Quietum die   作:裸エプロン閣下

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とりあえず日付や時刻、パーセンテージはアラビア数字で統一しようかと。


新年最初の争奪戦

 年も明けて5日、ようやくスーパー【五大竜胆】は年を新たに開店した。今年の冬は長いらしく外ではまだちらほらと雪が降っている。積もることはないだろうが、同時に降り止むこともないだろう。寒さに手を冷やしながら【五大竜胆】の半額神、久我竜胆は開店の準備を家族と共に進める。

 

 

 ※※※

 

 

「それじゃあ冬コミの売り上げを分けるぞ」

「ええ」「おう」「ちょろまかしたりしないでね」「分け方はどうするつもりだ」

 場所はファミレス。居並ぶ面々は覇吐、宗次郎、刑士郎、紫織、夜行、龍水の六名。彼らは神州高校に通っており全員が全員狼である。その内覇吐と夜行、龍水の三人はさらにサークル【性欲界紳士道(命名:覇吐)】メンバーと言う肩書がつくがそれはひとまずおいて置こう。

 

「まず宗次郎に刑士郎、それに紫織。売り子と看板持ちご苦労。これが謝礼だ」

 そう言い覇吐は懐から封筒を取り出す。その中には万札が三枚。冬コミが3日なので1日一万円。これは割と高給であろう。それを三人は特に中身を確認することもなく受け取る。

 

「次に龍水。お前の本の売り上げだ。場所が良かったから結構売れたぞ。ほれ」

 そう言って先ほどの物よりやや厚めの封筒を小柄な少女に渡す。ちなみに彼女のジャンルは男同士の恋愛、所謂ボーイズラヴだ。買っていく人の目が覇吐を品定めするように見ていったがそこはさすが覇吐と言うべきか、衆人観衆でありながら恍惚な顔をして夜のお誘いをしていた。ちなみに反応は51%が『遠慮します』で22%が『一昨日来やがれ』で12%が『生理的に無理』で7%が『もう少し大人になってからね』で4%が『私ボーイズラブでしか反応しないので』で3%が『私に触れていいのはお姉さまだけよ!』で1%が『三回まわってわんと言って腹を見せたら踏んであげましょう』だった。ちなみに覇吐は最後のを衆人観衆の中で実行したがその時には相手は消えていた。

 

「そして夜行、俺と折半だ」

「相分かった」

 夜行、彼は官能小説を書いておりジャンルは触手またはロリである。ちなみに触手と聞くとハードなプレイを考えてしまうが彼の作品では【這い寄れ! ハジュ子さん(監督:中院冷泉)】のようにそこまでグロくないし官能部分で触手の出番は無かったりする。そのためか触手詐欺と言われている。

 

「さて、全員に行き渡ったところで、かんぱぁーい!!」

「「「「「かんぱぁーい!」」」」」

 覇吐の音頭でグラスを手に取りカチン、と当てる。ちなみに中身はコーラだったりする。故に一気呑みをしても酔うことが無ければ急性アルコール中毒になることもない。やがて昼食兼つまみのフライドポテトやタコスといったものが店員によって運ばれさらに盛り上がることとなる。

 

 

 ※※※

 

 

「さてと、長居しまくったしそろそろ出るか」

「ですね。今からならゆっくり歩いて行けばちょうど【五大竜胆】は半値(ハーフプライス)印証(ラベリング)時刻(タイム)ですね」

「昼間に食ったものがまだ多少腹に残ってるが着くころには全部消化済みだろうな」

「だな。竜胆もいるかな」

 いまファミレスにいるのは三人、覇吐、宗次郎、刑士郎のみである。

 紫織は道場の師範代であり指導する立場にある為帰宅。夜行、龍水はブログの更新兼ゲームやアニメなど。言ってしまえば趣味だ。

 

「んじゃ行くか」

「ではお願いします」「ごちそうさん」

 覇吐が立ち上がるのと同時に伝票と礼を言われる。さながら覇吐が払う様である。

 

「……あれ?」

 これに頭を掲げるのは覇吐。いつの間にか自分が払うことになっていた。確かに金銭的には問題はないがいったいどうしてこうなったのだろう。思い返してみてもそんなことを言われた覚えはないし、言った覚えはない。

 

「……ま、いっか」

 

 

 ※※※

 

 

「うひょー! あったけぇー!」

「やっぱこの時期になんも羽織らずに夜道を歩くのはきついな」

「未だに雪は降りつつありますからね」

 時刻は21時20分。半値(ハーフプライス)印証(ラベリング)時刻(タイム)まであと10分。その間に三人は弁当コーナーを見てくる。見る、といっても脇見でしかない。しかし彼等狼にはそれだけで十分だった。残っていた弁当は大きめの弁当箱に和料理が敷き詰められた【和御膳・梅(七〇〇円:30%OFFシール付)】に、同じサイズだが中身が違う【和御膳・松(七〇〇円:30%OFFシール付)】、そして他の二つに比べれば普通の量の【ブリの照り焼き弁当(四四〇円)】の三つだ。

