幽香と神奈子の偉大なる秋   作:すくぇ

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エピローグ 『偉大なる花』

 

 

 ぱくり。

 

 特製の月見団子を口に入れた風見幽香。噛むと甘い餡が出てきて、もちもちとした白い餅生地とよく合わさる。誰が作ったのか餡の量はかなり多い。これは奉仕の表しか。

 

 ごくりと少女が飲み込むと、隣で胡座をかいていた八坂神奈子が聞いた。

 

「──ねぇあんた、隕石と団子、どっちが美味しい?」

「馬鹿言うんじゃないわよ。あれは金平糖じゃなくてただの岩!」

「あっはっはっはっは!!まさか隕石を食ってしまうなんてね!本当に面白いわ!」

「五月蝿いわよ!仕方ないじゃない!」

 

 大きな声で怒鳴る幽香。しかし、身体は元の姿・大きさに戻っている。八坂神奈子は、ぽかぽかと紅潮した顔で大層愉快そうに笑っていた。

 

 超巨大隕石が降ってきた大事件、その日の晩。守矢神社では、大きな大きな、今日の異変に負けないくらいの宴会が開かれていた。

 

 本殿では早苗と文が笑顔で乾杯したり、霊夢が魔理沙と早食い勝負をしたり。少女たちは並べられたご馳走を食べ、酒を飲み、楽しそうに酔っ払っている。

 

 しかしそこに主役たちはおらず、幽香と神奈子はひっそりと縁側で酒を飲んでいた。

 

「ははは……。あの紫が豆鉄砲喰らったような顔をしてたんでしょ?私も見てみたかったわ。」

「……そうね。とても面白かったわ。鴉天狗に写真を届けたいくらい。」

「あら、花の妖怪が苦しむ姿も笑いものでしたわよ?可哀想になるほど呻いてましたわ。」

「だははははは!」

「今度はお前を食うわよ紫」

 

 ぬっとスキマで割り込んできた八雲紫に神奈子は爆笑し、幽香は殺意を見せた。

 

「まぁまぁ、ともかくお疲れ様。貴女たちがいなければ幻想郷は確実に滅んでいたでしょう。本当に、心から感謝しているわ。」

「たまたまよ。身体を大きくできなければとっくに御陀仏。」

「不思議ね。初めに小粒の隕石が降ってきたらしいじゃない?それらによって貴女たちは大きくなった。けれど、最後の巨大隕石を壊しても食べても、貴女たちは大きくならなかったわ。まるで巨大隕石は壊されたかったみたいね。」

「何でもいいわよ。分からないことを論じても意味が無いわ。」

「貴女、探究者に向いてなさそうね。」

 

 紫が神奈子に向けて呟く。その横で、風見幽香は黙っていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 数時間前のこと。

 

 隕石を噛み砕き、ごくりと飲み込んだ風見幽香。喉が非常にぱさぱさと乾燥する味わい。かくして幻想郷を滅ぼす災厄は食べられたのだった。

 

 (……まさか、そう来るとはね……。)

 

 八雲紫が感心と驚嘆の入り混じった視線で見ていると、突然幽香の腹に激痛が襲う。

 

「ゔっ……!?」

 

 途端に彼女は顔を真っ青にし、脂汗を流しながら苦しみ始めた。

 

「どうしたの!風見幽香!」

「う……るさい……!」

 

 まるで輪っかが腹を一周し、ぎりぎりと全力で締め付けているかのような痛み。紫の声を鬱陶しく感じながら、幽香は激痛にひたすら耐えた。

 

「ぐぁぁ!」

「辛抱しなさい、境界を操るわよ!」

「ゔゔゔゔゔゔゔゔ!!」

 

 歯を食いしばりながら彼女は唸り声を上げた。これがまずかった。鳴動する空気の振動から身を守るので紫はいっぱいになり、幽香の痛みを消すことができなくなる。

 

「幽香ッ!」

「ゔあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 耳を塞ぎながら名前を呼んだ紫。とうとう叫んだ風見幽香は、眩い光に包まれた。

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……!」

 

