とある姉妹の後日談   作:トルタ

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パーティー

 

 

「なあフェルン、その人誰なんだ?」

 

翌朝、シュタルク様の起きて最初の発言はそれでした。

昨夜は倒れていたというのに、今は目はしっかりと開いていて私の隣の隣、すなわちフリーレン様の隣のまだ寝ているセラ様に釘付けになっている。

 

「なんですか。この方が気になるんですか?」

 

「まあ、気になると言えば気になる」

 

(…)

 

「いや違うから!確かにきれいな人だとは思うけど別にそこじゃないから!」

 

「まあ、セラ様がきれいなのは認めますけど」

 

認めるが、なんだか面白くない。

 

「セラ?この人の名前だよな」

 

「ええ、魔法使いのセラ様です。フリーレン様の姉に当たる人物だと」

 

「へえ、これで魔法使いなのか」

 

これで、というのはどういうことだろうか。

魔法使いの身なりに特別決まったものはない。

杖のような魔導具を使う人は少なくないが、基本的にしまっているし、そもそも持たない人も別におかしいわけではない。

 

その意味を図りかねていると、じっとセラ様を観察していたシュタルク様は私の疑問を察してくれたのか。

 

「この人、戦士としてもなかなかやると思うんだ。今は無防備に寝てるけど、直感的に、作られた無防備って感じがして気色が悪い」

 

なるほど。

女としてではなく戦士としてみていたのか。

 

「そういえば、ウォーサイスも使おうと思えば使えると言ってましたよ」

 

「それなら納得だ。しかし、魔法もウォーサイスも一流に使えるのならそれなりに有名人かと思ったが、セラって言うのは聞いたことないんだよな」

 

「セラ様はエルフですから。フリーレン様だって、魔王討伐の前は全くの無名だったらしいですし」

 

「エルフってそういうもんなのかもな」

 

おそらく、と言って私は立ち上がった。

自分に掛けていた毛布をたたんで部屋の隅に置き、シュタルク様に貸していたローブを回収する。

いつも通りの格好に、よしっと気合いを入れる。

昨日はお風呂に入れなかったが、今日はせめて水くらいは浴びたい。

天気は快晴。太陽は昨日の分を取り返そうとするかのように力強く輝いていた。

 

だが、まず何よりも朝ご飯。

食べないと力が出てこない。

 

昨日は倒れていたからと、シュタルク様も積極的に動いている。

 

と、ふと思った。

いつもギリギリまで寝ているフリーレン様は許容範囲内として、セラ様も起きてこない。

昨日はフリーレン様に起きれないだの言っておいて、まさか自分もというのはあり得るのだろうか。

 

いやいや一人暮らし歴も長いんだし、と思う反面彼女はエルフだ。

一人暮らしは真の意味での一人暮らしである可能性は大いにある。

 

もしかして。

 

(似ていないと思ってたけど、案外似てるのかもしれない)

 

 

 

ちなみに、答えはフリーレン様に起こされて起きた姿を見て察した。

 

***

 

「話したことはないのに、互いに顔も名前知っているというのも不思議な状態だな。よろしくシュタルク」

 

「こちらこそよろしく頼む、セラ――さん?」

 

「何でも構わないよ。適当に、なにかちょうどいいところを見つけてくれ」

 

両方ともある程度事情を知っているからか、朝食時に交わされた自己紹介はひどく簡素なものだった。

 

「ここだけの話、私はフリーレンの隠し子だ」

 

今日も今日とて、セラ様のからかい好きは絶好調らしい。

 

「いや姉だろ。先にフェルンから聞いてるよ」

 

「なんだと。フェルンなぜばらした」

 

恨めしそうな顔でこちらを見てくる。

ばらしたというほどのことでもないだろうに。

 

「めんどうなことになるからですよ」

 

「確かに、今のではっきりしたな」

 

「つまらない奴らだ」

 

やれやれと首を振るセラ様。

優しく笑うシュタルク様。

心配はしていなかったが、両者の関係は良好そうで良かった。

 

「そういえば姉さん。シュタルクに稽古つけてくれない?」

 

「それくらいならいいぞ」

 

「良かったねシュタルク。姉さんはアイゼンよりも強いよ」

 

「マジかよ。それは楽しみだ」

 

