悪役令嬢BadEnd転生 〜TS令嬢は最果て修道院で聖女になる〜   作:劇団おこめ座

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2話(最終話)

 3年が経ち、私が全力で相手をするのは院長ステラとシスタージュリアくらいとなった。あと時々、ショタコンで有名なシスターベレッタだ。

 私が一騎当千で強くなった、というわけではない。

 数々の魔物の襲撃で、最果て修道院全体の5分の1くらいの修道女が亡くなり、また新しい修道女と入れ替わった。ほとんどが戦闘狂の変わった元令嬢たちであったが、まだまだこれからの者ばかりだ。

 所謂、代替わりということなのだ。

 特に近接の剣狂(けんぐる)いはすぐに死ぬ。有効な一撃を入れる瞬間である魔物と交差する距離は剣一本分も無いのだ。

 私もシスタージュリアも、次が自分の番なのだろうか、と思い悩む時もあるが、そういう気持ちになった時は素振りをした。心が弱くなっている時だと、迷いが無くなるまで、つまるところ疲れて何も考えられなくなるまで振り続けた。

 

 この最果て修道院には情報がやってくることはほとんどない。次に最果て修道院にぶち込まれる令嬢の性格がいかれているのか、それとも戦闘狂なのかのうわさ話ぐらいだ。

 そんな中、勇者と言われている者が魔族とやりあって勇者が魔族を追い返した、というニュースが届いた。

 和気あいあいとなるニュースだと思うじゃん。

 この修道院にそういうニュースが来ると言うことはろくな物ではない。

 場所はこの最果て修道院から50キロ程度遠くの辺境の地で我が王国側から魔族を追い返した、という話だ。

 つまり、ここは実は戦場になっていました、という悲しいお知らせなのだ。

 

 ニュースの内容の勇者さんは私の貴族学校の同期で王太子の親友の侯爵令息らしい。正義感溢れすぎてうぜえなって奴だったと思う。

 そんな奴のことはどうでもいいが、その勇者さん、逃げる敵は追わないということで、魔族の撤退については追撃もしないし、そもそもその場に留まることもなく、王都へ凱旋(がいせん)中らしい。

 おい、ここ辺境の砦じゃん。

 お前が殺し合った相手の魔族から狙われまくりの位置にあるじゃん。

 どうしてくれんの。

 ちゃんと後始末しろ。

 

 私の思っていたことは、やはり、院長ステラも思っていたみたいで遠回しに苦言を吐いた後、最果て修道院の外壁を高くし、外周にさらに堀を作るように指示をしていた。

 

***

 

 一週間後、押し返された魔族の生き残りが攻めて来た。

 ところで、魔族とはどんなものかというと、魔力の濃い人間で、見た目は肌色が褐色でイケメン美女ばかりでプライドの高いダークエルフさんだ。  

 なんで、王国と魔族は仲が悪いかというと、王国は魔族を奴隷にしていたという過去があり、時折、その報復として魔族は遠征隊を派遣して王国を攻撃している。それが現状である。

 しかも、王国は魔族を人間扱いしてない風潮なので、魔族、と呼んでいる。

 かといって彼らの呼び名でいいものがあるかと言えば何もないので、私も結局のところ彼らを魔族としか呼べない。

 

 彼らとの戦闘は本当に数時間もなかった。

 今まで戦ってきた魔物とは全く別物だった。

 歴戦の修道女と同等レベルの魔法攻撃を数十倍の人数で放ってきて、押し寄せて来た。

 一瞬で外壁も堀も無駄になる。

 無我夢中で私は仲間の修道女と共に走り抜けながら、魔族を切りつけては殺し、切りつけては殺し、剣が折れたら、殺した魔族の斧を使って切りつけては投擲(とうこう)し、また殺した魔族の剣で切り殺し、腕を吹き飛ばし、太もも太いの血管を(えぐ)り、修羅道(しゅらどう)という永遠に戦いをする地獄の中に落とされたようなそんな絶望感の中にいた。

 気が付くと、立っている者は誰もいなく、魔族が撤退していくのが見えた。

 魔族の死体と修道女の死体がゴロゴロと転がっていた。

 私は生きている修道女を探し、見知った赤いボブヘアの少女を見つけた。

 少女と言っても、もう確か19歳、立派なレディだったな。

 彼女の息は途絶え途絶えとなっており、片足はひざ下から無くなり、もう片方の足は炭化していた。

 左腕は肘から先がなく、右手には折れてもまだ決して離さない愛用の両手剣があった。

 背中には何本も矢が刺さり、腹まで貫いていた。

 

