幽香と神奈子の偉大なる秋   作:すくぇ

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前編

 

 

 十一月某日。幻想郷に小さな隕石が二つ降ってきた。

 

 二つの隕石は悩み、話し合い、吟味し、まるでやっと決めたとばかりに特定の場所を目掛けて降ってきた。

 

 一つ目は──

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 太陽の畑だった。

 

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 

「………」

 

 朝早く起こされた風見幽香の機嫌はすこぶる悪かった。ましてや、彼女が愛するヒマワリ畑が荒らされているのを見ると、不機嫌は最高潮に達した。

 

 幻想郷で決して侵してはならない場所の一つに、隕石は気安く落ちてしまったのだ。

 

「空から降ってきたんじゃ、誰を痛めつければいいのか分からないわね」

 

 ぽつりと言いながら、幽香は緑色の髪を静かに揺らした。そして自分の身長より大きいヒマワリ達を掻き分け、今にも髪が真っ赤に染まりそうな程怒ると、発見した隕石を鷲掴みにして空高く投げた。

 

 ちゅどおおおん。

 

 そのまま風見幽香は、愛用する傘から出したレーザービームで隕石を粉々にしてしまった。

 

「消えなさい。不躾な侵入者。」

 

 ぱらぱらと粉状になったものが降り注ぐ。共に落ちた二つの隕石のうちの片割れは、最強の妖怪によって呆気なく一生を終えた。

 

「……?」

 

 一仕事を終えたばかりの幽香が奇妙な違和感を覚える。

 

 (花々が小さくなった……?)

 

 自身を囲っていたヒマワリ達が、どういう訳か小さくなっている。

 

 先程まで彼女の身長より大きかった太陽の花々を、今度は風見幽香は見下ろしていた。何故だろうか。彼女は立ち止まって考えた。

 

 日照りは未だ眩しい。夏の終わりを告げる爽やかな風が吹く。

 

 頭身一つ分花畑から突き出た幽香は、まだ自分が大きくなっていて、自分が奇妙な異変に巻き込まれていることを知らなかった。

 

 

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 

 

 

 その時、彼女を嘲笑うように追加の隕石たちが降ってきた。

 

「あ"?」

 

 一方、二つ目は──

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 守矢神社だった。

 

 

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 

 

 ざわざわざわざわ……

 

「み、皆さん!落ち着いて下さい!落ち着いて下さい!」

 

 外では長い緑色の髪を揺らしながら、神社の巫女である東風谷早苗が一生懸命に呼びかけていた。

 

 参拝客たちは騒ぎに騒ぎまくっている。突然降ってきた隕石は、神社の中心を大きな音で破壊し尽くした。

 

「……諏訪子?これはどっちの勝ち?」

「私でしょ。王手してたんだからさ。」

「甘い甘い。私なら逃げきれていたわ。つまり引き分けよ。」

「にしても、これはあれだね?土着神と軍神に喧嘩を売ってるんだね?お天道様は。」

「どうだか……って軍神はよしなさいよ」

 

 守矢神社の中には、恥ずかしそうに照れている八坂神奈子と、けろっとしている洩矢諏訪子がいた。

 

 二柱の神様が遊んでいた将棋は、隕石によって有耶無耶になってしまった。それだけではなく、周りの壺やら家具やらも風圧で滅茶苦茶になっている。ただし、二柱は一切風に動じなかった。

 

 神奈子は物珍しそうに焦げ臭い物体を触った。すると手を火傷しかける。

 

「あちっ!」

「あーうー……早苗からもう将棋盤を壊すなって言われた矢先にさぁ。」

「あちち……私たちのせいじゃないよ。早苗も許してくれるに違いないわ。うんうん。」

「諏訪子様ー神奈子様ー!表に出て下さーい!」

「はいよー」

 

 諏訪子が適当に返事をし、二柱は並んで外に出た。それも随分フランクな態度で。

 

「ばばーん!」

「この通り、私たちは無傷だよ!」

 