 視界は真っ白になり、気が付くと幽香はいどこまでも広がる白い世界にいた。そして目の前には、不思議な雰囲気の少女が立っている。

 

「……何、ここ……」

 

 痛みの治った幽香が呟いても、目の前の少女は口を開かない。

 

 ただし、頭の中に直接語りかけてきた。

 

"エネルギーを せいぎょしましたか やはり あなたのところに ふってよかった"

 

「はぁ……?」

 

 幽香が顔を上げると、少女はにこりと笑う。

 

"はじめまして わたしは いんせきです

ここよりはるかとおくから やってきました"

 

「お前が……?」

 

"はい あなたたちをめがけて ふりました"

 

「……そう。食べられた気分はどう。」

 

"とても かんしゃしています"

 

「意味が分からないわ」

 

 幽香が変に思うと、少女は語り出した。

 

"わたしたちは ふたごでした

しかし わるいかみさまに すがたをかえられてしまったのです"

 

「はぁ」

 

"わたしたちは あやつられ つぎつぎにほしをはかいしました これをとめてほしいとねがい つよいちからをもつものをめざしてふり あなたたちをおおきくしたり きんにくをつけさせたりしたのです"

 

「ふぅん……」

 

"というせっていはさておき"

 

「は?」

 

"よくぞ わたしたちをとめてくれました さあ おれいに ねがいをみっつ かなえましょう"

 

「………」

 

 少女は微笑みながら両手を広げて言った。どこか不服な気持ちの風見幽香。

 

"なんでもいいですよ みっつだけ かなえますよ"

 

「分かったわよ、急かさないで。」

 

 しばらくして願いを申す。

 

「……まずは身体を元に戻して頂戴。このままじゃ花の世話もできないわ。」

 

"だめです"

 

「駄目って何よ!」

 

"すでに あなたは もとにもどっているからです"

 

「嘘じゃ無いでしょうね」

 

"はい さきほどくるしんでいましたが いまはなんともないでしょう あなたはエネルギーをせいぎょできました これからは じざいに からだのおおきさを かえれます"

 

「はぁ……別にいらないわよ。」

 

 幽香はげんなりとした。目の前の少女はくすくすと笑った後、改めて一つ目の願いを尋ねた。

 

"では ひとつめは なんでしょう"

 

「八坂神奈子という奴がいるわ。そいつの願いを一つ叶えなさい。」

 

"はい あとで きいておきます"

 

 少女はあっさりと了承する。そして二つ目の願いを尋ねた。

 

"つぎに ふたつめは なんでしょう"

 

 幽香はすぐに願いを言おうとした。

 

「じゃあ……」

 

 その時、彼女にまた腹痛が襲いかかった。

 

「ゔっ!」

 

 幽香はその場で背中を丸め込み、脂汗をかいて苦しみ出した。目の前の少女は微笑んだまま言う。

 

"エネルギーはせいぎょしたようですが たんじゅんにはらをこわしていますね"

 

「おっ……お前が降るからでしょ……!」

 

"はい ごめんなさい"

 

「ぐっ……!」

 

 責めても平謝りされても腹痛は治らない。顔を真っ青にしている風見幽香を気遣って少女は尋ねた。

 

"では ふたつめのねがいは ふくつうをけすことで よろしいですか?"

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

 激昂する幽香。真っ青になりながら真っ赤になる高等テクニック。というのはさておき、幽香は地獄の二択を迫られ、必死になって言葉を絞り出した。

 

「は……花畑……。私の花畑は、お前たちに荒らされた……。それを、治しなさい……!」

 

"はい わかりました"

 

「本当に治ったんでしょうね!」

 

"はい なおりました"

 

 激昂する幽香だったが、次の願いを考えるために調子を取り戻した。戻った先にあるのは激痛であるが。

 

"さいごに みっつめを どうぞ"

 

 彼女は痛みに耐えながら考える。考えに考え、やっと決めた願いを口に出そうとした。

 

「は……!」

 

"はらのいたみ?"