「酷い怪我だ。シスタージュリア。でも、少し寝たら良くなるよ」

 

 私は何でもない擦り傷を治療するように話しかける。

 

「知ってる。手遅れなんでしょう」

 

 私は何も話さず、治療を始めた。

 

「ねえ、クリスマスイブって知ってる? 恋人同士で過ごす夜のことなんだって。私はそんな夜、経験したことないんだけど、お前の故郷にはそんなイベントあったか?」

 

 治療を始めて傷がふさがり、足が復元されても、肺が治っても、失った血液は戻せない。

 シスタージュリアはもう血液を失いすぎていた。

 

「私さ、お前に偉そうなことずっと言って人生の先輩面(せんぱいづら)してたけどさ、処女なんだよ。笑えるだろ」

 

「もうやめて」

 

「父親が子爵なんだけどさ、こんな性格だし、剣にばっかり時間を費やしてさ、せめて王国の騎士学校に入学しろと言う父親を振り切って、最果て修道院の門を叩いて院長に剣の道を教えてもらってさ。気が付けば19歳処女の完成だよ。貴族時代の友達なんてみんなとっくに結婚してさ、子供だっているんだ」

 

 ボロボロと涙を流して弱音を吐き続けるシスタージュリアを私は抱きしめた。

 

「もう家には帰るつもりはなかったんだけど、家に帰ったら母さんにこうやって抱きしめられたいな。ねえ、母さん……」

 

「大丈夫。ジュリア、もう眠りなさい。あなたは救われた」

 

 シスタージュリアの強く握られた右手から剣が滑り落ちた。

 私は彼女の薄く開いた眼を閉じさせ、地面に寝かせた。

 私は立ち上がり、視線を向けた方向に、たまたまだった、見知った青色の長い髪の女性が見えた。

 魔族の死体が覆いかぶさっており、そこから見えた顔は、いつもどおりの魔物襲撃を撃退した後の苦痛の顔だった。

 シスターベレッタは外に出せないすりつぶさなければならない存在だが、なんだか憎めないし、私は彼女に愛着があった。性的趣向への理解はしてないが。

 魔族の死体を避けて、シスターベレッタの様子を見るとまだ息はあるが、腹に斧が埋められており、酷い出血だった。私は回復魔法を唱え、傷口を抑え始める。

 

「まだ私を生かして戦わせるの?」

 

「シスターベレッタがいないと、一緒に魔物駆除に出る他の修道女の攻撃に締まりがないからね」

 

「でも、今回は間に合わないのでしょう?」

 

 私は答えなかった。それが答えだとシスターベレッタもわかった。

 

「わかっているの。自分の性癖が本当に愚かで酷いものだって。でも、仕方なかった。それしか私の心をときめかせる何かがなかったの。だから、更生なんてできるわけがない。きっと、どんなに魔物を駆除して懺悔しても、私の行先は地獄しかないでしょうね」

 

「そんなことないさ。きっと、見ためが7,8歳くらいの男の子の天使といつまでも(たわむ)れることができる天国に行けるさ」

 

「それは本当に天国ね」

 

 目を閉じさせ、横にして手を組ませた。

 本当に彼女の趣味趣向の者が下りて来てくれたんじゃないかな、というような安らかな顔だった。

 

 魔族ばかりの死体の中心で、院長ステラが倒れていた。

 両腕はなく、体は一本の槍が刺さって串刺しになっていた。

 

「他の修道女は?」

 

「多分、5分の1程度が生きています」

 

 そう言いながら槍を抜き、すぐに回復魔法をかける。

 

「もう私は無理だ。他を優先させなさい」

 

「院長、残念ながら、まだ迎えは来ないようです。でも、明日は多分魔族の迎えが沢山来るかもしれませんね」

 

「だろうな。相手も痛手を取ったが、もう一度攻められたら耐えられん」

 

「腕の復元等の治療が終わりましたら他の修道女と逃げてください。明日、院長は戦いきれません」

 

「シスターシェル、あなたは残るのか?」

 

「ここが落ちるのはかまわないと思うのですが、誰かが戦って時間を稼がないと他の街への侵攻を後らすことができないでしょう。それに他の修道女を追撃されないようにするには誰かがいなければ」

