Quietum die   作:裸エプロン閣下

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男なのに女性一人称は巧くに書けるという矛盾(?)




アンナの野望

*推奨BGM【Jenzeits】

 

「ふっふっふ……ここまでくれば我が野望の成就も近い……ククク……」

 

 薄暗い部屋、黒い煙で満たされた部屋は午後3時と言う明るい時間帯でも深夜のような不気味さを感じさせる。そしてのその部屋の中でただ一人、奇異な笑い声をあげる者が今この部屋の主なのは疑いようがないだろう。

 

「ふふふ、アハハ――アーハッハッハッハ!!」

 

 辺りに響き渡る笑い声。その者の野望を止めることができるものは誰も――いない。

 

「やかましいぞアンナ! 部活動停止処分にするぞ!」

「あ、ごめんなさい!」

 

 などということはない。

 

 

 ※※※ *推奨BGM【Kirschwasser】

 

 

「お前はただでさえ今年卒業できるかギリギリなんだぞ。些細な事でも問題起こしたら終わりだからな」

「……ハイ」

 

 諏訪原高校。県内ではそれなりの実力を誇る進学校だが、中には当然バカや落第生のような例外はいる。 部室の中心で正座を強いられている彼女、アンナ・シュヴェーゲリンもその例外に含まれるものだ。

 

「それと怪しげな実験はやめておけよ。この部活は部員数と顧問がいるからギリギリ建っている危ない部活なんだから」

 

 そう言い彼、国語科教師ゴリ松(本名:五里(ごり)松重(まつしげ))は去っていった。静寂を取り戻した部室でアンナは正座で痛めた足を揉み解し背伸びをして、

 

「さて、もっかいやりますか」

 

 再び同じ実験に取り掛かった。ゴリ松の説教は全く意味が無かったらしい。鼻歌を歌いながらフラスコの中に様々な物を入れていく。その手際はてきとうにやっているように感じられるが的確な分量をしっかりと加えていく。するとフラスコの中から黒い煙が濛々と上がり始める。他者が見れば完璧に怪しい実験である。

 

「そういえば言い忘れたが――」

「――」

 

 そして結果は何であれ、怪しい実験を咎められて彼女の本日の実験は終わりを迎えた。

 

 

 ※※※

 

 

「いった~い。まだ痛いよ……コブ出来てないかしら」

 

 先ほどゴリ松に殴られた頭を擦りながら帰路に着くアンナ。ぶつくさと愚痴を叩きながらもゴリ松に対する苛立ちは実のところほとんどないに等しい。理由は忘れているわけでは無く、好きだからとかそういうラブコメ的な展開でもなくただ自分が悪いからと分かっているのである。最初の忠告にしたって完璧擁護の言葉であるし、事実彼女が卒業できるかどうかは本当に危ない所である。もしあの場に来たのがゴリ松やマキナ、シュピーネといった付き合いの良い面々でなければ終わっていたかもしれない。

 

「しかも、今度は本当に最後となればね……」

 

 当初アンナは留年に関する危機感はなかった。それどころか蓮と同じ学年になれるならばそれもありかな、とまで思っていた。しかし今回ゴリ松から告げられたことは今回今までと同じように留年すれば即退学とのこと。別に留年するのは構わない。だが退学してしまってはこれまでの5年間はいったいなんだったのだろう。それだけは困る。

 幸い今学期も残すところあと2か月ほど。純粋に通う日数を出せば40日程度だ。それまで問題を出さなければ無事卒業だ。

 

 ――そしてそのためには部活動を控えろとのこと。

 彼女の問題行動等、そのほとんどの理由は黒魔術部によるものだ。ある時は部室を爆破させ、ある時は近隣の生徒が酸欠を訴え、ある時は生徒全員がグランドに集合して『アンナさま万歳』と叫ぶ集団ヒステリーを起こすなど、潰れる潰れない以前に捕まらないことが不思議なことを何度も繰り返している。

一部教師及び被害者からは理事長も彼女によって傀儡にされているのでは、と思われていることを彼女は知らない。と言っても知ったところで気にする性格でもないが。

 

「まあそんなことは置いといて」

 

 荷物を横に置くようなジェスチャーをしてポケットから栓をされた試験官が取り出される。その中には毒物と言えば信じられるほどドス黒い液体が入っていた。

 

「ふっふー。これさえ完成すれば蓮君を……ゲヘヘヘヘ……」

 

 ジュルリ、と涎を拭いながら再び怪しい声を出す。もしこの場に第三者がいたならば一瞬の躊躇いもなく警察に通報していただろう。無駄に悪運が強い女である。

 

