網膜剥離自体は三日ほど前に直ったのですが一週間近く一文字も執筆しなかったので軽いスランプに……。もしかしたら変な所があるかもしれません。
蓮によるマリィの親(?)への報告、遊佐司狼とバカ達の三徹カラオケ(穏やかさが足らない為却下)、そして終業式(書くほどの事ではない)と時は流れてクリスマス。
「そんなに流れてねえだろ。精々二週間ちょいだし」
「地の文に突っ込むな司狼」
クリスマス――それはキリストの降誕を祝う日。しかし日本では聖夜のはずが性夜としての一面が強く企業がイベントとして押し、カップルがキャッキャウフフし合うばかりで本来の一面はほとんど見当たらない。そのせいで独身や独り身たちは肩身の狭い思いで過ごさなければならなくなる日。イケメン滅相、マジくたばれ。あと電波先輩こと氷室玲愛の家は教会だが玲愛本人に信仰心がないためか随分アグレッシブな感じとなっており無駄に注目を集めている。
「作者イケメンに恨みがあんのかよ。あと先輩の家どうなってんだよ」
「だから突っ込むな司狼」
そして彼女の家へ行くどころか飯すら作ってもらえない悲しい野狼(及び女狼)共のためにこのスーパー【スワスチカ】ではクリスマスツリーのごとく飾られた店員全員による四段構成の特大弁当【黄金一同からの祝福弁当】(一八九〇円:40%OFFシール付)が販売される。本来一時的な共闘ならばともかく、目的が同じ相手との同盟は組むはずがないのだが今回の弁当のサイズを考えると四,五人程度仲間を集って戦うことになる。
「てなわけで、『遊佐司狼と愉快なバカ達』の三人は弁当を狙うのであった」
「何がてなわけで、だよバカ。バカ筆頭の癖に」
「そうよ、大体『遊佐司狼と愉快なバカ達』ってなによ。『バカ司狼と愉快な仲間達』なら分からないでもないけど」
「相変わらず嫌わってくれるなお前ら」
『遊佐司狼と愉快なバカ達』:遊佐司狼、藤井蓮、櫻井螢
※※※
「てなわけで『アンナちゃんと負け組一同組』は弁当目指して同盟を組んだのだ!」
「誰が負け組だ、負けてんのはてめぇだけだろババァ」
「弁当掻っ攫ってそれを餌に男と一夜を過ごそうとか浅ましいにもほどがあるよ、ババァ」
「誰がババァよ誰が! 特にベイ、私とあんたは三歳しか違わないでしょ」
「高校生の分際で二十歳越えてるやつはババァでいいんだよ。いつの時代の人間だよ、てめぇは」
「ていうか高校で三浪ってwあんな部活(黒魔術部)に熱中とかwww」
「いいじゃないの! ていうか『w』ってそれどうやって発音してんのよ! あと一応まだ二浪! ギリギリチャンスはある!」
「ギリギリになってる時点で終わりだろ」「ほんと、バカだよねぇ」
「煩い煩い! と! に! か! く! なんとしても弁当を取るのよ! そしてそれを餌に蓮君を私のものにして……グフフ……」
「同盟解消してもいいか?」「僕別に帰ってもいいんだけど」
「ごめんなさい」
『アンナちゃんと負け組一同組』:アンナ・シュヴェーゲリン、ヴィルヘルム・エーレンブルグ、ウォルフガング・シュライバー
※※※
「では行きましょう。Yetzirah」
「……ああ」
『お茶の間の代表格』:ロート・シュピーネ、岩谷巻奈
※※※
「卿らの健闘を祈る、
いつにもましてやる気の高いハイドリヒ卿が四段弁当に貼られた40%OFFのシールの上に半額シールを貼り、そこで集まる狼たちを眺め、スタッフコーナーへと消えていく。
そしてスタッフコーナーのドアがバタンと、大きな音を立てて閉じられたとき狼は鬨の声を上げる。
どこの戦場でもそうだが、先陣を切るのは一番乗りを狙う狼たちだ。確かに早く着けば着くほど有利だろう。事例こそ極めて希少だが一番最初にたどり着いたものがそのまま弁当を入手するという事もある。
