同じく、変態の次郎坊   作:イチャパラで優勝していくわね

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ナンバー7 小南vs黄金コンビ(昼の部)、次郎坊vs多由也(夜の部)…!!

もうじき第四次忍界大戦が始まりそう。

カブトの大蛇丸化もどんどん進んでいるらしく、非常にきな臭くなってきた。

世間はクライマックスに向けて突っ走っている感マシマシであったが、果たしてこのまま最終決戦に突入していいのか。いや、よくない(反語)。次郎坊には一点不安があるのだ。

それは、本来の運命とちょっと違う動きと出来事がありすぎて、このままではナルトとサスケが一致団結してカグヤに勝つ…という展開にならない可能性があるのでは?という事だ。

次郎坊のせいとも言う。

彼が、自分と多由也と友人達の快適な生活を優先し過ぎた結果、あれよあれよと歪みが大きくなった感マシマシであった。

それにだ。カグヤとマダラとの最終決戦は、千手柱間・扉間兄弟レベルが横行する理不尽な戦場であり、主要な味方メンバーは殆ど戦死しなかったが、自分(次郎坊)のような役割を終えたある程度の実力のある完全な味方でもないキャラなんぞ、戦死するに好都合な感じではないか?と、この運命であるかないか分からぬ大人の事情まで考えてしまっていた。

下手をすれば、音の七人衆全員がマダラやオビト、カグヤの噛ませ犬として死ぬ可能性大。極めて大。となると、自分の命も大事だが、多由也が死んでしまう可能性が高い。それは何としても防がねばならなかった。決して、カブトに吸収されて髪の毛乳首隠しで演奏なんて痴態を多由也にさせるわけにはいかないのだ。

次郎坊は無い知恵を捻り出して考えた。

多由也の痴態を想像し、暴れん坊になった暴れん棒を「ぬふぅ!」と扱いて雑念を消し、大賢者次郎坊モードとなって思考し続けた、その結果は…

 

「長門の輪廻眼を、オビトに渡さなきゃいいのでは?」

 

というものだった。

輪廻眼が無ければ、オビトが十尾の人柱力になるのも無理だし、マダラの復活をするのも不可能となる。穢土転生なら可能だろうが、穢土転生体は人柱力になれぬのだからカグヤ復活はできない……というウロ覚えの記憶が次郎坊にはある。

今頃は、長門と弥彦の墓の墓守を小南がやっているはずで、そこに輪廻眼目当てのオビトが雨隠れに来襲し、小南とオビトの決戦となる……はずだ。

その戦いで生まれたのが、6000億枚の起爆札という超パワーワードであり、角都が頑張って管理していた暁の営業資金を小南が横領して起爆札買い漁っていたとか、毎夜せっせと小南が頑張って起爆札作っていたとか、色々な都市伝説が生まれたわけである。

次郎坊が輪廻眼を入手すれば、それはつまり大蛇丸が輪廻眼を手に入れるという事だ。別に、小南から分捕った時点で輪廻眼を潰してもいいが、何で潰したのか、と問われた時にきっと自分ではろくな言い訳を吐けないだろう。次郎坊はそこまで自分を過信していない。

輪廻眼を手に入れた大蛇丸が、今は消えた野心の灯火に再点火させないとも限らないが、大蛇丸が再び野望を抱いて動き出したところで、次郎坊は痛くも痒くもないのだ。

オビトやマダラの無限月読に比べたら、大蛇丸の野望なんて〝全ての術を極める〟とか〝全ての真理を解き明かす〟とか〝完全なる不老不死を得る〟とか〝気に食わないヤツを潰す〟とかなわけで、彼の腹心の部下である自分達には大きな被害が及ぶものではない。…多少の無理難題くらいは突きつけられるかもしれないが。