それは本当にすごい。

あんなに細いのに、一体どこから力が出てくるんだろう。

それとも、卓越した技術から来るものなのか。

どちらにせよ、生物としての差を感じる。

 

あれ、でもそうしたら昨日の約束はどうするのだろう。

さすがに昨日の今日で忘れることはないと思うが。

 

と、そんな不安を感じたのかセラ様はこちらを向き。

 

「安心しろフェルン。シュタルクの相手はゴーレムだ」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

「ちなみに、見たことはあるか?」

 

「ないです」

 

ゴーレムはプログラムされた通りに動く人形のようなものだが、原材料が希少性の割に耐久性が高くなく、応用力も低いのであまり流通しているものではない。

どこかの貴族なら持っているかもしれないが、そういう機会に恵まれることはなかった。

 

「ならちょうどいい。一度見せてやろう」

 

――《ゴーレムを作る魔法》

 

途端、セラ様の足下に金色の魔方陣が開いた。

茶色の泥状の物体が陶芸のように回りながら、自然と形作られていく。

 

時間にして5秒くらいだろうか。

できたのは茶色単色だがセラ様にうり二つなゴーレムだった。

 

「これは、すごいですね」

 

本来ならば、それは一部の地域でしか発生しない土を利用して作るものなのに、魔方陣のあとにできたくぼみを見るに、その辺の土で作ってしまったらしい。

 

「ね、すごいでしょ」

 

「なんでフリーレン様が自慢してるんですか」

 

「だってこれ、姉さんがなにがなんでも動きたくなくて作ったやつだから。千年以上かけて」

 

「それは…たしかに、セラ様は自慢しづらいですね」

 

「いやいや、私は自慢するぞ」

 

「むしろ恥じてください。人間の十回以上分の人生つぎ込んでサボろうとするなんて」

 

「そのおかげで今、フェルンの約束とシュタルクの稽古を両立できるんだから文句はあるまい」

 

「それは、そうですけど」

 

(でも、絶対にその千年で別のことできたと思う)

 

はあ、とため息をつき、しかし少しだけ楽しんでいる自覚をした。

良くも悪くも、彼女に順応してきたのだと思う。

 

いくらなんでも、昨日会ったばかりなのに影響を受けすぎじゃないかとも思うが、そういう自分は嫌いではなかった。

当然、影響を与えてくれるセラ様も。

 

それから、もう一度まじまじとそのゴーレムを観察する。

 

どこからどう見ても、色以外はセラ様と全く同じ。

髪の毛の一本一本までも、性格に模倣しているようだ。

顔を見ればむしろ色が減った分、その整い方が際立っている。

 

今にも動き出しそうなその美しさに、一方シュタルク様は違った感想を持ったようで。

 

「なあ、これ一発でも当たったら壊れちまわねぇか」

 

確かに、ゴーレムの耐久力のなさはカバーできていないように見えるし、セラ様の元々の線の細さも相まって、余計稽古には向いていないように思われる。

 

「ほう、そう思うなら一発当ててみればいい。当てられるのならな」

 

しかし、セラ様はそんな心配をものともせず、むしろ大胆不敵に受けている。

 

その姿をシュタルクは挑戦と受け取ったのか、にやりと笑った。

 

「それじゃあ、行かせてもらう――

 

――ぜ。

 

と言い切ったときには、そこにいたシュタルク様はいない。

 

慌てて振り返ると、ゴーレムに背後をとられていた。

そして、突き出した拳は、見事に宙を殴っていた。

 

「マジかよ。すげぇな」

 

「言ったとおりだろ。多分、アイゼンならこれくらいだ。練習の時はもう少し押さえてやるよ」

 

知っていたことだったが、アイゼン様もあのゴーレムも私の常識の中にはないらしい。

シュタルク様も、これは稽古がはかどりそうだと、子供のようにわくわくしていた。

あの様子だと、一日中やっていてもおかしくない。

 

そんな光景を微笑ましく思いつつ、私は食べていた朝食の片付けに入る。

 

さて、これからどうしよう。

薪を拾いに行ってから、セラ様の狩りの様子を観察してみようかな。

 

***

 

「こんなところにいた」

 

それは、フェルンたちが寝静まった夜のこと。

珍しくさえてしまった感覚のせいでどうせならと外に出たときに、少しだけ離れたところにセラを見つけた。

片膝をたて座り、木にもたれかかる姿は絵になると不覚にも思ってしまった。

 

