幽香と神奈子の偉大なる秋   作:すくぇ

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【前回のあらすじ】
・信仰を集めて隕石を破壊しようとする神奈子
・早苗が人里での信仰集めに成功する
・いよいよ隕石が迫る



後編

 

 

「最高よッ!」

 

 空を飛んでいる神奈子が笑顔で叫ぶと、肩に乗っていた諏訪子がしかめっ面で耳を塞いだ。

 

 地上にいる大きな風見幽香が叫び、またもや諏訪子は舌を出して耳を塞ぐ。

 

「八坂神奈子!アレ壊したら、アンタどうなるのかしら!」

「決まっている!より大きく、より偉大になるだけだ!」

「あぁそう!せいぜい頑張りなさい!」

 

 そう言うと、幽香は不慣れながらも両手を合わせて祈った。強きものである八坂神奈子を認め、勝利を願う気持ちもまた信仰。大きな身体から湧き出る光の球が、山の神の神力を一層増幅させる。

 

「任された。」

 

 少女がにやりと笑って息を吸い込んだ。

 

「これより!私は厄災を穿つ!」

 

 全身から淡い光を放つ大きな八坂神奈子が叫ぶと、何処からともなく御柱が現れた。

 

「信者よ、見るがいい!」

 

 御柱は隕石に向かって飛び出す。神力による光を纏って一直線に飛ぶ。その様子を、幻想郷に住む誰もがじっと眺めていた。

 

 神奈子もまた、薄暗い空の下に浮かびながら自らの御柱を見つめていた。やがて握りしめていた掌を、ぱっと放つ。

 

 その瞬間、御柱は巨大になった。眩い光を放ち続け、どんどんどんどん穿つものは巨大化する。遠ざかるにつれて見え方は小さくなるどころか、寧ろ大きくなる。何とも奇妙で不思議な光景。

 

 

 

 

 とうとう御柱は超巨大隕石に激突した。

 その大きさ、殆ど変わり無し。

 

 

 

 

 どかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん。

 

 

 

 

 轟音が鳴り響いた。そこに住む全ての人間・妖怪・神様が目を閉じて耳を塞いだ。空は煙に支配され、何も見えない。

 

 煙を切り開いたのは、隕石を完全に破壊した偉大な御柱だった。

 

 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 人間たちは皆歓喜した。両方の拳を天に突き立てたり、手を取り合って泣いたり、酒をラッパ飲みしたり、色とりどり。

 

 脅威は山の神様、八坂神奈子によって完全に打ち砕かれた。

 

 誰もがそう思っていた。

 

 (………)

 

 唯一、神奈子は空の奥の奥を見つめていた。そこに幽香が飛んでくる。

 

「何よ、随分素っ気ない態度ね?この地を救ったのに。それに身体の大きさが変わっていないわ。」

「お前にも見えるだろう。」

「……さっきから何を見てるのよ。」

「もう一つの隕石。」

 

 

 

 

 幽香は一瞬固まって、すぐさま空を見た。

 

「は……?」

 

 小さな隕石は初め、二つ降った。一つ目は太陽の畑に。二つ目は守矢神社に。悩み合って決めたように降ってきたのだった。

 

 何を言いたいのかといえば最初の隕石は二つあった──

 

 つまり、同じように。

 もう一つの超巨大隕石が降ってきたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 (参ったわね)

 

 神奈子は大きなため息を吐こうとし、ぐっと飲み込んだ。そしてもう一度空を睨む。今はまだ小さく見える隕石も、やがて先程と同様凄まじい大きさのものとなって幻想郷に迫るだろう。

 

 (神力は完全に使い果たした。もう一度信仰を集めたって全然足りない。まさかもう一つ降ってくるとは思いもしなかった。いや、もう二つか三つ降る……?)