 

「一人でどうするつもりだ、一人で残ったって意味がない。死んだ修道女の弔い合戦気取りで戦って何になる」

 

 院長の険しい顔は、私を無理矢理にでも生かすため、逃がそうと導こうとする。私は尊敬している院長ステラの言葉を遮った。

 

「魔族はとてもプライドが高い種族です。本来修道女という守られなければならない立場の、力の弱い者が命を賭けた一騎打ちを相手に求めれば、それに従うでしょう。それに……」

 

「それに?」

 

「私は、院長ステラに一太刀を入れることができた相手と、命を懸けて戦ってみたいのです。多分、この機会を失えば、二度と戦うことができないと思うのです」

 

 そう伝えると、院長ステラはどうしようもないわがままな子供を怒りたいけど怒れないような顔をしていた。

 

「本当に……本当にあなたはとんでもなく罪深い子なのね、シスターシェル」

 

***

 

 朝日が昇った最果て修道院には私しかいなかった。

 昨日の深夜、院長ステラと他の生き残りの修道女たちは隣街へ移動を開始した。

 おそらく、そろそろたどり着いている頃だろう。

 修道院に残っていた霊薬を朝食代わりに飲み干し、いつもの黒装束のような修道着の頭に戦友の鉢金をつけ、鈍く光る金属プレートを胸に付けた。

 激しい爆発音が修道院に響き、どこかの一角がまた崩れたのだろうと思いながら、攻め込んできた魔族へ目を向ける。

 私は修道院のテラスにおどり立ち、矢や魔法が降り注ぐ中叫ぶ。

 

「我はシスターシェル。この修道院の代表だ。そちらの代表と一騎打ちを申し込む」

 

 その声で、ピタリと矢や魔法が止まった。しかし、鋭く睨みつけられる視線は一層厳しい。

 大勢の魔族の動きが止まり、その中で一人の大男の魔族が私の方へ近寄って来た。

 必要最小限の急所にのみ金属を使い、硬い革で作られた鎧を身にまとう、実用主義派だ。

 風を切るように歩き、隙だらけなのに隙が感じられない。堂々と歩幅も大きく歩くその様は、強者を示していた。

 

「俺が代表のジェネラルサンダーだ。昨日の年を取った骨のあるシスターはどうした」

 

「私の一騎打ちの様子を見ている」

 

 ジェネラルサンダーは、私の嘘に気が付いているだろうと思ったが、彼は気にせず私から10歩程度離れた距離に立った。

 

「ふん、まあいい。そちらが一騎打ちで勝った際の要望は?」

 

「見てのとおり、修道院がボロボロになってね、直さなきゃいけないだけじゃなくて、沢山人が死んだし、そちらの者たちも死んだから供養するのに手いっぱいなんだ。さっさと帰ってくれたらそれでいい」

 

「そうか、俺が勝った時は、(すみ)やかに修道院を明け渡せ」

 

「わかった」

 

 私はそう言って修道院の倉庫にあった数打ちの剣一本を鞘から抜き、鞘を地べたに捨てた。

 

***【ジェネラルサンダー】

 

 シスターシェルと名乗った若い修道女が剣を抜いた。

 見るからに安そうな剣で、こちらが帯剣した魔剣を見せたら申し訳ないくらいだ。

 俺は魔剣の鞘を抜くと、バリバリと魔力が剣に吸い取られていく。

 しかし、普通に魔力を剣にまとうより遥かに消費は良い。

 修道女はそれに気づいているだろうが、顔色を変えることなく、剣を両手で持ち正面に構え、少しずつ前に近づいてきた。

 距離を詰められたら不利になるのはお前の方ではないのか、こいつ素人なのか。

 なぜなら、近距離の装備で不利ならば、遠距離攻撃をしなければならない。

 それをせず、近づいてくる。

 それなのに、俺は下手に動くとヤバい、そう感じた。

 こんな小娘に。

 小娘が右方向へ動き始め、俺は反対方向に動き始める。テラスの床には死体が転がっていた。昨日殺した修道女たちの安置する場所がなく、置かれているのだろう。

 その修道女の死体が、私の足を掴んだのだ。

 貴様、一騎打ちと言ったではないか、と言おうとして足に絡みついた赤い髪の修道女の手を切り払う。手から血が出なかった。これは違う。死体だ。だが、その死体についていた手ではない。マドハンドだ。

