幽香と神奈子の偉大なる秋   作:すくぇ

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【前回のあらすじ】
・隕石を壊すと幽香と神奈子が巨大化しちゃった
・解決する方法を模索
・超巨大隕石が降ってきた



中編

 

 

 その超巨大隕石は直径100キロメートルを超え、禍々しい赤色はこの世の終わりを示すようだった。ゆっくりとゆっくりと、着実に隕石は幻想郷を破滅に追い込もうとしている。

 

 より隕石が近付いた頃、博麗神社にて。

 

「……何よあれ……」

 

 楽園の素敵な巫女である博麗霊夢は、空を埋め尽くそうとする厄災を見上げていた。それから茶を飲みに来ていた霧雨魔理沙も同じように。

 

「何だアレ、浮かんでんのか?私のマスタースパークで壊せるかな。」

「………」

 

 霊夢は答えない。魔理沙の目には超巨大隕石は空中で静止しているように見える。が、それはあまりにも隕石が大きい故に起こっている錯覚。頭の中でがんがんと鳴り響く勘に、霊夢はいつになく冷や汗を流している。

 

 曰く、何もできないと。

 

「紫!紫、いるんでしょ紫!」

「はぁい。呼ばれましてよ、この八雲紫。」

「空を見なさい!早く!」

「やあね、とっくに気付いてるわよ。そんなに焦らなくたって良いから安心しなさい。」

「……何よ。既に策はあるわけ?」

「無いわ。」

「はぁ。長生きするとこう頭が呆けるのね。」

 

 あまりの絶望に霊夢はくらっとよろめいた。事態を飲み込んだ魔理沙もやれやれと額に手を置いた。

 

 心外だと思いながら紫は言う。

 

「木を見て森を見ずね。いや、森を見て木を見ず?とにかく妖怪の山の方角をご覧なさい。」

「何よあいつら、何で大きくなってるの。」

「それはきっと、幻想郷を救うからじゃないかしら。だから私はあの二人に託すことにした。」

「成程、神様だから大きくなったりもできるのか!あれ、幽香もでっかいぜ。」

 

 魔理沙が不思議そうに言った後、霊夢は訝しんで言葉を放った。

 

「……紫。あんた、本当にあいつらに全部任せるの?こういう時、こそこそと黒幕のように暗躍するのが八雲紫だったんじゃない。」

「あら、人聞きが悪いわね!既に策は実行したわ。あとは、新しい神様と古の妖怪を信用するだけ。手を合わせて、お助けくださいと願うのよ。」

 

 紫は手本を見せるように、両手の指と指を合わせて目を瞑った。

 

 一瞬、少女は淡く光ったように見えた。そして眩いものは光速で空の彼方に行き、やがて八坂神奈子の元に辿り着いた気がした。

 

「それが信仰というものよ。霊夢。」

 

 紫が目を開いてから言った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「………」

 

 遠くに見える超巨大隕石に、大きな風見幽香は妖力を滾らせていた。

 

 彼女が全力を出したことは片手で数え切れる程に少ない。もう一本、数える指を増やそうとしているのだった。身体中の妖力を傘の先に纏め、超巨大レーザーを放とうとする。

 

 が、そのままの姿勢を保ったまま放たない。やがて妖力は身体の内に引っ込んでしまった。

 

 (……壊せない)

 

 傘を下ろし、幽香は悍ましいほどの殺意を上空に向けた。あまりの苛立ちに、今の彼女の全身からは真っ黒なオーラが見えるかも知れない。

 

 (壊せない!愛しい花々を守れない……!!)

 

 少女の全身からどっと汗が流れた。幽香は自身の強さを理解している。相手の力量も分かる。隕石はあまりにも大きく、幽香の心さえ折る。

 

 (……このまま、滅びるの……?)

 

 風見幽香が諦めようとしていた。

 

 その時だった。

 

「──信仰は儚き人の為に。」

 

 一柱、八坂神奈子は足を伸ばして大空を見上げながら呟いていた。彼女の目は依然として凛と開いており、眼中に隕石を収めている。

 

 彼女の気迫は、幽香でさえも目を見張るものだった。正に、山の神であった。

 

「妖怪。私には守りたいものがある。貴様にも守りたいものがあるのだろう。」

「……ええ。」

「我の場合、それは『信仰心』だ。それだけではないが、挙げるとすればそうだ。信仰とは神の原動力。これを守る為に、我々は無理矢理幻想郷に引っ越してまでやってきたのだ。」

 

 口調はがらっと変わり、言葉は威厳を表す。風格さえも見違えたように幽香は感じた。

 

「信仰無くして、民無くして、土地も、神社も、一つでも持たない者は神ではない。そしてその全てを守護してこそ、神は価値を成すのだ。」

「何が言いたいのよ。」

「空の上のアレを壊す。その為には信仰心が必要だ。よって今から人里へ赴く。儚き信者たちを救う為にな。」

 