 

 一難去ってまた一難。絶対絶滅の状況。

 

 (そうか……)

 

 八坂神奈子は俯きながら目を見開いて悟る。

 

 (私は、救えなかった。)

 

 そして無力感に、手のひらを握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔を上げなさい」

 

 誰かの声が聞こえる。

 

 気付いた八坂神奈子はすぐさま顔を上げた。

 

 そこには、決して絶望しているのではなく、まるで火山が噴火したように、はらわたが煮えくり返るほど激怒している花の妖怪がいた。

 

 巨大な風見幽香の緑色の髪は、迸る妖力で逆立っていた。怒髪冠を衝くという言葉はまさに今の彼女を表す。数千年の歴史の上に生きている八坂神奈子が、これまで見てきた妖怪の中で最も巨大な妖力。身体がびりびりとした。

 

 神奈子は驚いていた。恐ろしい絶望の中、風見幽香は強く輝いているように見える。

 

「抗うわ。あんたが抗ったように。」

 

 幽香は静かに言った。

 

「だからあんたは、私を待っていなさい。」

 

 くるりと背中を向けた少女に、神奈子は言葉をかけようとして口を開く。しかしすぐに閉じる。

 

 隕石に向かおうとする幽香に、やっと放ったのは短い言葉だった。

 

「頼む」

 

 神奈子が幽香の背中に手をかざし、自身の身体に根ざしていた巨大化するエネルギーを渡す。すると、巨大な風見幽香はさらに極限まで大きくなろうと姿を変える。

 

 既に彼女は遥か上空へと飛び去っている。あっという間に元の大きさに戻ってしまった八坂神奈子は、それを静かに見送った。

 

「……重いから降りて欲しいのだけれど。」

「はいはい。お疲れ様。」

 

 ぴょこんと諏訪子が肩から降りる。神奈子は傾きながら手を肩に乗せ、ふぅと息を吐いた。

 

「あの妖怪、怒ってたね。きっとあんたの為にさ。」

 

 諏訪子は笑って言った。

 

「花の妖怪は誰とも馴れ合わない、恐ろしい妖怪だって聞いてたのにね。神奈子の様子を見てからだよ?あんなに怒ったのはさ。」

「……私に怒ったの?」

「違うってば!あんたの為に、隕石に怒ったんでしょ。」

 

 二柱は守矢神社の鳥居の上に立ちながら、隕石に向かう巨大な風見幽香を眺めていた。

 

 いつの間にか心は楽になっていた。

 

 口元を少しだけ綻ばせ、また戻す。

 

 両手を合わせて少女は祈った。

 

 

 

 

 来ることを拒むような風を受けながら、幽香は空を昇った。雲を突き抜け、乾いた両目は開かれたまま、もはやたいして大きく見えなくなった隕石を視界に捉えていた。

 

 そのうち彼女は隕石を受け止めるレベルに達するまで進化した。全身は段々と膨れ上がり、体つきは勇ましく筋肉質なものへと変貌した。さらに身体は歯止めをかけることなく、みるみるうちに大きくなった。

 

 風見幽香は超巨大化した。間も無く彼女は超巨大隕石と接触する。その大きさは今や、幽香の手のひらに収まるほどに。

 

「降ってくるんじゃないわよ」

 

 ぼそりと幽香は呟き、そして叫びを放った。

 

「迷惑なのよッ!!」

 

 世界を揺らすように怒鳴りながら、彼女は胸の前で両手を構え、とうとう真っ向から超巨大隕石と衝突した。

 

 ずどん。

 

 隕石は幽香の手中に収まる。ただし、その勢いはとどまることを知らない。

 

「ゔっ……!」

 

 胸の内に響く衝撃を受け止めながら、幽香は隕石ごと真っ逆さまに降っていった。このままでは、超巨大化した風見幽香がむしろ幻想郷を破壊し尽くしてしまう。

 

「こ……の……!」

 

 苦悶の表情を浮かべながら、彼女は全妖力を筋骨隆々とした両腕に集中させ、ぐぐぐと隕石を押し返した。が、隕石は無慈悲に勢いを落とさずにいる。

 

「ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!」

 

