Quietum die   作:裸エプロン閣下

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一日おいて見直したわけではないので十中八九ミスがあるだろうけどキニシナーイ。


薄幸の少女の日々

 駅から離れたところにある家賃の安いどこにでもありそうなマンション。しかしこのマンション、近所ではとても有名だった。正確にはとある部屋の住人だが。

 若くして両親を失い親戚をたらい回しにされて極東の日本で捨てられてもめげることなく素行の悪い愚弟のために身を粉にして働いている。なるほど確かに典型的な薄幸の少女だ。テレビに取り上げられても何らおかしくないだろう。

 そんな少女が今日のお勤めを終え大量の荷物を持ってマンションを上がって仮初の住居へと足を運んでいく。

 

 

「はぁ……はぁ……、ただいま~……」

「おかえり。どしたの、今日はずいぶん遅かったね?」

 そんな彼女を迎えるのは小柄な白髪の少年。彼女と歳が十歳離れた弟のウォルフガング・シュライバー、小学六年生だ。学校ではよく悪戯して怒られて夜遅くに高校生に交じって何かしているとか。姉としては心配極まりない事本人が大丈夫と言っているようなので信じることにしているが……。

不審に思い一度尾行をしてみたがすぐに撒かれてしまい結局分からずじまいとなってしまった為、最近は携帯を持たせていつでも連絡を取れるようにしている。根本的な解決にはなっていないがそれでも気分が多少安らいだようだ。

 

 

「うん……今日はお客さんがいっぱいで……」

「へぇ、いっぱいってことは定食屋なの? そういや料理得意だったし」

「アハハ……そんなところかな」

 お客さんが(・・・・・)いっぱい(・・・・)倒れてた(・・・・)、とは言えない。言ったらどんなところで働いてるのか疑われかねないし変なところ(スーパーだが)で働いているとは思われたくない。

 もっとも、彼の弟もその倒れていた者達と同じ狼だと知ったらどうなるだろう……。

 

 

「料理と言えば晩御飯まだだったね。何がいい?」

「あ、晩御飯ならスーパーで買ってきたからいいよ」

「そっか、ならいいか……て、また!? 確かに美味しいけど栄養も考えて食べないと身長大きくならないよ!」

「大丈夫だよ学校の給食で牛乳飲んでるし」

「牛乳飲んでても早く寝なきゃ成長ホルモンでないよ!」

「一応十時には寝る様にしてるから問題ないでしょ」

「もう……将来チビになっても知らないからね」

「ハイハイ、それじゃあ僕はもう寝るね。お風呂は沸かしてねー」

「うん、グーテナハト」

「グーテナハト~」

 最後に片手を振り隣の部屋へ消える。それを見てため息を吐くアンナ。

 

 

「はぁ……ウォルももうちょっと大人になってくれれば……。いや私が頑張らなきゃ」

 十二歳と言う年齢を考えれば彼の行動はまあ普通だろう。だが大人しいアンナからすれば少々荒々しいとも思えてしまう。そして彼女は大学も卒業しているとはいえ家計を自身の稼ぎだけで負担するには早すぎる年齢だ。正直お金を借りようと思ったことも少なくない。だが保証人もおらず自分が倒れた場合弟に借金を背負わせて未来を潰すような真似をしたくなかったのだ。

 だが幸いなことにこの町には彼女の親友が二人いる。しかも同じ職場で。もしもの時は押し付けるような形になってしまうが二人とも優しい人なのできっと面倒を見てくれる。そう思うことで頑張ることができた。

 

「ぃよし! 明日も頑張るぞー!」

「(何吠えてるんだろう……まあいいか……zzz)」

 

 

 ※※※

 

 

「ごめんなさい! ちょっと遅れました!」

「ああ構わんよ。どうせまだ始まっておらぬよ」

 とラインハルトさん

 

「生真面目な貴様にしては珍しい事もあるものだな」

 とエレオノーレことエレンさん。

 

「おはよ~……頭痛い……」

 とベアトリスちゃん。風邪でも引いたのかな?

