偽龍の仔   作:贋子

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遅くなりました











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 クレタ・ベロボーグと名乗った彼女は、グレースと一緒にリンたちの居る場所の間で降りてきた。

 そうする事で、改めて気付かされるがクレタはかなり小柄だ。隣に並ぶグレースが女性として結構背が高い事も相まって余計に小さく見える。

 とはいえ、リンの身内にはもっと背の低い者(ギリュー)が居る。そこまで注目するものでもない。

 

「よお、パエトーン。うちの面倒事に巻き込んじまって悪かったな。うちへの信頼が揺らいでいないと良いんだが」

「あ、えっと大丈夫大丈夫。寧ろ、アットホームな感じで良い具合に肩の力も抜けたからさ」

「そうか。アンドーの方から連絡は貰ってる。お前ほどのプロキシが手を貸してくれるって事で、こっちとしちゃ胸を撫で下ろした所だ。それと――――」

 

 クレタが見やるのは、黒い尾を揺らす少年。

 

「うちの尻拭いをやらせるような事になったとはいえ、知能重機を止める事が出来るエージェントが居るのなら猶の事安泰だな」

「俺?」

「ああ。荒事に慣れてる奴は、多い方が良い。今回の件は特に、な」

 

 腕を組んだクレタの雰囲気は、その見た目に対して重苦しい。それだけ、現状の白祇重工が苦境に立たされているという事の証明でもあった。

 

「今回、うちは地下鉄工事の案件を勝ち取る事になった。この経緯に関しては、寧ろそっちが当事者だから詳しいだろうから省かせてもらう。とにかく、案件を勝ち取ったが……敵からの手出しが多くてな。うざったいったらありゃしねぇ」

「敵、っていうのは?」

「同業他社の事だな。ヴィジョンがこけた結果、俺達がこの案件を手に入れたがそれが面白くないって輩は少なくない。厄介な点としては、規模の大きさだな。銀行の融資まで止めてきてる」

「ええ?それって変じゃない?企業に出資する銀行って相応に大きい所だよね?そんな所に、口出しできるなんて、よっぽどじゃない?」

「まあ、うちよりデカい会社からすれば、この工事を請け負った事がそもそも気に入らないんだろう。ああ、でも資金に関しては心配しなくて良い。プロキシさん達の報酬も確りと払うさ」

 

 大柄で現場一筋の様なベンだが、その実白祇重工の経理財務を担当していたりする。そんな彼からのお墨付きがあるのなら少なくとも現状の資金面は問題がない。

 

「ええっと……それじゃあ、私たちは何をすれば良い訳?その敵をあぶり出す、とか?」

「いや、そっちに関しては心配しなくてもいい。厄介だが、それでもこっちだけで相手できるからな。依頼は……うむ、ここからは社長に任せよう」

 

 そう言って、ベンはクレタへと水を向けた。

 依頼内容の説明だけならば、ベンで事足りる。しかし、今回は文字通り社運を懸けたもの。社長であるクレタが矢面に立つ必要があった。

 

「悪いな、ベン。プロキシ、今回の依頼で重要なのはうちの目玉であり、同時に売りでもある知能重機に関してだ」

「知能重機……さっき、ベンさんに少し説明してもらった奴、だよね?」

「知ってるなら、話が早い。実はな――――」

「つい最近、うちの子たちがホロウで行方不明になったんだ!」

 

 割り込んできたのは、グレースだ。そして、彼女の発言は無視できるものではない。

 

「子供がホロウに!?そ、それじゃあ、直ぐに助けに行かないと!」

「グレース!紛らわしい言い方をするんじゃない!向こうで、暴走した知能重機の点検でもしてきてくれ」

 

 ベンが押し出すようにして、グレースを向こうへと連れて行く。

 その背を見送りながら、クレタは溜息を吐きだした。

 