 地上までどの程度距離があるか分からない風見幽香にとって、一刻も早く隕石の勢いを止めることは絶対条件。彼女は歯を食いしばって必死に力を込めた。

 

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 その叫びは幻想郷中にこだまする。全ての生きとし生けるものの想いと重なり合う。風見幽香は汗を流して激怒した。

 

 やがて両手が胸から僅かに浮き出す。それに伴って隕石も彼女自身も、電車が緩やかにブレーキをかけるように、段々とスピードを落とし始めた。

 

「結界を張りなさい!」

 

 地上にいる八雲紫の一声で、彼女自身や博麗霊夢や八雲藍などが空一面に大きな結界を展開した。薄橙色が幻想郷中をドーム状に覆う。

 

 幽香が近付くにつれ、凄まじい風圧が地上を襲った。びゅおおおおと吹き荒れる風は、しかし張られた結界に防がれる。

 

 

 

 

 そして。

 

 逆さまになっている大きな風見幽香の緑色の髪が、だらりと結界の一面中に垂れた。再び太陽を隠された幻想郷が真っ暗になる。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 彼女の根気により、

 超巨大隕石はやっと動きを止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗い!」「何も見えないぞ!?」「どうなった!」「助かったのか!?」「暗いよ!」「大丈夫よ、きっと助かった!」「おい踏むんじゃない!」「やめろ!」「神奈子様はどうしたんだ!」「あの妖怪は!?」「お助け下さい、神様……」「文さん、私たち……」「えぇ、助けられましたよ、私たち。この後殺されなきゃいいんですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里にいる有象無象の人々が混乱し、暗闇の中で騒ぎに騒いでいた頃。

 

「ごきげんよう、花の妖怪さん。」

「………」

 

 風見幽香の左目の前に、八雲紫はスキマを使って現れていた。彼女の背丈がいくら重なっても、幽香の片目の幅には到底届きそうにない。

 

 紫は深々と頭を下げて言った。

 

「幻想郷を救ってくれて本当に有難う。」

「何もせずに、悠長に見ていたようね。八雲紫。」

「貴女たちに任せた方がいいと思ったのよ。実際その通りだったでしょう?」

「癪に触るわ」

 

 幽香が吐き捨てるように呟く。紫はにこにこと胡散臭く笑いながら聞いた。

 

「ところで、貴女が両手に持っている隕石。それ、どうするつもりなの?」

 

 賢者は問う。無論、手を離せば大惨事になることは幽香も分かっている。少し考えてから彼女は言った。

 

「粉々に砕いてやるのよ。」

「駄目よ、それでは地上に流星群が降り注いでしまう。貴女にとっては小粒でしょうけれど。」

「じゃ、投げ飛ばしてしまうわ。」

「駄目よ、再び私たちのような危機を迎える星があるかも知れないわ。」

 

 ことごとく却下される幽香。彼女は若干ストレスを感じながら顔を顰めた。

 

「どうしろって言いたいのよ。勿体ぶらずにさっさと答えなさい。」

「私も考え中なのよ。とりあえず、そのまま隕石を抱えたままでいてもらえると嬉しいわ。」

「はぁ。」

 

 風見幽香はため息によく似た声を漏らして、両手で掴んでいる超巨大隕石を見た。

 

 手触りはごつごつとしている。摩擦熱を帯びているので、幽香にとってはカイロのようなものだった。もしこれを握り潰せば、地上がクレーターだらけになる。投げれば、他の惑星が巻き込まれる。

 

 

 

 

 はぁ、と今度は本物のため息を吐き、風見幽香は一つの解答を出した。

 

「分かったわよ。」

 

 彼女は呟いた。

 片手に隕石を持ち、ゆっくりと口元に近付けながら。

 

「えっ?」

 

 八雲紫は目を疑う。

 

 そして、数千年ぶりに驚愕した。

 

 





近日中にエピローグを投稿します。

追記 12/13本日最終話を21:00に投稿するにあたって、本編を完結済と設定しました。
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