Quietum die   作:裸エプロン閣下

2 / 15
今回バトルはねぇ!


スワスチカ店員の夜

 私の名はエレオノーレ・ヴィッテンブルグ、狼どもからはザミエルと呼ばれるスーパー【スワスチカ】の店員で主に肉料理や炒め物などを作っている。

 

「せんぱぁ~い、どうしたんですかぁー、いつにもまして仏頂面ですよぉ~」

 そして先ほどから酔っ払って絡んでくるバカはベアトリス・K・櫻井だ。ドイツの時からの付き合いで私の後輩だった奴だがつい最近日本人の男と結婚して移り住んできて挙句の果て私と同じ職場へとやって来た。そして現在仕事を終えて帰ろうとする私にしつこく絡んできて図々しくも家へと上がり込み勝手に冷蔵庫の中のビールと肴を引っ張り出してサッカーを観戦している。

 

「あ、そういえば先輩ハイドリヒさんに告白しましたか? 二年も勤めてるのにそれらしい雰囲気もないんだから告白しかないでしょ~アハハハハハ!」

 私はそろそろこいつを放り出してもいいと思うのだが近所迷惑だし、玄関の前で凍死していたらさすがに目覚めが悪いので我慢した。我ながら堪忍袋の緒が太いと思う。人の家のテレビを掴んで先ほどから活躍しない自国選手を批判しながらバンバン叩いているバカを尻目に私は奴の上着から携帯を取り出し電話帳から『私と戒の愛の巣(ハート)』と書かれた番号へ連絡する。

 

「うおーいけいえー! そこだー、てバカー! そっちじゃないでしょ、あーもう!」

 どうでもいいがこの戒とやらはこのバカのこういう姿を含めて好きになったのだろうかひどく気になる。仮に私が男だったら百歩譲っても親友でとどめるだろう。

 

「ハイ、櫻井ですが」

 などと考えているうちに携帯が繋がった。携帯越しに聞こえるその声は生真面目そうな男だった。そういえばこいつの知り合いは私と言いブレンナーといいどこか真面目そうなやつばかりだったな。

 

「私はエレオノーレといいお前の嫁のキルヒアイゼン、いや今は櫻井だったな。まあいい、とにかくあいつの知り合いだ。貴様の嫁が酔っぱらっているから引き取りに来てくれないか。場所は桜公園前のマンションの117号室だ」

「あぁ……、すいません、ご迷惑をおかけしました。すぐ行きますのでもう少しだけベアトリスをお願いします」

「早めに頼むぞ。さすがにそろそろテレビが心配なのでな」

 視線を少しずらせば点を取られたことにイラついているのかテレビを握り拳でガンガンと叩いているバカが見える。先ほどまで綺麗に映っていた画面には砂嵐が行き来している。古いからそろそろ替え時だろうとは思っていたが壊されては堪らない。だからと言って注意した程度で酒の入ったこいつは止まらない。

 

「キルヒアイゼン、座って、落ち着いて見ろ」

「何言ってんですかせんぱぁ~い。私は座って至極冷静に見てますよ~」

 私はバカの頭を鷲掴みにし力を少しずつ入れていく。すると反比例するかのように手の中のバカのテンションが下がっていく。ああやはりこういうバカを強制するのに一番いい手は力だな、としみじみ思いつつ悶えるバカを座布団に座らせる。

 

「あう~、お嫁に行けなくなっちゃうじゃないですか」

「既に行っているだろう」

「傷物になって戒に嫌われたりしたらどうしてくれるんですか~」

「新たにいい男を見つけるまでは家に置いてやろう」

「縁起でもないこと言わないでくださいっ!」

 

 なんだかんだで大人しく観賞を始めたようで何よりだ。初めからそうしろと思わなくもないが……。

 

 閑話休題。

 

 時刻はすでに9時を回っているがこのバカの所為で私は晩飯をまだ食べていない。こいつの家がどこにあるか知らないが普段の帰り道から想定してあと30分はかかるだろうことが予想される。私が食事を作るのにかかる時間もちょうどそのくらいだろうし、ならば作ってやるとしよう。どうせ1人分作るのも3人分作るのも対して違いはない。

 さて、冷蔵庫の中を開ければ肉やらキャベツやら、ちょうどいい感じの量の食材が残っていた。

ふむ……これは炒め物だな。

 

 

※ ※ ※

 

 