 小娘の方を注視すると、身体強化魔法を使った体で、剣を振りかぶりながら飛び込んできた。その速度は速い。一瞬の隙をついて、切りかかるつもりだったか。

 しかし、その隙は俺自身もできるとわかっていたもの。相手が何らかの隙を感じて飛び込む、これは予想できていたこと。俺は剣を持っていない手を飛び込んできた修道女に手をかざし、魔法を唱えた。俺の手を向けた先に何もかもを破壊する光線が、直径3メートルの円柱状で貫く。避ける余裕などない。仮に避けるとしたら、避けた先にこの魔法を置けばいい。ただそれだけの作業だ。剣すらお前に使う必要ないのだ。

 光線を撃った先がくり貫かれ、破壊された。小娘も蒸発した。そう思っていた。

 俺の胸に、心臓を抉るように、あの小娘持っていたのクソ安そうな剣が背中から貫かれていた。

 

***

 

 私はジェネラルサンダーとの闘いが始まると、戦友の遺体の欠けた左手にぴったり合うマドハンドを生成させ、ジェネラルサンダーが近づきその足が掴まれるように誘導させた。

 掴まれた瞬間飛び込む。ジェネラルサンダーがそのまま私の動きに対応できなければそのまま切りつけるつもりだった。でも、当然ながらジェネラルサンダーは左手を突き出して魔法を撃とうとした。それは予想できていた。だから、相手が絶対に使ってこないだろうと意識外にある魔族側が得意な魔法の影渡りを使うことで、私の魔法の痕跡に気づかれないようにジェネラルサンダーの後ろに飛び、魔刃をまとった剣を背中から心臓に向けて突き刺した。

 魔法を使った『攻め』が決まった。

 私を簡単にあしらわせる院長ステラに一太刀入れた魔族を、意識の死角を攻めて、仕留めたのだ。

 

 本来得意としてない魔法にほぼ全力を注ぎ、残りの魔力を魔刃で使い切り、私はその場で倒れた。

 魔族は『そんな馬鹿な』と叫び私を非難するが、先のマドハンドといい、誰も他にこの一騎打ちに入り込んでいないことを知ると、

 

「納得は出来ないが、確かに一騎打ちで、ジェネラルサンダーが負けた。そなたの要望どおりにしよう」

 

そう言って、ジェネラルサンダーの死体を大事に担ぎ、立ち去って行った。

 彼らは、もう動けない私を殺すことは可能だった。でも、彼らの誇りがそれを許さなかった。

 トボトボと立ち去り、瓦礫を踏む足音が徐々に少なくなり、やがて何も聞こえなくなった。

 冷たい床に転がりながら、横を見ると、戦友たちの遺体が安らかな顔をして空を見上げていた。

 たくさんある、人形(ひとがた)のものがある中、私だけ白い息を繰り返し吐く。

 みんなの安らかな顔を見て、私は心が落ち着くとともに、抉られてもいない腹の中身が、ぽっかりとなくなってしまったように感じた。

 一眠りしたら、私も戦死した修道女達の供養をしなければ……。

 私は両目を(つぶ)り、意識を手放した。

 

***

 

 私は一人、最果て修道院にある墓場の穴を掘り、そして戦友たちを埋めていった。

 そして、魔族の墓も合わせて作る。

 魔族の墓を作り始めたころ、王国から勇者率いる討伐隊が入って来た。

 敵将のジェネラルサンダーを討ち取り、もうすべてが終わったことを説明すると、そんな馬鹿なことがあるはずがない、と騒ぎ立てたので、では、魔族たちを追って尋ねる他ないことを伝え、魔族の向かった先を示す。

 彼らはそのまま国境を超えて調査をするが、野営した痕跡やさらに奥地に進む跡があり、少なからず今回の魔族の遠征隊は完全に撤退したと判断し、王都へ戻った。

 

 一か月後、私は王都へ召喚された。

 魔族の遠征隊を退けた褒美を渡したいとのことだそうだ。私は何度か断りを入れた。亡くなった戦友たちに褒美を送られるべきだ、とか、この修道院から出ることは許されないと聞いた、などということを伝えた。

 そうしているうちに、王命での召喚書が届けられた。

 別に、私は屁理屈(へりくつ)を言って困らせたいということではない。

 (うわさ)では、王都で私のことを聖女と呼んでいるらしい。

 魔族の遠征隊をたった1人で退けた英雄だとか、機転を効かせて多くの修道女を救ったとか、亡くなった大勢の修道女をたった1人で弔い続けたとか、全滅必至の瀕死の討伐隊を祈りで守ったとか、修道院に向かって祈ると試験に受かるとか、中には事実もあるが、かなり誇張され、尾鰭(おひれ)だらけのエピソードがついていた。

 遠征隊を退いたのは事実であり、このまま私に褒美の1つ渡さないというのは、国王的にもよろしくないということだそうだ

 聖女ですか?