「フリーレンか」

 

「隣、失礼するよ」

 

ん、といってフリーレンの方を一瞥することもなく、セラは宙を見続ける。

満天の星空を。

 

「きれいだよな」

 

「そうだね」

 

「空気が澄んでいるからかな」

 

「ここは寒いからな」

 

二人して鼻を赤くして、ただただ、ゆっくりと流れる時間を感じていた。

誰にも邪魔されない、静かな、エルフの時間。

 

「さすがに疲れた?」

 

「疲れたな。老人には応える」

 

「まだ老人と言うには早いでしょ」

 

「肉体的にはともかく心は立派な老人さ。私よりも年とったやつなんてまだいるのか?」

 

「どうだろうね」

 

「まあ、私よりも若いやつもそう多くはないんだけどな。どうして先に行っちゃうかなあ」

 

「それは姉さんが極度のめんどくさがりやだからじゃないかな。動かない分だけ、命の危険も少ない」

 

「間違いない。なら、やっぱり私の生き方の方が正しいんじゃないか」

 

「あんなにぐーたらだって言われてたのにね」

 

「文句の一つでも言ってくれって話だよ。こっちからすれば」

 

本当にそうだね、と小さくつぶやいて、また星を見る。

 

「なあ、人間は死んだら星になるんだよな」

 

「そうだね。聞いたことある」

 

「なら、あいつも星になったのかな」

 

「かもね」

 

「…」

 

「それとも、天国に行ったか」

 

「…」

 

「いや、天国に行けるようなやつじゃなかったな――ってなんだ」

 

唐突に、フリーレンはセラの肩にその頭を乗せた。

もともと体格差のある二人だからか、ちょうどいいところにはまっている。

 

互いが互いの熱を感じあうなか、セラはおもむろに手を伸ばし、隣の頭をなでた。

優しく、丁寧に。

 

「ねえ、姉さん」

 

「なんだ」

 

「私たちは天国を目指して旅をしてるんだ」

 

なでていた手が、止まる。

 

「本当にあるのか?」

 

「ないかもしれない。でも、あるかもしれない。少なくとも、私たちはあると信じてる」

 

「つまり、何が言いたい?」

 

「私たちと一緒に、天国に行こう」

 

フリーレンの顔は見えない。

髪の毛が邪魔して、表情の一つも分からない。

 

しかし、その声には今までにはなかった感情と意思が含まれているようにセラは感じた。

 

「なんだ、老人と言った上に私に死ねと?」

 

「そう意味じゃないでしょ文脈的に」

 

「天国にあいつはいないといったぞ」

 

「――別に無理に来てほしいとは言わない。誘ってごめん。おやすみ」

 

やんわりと断られたのだ、と思った。

その気まずさにさっさとその場を離れようとするフリーレン。

そろそろ眠気も回るだろうと、立ち上がったその瞬間。

 

セラはそれを許さなかった。

 

「待て待て。誰が断ると言ったんだ」

 

「…行くなら素直にそう言ってよ」

 

「そういう性格じゃないのは知ってるだろ」

 

「そりゃそうだけど」

 

「ちゃんと二人に許可を取ったんだな」

 

こくりと頷く。

それを見てやっと覚悟を決めたのか、セラはぽつりぽつりと話し出した。

 

「気になったんだ。何がお前を変えたのか」

 

「そんなに変わったかな」

 

「ああ、変わった。少なくとも、千年以上前のお前には、誰かと旅するなんて考えられなかったはずだ。フランメってやつの影響か?」

 

「師匠のことが全くないって言ったら嘘になるけど、でも、もし変わったのならその後の方が大きいかな」

 

「じゃあ聞かせてほしい。お前が何を見たのか。何を聞いたのか。何を感じたのか」

 

「…長くなるよ」

 

「私たちはエルフだ」

 

「つまらないかもしれない」

 

「妹に面白い話を求めたりしないよ」

 

「じゃあ、期待しないでね」

 

「期待はする」

 

「こいつ、めんどくさいな」

 

「今更だ」

 

いつも通り、セラがふざけてフリーレンが投げ出す。

何千何百と繰り返してきたこの会話。

数百年ぶりになる二人の関係は以前と全く変わっていなかった。

 




ゴーレム関連の設定は完全に自分でつけました。
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