 おおおおおおおお……

 

 参拝客たちは滅多にお目にかかれない二柱の姿に加え、勝手にどんどん修復される守矢神社を見てまたもや騒いだ。

 

 八坂神奈子の『乾を創造する程度の能力』は、神社を治すことなど造作もない。神奈子は自らの能力を見せつけながらこう演説した。

 

「えー、皆の者。たった今空から星が降ってきた。このようなことは初めてだ。何か不吉な予感がする……。しかーし!信仰心は全てを解決する!いや、解決するのはこの私、八坂神奈子と……」

「……あ。私、洩矢諏訪子とー?」

「現人神、東風谷早苗です!」

 

 はっと気付いた諏訪子が両手を広げながら言い、許されざる角度を取りながら早苗は元気良く叫んだ。神奈子はいきいきと話し続ける。

 

「そう!私たちは皆の信仰心で力を増す!ひいては自身や家族の為に!これからも守矢神社への参拝と信仰を──」

 

 演説の真っ只中、またもや凄まじい速度で小さな隕石が降ってきた。

 

 守矢神社の背後から、大きな御柱が飛び出す。八坂神奈子は御柱の速度をぐんぐんと上げ、隕石に真っ向から衝突させた。

 

 どかぁぁぁぁぁぁぁん!隕石は粉々に砕かれ、軍神は笑って言った。

 

「──どうぞ宜しく。」

 

 たちまち参拝客たちは興奮したり、しきりに拍手をしたり、飛び散った破片に当たって熱い熱いと騒いだ。

 

 そして中には、八坂神奈子の神々しい姿を拝んでいる者もいた。何しろ彼女の姿が妙に大きいのである。

 

「……ねぇ神奈子。アンタそんなに大きかったっけ?」

「いやだねぇ諏訪子。元々私はアンタより随分大きいでしょ。」

「いやいや明らかにおかしいってば」

 

 こっそりと、二柱の神様は囁き声で話し合っていた。

 

 この後、さらなる隕石が二つの場所──太陽の畑と守矢神社──を襲うことを、彼女たちはまだ知らない。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 風見幽香は、降ってきた直径1メートルの隕石を手のひらで握り潰した。ごしゃっと破片が辺りに散らばる。

 

「……あ、あのー……」

 

 数少ない幽香の話し相手であるリグル・ナイトバグが、空高く巨大なものを見上げながら大声で言った。

 

「幽香さーん……どうしてそんなに大きくなっちゃったんですかー?」

「知らないわよッ!!」

「あ!!すみません!!」

 

 どうやらとても虫の居所が悪い様子。死の危険を察知したリグルはすぐさまぴゅーっと帰り道を飛んで行ってしまった。

 

 さて、幽香は柄にも無く困っていた。彼女のサイズは今や25メートル程度。既に自宅の背丈を越し、足の踏み場を失くした彼女はふわふわと浮いていた。

 

「……どうなってるのよ。空から降ってくるのを壊せば壊すほど、私の身体がどんどん大きくなっていく。不愉快だわ。」

 

 幽香は恨めしげに青空を見上げた。太陽の光が眩しい。

 

 すると光に紛れ込むように、またもや隕石が降ってきた。ぷちっと堪忍袋の尾が切れる音がする。

 

「迷惑なのよッ!!」

 

 叫んだ幽香が向けた傘の先からレーザービームが放たれた。隕石は消し飛ばされ、またまたまた彼女の身体がぐぐっと大きくなる。

 

 イライライライラ……。

 

 頭には怒りを示す赤いマークが、山のように浮かび上がりそうだった。彼女のストレスは空前絶後と言えるほどにも溜まっていた。

 

 もし今の彼女を刺激する者がいれば、一瞬で黒焦げになってしまうであろう状況。

 

 まさに一触即発。

 

「こんにちはー!清く正しい射命丸です!」

 

 ……しかし哀れにもこれから餌食になる鴉、射命丸文がびゅんとひとっ飛びしてきた。飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのこと。今は秋であるが。