 

「違うわよ!花を、この世で最も珍しい花の種を、私に寄越しなさい!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「──で、腹痛は治ったの?」

「……寝てたら治ったわ。余計なお世話をありがとう。」

「どういたしまして。それじゃあ私は帰るわ。月もよく見えますから。」

「くれぐれも宴会用の酒を盗まないようにー。」

 

 神奈子が釘を刺すと、紫はにこりと笑ってスキマの奥に消えた。

 

「神出鬼没ね。あの妖怪。」

「昔からよ。うざったいわ。」

 

 幽香は呟いた後、自分の手の中の粒を見下ろした。それは彼女が隕石を名乗る謎の少女と話した後、いつの間にか手に握っていた花の種だった。

 

 縁側から地面にさっと立ちながら、幽香は言った。

 

「八坂神奈子。」

「何よ?」

「この世で最も珍しい花を知っているかしら?」

「……さぁ。私かしら?」

「私も知らない。だから今、確かめてみるのよ。」

 

 幽香はそう言い、足で地面に穴を掘って、種を一粒だけ落とした。

 

 そして少しだけ下がって傘の先を向ける。

 

 彼女の能力──『花を操る程度の能力』により、種は花を咲かせようとし始めた。

 

「おお……」

 

 神奈子が感嘆する。根を張り、芽を出し、どんどん花は成長する。

 

「おっ?」

 

 どんどん大きくなる。もういいだろうと思ってもまだ大きくなる。

 

「おおっ!?」

 

 突然、世にも珍しい花は急成長を始めた。

 

 蔓は螺旋状にぐるぐると互いに絡み合いながら、夜空に向かって伸び続ける。花弁はとうに見えなくなり、幽香と神奈子は追いかけるように空を昇った。

 

 そうして見た花は──

 

 言葉も出なくなるほど、偉大な花だった。

 

 (……!)

 

 花弁は何枚も咲き乱れ、紫色が中心の緑色を綺麗に囲っている。まるで隕石を打ち砕いた二者の英雄を讃えるかのようだった。

 

 一輪の花はあまりにも巨大で、自分がミツバチのように小さくなってしまったのかと錯覚させた。

 

「……ユキワリソウかしら。」

「珍しいの?」

「この色は初めて見たわ。それに……こんなに大きな花、珍しくないわけないじゃない?」

「それもそうか!」

 

 幽香と神奈子は顔を見合わせて言った。何故か可笑しくなって、二者は笑った。

 

「ははははは!」

「ふふふ……。」

 

 口元に片手を伸ばして上品に笑う幽香に対して、神奈子は豪快に笑った。

 

「そういえば妖怪。あんたの名前は?」

「あら、言ってなかったかしら。風見幽香よ。」

「ふんふん、カザミユウカね。本当に今更だわ。共に幻想郷を救った仲なのに。」

「本当ね。私は嫌がらせで名前を呼んでくれないと思ってたわよ?」

「あっはははは!そんな訳ないでしょ!」

 

 またもや神奈子は笑った。幽香は微笑み、世にも珍しい巨大な花を見つめる。四季のフラワーマスターと呼ばれる彼女も、こんな大きさの花は見たことがない。つまりは満足していた。

 

「……そうだ。あんたの願いが一つ叶うかも知れないけれど、変なことを願わないようにしなさい。」

「今日は七夕じゃないわよ?」

「えぇ。今日はすごく疲れた日だわ……」

「同じく」

 

 八坂神奈子は二つの盃に酒を注ぎ、片方を風見幽香に差し出した。真顔で彼女は受け取り、じっと器の中を覗く。ぼろぼろの、疲れ果てた自分の顔が映って、ふっと鼻で笑う。

 

 "だから、頑張ったあんたと乾杯。"

 

 少女たちは夜空の上で盃をぶつけ合い、ごくりと酒を飲んだ。

 

 偉大な花は咲き誇っていた。それを背景に、見上げた先にある満月がまんまるに光っている。

 

 

 

 

 もし、あの満月が降ってきたなら。

 粉々に壊すか、食べてしまうのだろう。

 

 

 

 

 幽香と神奈子の偉大なる秋 完

 

 

 

 





 閲覧ありがとうございました。秋までに完成させたかったのですが、現実は上手くいきません。楽しく執筆させていただきましたので、楽しく読んでくださっていると幸いです。
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