 神奈子は道を示した。ただでさえ大きくなった自分たちの何十倍も巨大な隕石を、壊すことができるという可能性を。

 

「無論、信者には貴様も含まれている。よく手を合わせて信心深くお祈りするように。」

「勝てるの?あの大きな星に……。」

「勝てるさ!私は私を信じる。そうでなきゃ誰も私を信じないだろう?」

 

 豪語して笑みを浮かべる山の神。腕を組んで空に仁王立ちする姿は、無敵の二文字を浮かばせていた。

 

 (……八坂神奈子……。)

 

 覚える気も無かったその名を、風見幽香は頭に刻んだ。最強の妖怪は、ただの新参者であった筈の八坂神奈子を、古い時代から生き残ってきただけある軍神と認めざるを得なかった。

 

 しかし。

 

「あっ、ちょっと待って。」

 

 急に神奈子は威厳を失くし、徐々に地面へと下降していった。どしんと境内の広い場所に降りると、少しだけ地面が揺れる。

 

「ふー……困ったわね。身体が大きくなると浮くのも億劫だわ。いやーまずいまずい。人里まで行かなきゃなのに。」

「……運びましょうか。」

 

 呆れながら幽香が声を掛けた時だった。

 

「かなこさまーーーーっ!!」

 

 神社の中からちっぽけな少女が出てきて、巨大化した神奈子に対して何やら叫んでいる。緑色のロングヘアー、寒そうな巫女服、カエルのワッペンを付けた彼女こそは東風谷早苗だった。

 

「私、理解しましたー!!信仰心を集めるのですね!?ではいつものように、私が啓蒙活動をして参ります!」

「早苗!あんたは頼れる私の家族だね!」

「それほどでもっ!」

 

 やけに笑顔を放っていた早苗が人里へと出発する。緩やかに飛んでいく姿を見送りながら、神奈子は微笑んでいた。

 

 すると、今度はぴょこんと大きな神奈子の肩に乗った者がいた。守矢神社にて祀られ、土着神の頂点に立つ神様、洩矢諏訪子である。

 

 彼女はぺたっと両手を付けて言った。

 

「神力を分けるよ、神奈子。ほんの少しだけど足しにしなさい。」

「あんたがいれば百神力よ、諏訪子。」

 

 友の神力が流れてくる感覚を内に感じながら、八坂神奈子は早苗が信仰を説くのを待った。

 

 やがて誰かの大きな声が聞こえてきて、八坂神奈子は再び宙に浮いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 表情は気付かないうちに強張る。

 

 (……アレが落ちたら、間違いなく皆は死んじゃうって諏訪子様は言ってました。)

 

 緩やかに低空飛行をしながら早苗は考えた。起こり得る幻想郷の終末を。その命運は自分に懸かっているということを。

 

 (怖いです。ちょっと怖いです。神奈子様と諏訪子様がついていても、ちょっとだけ……。)

 

 早苗は怖かった。しかし、気丈に振る舞わなければ何事も成功しないと精神を改めた。

 

 臆せば死ぬ。自分どころか、大切な皆も死んでしまう。やるのよ早苗と己を励ます彼女だった。

 

 (……っ!)

 

 そうして人里の門に辿り着いた彼女の眼前には地獄絵図が広がっていた。

 

 門は開いていた。門番でさえ中で慌てているようだった。誰が言いふらしたのか、誰が煽動したのか。とにかく人里はパニック状態に陥っていた。大通りの道は人々で溢れかえり、口々に隕石のことを叫んでいる。耳の鼓膜が破れて無くなりそうだった。

 

「み」

 

 ドクンドクンと心臓を動かし、早苗は喉の奥から声を漏らした。息を吸って、今度は自らの意思で大声を出す。

 

「みなさまーーーーーーーーっ!!」

 

 早苗は叫んだ。

 

「みなさまーーーーーーーーっ!!!」

 

 もう一度叫んだ。しかし声は届かない。大騒ぎのてんやわんやに掻き消されるのみ。

 

 がやがやがやがやと耳に入る。

 

 やれ、あれが降ってくるだの、どうしようもないだの、死にたくないだの。

 

「み……!」

 

 死にたくないのは早苗も同じだった。恐れという名の病が伝染する。頑張らなければ、救わなければと思う度に重さがのしかかる。

 

 少女の目に、とうとう涙が滲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。」

 

 その時。心から少女を安心させるように肩を叩いた者がいた。

 

 名は、射命丸文。

 

「文さん……」

「心配ご無用です。貴女にはこの私、友愛なる射命丸文がいます。さ、まずはここを離れましょう!」

 

 文がそう言いながら、黒い翼をばさっと大きく広げる。いつの間にか早苗は後ろから抱き締められていて、二者は勢い良く空へと舞った。

 

「きゃっ!」

 

 驚いた少女が、声を上げた頃には既に上空。隕石を背景にして早苗と文は人々の注目を集めた。

 

 それでもざわめきは止まらない。喉から声を出せないでいる早苗に、文はいつもより数段低い声で言った。

 