 

「随分大きくなりましたねぇ。お話を聞いても宜しいですか?」

 

 正面を向いていた風見幽香が、鴉天狗のいる方向をギロっと睨んだ。しかし怯まずに射命丸文はインタビューを続行しようとした。それが悪手とも知らずに。

 

「ではまず、巨大化の理由をどうぞ!」

「殺す」

「え?」

 

 風見幽香の大きな目玉は、文の身長とほとんど変わらない。それが二つ、蛇が蛙を睨むように彼女を見ている。

 

「またまた〜……」

 

 にこにこと笑いながら文は後方の空へと下がった。冗談として受け止めようとしたが、幽香の眼差しはどう見ても獲物を狙うヒグマである。

 

「あ、では失礼いたしましたー。」

 

 短い別れの挨拶の後に真っ黒な翼を広げ、射命丸文は猛スピードでびゅううと彼方に逃げた。

 

 (ふぅ、おっかないおっかない……)

 

 しばらく飛んでいた文は先程の恐怖を思い返しながら後ろを見た。

 

 (アッ!?)

 

 何と、大きな風見幽香が真顔で追いかけて来ている。木々を踏みつぶし、一直線にずしんずしんと地響きを轟かせながら走る姿は、誰が見ても恐怖を感じるものであった。

 

「すみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 流石の彼女も焦りを表情に出しながら叫び、どこかに逃げ込もうとさらに速度を上げた。

 

 目指すは二柱がいる場所、守矢神社へ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 一方その頃。

 

「………」

「………」

「………」

 

 守矢神社にて、二柱と一人は沈黙していた。早苗と諏訪子は大きな大きな神奈子を見上げて目をまん丸にしている。

 

 そのうち、胡座をかいているのに天井まで頭が届きそうな八坂神奈子は、へらっと笑って言った。

 

「……おっきくなっちゃった。」

「じゃないよ神奈子ぉ!!」

 

 洩矢諏訪子は叫んだ。なにゆえ長らく共に過ごしてきた友が異常な大きさになっているのか。そのサイズ、脅威の25メートル。その場にいる皆、誰も理由は分からない。

 

 ただし、神奈子はあっけらかんとしていて、早苗はむしろ目をキラキラさせていた。頭を抱えた諏訪子が呟く。

 

「どうなってんだい一体……」

「素晴らしいです神奈子様〜〜〜〜!!ガン●ムみたいです!お台場のガン●ム!」

「アンタ想像しなさいよ早苗!ウチの食費がどうなるかってさ!」

「常識に囚われてはいけません、諏訪子様!それ以上に儲ければ良いんですよ!ご利益ありそうですし、まるで奈良の大仏じゃないですか!」

「大仏ねぇ。」

 

 神奈子は顎に手を添えて想像した。大きくなった自分を拝んで感動の涙を流す参拝客たち。神社中に響き渡る大きな声で、ありがたい言葉を申す自分。そして超巨大御柱で敵を貫き、幻想郷を救う偉大な自分。

 

「アリだね……」

「ないよっ!」

 

 迫真の表情の諏訪子が叫んだその時だった。

 

「ごめんくださーーーーーーーーい!!」

 

 突然目で追えない程のスピードで守矢神社の本殿に入り込んだ鴉天狗がいた。彼女の名前は射命丸文。無謀にも最強の妖怪にインタビューを挑み、命からがら逃げてきたのだった。

 

「あーー助けて下さい助けて下さい!!早苗さん!!私たち友達ですよねぇ!!」

「ちょっ、ちょっと抱きつかないで下さい!一体どうしたんですか?」

「でででででっかい怖い妖怪が来てます!!多分もうすぐそこに!!」

「何引き連れてきてんだいあんた!」

 

 諏訪子がまた叫んだ頃、八坂神奈子はいつになく真面目な顔で静かに外の御柱を動かしていた。

 

 迫り来る恐ろしい妖力の持ち主。神奈子が指を動かすと、御柱は強大な敵に向かって引っ張られるように飛んでいった。

 

 ガキィィィィィィン!

