同じく、変態の次郎坊 作:イチャパラで優勝していくわね
「ゲハハハハァ!!!」
随分とけったいで分かりやすいゲス笑いをしている男。
呪術によって黒く染まった体に、白いドクロのような紋様が浮かび上がっている。飛段だ。
たった今、呪術に嵌めてやった木ノ葉上忍・猿飛アスマの腹に大ダメージを食らわしてやったが故のバカ笑いであった。
イズモとコテツも角都の分離した腕に首を握りしめられ、唯一フリーのシカマルが必死に駆け寄るが、影縛りの術を多用し大いに消耗し、脚はふらつきたどたどしい走りでしかない。
蹲ったアスマを、誰も助けに行けなかった。
「やっとあの痛みを味わえる…。てめーを殺す痛み…」
血を吐くアスマを見下ろしながら、飛段は愛用の黒槍を高々と掲げる。
イズモも、コテツも、そしてアスマの愛弟子たるシカマルも、もはや半ばアスマの運命を悟って絶望するしかない。
「やめろ!!!」
シカマルが必死に叫ぶ。
もうじき木ノ葉の援軍が来てくれるはずなのだ。
あと少しのはずなのだ。
誰か、頼む。誰でもいい。シカマルは祈った。
そんな木ノ葉の忍達を嘲笑い、飛段は一気に己の心臓に振り下ろそうとした―――
その瞬間。
「土遁・土陵団子!!!」
いつか聞いたことのある声が響き、直後に…シカマル達が戦っている領域に大きな影が落ちる。
とんでもない大岩が、まるで隕石のように降ってきていた。
「ハァ!!!?」
飛段が思わず腕を止め、仰天…といった様子で大岩石を見つめていた。
角都はイズモとコテツをぶん投げると、直ぐ様腕を戻して印を組む。
(デカい…!オレの
「風遁・圧害!!!」
「うお!?角都ゥ!?オレごと――ぶわああああ!!!?」
瞬間的に発生した圧縮竜巻がクッションとなり、一瞬の間、隕石の落下を遅らせ、そしてその風を利用して角都は疾風のように落石の射程範囲から離脱していった。
無論、その隙を木ノ葉の忍達も利用した。
角都の腕から解放されたイズモとコテツは、それぞれがアスマとシカマルを抱えて、同じように風を利用し、何とか落下範囲から逃れていた。
先程まで彼らが戦っていた場所が押し潰され、抉れ、まるで大爆発が起きたかのような轟音と土煙が巻き上がった。
「ハァ…ハァ…!た、助かったが…とんだ救援方法だ!こっちまで潰れちまうところだったぞ!」
こんな、味方を巻き込むのも厭わぬとんでもない無茶な助け方をする木ノ葉忍をイズモは知らない。
「…そりゃそーだ……見なよ、
シカマルは、コテツに抱えられたアスマを見て胸を撫で下ろしながら、倒壊しかけた賞金首換金所の屋根に佇む5人を見つめていた。
そいつらは確かにシカマルの記憶の中の面影を宿した者達。
「3年前の面影がありやがる。…間違いねー…………―――音の五人衆!」
「あ、あいつらが…サスケを攫ったあの〝音の五人衆〟か」
「オレ達と暁を諸共ぶっ潰そうとした…ってとこか。…ったく、オレの祈りが変なふうに叶っちまったみてーだな」
シカマル達は、薄れゆく土煙の向こうに佇む5人の人影を睨んでいた。
だがシカマルだけは、睨みながらも妙な違和感を覚えていた。
思い返してみれば、サスケ奪還任務の時…我愛羅達が戦った相手、君麻呂と3人の音忍は容赦なく苛烈に攻撃してきて、我愛羅達は重傷を負い、ロック・リーも半死半生の大怪我に追い込まれて今も後遺症に苦しんでいる。
しかし、一方でシカマル達が最初に接敵した相手…次郎坊は、圧倒的な武威をシカマル達に見せつけたものの、シカマルチームは誰も後遺症が残るような怪我を負わなかった。
キレイに治るような、そういう傷だらけだったのだ。
そして、今…今回の大岩落としも、まるで暁と自分達を分断するかのような…まるで、アスマがとどめを刺されるのを防いでくれるかのような、そういう攻撃だったようにも分析できてしまう。
(そうだ…あの次郎坊って奴なら……あの岩落としの術よりも、オレ達をあの時苦しめた土牢堂無って術を今回も使えば、それこそ暁ごとオレ達も一網打尽にできたはず…)
3年経ち、シカマル達も腕を上げたが、それはあちらも同じ条件。
きっと…いや、間違いなく音の五人衆もかなり腕を上げているに違いないのだ。