「いつもの自分を思い浮かべなさい。」

「……えっ。」

「堂々と、真っ直ぐに自分の足で浮かびなさい。私の知っている東風谷早苗はこんな時に涙ぐんでいる人間じゃないわ。」

 

 突然語調が変わった様子の文に、早苗は少しだけ面食らった。支えている彼女の息遣いは荒く、体温は走った後のように熱を帯びている。

 

「それが貴女の素だとしても、ここで見せるに相応しい姿ではない。……だから自信を持ちなさい、人間。貴女は真実を伝えるのだから。善きことを行う者らしく振る舞いなさい。」

 

 文の言葉は真っ直ぐだった。それは彼女が早苗を自分に重ねて、自己にも向けて発した激励でもあった。

 

 やがて文は囁いた。

 

「そして貴女は、偉大になってしまうのよ。」

 

 

 

 

「早苗さん、私の声は届きましたでしょうか?」

「……はい。ありがとうございます。」

 

 文はにこりと笑いながら抱き抱えるのをやめた。両手を離しても東風谷早苗は浮いたままでいる。自分の足で真っ直ぐ空に立っていた。

 

「それからお節介ですが、私の特注のカメラを貸しましょう。これにはマイクなるものが付いておりまして、口を近付けると声を大きくすることができますので。」

「……文さん。これが終わったら宴会でもしましょう。その時に必ず返します。」

「あやややや、死亡フラグというヤツですか。これはルナティックですね。」

「常識に囚われてはいけませんよ、文さん。それをブチ折るのです。」

 

 ふっと文は安心した。既に早苗はいつもの調子を取り戻している。

 

「それから文さん。地上に降りておいて下さい。」

「ん?何故でしょう、早苗さん。」

 

 カメラを手渡ししながら不思議そうに聞き返す。すると、緑色の髪を垂らした現人神は自信満々、パシャリと音を鳴らした。カメラは驚いた顔の文を写した。

 

 少女は笑みを浮かべて言う。

 

「貴女も私に信仰を説かれる者です。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あー、あー、皆様、聞こえておりますでしょうか!」

 

 

「今から貴方たちに、大事なことを一つだけお伝えします!今、空から落ちてきている巨大なものについてです!心して聞きますように!」

 

 

「山の方角をご覧ください!今、守矢神社の御祭神であります八坂神奈子様は、あの邪悪な隕石を破壊しようとしております!全ては儚き人のために!幻想郷を守るためにです!」

 

 

「あっ、今浮かび上がりました!皆様見えますでしょうか!あの偉大な姿こそが、山の神様、八坂神奈子様です!巨悪を穿つべく、自ら巨大になられているのです!」

 

 

「しかし皆様!喜ぶには早いのです!神とは人々の信仰心で力を増すもの!貴女たちの信仰が必要なのです!」

 

 

あっ、違います!参拝しに行かなくていいんです!私たちにできることはただ一つ!手を合わせて祈るのです!手を合わせ、お助け下さいと願うのです!」

 

 

「さすれば、さすれば!必ずや八坂神奈子様は巨悪を打ち砕いてくださるでしょう!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 超巨大隕石が衝突するまで、残り10分。

 

 人里では驚くべき光景が広がっていた。

 

 間もなく幻想郷が終末を迎えようとしている寸前、誰も喚かず騒がず、しん、と異様に静かにしている。大人も子供も、妖怪でさえも、誰一人として欠けることなく彼等は両手を合わせて願っていた。

 

 祈りは淡い光となって飛んでゆき、次々に八坂神奈子へと届く。人里だけではない。八雲紫がスキマで移動し、声をかけていた博麗神社や紅魔館や永遠亭……などの住人も手を合わせて八坂神奈子への信仰を示していた。

 

「あーあ。私が他の神社の神様を信仰しちゃっていいのかしら。」

「死んだら元も子も無いぜ、霊夢。」

 

 巫女と魔法使いが祈る。

 

「はぁーあ。神仏なんかに頼らなくてもフランになら壊せそうだけどね。」

「壊した後が問題じゃない。きっと弾けた破片でお終いね。だから、やらせるのはその後。」

「お嬢様方、喋ると信仰心が薄れますわよ。」

「身体が光ってるからセーフなんじゃない?」

 

 吸血鬼や魔女やメイド長たちが祈る。

 

「永林ー。あれって月の攻撃じゃないわよね?」

「有り得るわね。ま、何はともあれ山の神に何とかしてもらう他無いわよ。」

「お師匠様にもどうしようも無いのですね……。何と恐ろしや。」

「何をするって言うのさ鈴仙。あんなでっかいのにさ。」

 

 月の住人だった者やウサギが祈る。

 

 空から降る隕石の影で辺り一面は酷く暗くなっていたが、強く抵抗するように光は眩さを増していた。

 

 光の中心、八坂神奈子は──

 

 

 

 

「──最高よ、早苗。」

 

 かつてない神力に満ちていた。

 

 





【後編に続く】
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