳だし」
武士は食わねど高楊枝、とも言うが残念ながら貨幣経済を生きていくには金銭を持っておくことは必須事項。
かくして、彼らは新たな騒動へと足を踏み入れる事になるのだった。