 

「全く……昨日あれほど飲めばそうなるに決まっている。相も変わらず無鉄砲だな」

 違った。単なる二日酔いらしい。大学時代の時も二日酔いで倒れたりしていたことだ多々あったっけ。

 

「それで何かあったのか。大方お前の弟が原因だろうけどな」

「はい……なんでも今日出さなきゃいけないプリントを今朝出されて……」

「それでか。あ奴はもう少しお前の苦労を知るべきだと私は思うが」

「言って聞く子でもなさそうですけどね」

 確かにベアトリスちゃんの言うとおりだ。ウォルはなんていうか……風? みたいな感じで誰かにとらわれるような感じじゃない。でもせめて学校のルールは守ってほしいな……。

 

「卿の弟か。言いにくいことがあるのならば私が話しておこうか? なに、子供の相手は慣れている」

「いえ、さすがにそれは……」

 ていうかラインハルトさん、子供に慣れてるって……、ちょっと想像できないなぁ。どちらかというと社交界で黒い人と繋がりがある感じなんだけど、って失礼か。

 

「まあ子供がいるしな」

「ゴッハッ!」

「先輩が吐血した!」

「エレンさん!」

 ラインハルトさんの爆弾発言に今の今まで理想的な健康体だったエレンさんが突如として吐血して倒れた件。急展開で正直私には何がなんだかさっぱり分かりません。

 

「ちょ、先輩大丈夫ですか?」

「こんなに苦しいのなら、悲しいのなら…………愛などいらぬ……」

「重傷ですねこれ」

 エレンさんがまさかのネタに走った……。何が彼女をそこまで……。

 

「まあ子供と言っても親戚の子を預かってるだけだがな」

「真に愛するなら壊せ!!!!」

「うわ跳ね起きた!」

 先ほどまでの死の淵のテンションから一気に跳ね上がる。私には理解できない空間が広がりつつある。もしかしたら夢なんじゃないかな……。

 

「何を呆けている貴様ら! 開店まであと二十分だぞ! さっさと着替えて商品の陳列をして持ち場に着け! もたもたするな!」

「ちょ、いったい誰のせいだと思ってるんですか!」

「知らんなぁ!」

 そう言って口論を始める二人とそれを笑いながら眺めるラインハルトさん。あまりの急展開で置いてけぼりをされた気分だけど……まあ元の線路に戻ったからいいか。

 

 さて、今日もお勤め頑張りますか。

 

 

 ※※※

 

 

「いらっしゃいませー! てマリィちゃん、今日は早いね。どうしたの?」

「えへへ、今日は蓮がお家に来るの」

「ってことは……とうとうご両親に!?」

「どうだろう。でもそうだと……嬉しいな」

 顔を喜色で桜色に染めて微笑むマリィちゃん。うちの常連でほぼ毎日来てくれている彼女だがその彼氏の蓮君についてはあまり知らないけど店長によれば『近年稀にみる魂の耀きだ』とのことらしい。いまいち分からないけど多分褒めてるんだから悪い人じゃないと思う。その彼氏さんと付き合い始めて二年、そして高校最後の冬、となればこれはもうご報告としか思えない。

 

「え、いいなぁ……。あ、店長店長!」

「うむ、話は聞かせてもらった。餞別だ、持っていくがいい」

 そういい差し出したのは今が旬で脂の乗った真鯛、しかも今日入った中でも一番大きい鯛だ。やはりめでたい時には鯛だよね。

 

「いいの? そんなに大きいの?」

「構わん、ああついでにこれも持っていくがいい。やはり腹を割って話すなら酒が必要だろう」

 さらに焼酎を持ってくる。これまた一番いいものを。まあ店長だからいいんだけど……。

 

「代わりと言ってはなんだが彼に私からも祝いの言葉を送っておいてくれぬか」

「うん。今日はどうもありがとうございました」

「先輩先輩、聞きました今の!」

「ああ……聞こえたさ」

「? どうしたのエレンさん。元気ないね」

「いやなに……私は高校生よりも度胸がないのかと思ってな……」

「あ、そういえば告白まだなんですか? ハイドリヒ卿モテるから先超される可能性高いですよ」

「その時は、炒めて見せよう、泥棒猫」

「物騒かつ季語がないので五点(百点満点中)ですねエレンさん」

 いろいろハチャメチャで、時折物騒なこともありますけれど、それでもお姉ちゃんは頑張ってますよ。ウォル。

 

 

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