しかしよくよく考えれば、「…既に殆ど達成してないか?」とも次郎坊は思うわけで、やっぱり輪廻眼を大蛇丸に渡したところで、これで「私が天に立つわ!私が全てのコトワリを書き換えてやるんだから!」とかなるとも思えず、「やだ~なにコレ面白~い!♡」(次郎坊の脳内イメージ)とかキャピキャピ実験しまくって、ちょっと他人とか他里つかって実験結果を被害込み込みでお披露目する姿がまざまざと瞼の裏に浮かんでくる。うむ、自分達に被害はないな、と次郎坊は改めて確信できた。

 

「というわけで、大蛇丸様。長門の輪廻眼の所在を調査しに行ってよろしいでしょうか。大蛇丸様も、ちょうどダンゾウの写輪眼を手に入れ損なったわけですし」

 

チャンスですぜ、へへへ、といかにも三下チンピラの如くゲスに笑う次郎坊。

どう見ても次郎坊流ジョークと看破し軽くスルーの大蛇丸は、む…と唸っていた。

 

「……輪廻眼、ね」

 

写輪眼に対する執着をある程度克服し、比較的落ち着いた雰囲気となっていた大蛇丸だが、さすがに輪廻眼と聞いては目の色が変わる。

 

「うずまきナルトは、長門の輪廻眼には手を出していません。遺体は小南へと引き渡され、雨隠れの秘密の墓所に輪廻眼ごと埋葬されている……と、オレは確信しました」

 

「確かに…おまえの情報収集力と〝予言の力〟は私も評価しているわ。けれど…小南も、輪廻眼の価値は充分理解している。場所も厳重に秘匿されているでしょうし、小南も死に物狂いで抵抗してくるはずよ。勝算はあるの?」

 

「ございます。小南は優れた忍ですが、オレの丈夫な体を殺し切る火力がありません。非力な小娘です。ナメナメ小娘です。オレのパワーとタフネスで押し切ります」

 

「ハァ……ようはゴリ押し?確かにあなたならそれで勝てるかもしれない。でも、小南を倒したところで、墓所の情報を得なければ輪廻眼には辿り着けない。それはどうするの?」

 

「…………差し支えなければ、優れた幻術使いをオレにお貸し下さい。そうすれば、小南を無力化したあと、幻術をかけて情報を引き出します」

 

「ハッキリと最初から言いなさい。ようは多由也と二人旅したいってわけね?」

 

「大蛇丸先生……!多由也といちゃいちゃ新婚旅行したいです……」

 

「誰が先生よ。その言い方、背中がむず痒くなるから止めなさい。殺すわよ」

 

さーせんしたっ、と綺麗な土下座を決める次郎坊を、いつもの事のように呆れ顔で見つめつつ溜息をつく大蛇丸。平常運転である。

 

「まァいいわ。多由也とのコンビなら、余程の事にも対処出来るでしょうし…小南も、彼女の幻術には抗えないでしょう。……許可してあげる」

 

あまり期待しないで待っているわね、と大蛇丸は白けた顔で次郎坊を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、多由也は絶賛不機嫌である。

 

「なんでウチが、てめーなんぞと二人旅を…!ありえねー!マジでありえねー!!大蛇丸様も何考えてんだ…チクショー!」

 

「いやぁー、人生って素晴らしい。まさか許可がおりるなんて」

 

次郎坊は1人で雨隠れに乗り込むつもりでいた。その覚悟はしていた。

多由也についてはダメ元でお願いしてみたのだ。

 

「クソ…っ、いいかデブ…ウチの3m以内には近寄るなよ。常にだ!イカくせー童貞ヤローが、この任務期間中にワンチャンイケるかもなんて淡い夢抱くンじゃねーぞ!いいか!!」

 

「え?オレが、ワンチャン何をイケるって?具体的にどんな淡い夢なのか、ちょっと詳しくオレに説明してくれ。でないと、オレもどんな夢持っちゃいけないのか分からないし」

 

「はっ?……あー…だ、だから……てめーがウチと…………――――~~~~~っ、なんでウチがそんな説明しなきゃいけねーんだ!てめーで考えろ、ゲスチンデブヤローが!」

 