 

「俺は和御膳・梅に決めたがおまえらは?」

「なら和御膳の松を狙わせてもらうぜ」

「僕はそれほど多く食べるわけでもないのでブリの照り焼き弁当をいただこうかと」

「よし、ちょうどいい感じに別れたな。なら同盟だ」

 残っていた弁当は三つ、彼らの選択も三通り。別に遠慮をしたわけでもなく純粋に食べたかったものが分かれただけだ。そして狙いが違うのであれば迷うことなく同盟が結べる。もっともこの同盟も精々敵対しないと言うもので、弁当がどれか一つ取られただけで崩れ去る強固さと脆弱さを併せ持った同盟なのだ。

 そんな風に固まっていた三人に、一人の巨漢が近づいていく。

 

「よう覇吐。それに刑士郎に宗次郎か。元気そうで何よりだな」

「ん、桐夫じゃねえか」

「魔笛か。なんのようだ」

 近寄ってきた男は魔笛――岩倉桐夫は神州高校の生徒である為名に興味を持たない狼が多い中、同校に通う生徒からの知名度が高い狼である。その理由は二つ名持ちであることはもちろん、彼が生徒会の副会長だということがあげられる。その巨躯からは想像しがたいが彼は勉学においても優秀なのである。

 

「刑士郎……お前は何故そんなに棘々しているんだ。お前が子犬を拾うギャップ系ヤンキーであることは俺も冷泉会長もご存じだ。あとはお前が言動を改めれば教師に噛み付かれる心配もないんだぞ……」

「前半についてはいろいろ言いたいことはあるがまあいい。そして俺が口調を変えたところでこの白髪をどうにかしない限りあいつらは勝手にほざくさ。そして何より、自分を変えてまで好かれたいなんて思いもしねぇよ」

 刑士郎の毛は白い――それは染めているからではなく、生まれつきの色であった。刑士郎は白髪と云うことで忌み嫌われ捨てられた経験を持っている。故に彼からすれば白髪は憎むべきものだろう。しかし彼は変えない。たとえ罵られようと、殴られようと。白髪を捨てるとき、それは彼が彼自身を捨て去る時だ。そして彼にその気はない。

 

「そうか……ならもう言わねえよ。俺たちはお前を出来る限り支えてやるつもりだ。何かあったら遠慮なくいえ」

 魔笛もその思いを知りはしないが気持ちを察することはできた。

 

「ところで覇吐、例の新刊は持ってきたか?」

「おうよ兄弟。ほらよ」

 そう言い懐から取り出された『すべての紳士に捧ぐ紳士本Vol.7 べ、別にお兄ちゃんなんか好きじゃないんだからね!』をまるで卒業書か何かを受け取るように恭しく手に取る姿はひょっとしなくても変態だ。先ほどまで支えてやるだの言っていたくせにその数秒後には同人誌(十八禁)を舐める様に見ているのだから、二人が不安になるのも分かるだろう。

 

 

 ※※※

 

 

「二人とも、竜胆さんが来ましたよ」

 それを聞いて同人誌(十八禁)を性犯罪者のような目で見ていた二人の目に理性が戻る。特に覇吐に至っては格好をつけているのか壁にもたれ、髪を靡かせ竜胆に向かってウィンクをしていた。だが先の様子を見ていた竜胆から返されたのは侮蔑の視線だった。無論、覇吐からすればそのようなものはただのご褒美でしかない。何にしろ、今の一連の行動で二人の諸々の距離間が遠くなったのは間違いないだろう。

 

 閑話休題。竜胆は覇吐から視線を逸らし客に向けて一礼。その後商品を陳列しながら弁当コーナーへと向かっていく。そして、三つ残った弁当を並べ、半額シールを貼………………………………らずに、その場で腕を組み長考する。

 

 これに驚く狼たちだが冷静に考えれば今は21時30分、閉店が22時だから店側としても今のうちに売りたい。だが時間帯を考えれば現状の40%OFFでも十分売れる可能性も高い。狼の気持ちを裏切ってしまうことに罪悪感を感じないこともないが、店を受け持つものとしてはやはり経営を第一に考えなくてはならない。

 

 そこでこの長考なのだ、誰も責めれやしないだろう。狼が弁当を得るのに死力を尽くすように、店も利益を得るのに死力を尽くしているのだ。たかが数十円と言えるのは金銭に関して頓着しない狼だけだ。

 

 竜胆は一旦視線を弁当から外し店内の状態を眺め、すぐに視線を戻す。そこで数秒考え、弁当に半額シールを貼る。狼たちも緊張が無くなりほっ、と息を吐く。ただ一人覇吐は『焦らしプレイもいいな』などとのたまっていたがそこはご愛嬌。