 

 難なく愛用の傘で受け止めたのは、巨大化している風見幽香。

 

「お仲間がいるわね。」

 

 口元に笑みを浮かべた神奈子は、胡座をかいたままふわっと浮いた。諏訪子も早苗も文も沈黙して大きな巨体を見上げると、その巨体は一気に天井を突き破らんと飛んだ。

 

「ちょっ……」

 

 諏訪子が止める間もなく、神奈子はどかぁぁんと神社の屋根を破壊しながら上空に出た。瓦礫などが辺りに振り積もろうとする。

 

「「「ぎゃーーーーっ!!」」」

 

 緑の髪色と帽子を被った者と、羽を生やした少女が3名悲鳴をあげると、瓦礫は降り注ぐ寸前で時が止まったみたいに停止した。そして自然に浮かび上がり、元の建造物の形を成そうとしている。

 

 巨大化した八坂神奈子は神社を修復しながら、同じく巨大化した風見幽香と向かい合った。

 

「──初めまして。私は八坂神奈子というもの。お困りごと?きっと悩みの種は一緒の筈よ。」

「随分な挨拶をしてくれたわね、新参者。風雨の神がこんなに野蛮だったなんて初めて知ったわ。」

「あははは!私を知っているのね、妖怪。それにあんなに殺気立った妖力の持ち主、迎撃しない訳がないでしょう?怒りはごもっともだけれど、まずは情報を共有しようじゃない。鴉天狗は後からあげるからさ。」

 

 エッ!?という少女の大声が上がったが、神奈子は気にしない。幽香は一旦腹の虫を抑えることにした。

 

「……良いわよ。後でまとめて殺すから。」

「器が広くて助かるわ。」

 

 神奈子はにこりと笑って言い、互いに話し合い始めた。

 

「まず、我々は空から降ってきた隕石に触れたり壊したりすることで大きくなっている。合ってる?」

「ええ。よりにもよって私の向日葵畑に突っ込んできたわ。粉々にしてあげたらこのざまよ。」

「それも同じ。我が守矢神社にもいくつも落ちてきたが、その度に御柱で壊したわ。」

「けれど大きくなっているのは私たちだけのようね。他の連中がなっていたらすぐ分かるもの。」

「つまり、隕石は向日葵畑と守矢神社にしか降っていない……2箇所にしか降らないというのはどうも人為的に思えるわね。」

「①誰かが降らしている

 ②自然現象である 

 ……前者なら話は早いわね。」

「全くよ。」

 

 二者は同時に上空を睨んだ。晴れ晴れとした秋空は果てしなく広い。また、こちらの様子を伺っていそうな妖怪や人間もいない。

 

 代わりにまたもや隕石が降ってきている。目で捉えたのは何とも言えない小さな石ころ一つだったが、今回は全く速度が出ていない。ぼんやりと見つめながら二者は話した。

 

「というか元の大きさに戻る方法はあるのかしら……本当にイライラするわ。花の手入れもできないし、八つ裂きじゃ済まさないわよ。」

「アンタは辛いだろうけれど、私は大仏になるから平気よ。」

「何を言ってるのかよく分からないわ」

 

 風見幽香は愛用する傘の先端を隕石に向けた。そして悍ましい程の妖力を込め、七色のレーザービームを放った。

 

 ゴォォォォォォォォォォ!

 

 幽香が大きければレーザーも大きくなる。小さな小さな隕石はやがて飲み込まれて消滅するかと思われた。

 

 しかし。

 

 光線は途切れて彼女は傘を下ろした。

 

「おや……」

 

 神奈子が呟いたのは、幽香の攻撃がまるで隕石に届いていなかったからだった。

 

 やがて二者は勘付いた。

 

 あの隕石は小さいのではなく、遠くに見える太陽のようなものであると。

 

 

 幻想郷を破滅させるであろう、大きな大きな存在(隕石)であると。

 

 





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