次郎坊の尻に、多由也のヤクザキックが何度も炸裂する。

自分から3m以内に入ってきた。

多由也のいい匂いまで漂ってくる距離であり、罵詈雑言が心地よい。

 

「ぬっ」

 

「っっっ!!!だから!!それやめろォ!!この変態木偶の坊ヤロー!!」

 

ぬっ、と次郎坊が唸る時、次郎坊は悟りを開いたような顔となってイカ臭くなる。股間ももっこりする。

多由也は、濃厚な次郎坊のこの匂いを嗅ぐと、自分でも分けのわからぬ興奮に陥るのを最近は自覚していた。

だから何度も何度も全力キックをいつも見舞う。

紅潮してくる頬と、荒くなる呼気を、次郎坊への怒り故の事だと自分に言い聞かせて、疼く何かを暴力で晴らすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?どーすんだ?まずは小南を探さなきゃなんねーんだぞ。あてはあるのか?」

 

雨隠れに潜入し、スラム通りの蕎麦屋で軽食をとっている次郎坊と多由也。

潜入といっても、多由也はともかく次郎坊の体躯は、はっきりいってちょっとした人外である。

2m50cmの巨体は、地味なレインコートに身を包んでいても目立ちまくりであった。

しかしこの2人、ペインが健在ならいざ知らず、今となってはこの雨隠れにおいて自分達は狩られる弱者ではないと自覚しているからか、最初から身を隠すつもりもあまり無かった。

堂々と蕎麦をすすっていて、テーブルの次郎坊側には食い終わったせいろが山となって積まれていた。

 

「……ズズズズズッ――――うむ。あては…ない」

 

「ズズズズズ―――ねぇのかよ!?じゃあどーすんだ」

 

「オレのチャクラ吸収をフルパワーで発動させる。里の中心でな………ズズズズズズッ――」

 

「…はーん、なるほど……そうすりゃ、この里を守ってきたリーダーでもある小南は炙り出せるかもな……いい手かもしれねー。……ズズ、ズズズズ――」

 

次郎坊は、味方…とくに多由也に対してはゲロ甘だし、見知った人物にも比較的優しい。

敵対していようと命を助けようとするぐらいには慈悲もある。

だが、必要とあれば無辜の民でも女子供でも殺せる。それはきっと、かつて大蛇丸の危険な実験によって、おかしな人格・記憶と交じる前の自分の危険な一面の残滓であろうとも次郎坊は思う。

その結果が、〝仲間や好意的人物には甘く、敵やターゲットにはどこまでも非情になれる男〟の完成に繋がり、〝音の七人衆〟にも伝搬していた。

つまりは今の大蛇丸に皆似ていてるということで、大蛇丸の弟子であり音隠れの精鋭達である事の証左といえた。

 

腹拵えも終わって、次郎坊も多由也も人心地ついて、そして食後のデザートでも食べるか、というような気軽な雰囲気でそれは始まった。

 

「じゃーやるか、次郎坊」

 

「おう」

 

おもむろに立ち上がった次郎坊は、あんぐりと大口を開けて、そして深く深く、大きく息を吸うようにして「コオォォォォォォォ」という不気味な呼吸を響かせる。波紋の呼吸ではない。もっと忌々しいものであった。

 

 

 

 

 

――魂吸(ゴンズイ)――

 

 

 

 

世間が大激動を続ける中、次郎坊はなにも自来也蘇生実験を手伝っていただけではない。

自分が死なぬため、大切なものを失わぬために自己研鑽を続けていた。

その結果の一つがこれ…〝チャクラ吸収のさらなる強化〟である。

たいしたチャクラ制御技術を持たぬ一般人、実力不足の下忍程度が相手ならば、周囲数kmにわたってチャクラを()()()()無差別吸収できる。無論、草木や動物からもだ。