 

 ※※※ *推奨BGM【Bottomless Pit】

 

 

 それから6時間後。所変わってシュヴェーゲリン宅の地下室。

 

「出来たー! 苦節2日と15時間と4,120円が生んだ私の努力の結晶!」

 

 ずいぶん安い結晶だな、と言いたくなる割と時間も金も掛けていない薬。その効果は胸を大きくする、所謂巨乳薬である。

 

「やはり男は巨乳なんだろ、え、そうなんだろ!? だったら巨乳になれば私の勝利じゃー!」

 

 どこかの拳王を思わせるように拳を振り上げ高らかに叫ぶアンナ。防音効果の高い密室の地下室に響き渡ってどことなく虚しさを感じさせるが叫んだ本人は気にしていない。どこまでも恋する乙女らしからぬ少女であった。

 

「さーて、これを飲んで後は寝る! 寝る子は育つ! 英語で言うならSleep brings up a child well!」

 

 子供の様にはしゃぎまわり、ベッドに飛び込むように入り明日の想いを寄せたのであった。

 

 

 ※※※ *推奨BGM【Burlesque】

 

 

 朝、天気もいい通学路で私は目当ての人を見つけてほくそ笑んだ。私は小走りに彼の隣に回って並ぶようにした。彼は唐突に隣へやってきた私に少々困惑したような顔を浮かべた。

 

「おはよう蓮君」

「…………えっと、どちらさまで?」

 

 胸どころか体型まで大きく変わってしまったから予想はしていたが、やはり直接言われると結構心に来るものだ。だけど私はそれをおくびにも出さず、むしろ頬をふくらまし愛嬌を見せてみた。

 

「そりゃあ分からなくもないけど……アンナよアンナ。アンナ・シュヴェーゲリン」

「ああなるほど。そういえば……ってえぇ!?」

 

 全身をのけぞらせていかにも驚いています、と言った感じのポーズになる蓮君。今度はどこか子供っぽくて可愛く感じる。中性的で良く似合うし。今度幼児化する薬を作ってみようかしら。

 

「しかし随分変わったな……。どうやったんだ」

 

 そうしてつま先から眺める様にこちらを見る。個人的には嬉しいんだけど姉直伝『男を悩殺する一〇八の方法』によるとこういった場合は……。

 

「もう、女性をそんなにじろじろ見ないで。恥ずかしいわ」

「あ、ああ……。その、悪かったよ」

 

 そう言うと照れて視線を逸らす。さすが姉、超一流女優は伊達じゃない。今すぐにでもお持ち帰りしたい気分だけどここで焦ってはだめだ。魅惑のレディーは焦らない。大人の魅力で男を落とすのが大人の女。

 

「それじゃあ、私先に行くね。バァイ」

「おう……」

 

 そしてここで華麗に去る! 去り際には最高の笑顔をプレゼントするのも忘れずに!

『男を悩殺する一〇八の方法』によると去り際にいい印象を植え付けるととても印象に残るとのこと。今のところその結果はかなりいいだろう。このままやり続ければ十中八九落とせるだろう。

 

 フハハ見ておれ小娘共、最後に笑うのはこの魔女の(マレウス)鉄槌(マレフィカル)だと知るがいい!

 

 

 ※※※

 

「ムっ!」ピキーン!

「どうしたの玲愛ちゃん?」

「今藤井君を狙われた気がする……私の夫を……」

「あれ、玲愛ちゃんって蓮君とそんな関係になってたの? たしか振られたんじゃなかったっけ?」

「いずれ戻ってくるから大丈夫。今のうちに既成事実を作れば問題ない」(キリッ

(…………本当に寝とり上等だよこの人。てことはあの赤い髪の子も……)

 

 

 ※※※

 

 

「藤井君ッ!?」

「どうしたの螢、急に跳ね起きて」

「……いえ、ちょっと……」

「なになに、男? 螢ももうそんな年だもんね。よぉし! そういうことならお義姉さんに相談してみなさい! どぉんとこい!」

「一応聞くけど基本的にはどんな方法?」

「押し倒せ!」

(だめだこの人……)

 

 

 ※※※

 

 

「ああ、ダメよそんなこと、蓮!」

「…………あれ、夢か」

「…………………………………………」

「……寝よう」

 

 

 ※※※

 

 