ならば、あの恐ろしい土遁結界もさぞ、より強固に、より厄介に、より恐ろしい術になっていると予想できた。
「もしかして…あの次郎坊ってやつ……―――いや、まさかな…」
いい奴だったりする可能性が…などと埒もない事を考えてしまうシカマルだった。
「おいおい…まとめて葬るチャンスだったろーが…やっぱ図体だけのデブは鈍くてダメだな。やっぱここはウチがいく」
「何言ってやがる…全員でかかって勝っても、オレらの実力を証明する事にはならねーって、ジャンケンで順番にやるって決めたぜよ」
「暁が2人なら、こっちも2人…でなけりゃ、そもそも勝って当たり前だからなァ……。待てよ。つーことは、オレなら1人で行っても2人分って事だよな?」
「……誰が2人目になるんです?さっさと決めて欲しいんだが」
次郎坊の周りには、好き勝手にくっちゃべっているいつもの4人がいた。
ジャンケンしつつやって来た彼らだが、視界に入ってきたターゲットが、イイ感じに纏まっていて、しかも付近に木ノ葉忍までいたから、とりあえずはジャンケンで一抜けした次郎坊がダメ元の一挙両得を狙って岩をぶん投げてみたのだ。…と周りは見ているが、もちろん次郎坊は、一応アスマを助けるつもりで大岩を投擲していた。もっとも、「死んでもしょうがない。元々そういう運命だし」というドライな感情も抱いていたが。
ちなみに、次郎坊一抜けの後の2回戦目で君麻呂は敗退していた。音の五人衆一の身体能力を誇り、動体視力だってずば抜けている君麻呂であるが、左近の〝右近とどっちが出すかな?出すかな?大作戦〟と、鬼童丸の〝6本腕チェンジ!秘技ミックスジャンケン〟という奇策と、多由也の〝口笛で簡易幻術・幻惑ジャンケン〟という卑怯技に敗れ去っていた。このジャンケン無法地帯の中、次郎坊がどうやって一抜けしたかというと…〝ジャンケン土遁・
そもそも君麻呂は、音の五人衆中の保険であり、保護者枠でもある。
今や、何らかのトラブルや、思った以上に味方がダメだった時に全ての尻拭いをする立場であるから、先鋒として戦えなくても何も不満は無い。…が、少しだけ悔しそうにも見えた。実際、「手を出す瞬間、骨で別の手を作ればよかった…」と後悔していた。正攻法で挑んだ結果がジャンケンボロ負けという結果である。あぁ情けなや音の五人衆リーダー。彼には〝卑劣〟の精神が足りていない。
君麻呂に促され、ジャンケンを続ける3人。
十数秒後、そこには腕を高々と掲げた勝利者が参戦の権利を宣言していた。
「よし…ようやくウチの出番だな」
多由也である。
「チィ…やっぱジャンケンで口笛幻術は禁術だろ…!なんなんだよ、口笛でもかる~い幻術なら出来るっつーのはよ…!妙なとこでレベル上がりやがって…」
「ケッ…良かったな多由也ァ?夫婦チームぜよ」
「だ、誰が夫婦だ!?てめーらの目、腐ってんじゃねーのか…ゲスチンヤローども…!あんなキモくてクセーデブと、夫婦だとか恋人だとか、冗談でもありえねーんだよ!」
多由也が勝った事により、次郎坊がそれはそれは素敵な笑顔で彼女を見ていた。アルカイックスマイルであり、大柄で恰幅の良い次郎坊がそんな微笑みを浮かべているとまさに大仏様である。
「こっち見んな、勘違いのエロデブが。……チッ、行くぞ!」
「おう!」
音忍2人がそこに降り立った頃には、ようやく土煙もおさまってきて、そしてすっかり様変わりした風景がそこらに広がる。
地平線が見え、電信柱と電線が延々と続く整備路が続くだけの風景だったそこは、何百枚もの起爆札が爆発したかのような、忍界大戦がまだそこだけ行われているかのような風景に変わっていた。
「…大蛇丸の狗、か」
「いてー…おい、見ろよ角都!オレの手と足が…潰れちまってるぞ!?あぁクソ!あのデブ野郎の仕業だな…デタラメな土遁使いやがって」
角都と飛段が、一際大きな瓦礫の山の上から次郎坊と多由也を見下ろしていた。
角都の肉体から這い出てきた、蠢く黒い巨大蛆虫の群れのようなモノ。それが飛段の潰れた手足に潜り込み、板金加工のように内側から肉を持ち上げ、砕けた骨をも縫い合わせる。