 バーサーカーとかとして畏怖されているとかじゃなくて?

 断罪イベント後に聖女扱いされて戻るパターンなんて知らない、マジ怖い。

 今王都に戻ったら、断罪した連中から消されるんじゃないか?

 だって、結果的に断罪した連中に泥をぶっかけたわけじゃん。このまま、最果て修道院から出ないで剣のことだけ考えていたい。

 私は復興しつつある最果て修道院の自室の机で頭を抱えていた。

 仕方なく、私が最果て修道院から出られる対象となっているのか、王都の法政部門の方とか、こちらの国の国教となる司教当てに質問状を送り確認する。

 法政部門は、国王が出頭指示しているんだから早く王都に来い、司教は、最果て修道院はうちの系列ではなく、国の機関で女性の刑務所みたいなものだから、国王の指示に速やかに応じなさい、みたいな回答をされた。

 最後の頼みの院長ステラに確認すると

 

「あなたは善を積んだ。ここから出ても良いということよ。おめでとう。王太子も側妃として迎える話も出ているそうよ。早く王都に行きなさい」

 

とにこやかに微笑んだ。

 最悪だ。

 何を思って側妃だよ。あの王太子は私の前世を思い出す前の性格異常なところしか見てないから、国王から土下座で頼まれたって全力拒否するだろ。

 どこでそんなふうな話が出るんだ、ふぁっく!

 それに、40年分の男の記憶がしっかりあるからマジで男といちゃつくことを強要されたら私はゲロ吐いちゃうぞ。

 理由なく王都に行かず国王の謁見をしない、だなんて国王に喧嘩売るようなものだから、絶対行かなければならない。

 

***

 

 最果て修道院から王城行きの馬車が来る日の早朝、シスタージュリアとシスターベレッタの墓の前に立った。

 2人なら私に何を言うだろう、と考えた。墓石替わりの折れた両手剣と穴ボコだらけの大楯を触る。

 すると2人が側にいてくれるように感じた。

 私の前でシスタージュリアは

 

「処女、しっかり捨てるんだぞ」

 

と爽やかな笑顔で親指を立て、シスターベレッタは

 

「昔に見た侯爵家の三男はなかなかの美男子に成長しそうな顔立ちでした。今9歳ですからギリ食べ時でしてよ」

 

と同じく、私よく調べているのよ、みたいな感じの勝ち誇った笑顔で親指を立てている姿が見えた。

 私は見えた2人の像の親指を掴んで、関節の曲がる反対方向にねじると、痛がりながら消えていった。

 

「シスターシェル、ここにいたのね。馬車が来たわ。もう身支度は出来ていますか?」

 

 振り返ると院長ステラがいた。

 

「身一つと手錠に足枷で来たので、何も持って行くものはありません」

 

「道中は何かと物騒です」

 

 院長は少し呆れた顔をして、シスタージュリアが使っていた鉢金と鈍く光る金属製の胸当て、棍棒の方が使い勝手がいいからと使わなかったシスターベレッタの細身の両手剣を渡され、併せて焼き菓子が入った袋を渡された。

 焼き菓子はまだ暖かかった。

 

 馬車が動き出し、どんどん最果て修道院は小さくなっていく。

 最果て修道院は、女性の刑務所だとか、政治の都合で捨てられた女性の場所、性格異常者の屠殺場だとか、世捨て人の居場所、武を極める場所、辺境の砦等、人それぞれに持つイメージが違う。

 私は随分(ずいぶん)と色んな物をそこで学び、色んなモノをいただいた。

 振り返るここでの生活の思い出は、貴族に説明すれば、クソみたいなことばかりなんだと思う。

 この後、王都で何を言い渡されるかは、わからない。

 まもなく、修道院が見えなくなる。悪魔城のように見えたあの修道院は、朝日を浴びて、慈悲深く私を見送っているように見えた。

 私はこの最果て修道院で過ごした日々を、きっと忘れない。




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