「む……いまマリィの機嫌が僅かに悪くなった」

「卿は本当にあの娘が大切なようだな」

「当然だ。私が見初めて我が子のように育ててきた娘だ」

「そうか。私もイザークがいるし、全くわからないわけではない。大根と竹輪を」

「そうですか。しかし黄金と恐れられたあなたが子育てとは。昔のヤンチャな頃からは思いもよらぬことでしょう、獣殿。あとがんもとこんにゃくを」

「あいよ。大根、竹輪にがんもとこんにゃく」

「しかしこのおでん屋のだしは良いな。今度マリィに食べさせてあげよう。フフフ……」

「私も今度イザークを連れて来よう。たまにはこういう場で食べるのも悪くない」

 

 

 ※※※ *推奨BGM【Nacht der langen Messer】

 

 

「あ、蓮君」

 

 愛しい男の姿を見つけ手を振る。昨日までなら子供らしく大声を出してブンブンと振っていたが今は出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる大人のプロポーションである。姉の『男を(中略)方法』だと大人の女はそうお転婆なのは求められていない。最初の内はあくまで『都合のいい女』を演じていつしか自分にしか目がいかなくさせるのが、大人だ。蓮君は……高校生である以上絶対に、とは言えないが彼女さんともピーな関係までは言っていないだろう。

 

「アンナか……。こんなところでどうしたんだ……」

「いや、ちょっと些細な事よ」

「そうか。それじゃあな」

 

 そう言い校門を出る蓮君と並ぶように歩く。

 

「……用事は?」

「もう終わったわ」

 

 蓮君の顔をじっと見つめる。全体的に大きくなった今でも蓮君の方が背は高く、わずかに上目遣いになる。これを利用し私は少々恥ずかしげに、かつはっきりと聞こえる声量で、

 

「蓮君を……待ってたんだ」 *推奨BGM【AHIH ASHR AHIH】

 

 告げた。これこそ『全略』の大技、『直接好きとか愛してるとか言わず、的確に好意を伝えてかつ告白と取らせない』という必殺(殺さないけど)技である!

 

「……そ、それは……どういう、意味だ……?」

 

 本当は分かっているくせに訊ねて来る。そういうところも本当に愛らしい。しかしここで焦ってはいけない。一度釣り針を仕掛ければ、あとはそれだけでいいんだ。そうすれば蓮君は……グヘヘヘヘ……。

 おっといかんいかん、涎は自粛せねば……。

 

 さてさて、どういう訳か人気のない路地に来てしまったし、ここで一気に決める!

 

「今更迷惑なのかもしれないけど……。私、蓮君の事が好きなんだ」

「…………ああ、薄々だけど、勘づいてた」

 

 ここは予想通り。蓮君は私や幻彼女(誤字に非ず)の他にもさらに三人のもの好意を受けていた。当然気付いててもおかしくない。というか気付いててくれた方がやりやすい。

 

「でも俺はもう……」

「分かってる。だから……一度でいいの。そうすればきっと吹っ切れるから」

 

 正直蓮君はギャーギャー騒いだって突っぱねるだろう。だから吹っ切れるという毒を仕込む。一度もやったことのないなら一度やってしまえば問題ない、はず。

 だからさあ蓮君。据え膳を食べるのだー!

 

「…………」

 

 悩み、惑い、そして意を決したかのように瞳を閉じて、その中性的な顔が近づいてくる。そして――。

 

「ゴールゥゥウゥウウう!!!」

 

 

 ※※※ *推奨BGM【Arbeit macht Frei】

 

 

「…………あれ?」

 

 先ほどまでいた蓮はおらず、あるのは半ばひっくり返された布団。躰は出るところも出ず、全体的に貧相なまま。着る者も先ほどまで着ていた制服ではなく、寝る前の簡素な黒い衣装だった。

 それらすべてを統合すれば結果は出る。つまるところ、全て夢。

 

「…………まあ、分かってたよ。授業風景無かったし、玲愛ちゃんたちいなかったし、いつの間にか路地行ってたり、あまりにもあっさりだったし……」

 

 深く、重いため息。朝日も射して明るい雰囲気を纏う部屋が一気に深海に叩き落とされたような息苦しい部屋に変わっていく。

 

「でも、夢落ちは無いでしょう……」

 

 再びため息を吐いて二度寝を決めこもうとしたが、昨日退学もあり得ると言われたことを思い出し機嫌の悪さを隠しもせずに身支度をして準備を整えた。無論、学校に行く準備だ。

 




最近一次創作のほうにも取り組み始めたのでこちらの更新が遅くなることが多くなると思います。

短編集のようなものなのでどこまでで終わり~とかを決める気はないのでネタが思いついたら書いていきますので。
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