その度、「いで!いでで!おい、いてーって!」と文句を垂れている飛段。
アスマを治療しながらそんな様を遠目に眺めるシカマルは、「まったく、無茶苦茶だぜ」と顔を顰めていたが、あの規模の土遁を使う音忍が、あのように自分達を無視して暁と向き合ってくれている状況はとんでもなく好都合な事であった。
岩場の上の暁コンビ。
岩場の下の音忍コンビ。
両者の視線が鋭く交差する。
「さーてと…どうやら、木ノ葉の増援が近づいてきているみてーだからな。あいつらの手の内も、さっき見たし…さっさと決めるぞ、デブ」
「…気をつけろよ、多由也。飛段は手の内を見せたが、角都はまだ奥の手がある」
「あァ?…へぇ…調べてたのか?相変わらず耳聡いヤローだ。ならさっさと言え、ウスノロのデブが」
「…多由也……言葉遣い――」
「いいから言え、クソデブ。あと、4m以内に近づくな。息も脇もクセーんだよ、ゲス童貞が」
密かに股間をもっこりさせながら、次郎坊は賢者モードで説明を始めた。
「角都は90歳を越える超ベテラン忍者だ。老いる度、死ぬ度に、5つストックしている心臓を切り捨て、新たな心臓から活力を得て生き延びる。敵から心臓ごと経絡系も奪ってな。あと…あの黒い触手は千切れた手足を縫合したり、今見たように…潰れた箇所の修復まで出来る。ロケットパンチも撃つ。ロマンだなァ………うーむ、なにせジオングだからな」
「地怨虞…大蛇丸様の文献の中にそんな禁術がのってたが…へぇー、そうかよ。あの不死身ヤローといい、ひじきジジイといい、大蛇丸様の成り損ないみてーなゾンビヤローだな。クククク…ヘナチンまで腐ってんじゃねーのか?」
「どのみち、オレのマスラオに比べれば、腐ったヘナチンなのは完全に同意す―――」
「黙れデブ。ウチが聞いたこと以外喋んな、息がクセー」
「…」
デブは黙った。
「ま…奴らがどんな不死身のカラクリ持ってても…ウチには勝てねー…クククク。いくぞ!」
「おう!」
多由也が笛を鳴らし始めると同時に、次郎坊、そして角都、飛段は走り出していた。
「…戦場でいきなり笛か。分かりやすいな…音幻術だ。―――…既に、少し効果が出始めている。あれは厄介だ…飛段、あの女から殺るぞ」
「オレに指図すんな!んなことァ、オレも分かってるっつーの!だがその前に…じゃーん!耳栓!今、土固めて作ったぜ!これで音幻術なんざ……――――全然防げねェ!!!!」
「…やれやれ……当たり前だ。熟練の音幻術使いは、近距離なら容易く耳栓など貫通してくるぞ。そんなバカでは…死ぬぞ?」
「あァ!?何だって!?もっとデカい声で喋れよ!!」
「耳栓をとれ、バカが」
飛段も角都も最初からタッグ戦を挑むつもりになっていた。それは、次郎坊の初手の土遁規模と、笛の音が奏でられ始めてすぐに〝影〟クラスに片足を突っ込んでいる自分達に影響を与える音幻術の威力を見ての判断。
それは無難で正しいものだったと、暁の不死コンビはすぐに悟る。
(ふん…ウチ狙いか……ま、そーなるよな)
狙われるのを承知の多由也は、しかし全く動じる事もなく、そして避ける気もない。更にいえば、警戒も余りしているようには見えなかった。
「――らァッ!!」
気合一閃、飛段の大鎌が投擲され、真っ直ぐに多由也へと迫った。が、彼女の盾になるように、まさに壁が生えたかと思うほどの巨漢が割り込む。
次郎坊が印を結びながらも、ほぼ無防備に大鎌を受けると、ぐにょりと鎌の形に肉が凹んで、かすり傷一つ付かずに大鎌を跳ね返してしまった。
「はァーーー?なんだァ、あいつ…ゴム人間かよ!ゴムなら斬れるだろーが、普通よー!!」
喚く飛段を横目に、角都は心臓を入れ替え、モードを風遁へとチェンジ。そして口から風遁・圧害を放つと、辺り一面に圧縮された小竜巻の群れを撒き散らそうとする。
このまま風で音を散らしつつ、術者を攻撃しようという算段だろう。
しかし、次郎坊の印が完成した時、その目論見は崩れた。
「風遁・圧――」
「土遁・地動核!」
「なに!?」
正確に、そして急速に角都の足元が突き上げられ、バランスを崩され風遁の中断を余儀なくされる。
(コイツ…!オレの動きを予測した…!)