「はぁ……悪いな、プロキシ。あいつの言う、うちの子っていうのはさっきも言った知能重機の事なんだ」

「あ、さっきの?」

「あいつは変わり者だが、腕は間違いないメカニックでな。自立型の知能重機を開発したのもアイツなんだ。ただ、な。組み上げた奴らを子供って呼ぶ変わり者でもある」

「成程ー……えっと、それじゃあホロウに消えたのも、その知能重機な訳?」

「そうなる。数は三台で、どれも現場で重宝してた奴だ」

「……知能重機って頭が良い?」

「勿論だよ!あの子たちはホロウ内で長時間作業が出来る上に、()()()()()()()()()()()!正に、白祇重工のコア・コンピタンスそのものなのさ!」

「う、うん……」

「言語モジュールも搭載して、音声対話にも対応しているし、その一言一言があの子たちの思考から生み出される言葉なんだよ。そもそも、プロトタイプの技術を基礎として、そこから各職種に対応できるようにして改良を施していったのも私でね。手塩にかけた、私にとっては子供といっても差し支えない!君もそう思うだろう!?」

「ッ………」

 

 熱意が凄い。それこそ、常日頃ならば無表情で泰然としている印象を覚えるギリューの表情が僅かに引きつって、気持ち視線でリンなどに助けを乞うているレベル。

 流石に見捨てるのは忍びない上に、話も進まない。

 

「はい、ストーップ!」

 

 手刀を切ってギリューとグレースの間に割って入ったリン。そのまま弟分を抱き寄せてからグルルと威嚇。

 同時に、グレースの頭にモフモフの手刀が振り下ろされた。

 

「落ち着け、グレース。向こうに行ってろって言ったろ」

「でも、ベン!こうして私の子たちに興味を持ってくれる子が現れたんだよ!?勧誘するに決まってるじゃないか!」

「何の勧誘だ。ギリュー君は、プロキシさんの所の子なんだから」

「勿論、機械道さ!私と一緒に開発をしよう!」

「ベン、連れてけ。話が進まねぇ」

「了解、社長」

 

 がっしりとグレースの細い腰を担ぎ上げて、ベンはその場を離れる。

 運ばれていく部下を見送って、クレタは眉間を揉んだ。

 

「何処まで話したっけか」

「えーっと、その知能重機が三台が行方不明になった事?」

「ああ、そこか。数日前の事だ。グレースが言うには、論理コアをアップデートしたらしい。アイツは定期的にやってるからコレに関しては、珍しい事じゃない」

「ええっと……なら、論理コアが故障した、とか?」

「その可能性はある。実際、ホロウ内で作業する関係上どうしたって内部モジュールにエーテル侵食が起きる事はしょっちゅうでもあるからな。ただ、コレもグレースの報告なんだが、三台の知能重機は自分の意思でホロウの深部に入ったらしい」

「自分の意思?…………まあ、確かにさっきのグレースさんの話を聞けば、そう言う事もあり得る……のかな?」

「ハッキリとは分からねぇ。そっちは、グレースの領分だ。そんで、プロキシにはこの三台の知能重機の捜索と回収を頼みたい。急かすようで悪いが、なるべく早くな」

「それって、さっきの“敵”に関してだね」

「ああ。知能重機が無くなっちまったてのは、スキャンダルになる。そこを突こうとする奴は多いだろうからな。時間は掛けてられねぇ。工事の進捗にも直接影響するしな」

「了解。私たちも、全力を尽くすからね。ね?ギリュー?」

「うん。がんばる」

「頼りにしてる。幸い、三台中二台の居場所はある程度信号で絞れてるんだ。そっちの準備が終われば直ぐに行こうぜ」

「そっちも、了解。直ぐに準備してくるね。ギリューは……」

「ん、待ってる」

「良い子にね」

 

 黒い頭を一撫でして、リンは乗ってきた車の方へと駆け足で向かっていく。

 その背を見送って、ギリューは改めて目の前の少女へと目を向けた。

 

「クレタは、社長?」

「ん?まあ、そうだな」

「大変?」

「それは……だな。つっても、どんな仕事だってソレは一緒だろ?ギリューもエージェントとしてホロウに潜ってるなら、相応の危険な目には合ってるはずだ」

 

 クレタの言葉に、ギリューは今までを少し思い出した。

 最初の邪兎屋との出会い。直近のデッドエンドブッチャー。

 割と真面目に、ギリューは危険な目に遭っている。特にデッドエンドブッチャーと双頭のハティは、下手すれば死んでいたかもしれない。

 

「…………うん、大変だった」

「何つーか、えらく実感籠ってんな」

 

 見た目に反して遠い目をするギリューに、クレタも頬を引きつらせる。

 

 程なくして、リンの代わりにボンプ(イアス)がやって来た。

 お仕事開始である。

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