Quietum die   作:裸エプロン閣下

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まず最初に済まない。
今回の話はとても短い。理由は龍明さんの過去話がなかなか思いつかなかったんだ。




一夜限りの暇(一部除く)

「ところでよう、お前らあのお姉さんについて何か知らない?」

「ていわれても、なぁ」

「僕たちのころにはもう龍明さんはいませんでしたし……」

 

 所変わって公園。先に帰った龍明を除いた勝者三人+覇吐&宗次郎はその一角で談笑していた。しかし最後に抜け駆けされた覇吐――順番で言うなら刑士郎なのだが――は喨に食って掛かっていた。

 

「覇吐は知ってるんじゃないのか」

「あたぼうよ。この俺が女性の情報を逃すわけないだろ。ただしこいつには絶対教えない!」

「胆の小さい野郎だな……」

 

 覇吐としては最後の結果がよほど気に入らなかったのだろう。鼻を鳴らして怒る。

 

「どうしてもって言うなら……コレ」

 

 そして横目でちらりと見ながら手で本の形を作る。春画曼荼羅の異名を考えれば導き出されるのは一つ。

 

「なるほど……織」

「てめぇでいけ」

 

 言い切る前に喨の頭皮に爪が3ミリほど刺さる。唐突に降ってきた痛みに弁当を置いて地べたに哀れにのた打ち回る喨。彼も彼でここ最近は災難だらけだった。自業自得だが。

 

「なんで俺がお前のためにエロ本を買いに行かなきゃならんのだ」

「固いこと言うなよ。俺とお前の仲だろ」

「……………………最近、その仲を解消しようと思い始めたのだが」

 

 流石の喨も白い目で疲れた織を見て完璧な冗談では無い事を察し、たかる方向はあきらめる。そうでなくとも織からは十万以上も借りており、しかも返す目処はついていないのだ。自分の金で買えばいいのだが喨はクリスマスに情けない写真を友好のある女性が一人もいなかったのだ。

 

(みことに頼って……ダメダな。クリスマスに唾吐かれたし)

 

 まさに八方ふさがりである。

 しかしそんな時に一筋の光明が走る。

 

「負けたのはお前が調子に乗って遊んでたからだろ。彼女持ちだからと言って散々なぶってないでさっさと取りに行けばよかったものを」

「そうですよ。それで当たるなんて見苦しいですよ」

「まあ、確かにな。狼どころか男らしくもないな」

「あれ、何この空気? いつの間にか俺悪者になってね?」

 

 皆が寄ってたかって覇吐を攻め立てた。皆の言にも一理あるのだがなぜこれほどまでに攻められるのか今一理解できない。というか最近こんなものばかりではないか。いかにバカな覇吐でもそろそろ虐めを疑い始める。

 

「な、頼むよ。本はないけど代わりに弁当を半分分けてやるから。な?」

 

 しかし喨はここへ付け込みに走った。覇吐は喨自身に対して悪感情は少なくただ単に弁当を取れなかった八つ当たりに近いものだ。ならばここで弁当を少し分けて交渉を成立させる。落としどころとしては十分だろう。

 

「…………まあそれでいいよ」

 

 覇吐が折れたのを聞いて喨は思わずガッツポーズを決めそうに抑える。それは覇吐から有益な情報が聞けてからだ。

 

「つっても俺も伝聞でしか知らないんだけどな」

 

 

 ※※※

 

 

 平日で、12時で、学校があるにも関わらずそこ――ゲーセンには一人の凛とした女性と明らかに校則違反と分かる高校生たちが何人も屯していた。その数はゲーセン全体を占めるほどだ。十人二十人程度ではあるまい。

 

「貴様らか、昨今うちの生徒に手を出しているという輩は」

「アー? そんなこと知んねえな。人違いじゃねえのか?」

「つーか、この女一人で来てるぜ。結構いい躰してるし楽しまねえか?」

「お、いいなそれ! 前の奴はいつの間にか逃げちまってたし。ま、ビデオあるから泣き寝入りしてるんだろうけど!」

 

 ゲラゲラと下種な笑い声をあげて吠える連中を見て龍明は鋭い目をして眼前の男たちを見やる。その目には一切の容赦と言うものが無かった。

 

「ゲスな類だとは思ってはいたが……ここまでとは思わなかったな」

「ああーん? 言葉には気をつけな姉ちゃん。ひん剥いて犯っちまうよ?」

 

 そう言い口に銜える煙草に火をつけようとする。当然だが未成年の喫煙は犯罪だが気にした様子はなさそうだ。遠慮なしに右ポケットからライターを出して火を点けようとするが、何度ライターの火を起こしても一向に煙草の紫煙が肺を満たさない。気になり煙草を掴もうとして手を伸ばすが煙草その物が無かった。怪訝に思いながらも再び煙草を出そうとするが箱自体がない。友人に借りようと右手を差し出して煙草を貰おうして気付いたが右手に持っていたライターがない。