しかし角都は百戦錬磨の達人だ。直ぐ様切り替え、突き上がった大地から跳び、そして再び風遁・圧害を叩き込もうとした。
だが、直後に「土遁・土陸返し!」と次郎坊が唱えれば、突き上がっていた大地の横からベロリと土が捲れ
「っ!?ぐ…こ、こいつ…!」
「何ヤッてんだよ、角都ゥ!音幻術完成しちまうぜ!?」
「そう思うなら、貴様がさっさと止めろ!」
「オレは――く!?おぉ!?ッしゃらくせェー!!――って、うお!イてーー!?このデブ、人の痛みを考えねーのか!そんな薄情なヤローには神の裁きが下るぜ、ホント!」
「――大した奴だ…!オレを術で足止めし続ける一方で、体術で飛段を足止めとはな…!」
次郎坊の印構築は素早く、そして並みの忍では足元にも及ばぬ戦闘経験値を持つ角都のやりたがっている事を知っているかのように予想し、先手を打たれている。その事実が角都を苛つかせた。
(…地怨虞を最大に使いたいところだが…背から心臓体を出すには一定の時間がいる…!)
その時間的余裕すら既に失っている。
飛段と角都から見る周囲の景色は、既にぐにゃりぐにゃりと歪み、溶け出しているのだ。
自分達のチャクラ量と精神力ですら、すでにタイムリミットは近い。
次郎坊も当然一定時間を凌げば勝つと理解しているから防備を固めている。守りに徹する次郎坊は、飛段と角都相手にすら些かの隙も与えぬ鉄壁を誇っていた。
(チャクラの消耗は激しいが、仕方あるまい…!)
仕方なしに角都は影分身を出現させ、そして属性を切り替えて多角的に突っ込むも、即座に次郎坊は岩分身で対応する。
分身達の術合戦が始まった。
のんびりしていた観戦者達だが、乱れ飛ぶ忍術に思いっきり巻き込まれそうになった為、慌てて飛び去る。慌てたように跳んだ鬼童丸、左近に比べ、君麻呂だけは悠然と飛び去っていたのはさすがだった。
それに全員が、さりげなく耳栓までつけだしていた。近距離で多由也の笛の音を聞いてしまえば、たとえ耳栓をしてもチャクラを交えた音の振動は、耳朶を直接揺らしてしまうから耳栓など意味をなさないが、ある程度距離をとれば耳栓でも防御は可能だった。
「うお、あいつらオレ達まで巻き込むつもりかよ!フザケやがって!」
「チィ…加減しろってんだ、あのデブ」
「これでも加減しているよ。次郎坊が
飛び去って、そして偶然か、それともわざとか…君麻呂達はシカマルらの側へと着地し、そして表情を全く変えずにシカマル達を見た。
シカマル達であるが、笛の音が聞こえた途端に心身に異常を感知し、遅まきながら耳栓を装着して何とか事なきを得ていたわけだが、アスマもこの状態で、かつ耳栓をして音という重要な知覚を欠いて、音隠れの4人と戦うという選択肢は有り得ないものであった。
「…く」
シカマル、イズモ、コテツらは、負傷したアスマを庇うように臨戦態勢をとるも、音忍達は見下すように冷たく笑う。
しかし互いに耳栓をしているためか、全員が割と大声で会話しているのはちょっと滑稽である。なんだか締まらない。
「おめーの顔は見覚えあるぜよ。クククク…あの時、サスケ様を取り返そうと追ってきてたガキか。お互い生きてこの歳にまでなれたのは目出度いよな…クックックッ」
「そう怖い顔すンなよ。オレ達は、今回はてめーらと戦えって命令うけてねーからよォ」
「…そちらが仕掛けてくるなら相手をするが……どちらにせよ、僕らには敵わないでしょう?無駄死にする必要はないと思うが」