恐ろしい技であった。

そして当然、某死神ジャンプ漫画リスペクトのパクリ技である。同じ巨漢キャラとして自分にも似合うと思い、チャクラ吸収スキルを魔改造したわけだが、その結果『佇む美少女と、ダイナミックなインパクト技を行う巨漢キャラ』というなんとも絵になる構図に次郎坊は自画自賛。うーんオレかっこいいと酔いしれていた。

しかし魔改造といっても、一定の実力がある者からは、今までのように地続きか、直接触れるかの接触型でなければチャクラは吸えない。

それに接触型に比べて、吸収速度も魂吸は劣っていて、つまりは『魂吸 < 地続き接触吸収 < 直接接触吸収』という吸収速度となるわけだ。

一長一短であったが、敵をふるいにかけるには便利だし、こういう場面でも役に立つ。

蕎麦屋の店員達が、まるで貧血にでもなったかのようにくらりとし、ふらつく。

他の客もだ。

そして、店の外をゆく人々も。

段々と足元がおぼつかなくなり、壁に手をつき、ふらり、ふらりとまた1人、また1人、歩みを止めて膝をつき、ぐらりと倒れる。

 

「だ、誰か…人を呼んでくれ…」

 

「な、なにか…おかしい」

 

「あ、ああ…しっかりおし…坊や、し、しっかりして…」

 

「ううう…急に、体に力が、入らなく……」

 

「おかあさん…う、う…たすけて……からだ、おもいよう」

 

バタバタと人が倒れていく。

倒れぬのは中忍レベル以上の者達だ。

 

「おー、雑魚が全員ぶっ倒れてよく見えるな。……見える範囲でざっと20人。ククク…クソ弱小国の雨隠れは人材不足みてーだな。数も少ねーし、どいつもこいつも雑魚の虫けらヤローみてーな面してやがる」

 

ケタケタと笑いながら、弱者が倒れゆくのを見ている多由也は心底楽しそうであった。

だが、あくまで緊急事態を起こして小南をおびき寄せるつもりなだけである。無力な住民が昏倒する程度に吸い取っているだけで、余り殺さぬよう心掛けてはいる。もちろん、大蛇丸からきちんと息の根を止めるよう命令されれば殺すだろうし、今も、「うっかり吸いすぎてしまったり、元々体が弱っていたりして身体エネルギーが減っているようなヤツは死んじゃうだろうが…その時はスマン」という乾いた感情は持っていたが。

 

突如発生した、こんな異常事態のさなかで、明らかにチャクラの流れを自分に引き寄せている大柄な男と、そしてその横で笑っている女。

未だ立っている実力者たる忍達に、あっさりと見つかるのは当然だった。

 

「貴様らか!この事態を引き起こしたのは!」

 

「半蔵一味の残党か!!?」

 

「被害が広まっている!すぐにこの術を止めなくては…!殺せ!!」

 

雨隠れの忍達が直ぐ様集い、そして殺気立って襲ってくる。

 

「本命が来るまでウチが遊んでやる……来いよ、カスヤロー共」

 

多由也が凶悪に微笑むと同時にドロンと煙が立ち込めた。

次郎坊を越える巨体を誇る口寄せの鬼共が3体…そのどれもが異形であり、不気味極まる醜悪な鬼であった。

多由也の笛の音が奏でられると同時に、3体の鬼は眼にも止まらぬ速さで虐殺を開始した。

寄ってくる忍達にろくな抵抗も許さない。

笛の音と、そして雨隠れ忍達の悲鳴が辺りに響き渡った。

そんな一方的な蹂躙が1~2分程続いた時、凛とした女性の声が雨に紛れて空から響く。

 

「やめろ!なぜこの雨隠れを襲う!」

 

無差別のチャクラ吸収と、鬼達による虐殺がピタリと止まった。

次郎坊と多由也が雨空を見上げる。

そこには紙の羽を広げた天使が如くの美女が浮かんでいた。

 

「いよぉ、暁の小南さん……いつぞや以来だな」

 