 

「探し物はこれかな」

 

 全身のポケットを漁ろうとする男の前に煙草とその箱、ライターが眼前に出される。先ほどまで持っていた物は今はすべて龍明が持っていたのだ。当然だが龍明の私物ではない。今この場で盗ったのだ。

 

「誘拐及び強姦に未成年の喫煙、そして騒乱罪など。ここに居る者全員退学処分に少年院は免れないぞ」

 

 龍明の刺すような視線に男が一歩後ずさる。そして下がった男の後ろから一人のリーゼントが出てくる。龍明はそれを見て、よく燃えそうだと思った。

 

「なに女一人にブルっちまってんだよ。情けねぇ」

「で、でもよう……」

「なにがよう、だ。たく……」

 

 そう言いリーゼントも懐から煙草を出そうとする。が、やはりない。

 

「探し物はこれかね?」

 

 怪訝な顔をしていたリーゼントの眼前に火が点いたライターが出される。そして火がリーゼントに移り、燃え上がる。

 

「ギャァアアアアアアアアアアアア!?」

 

 自慢のリーゼントを燃やされた男は悲鳴を上げながらゲーセンを去っていく。明日の朝刊には載るのだろうか、龍明にとって気になることはそれだけだった。

 

「て、てめぇぇええ!!」

「ふん、最後は破れかぶれの突撃か。愚かな」

 

 

 ※※※

 

 

「て感じで不良三十人を一人で絞めたとか」

「「「「何それ怖い」」」」

 

 覇吐の口から語られた龍明の武勇伝に全員が口を揃えて言う。争奪戦で戦いなれている彼らからしてもそれはあまりにもすごい話だ。

 

「いやまてまて、俺が聞きたいのはそういう武勇伝じゃなくて、趣味とかそういった話だよ」

 

 そんなことを聞いて何になるのか、喨としては楽しく出来る会話、所謂趣味などの共通の話題や好きな物などのそういった話を求めているのだ。

 

「あ、あと主に龍水の影響でBL好き」

「……ああ、そう……」

 

 なんだかだんだんはずれな気がしてきたな……。本人が聞いたら殴られそうなことを考えながら喨は帰ろうか思案していた。

 

「えーと、なんか話して楽しそうなこと、ない?」

「うーん……」

 

 しばし悩んだように首をかしげ、

 

「ない!」

 

 きっぱりと言い切った。それを聞いて喨はこうべを垂れ、覇吐に弁当を渡して立ち上がった。

 

「ほら、約束の半分だ。俺らは先に帰るぜ」

「ん、そうか。それじゃあまたな」

「ああ……」

 

 

 ※※※

 

 

「う、ん……?」

 

 スーパー【ツォアル】の弁当コーナー周辺、倒れていた一人の男が目を覚ました。青い髪にマフラーをした中性的な男だ。人は彼を藤井蓮――【ツァラトゥストラ】と呼ぶ。

 蓮は意識が覚醒すると同時に何があったかを思い返し、最期を思い出して軽くイラッとした気分になる。

 

「あれ、司狼……?」

 

 そして、周りを見渡して気付く。彼の友人たる遊佐司狼がいない。否、それどころかヴィルヘルムにマキナと、顔見知りが全員いない。おいてけぼりにされたかと一瞬思った。

 

「ああ、なるほど……」

 

 しかし合点の行く理由を見つけたのか、三人の事を頭から追い出して切れていた長ネギを買って店から出る。雲もなく街灯も少ない夜空の綺羅星を眺めながら、蓮は二人の不良生徒の命運を祈った。

 

 

 ※※※

 

 

「お、おれは……俺は逃げるぞー!!」

「残念ながらそうはいきません」

 

 鉢巻を頭に巻き、ずっと正座をしていたヴィルヘルムが断末魔のように叫びながら窓に向かって狭い部屋を走り出す。しかし進路上にいたシュピーネによって捉えられ、今度は縄で縛られて正座を強制させられる。

 

「お前もだ」

 

 そしてヴィルヘルムに意識が向いた一瞬の間に逃走を始めようとした司狼もマキナに捕まり肩に手を押し付けられた状態で正座を強要される。

 

「ていうかなんで俺も! 俺はそこの脳筋チンピラシスコン野郎と違って成績優秀者だろうが!」

「オイコラテメェ! 誰がシスコンだゴラァ! あと俺を売りやがったな!」

 

 片や縛られながら、片や重圧(物理)を掛けられながらも騒ぎ立てる両者。ちなみに現時刻は真夜中と言って差し支えないもので、

 

「静粛に」

 

 当然叱られる。マキナの拳が二人の頭頂部に叩き落とされる。結局、二人は朝まで正座させられることになった。唯一の救いは、明日が休みだったという事だろう。

 

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