Quietum die   作:裸エプロン閣下

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今回のものが年内最後の投稿になります。
皆さんも来年もよいお年を。


宗次郎の一日

 立てられた看板、木造建築の道場、杉の床。剣道場である。平時は明るい剣道場も、冬という時期に空に厚い雲が居座っていることもあり剣道場は少々薄暗かった。しかしそれはこの剣道場の中心で一人立つ男――壬生宗次郎にとってはちょうどよかった。今彼が持っているのは竹刀ではなく刀。木刀でも模造刀でもない正真正銘の人切包丁である。

 壬生宗次郎――2年前突如として現れた傑物。神州高校の特にこれと言った成績を持たない剣道部を一気に全国一位まで叩き上げた男。そしてその強さは団体だけでなく個人での技量もずば抜けており全選手を開始1秒で倒して見せた。当然各方面は宗次郎にインタビューをされたり、雑誌で宗次郎だけで特集を組まれたりした。

 だが宗次郎からすればその程度のことは当たり前なのだ。壬生家の歴史は古く戦国時代からあり廃刀令以降も帯刀を許された数少ない剣豪一族なのだ。そうして歴史と共に研磨を重ね続けて数百年、宗次郎はその古き壬生家の歴史の中でも比類するものがいないとされるほどの腕を持って生まれ、<天剣>と評された。そんな宗次郎にたかが十五~十八歳の、防具も無しに真剣と向き合う覚悟のない者に負けるはずが無かった。

 

 

「ふっ!」

 そんな宗次郎が中心で幾度か剣を振るう。それは流れる流水のように穏やかでありながら、すべてを撃滅せんとする弾幕の嵐の如く凶悪さを思わせる、二律背反でありながらも両立させたそれはもはや芸術と言っても差し支えないだろう。まだ二十歳にも満たぬ子がそのような領域に入っているなど、古今東西神話伝承を漁ろうと一人とているだろうか。

 

「ふぅ……」

 そんな芸術をひとしきりお披露目した後、宗次郎は袴の袖で額の汗を拭い、剣を鞘に納める。

 その瞬間、三本の真剣が宗次郎へ向かって飛んでいく。狙われている部位は頭部に首、そして心臓。一刀でも逃せば宗次郎に未来はないだろう。それに対して宗次郎は焦ることなく、しかし素早く動き、迫る三刀をたったの一太刀で切り払って見せた。

 速さと行き場を失った刀は床に落ちていく。三本の刀は床に刺さることなくどん、と音を立ててすべてが同じ方向へ刃先を伸ばす。すなわち下手人に。

 

「他人に横やりを入れるのが趣味ですか? 父上」

「なぁに。お前ならこの程度楽に防げると思ったまでよ」

 現れたのは壬生宗厳(そうげん)、宗次郎の実父である。

 嫌な人だと思いながらも宗厳が敷居を跨ぐと同時に頭を下げる。無論その間にも警戒はし続けている。実際この男が真剣で襲い掛かってくることは多々ある。

 

「で、何の用ですか?」

「なんとも冷たい態度だな。親が理由が無けりゃあ子に会っちゃいかんのか?」

「そうですね。出会いがしらに真剣を投げつけるような人は刑務所での面会以外で会いたくないですね」

「悲しい、お父さん泣いちゃうぞ」

「邪魔しなければ好きに泣いて下さい」

 なんとも冷たい会話である。おそらく反抗期の子供ですらそこまで冷たいものではないだろう。しかしそれもある意味当然と言えるかもしれない。壬生宗次郎は今でこそ宗厳を完膚なきまでに倒すことが出来るが最初からそうであったわけでは無い。いかに天才であろうと経験で勝る宗厳に当初は負け続けていた。特に宗厳は才能あるからと言って事あるごとに試合をして宗次郎を叩き伏せた。

 こんな一歩間違えば虐待とも採られることをされて尊敬や信頼、あるいはその類の感情を持つことが出来るか。否、当然の如く宗次郎は怒りや憎しみを抱き、実力が逆転した際には生ごみを見るような目で見下したものだ。

 しかし実力が逆転すると同時に両人持っていた諸々の感情も逆転し、今では一応マシにはなっていた。……一応。

 

「それで、学校生活はどうよ」

「別に。どうもしませんよ」

「そうかぁ、つまんねえな。学生ってのはいいぞー俺も母ちゃんとは出会ったのは高校の学園祭の時でな。あんまりにもいい女だったから思わず寝とっちまったんだよ。ま、元々相手のことは好きでもなんでもなかったそうだがな」

 そんなことをいきなりカミングアウトされてどうしろと。自分の中で均等だった天秤が僅かに負の方へ傾いたのを宗次郎は感じた。

 

