偽龍の仔   作:贋子

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 幾つもの弾丸が空を突き進み、雷光が走って、暴力が砕く。

 

『次!二時の方角から、三体来るよ!』

 

 兎型の人形のようなロボット、ボンプ(イアス)からの指示が飛ぶや否や三種の攻撃が飛ぶ。

 

「いやー、やりやすいな!前衛二人にナビゲーターの店長が居るだけで快適さが段違いだぜ!」

 

 弾丸を放って排莢したリボルバーに空中で器用に再装填しながらビリーが叫ぶ。

 先の分からないたった二人の行軍は、終わりが見えない事も相まって肉体以上に精神をすり減らす状況だった。

 そこから一気に好調へと事態が好転した。元々お調子者の素養のある彼のテンションが大きく跳ねあがるのも無理からぬことだろう。

 彼だけではない。アンビーの動きも良い。

 対エーテリアスの戦場で、ギリューの動きを制御する事は難しい。だが、指向性を持たせる事は出来る。

 例えば、ギリューが狙うエーテリアスは基本的に自分に近い個体である。最短最速で肉薄して力一杯叩き潰す本能任せの脳筋戦法。

 裏を返せば、ギリューから離れた個体は後回しにされる。つまり、この浮いた駒を率先してアンビーは刈り取って行ったのだ。

 内と外から挟み込むようにして刈り取り、更に後方からの銃撃を混ぜる事によってエーテリアスの討伐速度は飛躍的に上がる。

 エーテリアスの群れを返り討ちにして、上機嫌にギリューの頭を撫でるビリーを尻目にリンは気になっていた事をアンビーに問いかけた。

 

『そう言えば、ニコからの依頼はアンビーとビリーの救援とターゲットの回収?だったんだけど。このターゲットって何なの?』

「ターゲットは、金庫よ。大きさは、私やニコが抱え上げる事が出来る程度の大きさでナンバーロックが掛かっているわ。私たちは、この金庫を赤牙組から奪取して色々あってホロウに落ちたの」

『成程ね。それじゃあ、その金庫は何処にあるの?』

「ホロウの奥にある事は確認したわ。でも、ちょっと厄介な事になってるの」

『厄介な事?』

「エーテリアスさ。赤牙組のオッサンはエーテル適性が無かったらしい。そいつがエーテリアスに成っちまったんだが……」

「上級エーテリアスのデュラハンになってしまったわ」

『そのエーテリアスが金庫を守ってるって事ね。それじゃあ、このまま行っちゃう?』

 

 リンの言葉に、ビリーとアンビーは顔を見合わせる。

 

「……いや、まずはホロウを抜ける方が先だと思うぜ。俺もアンビーもエーテル適性があるとはいえ、時間がどれだけ残ってるか」

「うん。それに、このままの戦力で戦っても確実に勝てるとは言えないもの」

 

 二人はそう結論付ける。

 リンの動きを反映して、ボンプが首を傾げた。

 

『ギリューが居ても難しい?』

「あー、何つーか……なあ?」

「ギリューが強いのは分かる。でも、突っ込むだけの獣じゃ技術を持つ相手には勝てない」

 

 力が強い、足が速い、武器の扱いに長ける。それら要素はもちろん大事だが、それだけで戦場で勝ち続ける事は出来ない。

 心技体という言葉がある様に、最後の最後で物を言うのは精神力だ。そして、現状のギリューには強靭な精神力は無い。

 もし仮に、今この状態でデュラハンに挑めば打倒できたとしても小さくない手傷を負う事になる。アンビーとビリーが消耗している事も加味すれば撤退が吉。

 

『うーん、そっか。とりあえず、一時撤退だね。作戦を練り直そうか』

「あ、でも。店長への依頼料は、また掛かっちまうか?」

『その辺は気にしなくて大丈夫だよ。ニコは最初に、ターゲットの回収も依頼に組み込んでたからね。ちゃっかりしてるというか、何というか』

 

 ボンプから苦笑いが聞こえてくる。

 零細経営者であるニコだが、決して無知蒙昧ではない。寧ろ、目端が利く。その頭の中では常に電卓を弾き、自身にとっての最良を引き込む。

 今回の場合、最悪は従業員を失い、その後のプロキシ(パエトーン)の協力を仰げなくなる事。ターゲットに関しても依頼の遂行では必要だが、決して必須ではない。

 

「……」

 

 ボンプが先導して、二人が進む中一人ギリューはその場を振り返ってジッとホロウの奥を見つめていた。

 揺れる尻尾は何を思うのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ふーむ。稼働率は8%といった所かなぁ?」

 

 暗い部屋に一つの声が響く。

 

「まあ、まだまだ稼働して一月といった所だしねぇ。仕方ないかな?強い相手とも当たらなかったみたいだし」

「言っている場合ではないのでは?」

 

 声が一つ増える。

 

「貴方の見立てでは、15%は固かったはず。それが蓋を開けてみれば、半分前後。オマケに、力を振り回すだけの怪物では運用を見直すべきでは?」

「うーん、そう言われてもねぇ。それに、急ぐ事でもないし……」

「とにかく。制御を強めるか、或いは稼働率の上昇を促すほかありません。次のホロウ侵入に合わせるとしましょう」

「気が乗らないなァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦会議よ!ほら!意見を出して出して!」

 

 パンパン、と両手を打ち合わせるニコ。

 場所は、“Random_Play”のスタッフルーム。ビデオショップの営業が終わってからの事だ。

 