「すいません、僕まで頂いちゃって」

「構わんよ、キルヒアイゼンの夫がどういう男か知りたかったからな」

「かっこいいでしょ~先輩。あ、でもあげませんからね」

「(無視)まあ悪い男に捕まってない様で何よりだよ」

「僕も、お眼鏡にかなったようで何よりです」

「あれ無視ですか先輩?」

「こいつは少々抜けているところがあるからな。実家の方も結構いい家だしその内

騙されやしないかと心配だったからな」

「ご安心してください。僕がベアトリスを守りますから」

「ふっ、言葉ではなく行動を期待しているよ」

「はい」

「あれ、私抜きで話がどんどん進んでいく?」

「それよりご飯のおかわりは如何かな?」

「あ、いただきます」

「せんぱ~い! か~い! もしも~し!」

「分かった。冷凍物でスマンな」

「いえお構いなく」

「(ピッポッパ……トゥルルルル……)」

「そういえば職場でのベアトリスはどうですか?」

「それなりに良くやっているよ。こいつ目当てに訪れる客も少なくないしな……」

「そうですか、それは良かった」

「あ、螢ぃ~、戒と先輩が苛める~」

『ごめんベアトリス話が見えない』

「ベアトリスは職場でのことをなかなか教えてくれないので……てっきり先輩にいびられているのかな、って」

「確かに多少はいびっているが9割こいつの自業自得だ。それと対人関係は問題ない。いつもアンナと一緒に客としゃべりまくっている」

「アハハ……簡単に想像できますね」

「ねえ螢これが倦怠期ってやつ?」

『知りませんけどたぶん大丈夫ですよ。兄さんはそういう人じゃありませんから』

「じゃあどういうことなのよー! もしかして飽きられたのー!」

「先ほどからうるさいぞキルヒアイゼン! 黙って箸を持って飯を食え!」

「そんなこと言われたって箸なんてまだ使い始めたばかりですよ! むしろ何で先輩はそんなに簡単に扱えるんですか!」

「逆になれてないのに何故日本に来たのだ貴様は……」

 

 外国に来るのならせめて日常会話と基本的なマナーなどを覚えてからこい。

 

 箸を片手ずつ持って先を当ててカチカチ鳴らすキルヒアイゼンにはたはたあきれ果てる。ちなみに先程話に出たアンナとはアンナ・シュライバーという私やキルヒアイゼンと同じく【スワスチカ】の店員である。両親を失い素行がいいと言えないバカな弟のためにせっせと叩く姿が薄幸の少女みたいでとてもかわいいとのことで近所で有名だ。

 ちなみにハイドリヒ卿が雇った理由は『私はすべてを愛している』とのこと。さすがハイドリヒ卿、深海よりも深く宇宙よりも広い心を持っておられる。

 

「だって普通の店はフォーク出してくれるんですもん! 先輩だってそのあたり気を聞かせてほしいですね!」

「戒といったな。今後こいつを甘やかさなくていいぞ。むしろ泣き叫ぶまで躾けてやれ」

「ハハハ……」

「ちょっと聞いた螢、この鬼教官みたいな物言い! そんなんだから未だに友人が私とリザさんとアンナさんにルサルカさんしか友達がいないというのに!」

『いやそんなこと言われても私困るんだけど……』

「いちいち余計な事を言うなキルヒアイゼン!」

「あーん? 何か間違ってますか私の言ってること正直日本に来たらまず先輩に会ってあげなきゃって思ってましただって先輩友達たったの5人しかいないしもしかして寂しくて死んじゃってないかと思ってましたしでも実際会ってみたら金髪イケメンと同じ職場とか私の心配を返せと怒鳴りたくもなり………………………………………………っ!」

 

 

※ ※ ※

 

 

「その、本当にベアトリスがご迷惑をおかけしました……」

「それは気にしなくていい。もはや慣れた……」

 もっとも慣れたからと言って疲労がなくなるわけでは無い。正直私としては今すぐベッドに入って寝たいところだが客人を見送りしないわけにもいかないし明日も仕事なのだからハイドリヒ卿に失礼のない様に風呂に入って汗を落とす必要がある。酒臭いのもマイナスだしな。キルヒアイゼン? 二日酔いで寝てればいい。当分あいつの相手はしたくない。

 

 キルヒアイゼンを背負って最後まで申し訳なさそうな顔をして去る戒を見送り部屋に戻りシャワーで軽く汗を流しながら大学時代を振り返る。

 

 ……たまには帰省するのもありだな。 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。