「はい一番乗り。もーらった」
しかしその方法は速力に全力をかける必要がある為、それ以外の事が疎かになる。それは当然、誰よりも速く弁当コーナーに着いたシュライバーも例外ではない。
「させるかよ!」「残念ながらそうはいきませんよ」
先陣を誰よりも早く駆け抜けるシュライバー、彼が弁当に触れるかどうかという刹那の瞬間、彼に紐が絡まる。捕縛術で有名な二つ名持ちの狼、【紅蜘蛛】のシュピーネの物だ。それにより動きが止まった瞬間【ツァラトゥストラ】の異名を持つ男、藤井蓮が手刀を首に叩き付け気絶させる。その姿はさながら処刑人のようだった。
そしてそのまま残ったシュピーネと蓮の二人は戦闘に入ろうとするが、
「どけや雑魚どもぉ!!!」
【カズィクル・ベイ】の異名を持つヴィルヘルムが先陣を割るように二人に向かっていく。その槍のような掌底により三人ほど戦場から吹き飛ばされるが誰も気に駆けやしない。この場で余計なことに意識を向けることはそれすなわち、
「こいよツァラトゥストラ。以前舐めたこと叩きやがった借りを返してやるよ!」
「まだ覚えてたのかよ」
「当然だ、舐められたままで終われるかよ」
「ああそうかよ。だったら来いよ」
「言われなくともよぉ!」
離脱者4名。
・『アンナ(ry』:シュライバー 手刀により気絶につきリタイア。
・『宅急便三人集』:佐川 ベイの掌底によりリタイア。
・『宅急便三人集』:大和 同上。
・『宅急便三人集』:黒猫 同上。
・『宅急便三人衆』:壊滅。
※※※
スーパー【スワスチカ】はまさしく戦場となっていた。すでに店内には幾人もの狼が倒れており僅かとはいえど血が垂れている。あくまで僅か、それこそ鼻血程度の物だがそれでも流血だ。
訓練された店員ならばともかくスタッフコーナーから覗いていた荒事に人一倍弱い彼女、アンナ・シュライバーには恐ろしい物だった。
「ああ血が出てるよ……。欲しがってくれるのは嬉しいけどなんでこんな風になっちゃうんだろう……」
「分からんのか、まあ狩猟どころか戦闘経験すらないお前ならしょうがないか」
「エレンさんは分かるんですか?」
「当然だ」
そう言い腕を組み目を伏せる。エレンさんは他人に説明するときはこうする癖があるのだ。
「まずなぜ奴らが戦うのか教えてやろう」
「お願いします」
「よろしい。まずアンナ、お前は受験勉強とやらをしたことがあるか」
「え、ありますよ。ていうかエレンさん教えてくれたじゃないですか」
今でも昨日のように思い出せる。ノートと教科書に釘付けになる私、頭から湯気を出すベアトリスちゃん、苛立ちながらも細かく丁寧に教えてあげるエレンさん、コツを掴ませてくれるルサルカさん。
「といってもあの時はキルヒアイゼンにばかり構っていたがな。あいつのバカっぷりにはほとほと呆れさせられたものだ」
そこで深いため息をつく。実際ベアトリスちゃんは合格ラインギリギリで、入学しても赤点一歩上を走り続けていた。ちなみにエレンさんとルサルカさんは常に九十以上で私は平均点位だ。
「まあそれはいい、話を戻そう。それでお前、受験合格したとき嬉しかっただろ」
「はい、当然ですけど」
「それと一緒だ」
「え?」
「やつらは大体三人一組だから……倍率6.8程度の狭き
「あ、はい……」
確かにそうだ。私もベアトリスちゃんも、実力よりも上の大学を選んだ。だから必死に勉強して、合格したときは時はとても嬉しかった。
「それと同じだ。努力の果ての結果が良ければ誰だって嬉しいものだ。奴らも激しい闘争の果てに手にいれた勝利の味は美味いものだ」