「そーそー。オレらと一緒に観戦するぜよ」
シカマル達には分かった。
万全の状態で戦ったとしても、勝てるかどうか分からない。
特に、話に聞いていた、あの白髪頭の優男……君麻呂はやはり尋常ではない。そういう気配を纏っていた。
アスマでさえ、交戦を避けろ、とハンドサインでシカマルに忠告する程だ。
「…オレ達も戦う気はねーよ。こっちだって、あんた達が仕掛けてこねーなら、な」
彼らがその気になれば、それこそ1分とかからずに今の自分達は全滅する。
シカマルは、なんともめんどくせーことになった…と頭を抱えながら、仲間の救援を待つしかなかった。
次郎坊と角都…それぞれの分身体が術合戦をするも、土に有利をとれる雷遁で攻めようが、次郎坊は土が得意とする質量攻撃で無理やり対抗し、そこに嵐のような土遁の連打を交えればもはや雷遁・儀暗の有利は消えていた。
(ぐ…!こいつ…これほどの土遁を、こうも素早く連発するとは…!まるで人柱力のようなチャクラ量…!しかし人柱力の情報は既に出揃っている…確実にこいつは違う。ならば、こいつ…鬼鮫に匹敵するチャクラ的素質を持つというのか!?)
角都が疑問に思った時、タイミングを同じくして大鎌で苛烈に攻めていた飛段が膝をついた。
「ハァ…!ハァ…!く…なんだ……!?か、体が…重てェ……!まるでチャクラ切れの時みてーな…―――っ!こ、こいつ…!」
「クククク…よく気が付きました………と言いたいところだが、ちょっと遅かったな」
飛段を掌底で殴り飛ばしながら、次郎坊はいやらしく笑った。
「オレはチャクラ吸収ってのが得意でな。…昔は直接触れるか、土遁発動でチャクラを混ぜ込んだ土からしか食えなかったが…今では、チャクラを足元から流していきゃあ…地続きに敵が触れてりゃそこからチャクラを食えるのさ。…しっかし、飛段さんよ…あんたのチャクラは癖が強すぎるぜ。発酵し過ぎた〝くさや〟と〝ブルーチーズ〟を同時に食ってるみてーだ…」
「あァ!?て、てめー、他人様のチャクラ勝手に食っといてなんつー言い草だ…!文句言うなら返せコラっ!」
「ぅぷ…まず………オェー」
「吐いてんじゃねーよ!!オレのチャクラだぞ!?食ったなら最後まで味わいやがれ!」
角都は素早く飛んだり跳ねたりをしていたから、次郎坊のチャクラ吸収の影響は少なかった。
しかし、地に踏ん張りガッツリと次郎坊と格闘戦を演じていた飛段は、より速やかにチャクラを食われていた。
地続きならば間接的にチャクラが食えるようになった次郎坊は、もっと言えば離れて観戦している仲間達からも、いざともなればチャクラを分けてもらえる事を意味しているし、戦闘中に周囲の動植物からチャクラを吸い取り補給しつつ戦う事さえ可能になっていた。
これに次郎坊の物理的タフさが加わると、恐ろしいまでの耐久戦が可能だった。
「こいつ…飛段のチャクラを食って、即座に補給していたのか…!なるほど、ならばこのチャクラ量にも納得がいく!」
「いくら不死身でも、チャクラ食われちまえば…何も出来ないだろ?」
「こ、この…図体だけの豚ヤローが……!」
とんでもない弾力で斬撃を無効化し、しかも飛段最大の強みである不死性も、チャクラをすっからかんにされてしまっては、もはや死んでないだけの肉人形と同じ。
(オレと……最悪の相性の豚だ…!!!)