「いやあれだ、お前も年頃だし、そろそろやったのかな、って」

 道場を去ろうと、歩いていた足が唐突につるりと滑り宗次郎の股が前後で開く。それなりに柔軟はしているがさすがに痛かったのか尻もちをついて痛みに悶える。

 かっかっか、と声を上げて笑う宗厳を睨みながら立ち上がっていく。

 

「急に何を言い出すんですか。痴呆ですか?」

「さらっとひでぇこと言いやがるなお前。俺まだ四〇歳になったばかりだぞ」

「じゃあアルツハイマーですね。道場は僕が後を継ぎますのでどうぞゆっくり死てください」

「おいおいおい、今『して』のあたり変じゃなかった?」

「いえ、全然」

「……まあその辺の話は置いといて、実際どうなんだよ」

「………………まだ、ですよ」

「え、まだ!? おいおい、高二って言ったら男の90%がセックスしてーって輩だぞ!? 俺のガキに限って不能ってことはないだろ」

 カァー、と額を叩きながら天井を見上げる宗厳、ハァ、とため息を吐き、嘆きながら床をみる宗次郎。

 

「……それでは僕は疲れましたので戻ります」

「なんだあの程度で疲れたのか。だらしがないな。そんなんでは師範は務まらんぞ!」

「僕が疲れたのはあなたの相手です」

「ふん、俺相手に疲れては近所のガキたちの相手は務まらんぞ!」

 『威張っていうな』と言ってやりたかったが面倒なのでさっさと去ろうと道場の敷居の手前で一礼をすると、

 

「チェストー!!」

「いぎっ!?」

 頭部に強烈な衝撃が走る。痛みに耐えながら眼前を睨むと宗厳がいつの間にか竹刀を持って宗次郎に叩き付けたのだ。勿論遠慮なんてものはない。

 

「常在戦場。戦場で一礼などしては死ぬぞ宗次郎」

 そんなことは今の宗次郎にとってどうでもよかった。先ほどまでのけだるさはとうに

吹き飛び怒りがすべての感情を燃やす。

 

「父上、あなたは一つ誤認しています」

「ほうほう、それは何かな?」

「ここが戦場だというなら――」

 ここで宗厳は己の愚に気付く。先ほどまで宗次郎は真剣を使っていたということに。

 

「――竹刀なんてもの、真剣の前には役に立たないということです!」

 鞘から飛び出た真剣が竹刀を根元から切り飛ばし、神速の突きが宗厳の喉があった場所を貫く。

 

「ちょ、待って待って! タンマタンマ!」

「戦場で敵が待ってくれると思ったんですか!」

 逃げ回る宗厳を笑顔で追いかける宗次郎。今日も壬生家は平常運転である。これで。

 

 

 ※※※

 

 

 壬生家は、というよりここ神州は和風の家が多い。理由はいくつかあるがここ一帯を仕切っている中院や六条、岩倉、千種、そして落ちぶれたが久我など名家が大きな屋敷を構えておりそれらを目当てに地方から様々な観光客が来るためこの辺りでは率先して和風の家が建てられる。

 無論、和風と言うのは見た目だけではなく中身もであるが、家具などすべてを和風に統一している家は少ない。壬生家はその少ない統一家庭である。

 

「だからってコンセントもないのは少々やり過ぎだと思うんです」

『そうだよね。うちも純和風の家だけどさすがにコンセントは付いてるし…………そういやコンセントないってことは宗次郎ってどこでケータイ充電してんの』

「恥ずかしながら学校でしています。長期休暇の時は覇吐さんが大抵手伝わせますのでそこで」

『あ~例の同人誌ね。なんであいつは毎回締め切りギリギリなんだろうね』

「思いつきでページを増やしますからね。自分で自分の首を絞めるあたりマゾですよね」

『確かに、いっつも最後に奇声あげて描いてる姿なんて本当に笑えるよね』

「ですね。あ、そろそろ充電が切れそうですね」

『そっか、名残惜しいけど……また明日。おやすみ宗次郎』

「ええ、おやすみ紫織さん」

 最後にそう告げて電話が終わる。ケータイの充電はもはや10%を切っていた。宗次郎はケータイの電源を切り、布団に入る。明日に思いを寄せながら。

 

 

 ※※※

 

 

「おはようございます覇吐さん。どうしたんですかその顔」

「おはよう……」

 朝、顔全体を大きく腫らした包帯男と出会った。雰囲気からなんとなく覇吐さんと察してみたが当たったらしい。しかしいったい何をどうすればここまで腫れ上がるのだろう。人間業ではない。

