・Diesキャラの性格がかなり違います。
それでも良いという人だけお読みください。
多くの人間が
否、何であれ誇りを持って全力で挑む者を笑えるものなどいない。いたとしたら今闘っている彼らに確実に潰されるだろう。
「邪魔だぁ!!」
「どけぇ!!」
そして、そんな彼らの中に二人、一際その何かに喰らいつこうとする男が二人。互いを意識しあいながらも一切目もくれずそれに向かう。アルビノの男は邪魔するものを吹き飛ばし進み、オレンジ色の髪をした少年は鎖を使ってトリッキーな動きで素早く進む。
そしてついに、互いの腕が届く距離まで近づく。しかし、それでも目もくれない。彼らが、いや、この場にいるすべての者が望むのは一つだけだった。
皆が望む
「「このミックスグリル弁当(四二〇円:半額シール付)は俺のものだぁ!!」」
――半額弁当だった。
もしもこんなDies勢がいたら~ベン・トー~
「いや~、悪いねぇ、二人とも」
「うるせぇ!! 何ら悪いと思ってねえくせに謝んな! 逆にイラつくんだよ!」
「あんだけの隙間を縫うように走ってなおかつ俺らより速く取るとか、チートかっつーの」
彼らが求めていたミックスグリル弁当は目の前の小さな男の子――ウォルフガング・シュライバー――の手に在った。今回残っていたのはこの店の月桂冠のミックスグリル弁当一つだったため残ったものは皆帰る所だった。それは先ほど叫んだアルビノの男――ヴィルヘルム・エーレンブルグ――とオレンジ色の髪をした少年――遊佐司狼――も同じだった。
だが、そんな彼らにシュライバーが一言、
「そういえば、『スワスチカ』の月桂冠が余っているって来る途中聞いたよ。今からならまだ間に合うし
行ってみたらどうだい?」
「……なん……だと?」
『スワスチカ』とは今いる所のすぐ近くのスーパーで卵料理が中でも絶品と言われるこの近くのスーパーの中でも最も人気がある。そのため、弁当が残ることが少なく、通常の弁当でも残ったら激戦になり手に入れることは難しい。それが月桂冠――『ふわトロ黄金オムライス』――となればなおさらだ。
先の闘いで傷ついている彼らにはとてもじゃないが勝ち残るのは不可能だろう。それでも――
「行くしかねえな」
「ああ」
「ここで逃げたら狼じゃねぇ」
彼らは『スワスチカ』へと走っていく。理由などない。しいて言えば、そこに半額弁当があるからだ。
ただ二人を残して、
「何のつもりだ? シュライバー」
「? 何っていったい?」
「『スワスチカ』に月桂冠があると知っているんだったらそっちに行くだろ? ここもうまいがあそこの卵料理は絶品だ。それが月桂冠となりゃなおさらだ。なぜお前が行かない?」
「まあ、ここのミックスグリルが好きってんならまだわかるがあれ好き、これ嫌い、っていうキャラじゃねえだろお前」
残ったのは司狼とヴィルヘルムだった。彼らの疑問はもっともだ。実際このスーパーと『スワスチカ』では皆が『スワスチカ』を選ぶほど人気に差がある。無論、ここが悪いわけでは無い。ただ、『スワスチカ』が圧倒的にうまいのだ。だからこそ、誰よりも速く弁当をとる事に自信があるシュライバーが知っていながら来たことが解せない。それに対するシュライバーの答えは、
「だってお腹すいていたし、『スワスチカ』は
あまりにも単純だった。それを聞いた二人は背を向けて『スワスチカ』に向かって歩いて行った。
「おまえにまともな答えを望んだ俺がバカだった」
二人が付いた時には多くの狼が『スワスチカ』に集まっていた。その数は先ほどの優に三倍。対する弁当、総菜の数はたったの五つ。弁当・総菜の数は減ることはあるが、狼が減ることはない。店内にはすでに狼だけで三〇人を超えている。何かを買うのではなく半額弁当を待つ、普通の店なら怒られるだろうがここの店主は彼らの闘いを楽しみにしているためそのようなことはない。
想像していた以上に弁当が多くて先ほど一緒のスーパーに居た狼たちが安堵している。当たり前だが弁当が多いほど入手しやすくなるし、選択の幅も広がる。これならば俺たちも手に入れることができるかもしれない。
そう思った矢先に、子供連れのOLらしき女性が入って来た。狼たちが戦慄した。それは遅れてやってきた二人も同様だった。この時間帯でOLは弁当を買う確率が高く、しかも子連れときた。
彼女たちは迷うことなく弁当・惣菜コーナーへ向かって行く。狼たちにさらに大きな戦慄が走り、今にも飛び出そうとする者もいる。
「健太、どれがいい?」
「え、ん~とねぇ?」
子供が品定めをする。その姿は無邪気そのものなのに、なぜか彼らには悪魔のように見えた。
「(や、やめろ。月桂冠だけは……)」
「(どん兵衛もおいしいぞ、健太くん! だからそのまま、カップめんの棚へ行ってくれ!)」
中には懇願する者までいた。そんな願いが通じたのか健太くんは、
「じゃあ、これにする」
『烏骨鶏の親子丼(五〇〇円:二割引きシール付)』にした。月桂冠は取られなかったがやはり狼たちのテンションが下がる。これで難は逃れた。だが、
「じゃあ、お母さんは~」
「(な、なんだと!!)」
今度は母親が品定めにかかる。狼たちに今日一番の戦慄が走る。
「(オイィィィ! ヤメロォォォ! これ以上俺たちの弁当をとっていかないでくれ!)」