飛段の端正な顔が忌々し気にギリリと歪み、角都もまた自分達の不利を悟って、
(攻略しきれん……。元々こいつらと戦う旨味は少ない。無理攻めする必要もあるまい。…………そろそろ時間切れでもある。ここは一旦退くか…――)
と考えていた。その直後であった。
「――っ、がッ!?あ…が…!?」
「っ!!う、ぐ……し、しまった…時間切れ…だと!!?だ、だが…オレの予想を遥かに超えて…早い――!」
飛段と角都がぐらりと揺れた。
角都の影分身も倒れ込み、消え失せて…そのまま角都も膝をついて意識が急速に朦朧とし始める。
「クククク…魔笛・夢幻音殺の音色…気に入ってくれたかよ。本当なら、テメーら程のやり手をウチの幻術に堕とすにはもうチョイかかる。けどなァ…周りを良く見ろよ、まだ見えるんならなァ」
言われて、角都は霞む視界と思考で、多由也の指差す方を見た。
そこには、術合戦のさなか、次郎坊がやたらめったらと土遁で変えた地形群がある。
掠れた目で良く見れば、その土壁達は、どれもが幾何学な凹凸が刻まれていて、確かに普通の土肌ではない。指摘されて初めて気がつけた。それは意図的に刻まれた〝デザイン〟である事は疑いようもない事だった。
(……これは…そ、そうか……デタラメに隆起させていたのではない。あの土遁使い…音を、オレ達に集中するように、音を反射させる土壁を…)
「次郎坊は、ウチの笛の音を理解しきっている。ウチの演奏を最も効率よく響かせ、音を反射し増幅し、より立体的にリアルに耳に届ける…そういう形をしていてなァ……音幻術を進行させるんだよ。腐った低能脳みそでも理解できたかよ?」
つまりは、次郎坊が組み立てた土壁群は、立体音響を演出し、音のはね返りを極点集中させる即席のコンサートホールでもあった。
音幻術の弱点である、〝完全発動まで時間がかかる〟という点を劇的に改善し、しかも副次効果として、音に指向性を持たせる事で敵にだけ演奏を強化し、味方がいる方向には演奏が届きにくくするというものもあった。
角都は圧倒的な戦闘経験を誇るが故の、己の内に確立していた音幻術のセオリーに足元を掬われていた。
「そ、そんな、連携を…既に、していた…のか………相性の良い、ガキ共、だ……――」
そう言い残して、飛段と角都は完全に幻の世界へと旅立つ。
3年間で修行を重ねた多由也の魔笛は、もはや指の1本2本を折った程度では現実への回帰は不可能だった。
暁の飛段、角都は、音の五人衆の2人に完璧に無力化され…後は、この2人を大蛇丸のところまで引きずっていけば任務は完全完了であった。
「はァ!?あ、相性良い訳ねーだろ!!おい、取り消せひじきジジイ!耄碌してんじゃねーぞ!!心臓交換しても脳みそ老いぼれてんなァ!!?クソッ!ウチの幻術世界に完全にイッてんじゃねーぞ、堪え性のねぇ早漏ヤローが!取り消しに戻ってきやがれカス!」
が、そんな達成感などどこ吹く風。多由也は、最後に敵が放った言葉に、大いにキレ散らかしていた。
だが悲しいかな、実際相性は抜群である。次郎坊だけは、多由也の音幻術を至近距離で聞いても、肉遁による〝チャクラ込めの贅肉微振動〟が発する〝多由也の笛の音と逆位相の音周波をぶつける〟事で音幻術を完全無効化できる。これも多由也の笛の旋律を理解しきっているから出来る芸当で、多由也の全力の音幻術を、近距離でサポートできる唯一の人物が次郎坊なのである。
「ハッ!?」と悪寒を感じ、後ろを振り向くとそこには次郎坊がニチャついた笑顔で立っていた。
「相性いいって」
「良くねぇ!」
「でも、御年90云歳のデぇベテラン忍者が、相性いいって」
「耄碌ひじきの言う事真に受けてんじゃねーよ!!離れろ、デブ!」
「……頑張ったのに」
「!?」
「オレ…多由也の演奏が、最高のものになるようにって…隅々までこだわった形状を、半年かけて完成させたのに……オレの土遁・
「ぐ…、そ、そりゃ…まぁ感謝してるが………でも、ウチが頼んだわけじゃねー。そもそも、ウチは1人でも問題なく魔笛を使える。ウチの口寄せ怒鬼だって強くなってるし――」
「…褒美」
ボソリと次郎坊が言った。
「ハァ!?んだよ、褒美って!!調子にのるんじゃねーぞ、このデブが!!」