「ニコ。うちは会議室じゃないんだけど」

「そう、硬い事言わない。それに、元々パエトーンにはうちの従業員とターゲットの回収をお願いしたじゃない」

「その依頼料が払われるなら良いけどね」

 

 アキラがため息を吐く。ニコのツケの額は中々のモノ。といっても、それでも縁が切れていないのは彼女の人柄か、それとも兄妹のお人好しか。

 時は、ビリーとアンビー救出から一日経っている。主に、疲労回復と装備の補充のためだ。

 手を挙げたのは、アンビーだ。

 

「時間をかければかけるほどに、状況は悪くなるわ。治安局やホロウ調査委員会が入りやすくなるし、場合によっては軍が強制的にホロウ内のエーテル濃度を下げるために砲撃を敢行する可能性もある」

「そんな事になれば、ターゲットの金庫も流石に消し飛ぶだろうな。ただ、真正面からぶつかってあの上級エーテリアスを潰せるかどうか……」

 

 実際にホロウ内で敵と相対した二人からの視点。

 エーテリアスの等級は曖昧な部分もあるが、上級以上に定められる場合において単独での討伐は一定以上の実力が無ければ難しい。

 加えて、相手はホロウの最奥。プロキシの案内無ければお目に掛かる事も出来ないだろう。

 二人の言葉を受けて、リンが会話に入ってくる。

 

「エーテリアスを避けて、金庫だけ奪取するのは?」

「リスクが大きい。確実に追いかけてくる上に、一人が殿で残っても救助が間に合う保証がどこにもない」

「囮戦法は無しよ、無し!これ以上プロキシに依頼してたら、依頼料が報酬を上回っちゃうもの」

「なら、やっぱりエーテリアスの撃破が先決だね。理想は、最短最速でホロウを縦断。エーテリアスを撃破して、ターゲットの金庫を奪取。ホロウ脱出、かな」

 

 アキラがそう締める。理想論の域を出ないが、ホロウほど机上の空論が横行する場所はあまりない。

 どれだけ綿密な作戦を立てても、装備を整えても、手練れを用意しても、エーテルの海に消える結果というのは珍しくない。それが、ホロウなのだから。

 

「それじゃあ、続いてギリューはどうする?」

 

 話が一区切りついた所で、リンが次の話題を持ち出した。因みに話題の主は、床に座り込んでウトウトと舟を漕ぎ始めている。

 

「………私は、連れて行っても良いと思う。デュラハンを相手にしている時に横槍を心配しなくても良くなるから」

 

 どうにか起きようとしている黒い頭に手を置いて、アンビーは自分の意見を告げた。

 上級エーテリアスにぶつけるのは不安を覚えるが、しかし一定レベル以下の雑魚を一蹴できるだけの力がある事はこの場の共通認識。

 多対一の状況を作れるのなら、それに越した事は無い。何より、意識外からの横槍ほど恐ろしいものも無いだろう。

 

「まあ、アンビーの言い分も分かるっちゃ分かるな。そりゃあ、俺はギリューに危ない事はしてほしくねぇけど、仕事そのものの成功率を上げられるのならそれに越した事は無い。成功すればその報酬でスターライトナイトのグッズも買って一緒にスターライトナイトのビデオも見れるし……」

 

 若干気乗りしないようだが、ビリーも賛成寄りの回答。

 実働部隊二人が、参加を希望する現状、オペレーター側であるリンとアキラは意見をする事は難しい。

 ボンプを駆使してリアルタイム通信を可能とするが、その一方で実際に戦場に立って戦う立場ではない二人にとっては戦闘時の機微は分からない。

 そして、最後の一人。

 

「……ギリュー。ちょっと、起きなさい」

 

 ニコはそろそろ倒れそうだったギリューの前に膝をついて顔を合わせる。

 寝ぼけ眼を擦って顔を上げた少年をしっかりと見据えて、彼女は口を開いた。

 

「アンタはどうしたい?戦うか、戦わないか。あたしたちは、アンタの意見を尊重するわ」

 

 真剣に問うニコ。半分寝ていたような少年が状況を飲み込めるとは思えなかったリンが割り込もうとするが、そこをアンビーが止める。

 

「アンビー?」

「大丈夫よ、プロキシ先生。ニコはギリューを無理矢理うなずかせるような事はしないわ」

「でも……」

 

 四人が見守る中、キョトンとニコを見返すギリュー。

 徐に、彼は立ち上がった。

 

「戦う。ニコ達を守る」

 

 それは、幼く拙い言葉だった。しかし同時に、覚悟の表れでもある。

 ギリューは決して馬鹿ではない。

 自分が足を引っ張ってしまったという事も分かっている。そして、エーテリアス戦において中途半端な戦力になっている事も。

 変わらなくてはいけない。本能に任せて暴れ回るのではなく、ニコ達の様に理性を持って力の指向性を自分でコントロールできないといけない。

 

 (意志)は既に植えられている。後は、確りと芽生えて育つかどうか。

 

 分水嶺が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に、出来るんだろうな?』

 

「ええ、勿論。こちらとしても、横槍を減らしたいので。無論、乗っ取っていただいて結構」

 

『ふんっ……まあ、良い。アレを手に入れるには必要な事だからな』

 

 精々利用してやる。そんな裏の声が聞こえてきそうな通信が切れる。

 腕は良いが傲慢不遜でプライドが服を着て歩いている様な存在。

 

 かくして役者は揃い、舞台は最終局面へと突き進んでいく。

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