「(健太くんより高い奴を買おうとしてんじゃねぇぇ!!)」
「(家で作れよ! いっそのこと!)」
「(コンビニで弁当買ってやるからやめてくれぇぇぇ!)」
彼らが欲するのは半額弁当だけではなく、勝利の味も含めてであるため、皆懐には余裕がある。
もっとも中には『ダンドーと猟犬群』や『大猪』と言った例外もいるが……
一〇秒ほど経って女性は『特製卵春巻き(三三〇円:二割引きシール付)』にした。
確かに月桂冠は残ったが、弁当・総菜は残り三つになってしまった。対して狼の数は店の外にまであふれてしまっている。もはや、暴走族の集会である。
皆がこれ以上客が来ないことを祈り続ける中、ついに
スタッフルームのドアが開き、半額神が現れた。半額神の名前はラインハルト・ハイドリヒ。皆は感謝と畏敬の念を込めて『ハイドリヒ卿』と呼んでいる。彼は弁当・総菜コーナーへ歩いていき、優雅に半額シールを貼っていきく。
そして『ふわトロ黄金オムライス』の前でペンを持ち、これまた優雅に『Halber Preis』と書く。彼はドイツ人なのだ。
「卿らの健闘を祈る」
最後にそういい、彼はスタッフルームのドアを開けた。そしてスタッフルームのドアが閉まると同時に狼たちが動いた。戦闘開始の銅鑼が鳴った。
弁当・総菜コーナーは、いや、スーパー『スワスチカ』は戦場だった。あるものは力づくでの突破を、あるものは滑るかのように棚へ向かっていく。またあるものは頭上を飛んでいこうとする。
しかし、どれも失敗していた。力づくの突破は袋叩きに会い、鮮魚コーナーへ飛ばされ、滑るように行ったものは途中で肉の壁に挟まれ倒れ、頭上を飛んでいくものは足を掴まれ踏まれた。
皆、弁当をとるのに必死なのだ。本日の
それは司狼とヴィルヘルムも同じだった。
「くそっ、壁が厚くって全然近寄れねえ!」
「全くだ。押しても引いてもびくともしねえ。このままじゃ取られちまうぞ!」
「ああ、ここは一時休戦と行こうじゃねえか。意地はってて弁当食い逃しました、なんていやだぜ」
「決まりだな。おめぇ、少しでもいいから隙間作れ。後は俺がこじ開ける」
「ヘッ、しっかりやれよ! 失敗したらぶん殴るからな!!」
「誰にもの言ってやがる! ガキが!!」
そして再び肉の壁に突っ込んでいく。だが次の瞬間、
「ミズガルズ・ヴォルスング・サガ!!」
一瞬にして目の前の人達が消えた。いや、正確には一瞬で殴り飛ばされたのだ。それも遠く離れたお菓子コーナーまで。代わりに目の前にやってきたのは黒い戦車を思わせるような大男だった。
「デ、デウス・エクス・マキナ……岩谷、巻奈か」
「い、岩谷巻奈……社会科教師、三〇歳、どくしッ……!」
彼の足もとにいた男が『余計なことは言うな』と言わんばかりに踏まれる。いい年して情けない、とか教師が暴力を振るっていいのか、とかいろいろ言いたいことはあるが、
「……どけ、邪魔をするなら……」
そういって拳を構える。邪魔をするなら貴様も殴る、と言葉でなくとも感じられた。本来ならば、退くべきである。
彼は拳で人を宙に浮かすことができる。そんな一撃を喰らえばただでは済まない。そんな危険を冒して半額弁当など普通は欲しくない。しかし、
「ザケンじゃねぇっ! 俺たちが、その程度で、半額弁当を諦めると思うな!」
「そうだぜっ! 俺たちの半額弁当にかける、情熱と誇りを甘く見るなよ……マキナ」
「てなわけで、おまえが帰れ」
彼らの半額弁当にかける情熱をなめてはいけない。彼らの誇りをなめてはいけない。
マキナは自身の思惑が外れたことに何ら表情を変えない。むしろ彼らの反応は逆に予想通りだったのだろう。
「そうか、ならば……潰す」
「やってみろやぁ!」
スーパー『スワスチカ』で戦車の轟音と狼の叫び声が響いた。
「ちっくしょ……あの野郎、化物かよ」
「そろそろ、教育委員会に訴えられるんじゃねぇ……」
結局、マキナは狼たちを蹴散らし、月桂冠を持って悠々とレジへ向かって行った。残った二品は殴り飛ばされてなお、意識を保っていた司郎とヴィルヘルムの二人が手にした。
ちなみにほかの者たちは店員であるザミエルことエレオノーレによって全員スタッフルームを連れて行かれた。ここのスタッフルームはどんな構造になっているのだろうか、残念ながらスタッフでもない彼らが今入ることは出来ないが、大人数を収容出来るのだからよっぽど広い事が想像できた。 まあそんなことは二人には関係ないわけで、
「なんで俺が望んだものは片っ端から分捕られんだかなぁ……」
「ゴチャゴチャ言ってんなよ。せっかく取った弁当がまずくなるだろ」
「……それもそうだな」
近くの公園のベンチに腰を落ち着け暖めたばかりの弁当のふたを開け、食事を始める。キラキラと輝いているかのような卵の焼き具合に鼻腔を擽る甘い匂い。それを感じた瞬間ヴィルヘルムは先ほどまで感じていた悲壮感を捨て去り目の前の弁当に釘付けになった。となりで司狼が何かを言っているような気がしたが耳に入らない。ただ今は、
「――いただきます」
感謝を告げたかった。野菜を育てた農家に、育った野菜を運んだ運送業者に、そして作ったハイドリヒ卿に。ただそれだけしか頭になかった。
(∴)<誰だ、てめぇ?
(作)<全くだ。おまえ本当にヴィルヘルムか?
(∴)<……。
(作)<……。
ピチューン!