俺の名前は藤井蓮、諏訪原高校に通う到って普通の高校生、だと俺は思っている。
「では皆様さようなら。月曜には先ほども言ったように私が担当する理科のテストを行いますので自宅でも復習をするように。赤点を取った生徒にはもれなくプリントを十枚プレゼントするつもりですので気を付けるように」
俺のクラス担当のシュピーネ先生が今日という日の終了を告げる。どうでもいいがこの学校、いやこの町はドイツ人が多いと思う。某スーパーなんて店員が全員ドイツ人だしこの学校にもドイツ人生徒が二人、ドイツ人教師が三人いる。ちなみに日独ハーフの先輩がいるがあえて除いている。あの電波らしさは残念なことに日本特有の雰囲気だと思うから。
「よぉ蓮、おまえ今日はどうするよ」
後ろの席から話しかけてくるのは俺の腐れ縁たる友人の遊佐司狼だ。席はくじで選ばれたのだが明らかに間違えたとしか思えないのは少なくとも俺だけじゃないと思う。
「俺は今日、大事な用事があると今朝言ったはずだけど」
「いやなに、時間が経つにつれ尻尾巻いて逃げちまいたくなるかなと思って」
「ぶん殴るぞこの野郎」
こんなセリフだがこれがこいつなりの激励であることはもう理解している。といってもムカつかないかは別だがな。
「そういや香純はどうした?」
「バカスミならとっくに帰ったぞ。なんか傷心を癒すとかほざいてたぜ」
「…………」
知らなかった、なんてほざく気はない。そりゃあ小さな頃からずっと一緒にいたんだ、気付いていない訳じゃあ無かった。だけど、それでも俺はあいつを、マリィを選んだんだ。
「ったく。本当に女泣かせだよなお前」
「言うなよ、俺だって悩んで、考えて、それでもマリィが、マリィじゃないとダメなんだって気づいたんだ」
「ふ~ん……。まあとりあえずあいつらのアフターケアは俺がしといてやるよ。お前は晩飯でいい土産話聞かせてくれよ」
「ああ、期待して待ってろ」
鞄を持って廊下へ出る。教科書の入っていない鞄の軽さはいつもの事だが今日はいつにもまして軽く感じながら用のない学校を後にする。
※※※
「てなわけで、今日は俺もあいつも行けねぇ」
「別に聞いてねえよ」
「そうか? てっきりずっと後ろにいたから知りたがってると思ってたけど」
「お友達の浮足立った気分に当てられてボケたか?」
「それこそまさか。とりあえず俺も今日は帰るから」
「おう帰れ帰れ」
※※※
「ゴメン蓮、待たせちゃった?」
「いや、今来たところだよ。マリィ」
などとテンプレなセリフを返す。実を言うと一時間ほど待ったのだがそれは舞い上がって約束よりもずっと早く来たことが原因であり、マリィの所為ではないので追及するのはお門違いだろう。
マルグリット=B=クラフト。
都市は俺と同じらしいが高校に入っていない。聞けば彼女はもとは孤児で十年程前にカリオストロと言う人に引き取られたらしい。その際ル○ン三世を思い浮かべた俺は間違ってないはずだ。それで……そうだ。箱入り娘のようにその後もテレビやラジオで知ることはあっても外に出ることは許されず(監禁かと思ったがそんなにひどいものではないそうだ)ある日それを破って外に出て、初めてなので何処かも分からず四面楚歌状態の時俺が出会ったのだ。その後俺はマリィに街を案内して、同じ孤児だったことから仲良くなり、それから何度も一緒に二人でデートして、恋人になった。端折りすぎだって? だって長くなるだろ。
さて、現実逃避もこの辺にして、
「それじゃあマリィ、行こうか」
「うん!」
そう言いマリィが来た方向へ足を向ける。今日はデートではなく…………親に挨拶に行くのだ。俺の方は最悪招待状で知らせればいい。だが彼女には血は繋がってないがちゃんと親がいる。ならばしっかり伝えて納得させるべきだろう。
――そう思っていたことが、この時までは俺にはあった。
※※※
「許すわけがないだろう。もとより出す気はないが未だ学生で内定も決まらず収入源がバイトの貴様に私の唯一無二たるマルグリットを嫁に出すなど許さん。異論は認めん断じて認めん私が法だ黙して従え」
初っ端から躓きつつあった。玄関で名前も出してないのに要件とこちらの生活環境を当てたのはすごいがそんなものを超越するほどのうざさである。
「マルグリットは6歳の頃私がフランスの孤児院から引き取って以来、私は彼女の事だけを思ってすべてをマルグリットに捧げた。私の長い歴史で稼いできた財産は全てマルグリットに、知識はマルグリットを美しくするために。君は自分が多くの狼と争ってまで手に入れた弁当をそこらの犬に挙げるというのかね?」
――こいつ、どれだけ俺のことを!?
俺とこの枯れ木のような男、カール=エルンスト=クラフトと会うのは今日が初めてだ。だというのにこの男は俺の事を熟知していると言っていいほど詳しい。ストーキングを疑ったがマリィの話だとこの男は昼夜問わず家にいるとのことだ。そして俺とマリィが会う時は最近知ったことだが必ずと言っていいほど友人が尾けていたらしい。そして悲しい事にあいつのストーキング技術は高く、それをこの男が上回っているとは思えない。つまり分からないということだ。
「どうしても、と言うなら私を倒しt「じゃあ遠慮なく」グハッ!」
テンプレなセリフが予想できたので全身全霊の
「マリィ、なにか鈍器みたいなものない?」
「え? こ、これでいい?」
「フフフ、さすがマルグリット、容赦がない」
馬乗りになって顔面を連打する中マリィに何かないか問うとおどおどしながらも歴史のありそうな壺を持ってくる。咎めようとしない辺りマリィもこいつには思うところがあったのだろう。ていうか絶えず拳が入っているのだがいまいち手ごたえと言うのが感じられない。喋れるということはまだ余裕があるのだろう、あとで反論されない様に今のうちにボッコにしよう。とりあえず拳が痛み始めたので時折肘を叩き込むように殴り続ける、が――
「そろそろいいかね? 私もただ殴られるだけと言うのは趣味ではないからね」
「な!」
休むことなく殴り続ける拳をいともたやすく止める。枯れ木のよう、と評した男の腕につかまれた俺の両手は全く動くことなくいともたやすく体勢を戻される。そしてあいつが立ち上がると同時に体が回転し――
「ガッ!」
頭から地面に落ちる。幸いと言うべきか玄関から動いていない為頭部は靴越しに地面に当たったためさほど痛くない。
「どうした、この程度で諦めるのか。所詮君がマルグリットに掛ける愛などその程度のもの。そのような軟弱な男にマルグリットは渡せんぞ。もっとも譲る気など毛頭ないが」
「く、好き勝手言ってくれやがって。誰が諦めるなんて言ったんだよ!」
立ち上がって前に向き直る。男の顔には軽く2,30発は叩き込んだはずだが最初出会った時と同じ、他人を不快にさせるうざったい顔のままだった。
「それでどうする。私は長命でな、パンクラチオンやカパリヤット、果ては北○神拳に南○聖拳、流派東○不敗に飛天○剣流に京都神○流も使えるぞ」
「なんでもありかよ……。上等……やってやらぁ!」
土産話は困りそうにないぜ司狼――!
その後、俺は何をしていたか覚えていないが最後【スワスチカ】の店長であるラインハルトが仲裁と称して混ざってきた気がする。