 

「兄貴がよぅ……俺の魂(エロ本)を棄てやがったんだよ……一冊残らず。俺は怒り狂ってあいつの部屋の地下へ突っ込んだんだが……」

「返り討ちにあったということですか?」

「いや、途中で落っこちて気絶して起きると同時に叩き飛ばされてこの有り様」

「気絶するほどの高さって……どのくらいあったんですか?」

「う~ん、正確には分かんねえけど、大体二時間くらい潜ってから手を滑らして落ちるまで……十分くらいあったかな。戻る時は兄貴に叩き上げられたがかれこれ……五キロくらいはあったんじゃないか?」

「…………そんな深い地下室がもしかして他の部屋にもあるんですか?」

「いや、あれは兄貴が勝手に掘っただけだからさすがに他にはねえだろ」

 ……覇吐さんの兄の人外っぷりは噂だけでもさんざん聞いてはいたが実体験はそれに輪をかけて酷い。人外っていうかもはや生物ですらない気がする。というか家主はそのことを把握しているのだろうか。

 

「それで覇吐さん今後はどうするんですか? 正直エロ本を持ってない覇吐さんはそこらの狼の実力と変わりがありませんからね」

「分かってるよそのくらい。だから隣の奴に貸しといた奴を返してもらったんだ。ほれ」

「見せなくていいですっ!」

「初心だな宗次郎は~、ほれほれ~」

「ッ! いい加減にしないと……っ!」

「スンマセン」

 肩の竹刀袋から竹刀を取り出すと同時に土下座をしていた。こと土下座と言うことに関しては覇吐さんはオリンピッククラスだ。当然だが褒めてない。

 

「……もういいですよ。それよりさっさと行きましょう」

「そうだな、竜胆に会いたいし」

 覇吐さんとの付き合いはかれこれ二年近くになる。彼のこういった潔さは目を見張る所もあるが場所を考えてほしい時もある。もっともそうでもなければ公衆の面前(スーパー)でエロ本を見せつける真似などできないだろうが。

 宗次郎は今日も横でエロ本を食い入るように眺める友人をなるべく視界に入れない様に学校へ向かっていく。

 

 

 ※※※

 

 

 時間は流れ日はだいぶ落ち始め、現在剣道場は夕日で染められていた。剣道部の者たちに軽く指導をしていたがそろそろ部活動の時間も終わり、部員も次々と剣道場を後にする。宗次郎も彼等のように竹刀袋を肩にかけている。ほんの一年前までは部員一桁と言う散々たる様だったが今では40人を超す規模になっていた。

 宗次郎としては以前のままでもいいのだが全国優勝した高校となればやはりそういう者が集まってくるのは自明の理だと諦めた。

 

「紫織さん」

 敷居の方から気配を感じて振り向けばそこには玖錠紫織――神州高校空手部部長がいた。空手部のほうも剣道部同様終了時間だが未だに道着を着たままだ。しかしそれは宗次郎もだ。

 

「待った?」「いえ、それほど」

 紫織は剣道場の扉に厳重に鍵を掛け、宗次郎もそれに倣い窓の鍵をチェックする。まるで今から人に見られてはいけない何かをするように。

 

「それじゃあ」「はじめましょう」

 ひとしきり施錠の確認をしたところで二人はゆっくり歩み寄り、互いの距離が三メートルほどの地点で止まる。紫織はそこで構え、宗次郎は肩の竹刀袋から――真剣を取り出す。紫織もそれを見ても驚愕した様子は一切ない。

 壬生宗次郎には己の実力と比肩できる人間がいない――それは剣の世界であり、武術と言う面ならば極小だがいないわけではない。紫織はその極小であり、同じく空手、否、古流武術の世界なら比肩できるものがいない。そして両名共に己を満足させてくれる者がいるのだ。ならば競い合うのは自明の理。

 ――片や無手。片や真剣。

 だからなんだ。

 互いに心持は常在戦場。

 無手にも殺しの技はあり、真剣など言わずもがな。

 故にこの構図は普通であり、余人が口を挟む域になどない。

 

「行きますよ紫織さん」「いつでもどうぞ」

 初めの一歩は互いに同時。今宵も両者は切り結ぶ。

 




ネタが尽きてきた。

てなわけで、ネタを募集しようかと思います。
ネタといっても細かくなくてもいいです。大雑把に見たい内容だけでもいいです。
思いついたらお気軽に感想の一言でどうぞ。
例を出すと……『波旬と冷泉の学校生活キボンヌ』とか『ルサルカたんハァハァ』といった感じですね。

ちなみに私が好きなのは龍明さんです(キリッ!
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