「ご褒美…」
「死ね、カスヤロー!!」
「ご褒美……――」
2mを越えるはずの巨体が、がっくりと肩を落として、まるで小犬だった。
耳と尻尾が垂れ去がっている小犬の姿が、次郎坊の巨体に重なって見えるほどに。
だからだろうか…余りにも哀れで、そして…長年、この次郎坊に体を好き勝手弄られて、女としての悦びもある程度知ってしまっていて、まだ一線は次郎坊に越えられてはいないが、それでも体は大分熟していて、ぶかぶか気味の音忍の忍装束と、そしてきつく巻いたサラシで誤魔化しているが多由也の体は雌を主張してやまない。そんなはしたない体に、次郎坊如きに育てられてしまった実感は僅かにあったし、今はあの〝暁〟を破って勝利したという、勝利の美酒の余韻の昂りがあったのもある。
何より、次郎坊とのタッグ技である、この〝笛の音の反響を操作する技〟 ――次郎坊曰く『併せ忍法・〝魔奏犯響・
「ぅ……………………………………じゃ、じゃあ…ちょっとだけ…触っていい、ぜ。一応、感謝も…してるし…」
「っ!!??」
「か、勘違いするんじゃねーぞ!!?…い、一分だけだ。あと、絶対触るだけだからな…!服の中も、ぜってー許さねー!!服の上からだけ、い、一分…許可して、やるよ」
次郎坊、我が世の春が来た。
言ってみるものである。
普段から一分といわず触りまくっているだろとか言ってはいけない。こういうのは、〝多由也が自発的にお触りを許可した〟という事実が大事なのだ。これは歴史的な一歩前進なのだ。
まるで、元々の運命で、チョウジwithトンガラシ丸の全力パンチを受けた時のような昇天寸前アヘ顔で歓喜していた。
「多由也のやつ、押し切られたぜよ」
「あぁ…こりゃ、とうとう春が来るか?…クククク」
「やれやれ、音の五人衆ともあろうものが……締まらぬ最後だ」
観戦していた鬼童丸、左近、そして君麻呂は、それぞれが勝手な感想を言い合った後、シカマル達をチラリと見た。
シカマルらは相変わらずに臨戦態勢だ。
「…もうじき君達の増援が来るみたいだよ。………フフフ、今日は大蛇丸様のご厚意に感謝しておくんだな」
「大蛇丸様が、お前らとは交戦するなっつーから、見逃してやるよ…」
「まぁ、でも…次会うときはどうなるか分からんぜよ。じゃあな、クソヤロー共」
じゃあな、と誰かが言った瞬間、音の五人衆は煙をドロンと焚いて掻き消えて、直後にはもう誰もいなかった。暁の2人もだ。
そして、その数秒後に、遠くから「おーい!」と呼ぶ女の声が聞こえてきた。
シカマルの良く知る女の声……猪鹿蝶の、山中いの の声に相違なく、直ぐに彼女達仲間の姿も視界に入った。
ライドウとアオバ、そして無二の親友チョウジもいた。
今まで張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
シカマルは、腹の奥深くから息を「はぁ~~~…」と吐いていた。
「ごめん、シカマル…遅れた!」
「途中に、地面に隠されてた、とんでもなくデカい蜘蛛の巣状のチャクラ糸に足を取られたんだ…!」
「〝暁〟共のトラップに引っかかったと思って焦ったが…無事で良かった。遅れた事は弁解のしようもない」
「アスマ…良かった、生きていたな」
「無事なもんかよ、ライドウ……腹も割かれたし火傷もジュージューだ……焼き魚の気持ちが理解できちまった。…シカマル…タバコ、とってくんねぇか?」
「…へへ、いいんすか禁煙は」
「こんな怪我負うぐらい頑張ったんだから…ご褒美だろ」
シカマルは、こうして軽口を叩ける事を心底ありがたいと思いながらも心で悪態をついた。
どう考えても、チョウジ達が引っかかったトラップは、音の五人衆が張り巡らせたものだ。
おおかた、暁との戦闘を邪魔されたくないが故だろう。
先のことを思うと、音の忍達がこれ程の脅威へと成長したのは心の底から厄介だと思えた。
だが、今はあのフザけた旧敵達に感謝しなくてはならないと、シカマルはそうも思った。
こうして恩師と笑い会えるのだから。
ちなみに、次郎坊は〝一分、服の上からのみ〟という約束を守った。
もっとも…ディープキスは約定違反にならぬと言い張って、そいつをしながら…であったが。