ふと視線を弁当コーナーに向ければ未だに戦っている人たちがいっぱいいる。何度も殴り、殴られ、それでも決して諦めず立ち上がって、戦場へ向かっていく。その姿は勉強に打ち込んでいく自分たちを思い出させる。
ふと勉強と言う考えから思い浮かんだが……、
「あの子たちってほとんど高校生ですよね。受験、大丈夫なんでしょうか……」
「……さて、私はそろそろ意識を失った狼たちを引っ張ってくるとしよう。放っても問題ないがああまで人数が多いと踏まれたり道具にされたりと酷だからな」
「(あ、逃げた)」
※※※
「やれやれ……相変わらず荒々しい戦だな」
倒れ伏す狼たちを抱えながら未だ戦場と化している弁当コーナー周辺に目を向ける。華々しさと言ったものから遠く離れた姿だがそれこそ戦場の真実だとエレオノーレは思っている。誇りは確かに重要なものだ。それが無ければ兵士など走狗と変わりなどほとんどない。だがそれで勝てるのならば苦労はしない。そして誇りとは
そこで頭を振って思考を止める。自分はあくまで復帰不可能であろう狼の回収だ。戦場を眺めるにしてもここは近すぎる。さっさと仕事を終わらせよう。
そうして制服の男を掴むと生徒手帳が落ちてきた。落ちた際に開かれたページには彼の年齢と、挟まれていた期末テストの結果があった。本人の名誉のために内容は伏せさせてもらうが、エレオノーレは彼の将来について心配せずにはいられなかった。
目を伏せて生徒手帳をそっと彼の懐にしまう。気を取り直して作業を続けた。
十メートルも離れていないところで大乱闘の騒動が起きているが勤めて二年のエレオノーレは気にせず淡々と狼を回収していく。こうしている間にもどんどん脱落者が増えている。だが向こうの戦場にはまだ十人以上残っている。今宵は定刻で帰ることはできないだろうことを察し店の残りで何か賄飯を作ることを考える、が店主であるラインハルトがまだ店内にいるからもしかしたら手料理を食べれるのではないか、という可能性を考え始める。
普段弁当コーナーにある弁当にもラインハルトの手作りはもちろんあるが……本人からすれば変わらないだろうがエレオノーレからすれば自分の為に作ってもらったというのは勝利の一味に劣らぬ調味料だ。そんなこと、という余人もいればこの気持ちを理解する人間もいよう。
長々と話したが何が言いたいかと言うとエレオノーレもまた至高の一味のために努力を尽くしているということだ。
そういう点では狼と彼女は変わりないだろう。もしエレオノーレがもう少し若ければ狼として争奪戦に参加していてもおかしくはなかっただろう。
「(まあ、所詮はIFの話か……)」
そんな可能性の考えに没頭する気はない、彼女はやはり淡々と作業へと戻る。
※※※
「きゃあ!」
「櫻井!」
マキナの一撃で櫻井が大きく飛ばされる。そしてそれに一瞬気をそらしてしまい、
「ボサッとしてんじゃねぇ!」
「な、グゥ!」
ベイから鋭い掌底を受ける。僅かだが反らしたのでそれほど痛みはないが今ので少し距離が出来てしまった。俺は近接戦闘が得意だがベイは中距離もいける口だ。実際今も長い腕を使って俺を寄せ付けないようにしてくる。こうなると頼みの綱は司狼だが司狼もまた戦闘中である。
「そういえば遊佐君、君は成績は良いのですが素行は悪かったですね。先生がみっちり教育してあげましょう」
「ッハ、御免こうむるに決まってんだろそんなもん」
「そう言うと思っていました。だから強制的に連行させていただきます。Yetzirah!」
口調こそ軽そうだが互いに全力の勝負。縦横無尽に走るシュピーネの縄を鎖と持ち前の勘を使って何とか躱す司狼。戦局は当然ながら司狼が不利だ。何しろ防ぐだけで精一杯なんだからな。
この状況を打開できるのは先ほど大きく飛ばされた櫻井。だがマキナの一撃を喰らって立てるかどうか……っ!