 

 こうして今年最初の争奪戦は無事開戦された。

 

 

※※※

 

 

 竜胆がスタッフコーナーへ消えていくと狼たちは雄たけびをあげて全員が弁当コーナーへと走り出した。本来争奪戦は力だけで制することが出来ることではなく、時期や駆け引きも重要な要素である。しかしこの場でそのようなことをしようとする輩は誰一人としていなかった。それは彼らが浅慮だという意味ではない、待ちに待った争奪戦が始まり誰もが血を滾らせていたからだ。まあ、そのせいか常人なら及びもつかぬ行動に走る輩もいたが……。

 

 

「喰らえ覇吐!」

 最前線から一人の男が覇吐に向かってドロップキックを放ってくる。覇吐の二つ名【春画曼荼羅】は強さではなく戦闘法から付いたものである為、実力に関しては舐められやすい。だがそれを抜きにしてもドロップキックは遅い。

 

「この程度の速さでこの【春画曼荼羅】をやれると思うなよ!」

 格好良さが微塵もない二つ名を叫びながら覇吐はそのドロップキックを受け止め、着地後がら空きになった相手に一撃を見舞おうとする。しかし、受け止めた直後ドロップキックは横に大きく広がり、逆に覇吐ががら空きになる。

 

「かかったなバカめ! 喰らえ香辛(タバスコ)十字(クロス)空烈箸(スプリットアタック)!」

「何ィ!?」

 振り下ろされるクロスチョップ。その両手の先には箸がある、赤く染まった箸が。最初この赤色の意味を知らなかったが次の瞬間、刺激臭が鼻を襲う。

 

(こ、これはタバスコ臭! 野郎、遅いドロップキックで油断を誘い相手の両手を広げ、がら空きにした後、このタバスコ臭で腹の虫の力を弱めて必殺を狙う! ネタに走りまくった戦法だが完璧にしてやられたぜ……っ!)

 必殺の一撃は既に覇吐の眼前に近づきつつあった。これが他の狼ならば二つ名持ちであろうとも十分必殺となりえた。だが惜しむなら……。

 

(この春画曼荼羅にそんな噛ませ犬(ダイアー)の技をぶつけるとは悪手過ぎたな!)

 覇吐の二つ名、【春画曼荼羅】の由来は厳選したエロ本を見せることで相手の腹の虫の力を弱める戦法、つまり小細工だ。そんな彼に小細工が僅かなりとも混じった技は相性が悪かった。

 

「なっ……!」

 突如として男のクロスチョップが止まる。別にマンガのように体中が凍ったわけでは無い。もっと単純な理由、覇吐が本を、『すべての紳士に捧ぐ紳士本Vol.7 べ、別にお兄ちゃんなんか好きじゃないんだからね!』を口にくわえて持っていたからだ。

 覇吐は男のクロスチョップを避けることが不可能だと理解すると即座に懐から同人誌(十八禁)を頭を使って器用に取り出したのだ。それを見た男は一瞬動きが止まる。そしてその一瞬があれば十分だ。彼の技はマンガのようにドロップキックを受けさせ腕を開くことでがら空きとなった頭部に一撃を見舞わせる技である。しかし彼の技は腕をこじ開けてそれを支えにすることで初めてクロスチョップに移れる。そしてその大前提の支えは相手の腕である為、理解すれば一瞬で支えを崩すことが出来る。当然覇吐も同じことをしたし、支えを失いバランスを崩した相手など、相対する覇吐は愚か周りの狼だって放置しない。結果として男は全方向から袋叩きに会い沈んだ。未だに痙攣しているところから完璧に沈んだわけでは無いがこれ以降の戦闘は不可能と考えた。

 

「さて、竜胆にいい恰好見せる為にもここは負けられッ……!?」

 まず感じたのは衝撃。次に焼く様な激痛。

不可能だと考えた。(・・・・・・・・・)あくまで考えただけだ。それが事実とは限らない。

 

「へへっ、タバスコ漬けの箸は痛かろう」

 男の箸は、覇吐の肛門に突き刺さっていた。しかし覇吐がそれを認識することはなかった。それよりも早く意識を失ったからだ。

 

 

 ※※※

 

 

「……畜生」

 結局覇吐は争奪戦で敗北、戦利品にどん兵衛(きつね)とおにぎり(シャケ)を手に店を出ることになった。現在地は公園、ブランコに腰を落ち着けながらうどんを一人――刑士郎も宗次郎も気づいた時にはいなかった――寂しく星空を眺めながら食す。寒さに打ち震える覇吐にとってどん兵衛の汁のあったかが心地よかった。だが……。

 

「……寂しい……………………」

 それは覇吐の心からの叫びだった。

 




刑士郎と宗次郎の出番が少ないけど……今度やるので許してね☆
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