※※※
先ほどマキナ先生に一撃を受けた私は結構なダメージを受け、すでに十秒ほど経っているのに未だに体を起こすことすらままならなかった。
それは一撃の重さに定評のある【デウス・エクス・マキナ】の異名を持つ彼だからと言うこともあるが自分の弱さを考えずにはいられない。悔しさに少し涙がでる。
その時――
「どうした。まだ戦うのか? 諦めるならスタッフルームを貸してやるぞ」
――上から声がした。上と言っても二メートルもない。立ち上がればそれほど身長に差はないだろう。話しかけてきたのは紅い髪をしたいかにも真面目そうな女性だった。初対面だが、私は義理の姉から聞いた人を連想した。その人の名は――
「――エレオノーレ・ヴィッテン、ブルグ……」
「ふんっ」
「あいた!」
殴られた。客なのに殴られた。それも結構力こめて。地面に臥せている状態なので衝撃を逸らすとかできず、むしろ倍増された。
「目上で、しかも初対面に関わらず臥せたまま、それも敬語もなしか」
名前呼んだだけだから敬語もなにもないと思う。そう答えたら、「そういったものは口調や態度からでも十分察せる」とのこと。
「それで、何で私の名を知っている。私は名こそ知れているが基本的にレジをすることが少ないからな」
「あ、義理の姉から聞きました。ここで働いてて……」
「キルヒアイゼンか」
あのバカめ……今度躾けてやるか、などと呟くエレオノーレさん。私の迂闊な一言で義姉の明日がたぶん大変なことになってしまった。ごめんなさい、そしてさようなら。
「まあいい。そんなことより立つのか、諦めるのか。どちらにしろ決断は早くしろ。私も暇ではないのでな」
そうしてなにも言わずただ見下ろしてくる。決断と言われても……こうしている合間にも全身は痛みを訴えてきてる。動かせるのは精々腕くらいだ。普通なら諦めるけど、
「(藤井君……)」
諦めきれない思いがある。学校で初めてあった時は特に何も思わなかった。でも戦場であった時の彼は月並みな言葉だがとても素敵だった。その後も何度も出会って戦っていくうちに、気付けば私は彼に惹かれていた。いつから惹かれていたのかわからないけれど、いつの間にか私の中で彼の存在は大きくなっていた。だから私はついに告白した。でも彼は『本気で好きな奴がいるんだ』と言って私を振った。だからその思いはこの間、カラオケの時に吹っ切ったはずなのにな……。以前遊佐君に『お前粘着系ストーカーの気があるからな』と言われたが案外間違っていなかったかもしれない。そう思うとこんな状況なのに笑いが出てしまう。
もう……諦めるしか、ないよね……。だって彼には好きな人がいて、私は彼にとって友人程度の存在なんだから……。
「諦めるのか、一度フラれた程度で。友達だというだけで」
「…………え?」
一瞬何を言われたのか――今もだが――理解できなかった。だって私と彼女は初対面で身の上話なんて一度もしていない。なのに思っていることを当てられた。
「その程度で諦めるような軽さか、貴様の想いは?」
……しょうがないじゃない。彼に迷惑かけたくないんだもん。
「迷惑かけたくない、か。負け犬の戯言だな」
……だってしつこい女みたいに思われたくないんだもん。
「そうか。その程度で尻込みするならフラれて当然だな」
ていうかなんでさっきから口にしていないのに分かるの。
「経験だ」
あ、そう。
「そして年長者として一言言ってやろう。真に愛するなら壊せ!!」
「友人程度? 迷惑? しったことか! 貴様がフラれたのは貴様が原因だろうが! フラれることで今が無くなることを恐れ、ぬるま湯の心地よさに溺れ逃しておいて今更後悔か。見苦しい!」
「…………何よさっきから。散々なこと言ってくれるけど、私の事何にも知らないくせに!」
「知らないが見えるものはある。その軟弱な精神とかな」
随分と色々言ってくれる。自慢ではないが私はそんなに沸点は高くなく、すでに私は我慢の限界だった。それにより五体不満足だったの私の身体は徐々にだが力が、精神には闘志が戻り始めた。
「そんな女には、這い蹲っているのがお似合いかな」
今までグラフで表すなら三十度程度の角度で上がっていた力が一気に七十度くらいまで跳ね上がった。そして私の身体も言葉通り跳ね上がり、全力の拳を振るっていた。
「舐めすぎだな」
だけど腹の虫の加護のない私はただの高校生。あっけなく止められカウンターに喰らった拳を浴びる。それは軽いものだが私の敵愾心を吹き飛ばすには十分すぎる威力だった。
「立てたところでもう一度聞くが、尻尾を巻いて逃げるか、勇敢にもあの戦場に飛び込むか、どっちだ」
「戦うに決まってるでしょ!」
反射的に返事をしてしまったが後悔はしていない。それに……悔しい事に先ほどの言葉でやる気が満ちており、戦わずにはいられない。
滾る気持ちを胸に再び戦場へ飛び込んでいった。
※※※
「(まずい……このままじゃあ……!)」
戦局はすこぶる悪い。現在俺はベイに押され気味で、司狼もシュピーネの猛攻を防げなくなっていおりところどころ紐が絡んでいる。さらに前線のマキナがほとんどの狼を蹴散らしている為、このままでは取られてしまう。そしてそのさらに最悪なのがベイがそれに少しも動揺していないということだ。つまりこいつの仲間はまだ無事、もしくはマキナ達と組んでいるということだ。だから早急に俺がベイを倒す必要がある、司狼とシュピーネでは実力が違いすぎる。
だが――、
「考え事とは余裕だな、アァ!」
――二つ名持ちは伊達ではないのだ。外国人らしい大きな体と長い腕を使った攻撃は重く素早い。俺の持ち味である手刀は延髄に叩き込む手刀だがそんな隙は見当たらない。
結局現状を変える術はない。……万事休すか。ゴメンマリィ……。
そうして、俺が目を伏せて諦めようとした時だった。
「アァァァァ!!」
「グアァ!」
眼前のベイが戻ってきた櫻井によって蹴り飛ばされた。横合いからの強襲の一撃だがさすがは歴戦の狼と言うべきか、すぐさま体勢を立て直そうとする。だがその隙は俺が司狼の援護に向かうのには十分すぎた。手刀で素早く紐を切りシュピーネの延髄を狙うが、防がれる。俺の手刀は有名だからその分防がれやすい。これがタイマンなら大きな隙だったが司狼がいるから安全だ。
「オラァ!」「コペッ……」
司狼の全力アッパーカットが顎に命中、そのままシュピーネの全身が持ち上がり、意識を落とす。
「はっ、特別補習はまたお預けだな、せんせ」
司狼は笑い飛ばすように言を飛ばし、肩や腕に垂れていた紐を捨てる。そして腰の鎖を背後から音もなく忍び寄っていたベイの腕に絡ませる。
「なんで気づきやがった!?」「んなもん勘に決まってんだろ」
そのまま鎖を大きく振るい戦場から放り出す。これでこちらの問題は片付いた。あとは前線にいるマキナを止めるだけだ。
「準備良いか、お前ら」
「おうよ。いっとくがあれを止められんの、お前だけだからな」
「私たちが囮になるから藤井君が隙を見つけて彼を止めて」
満身創痍に近いながらも弱音を吐く奴なんて一人もいない。むしろ狼の数が減ったことで弁当の臭いがより感じられ闘志が漲ってきた。
「行くぞ!」
俺たちはおそらく最後の戦いに挑んだ。弁当を手にするために。
※※※
「ッ! てめぇどけぇ!」
「ちょっ、あんた何でこっちにいイイィ……!」
・『アンナ(ry』:ヴィルヘルム 鮮魚コーナーの壁にぶつかり昏倒、リタイア。
・『アンナ(ry』:アンナ ヴィルヘルムと衝突。鮮魚コーナーとベイに挟まれリタイア。
・『お茶の(ry』:シュピーネ 司狼のアッパーで脳震盪を起こしリタイア。
・『アンナ(ry』:壊滅。
※※※
「本当にいいのかよ、少しくらい持ってけばいいだろ」
「いやガチで無理そうだわ」
「私も……さすがに胃が……」
囮をしているとき腹部に強烈な一撃を受けた二人は胃に不調を致しせっかく手に入れた弁当を食べれないというなんとも狼泣かせな事態を受けていた。しかも今回の弁当は年に一度しか食べれないクリスマス特製だ。普段あれな司狼もどこかしょんぼりしている様子が見えるのだからどれだけショックを受けているかがよくわかる。
――ただ蓮は気づいていないが二人が遠慮するのはそれだけではない。せっかくのクリスマス、恋人と二人きりにしてやろうという気遣いもある。割合的には8:2位だが。
「……すまんなお前ら。この借り絶対忘れないからな」
「おう、でっけぇ借りだから忘れんなよ」
今回の争奪戦、結構時間をかけてしまったので早く戻ってマリィを安心させよう。そう思い俺は帰ろうとしたのだが……
「おい櫻井……」
「あ、その……藤井君。借りって、今でもいい?」
裾を掴んで櫻井が俯いて話しかけてくる。その姿は二つ名である【レオンハルト】には似合わない小動物を思い浮かばせる。
「別にいいけど時間かかったり、凝るようなやつは無理だぞ」
「あ、安心して。すぐ終わるから」
「? 何を――」
すればいいんだ、と言い切れなかった。なぜなら俺の口は櫻井の唇で塞がれていたからだ。すぐ隣で司狼が口笛を吹くが膜を張ったかのようでうまく聞き取れない。
そうして数秒――あるいは数分?――立ってようやく開放された。
「わ、私、諦めないから。それじゃあ!」
そう言い顔を真っ赤に染めて駆け足で夜の街へ消えていった。当事者であるはずなのに、何が起きたのか全然分からなかった……。
「よ、この女誑し」
「やかましい」
ただ司狼がいつもと変わらないのは分かっていた。