「お前達は………自来也先生との戦いに乱入してきた、大蛇丸の狗…!」

 

「御名答。ウチの名は、北門の多由也」

 

「同じく、変態の次――――ハッ!?」

 

その時、次郎坊に電流走る。

隣の多由也から殺気とは違う、酷く冷たい絶対零度の気配が伝わってきた。

 

――つまらねー事はやめろ。空気読め。わかってるよな?ウチはかっこよく決めてーんだよ。

 

そういう永久凍土が如きの視線。

いっそ殺気や嫌悪感が込められた視線のほうがまだ良い。

次郎坊は襟ただし、キリッとした表情になった。ならざるを得なかった。そして言い直した。

 

「同じく、南門の次郎坊」

 

多由也は次郎坊を見て、実に満足気にニッコリ笑って、そして直ぐに小南に悪辣な微笑みを向けた。

 

「ウチらは大蛇丸様の命により参上した。……暁の小南。ペインの輪廻眼をウチらに寄越せ」

 

そうすれば命だけは助けてやるぜ、と多由也は上から目線たっぷりに言った。

小南の表情が歪む。

 

「マダラよりも先に、大蛇丸に勘づかれるとは……つくづくヤツの耳は広い。あいつが暁を裏切った時点で、全力で殺すべきだったようね」

 

「ククク、そう思うぜ?大蛇丸様以上に厄介でしたたかな御方はいねーよ。大蛇丸様を甘く見た時点で……てめーら暁の終わりは決まってたんだよ。こんなチンケでカビくせー雑魚国家でふんぞり返ってるビッチババアが。てめーのサゲマンでたらしこんでた男共全員おっ()んじまったなァ?ペインがいなきゃ、てめーなんぞウチらの敵でもねー」

 

「…っ」

 

小南が愛する雨隠れと、そして遠回しに長門までも貶めるような多由也の毒ある言葉に、さしもの小南も瞬間的に頭に血が上りそうになる。

それは一瞬のことで、隙とも言えぬ程の些細な感情の揺らぎだった。だが、その刹那を隙として突けてしまう程に、この音のコンビの実力は高かった。特に、次郎坊は。

 

(――…!巨漢(デカブツ)がいない!)

 

多由也の口寄せ怒鬼達に紛れていた巨漢の忍がいなくなっているのを、小南が瞬時に察した。と同時に背後から重たい衝撃が小南を襲う。

 

「ぐッ!!?ああああああ!!!?」

(あの巨体で…何というスピード!!)

 

小南の式紙の舞発動よりも速く、次郎坊の巨体は空中にいた小南の背後に回り込んでいて、そしてその剛腕が彼女に直撃していた。

高速で落下していく小南を、多由也が悪辣に笑って出迎えた。

 

「ナイスパスだ、次郎坊!」

 

多由也の死の旋律が奏でられる。

3体の怒鬼のうち、巨大な金棒を振り回す〝棍〟が、落下してくる小南を見据えて金棒を両手で握りしめ、構える。

まるでピッチャーの球を待ち受けるバッターのごとくであり、実際、多由也はそのつもりでゲーム感覚ですらあった。

不気味な唸り声をあげながら、怒鬼がフルスイングで小南を殴り飛ばす。

 

(ホームランだぜ…!)

 

笛を吹きつつニヤつく多由也だが、吹き飛ぶハズだった小南が次の瞬間には紙となって散って消えると、すぐにニヤつきを消す。

 

(変わり身…!?いや、あれは次郎坊の言っていた紙分身だ…!)

 

小南は多由也の背後に現れていた。

分身と、式紙の舞と、瞬身の術とを組み合わせた高速の回避術。

並の上忍ならばこれで終わる程の鮮やかな背後取りだが、無論のこと多由也は並の上忍ではない。大蛇丸が自慢に思うほどの超精鋭のくノ一であり、君麻呂と双璧を為す次郎坊に日夜セクハラを受けてそれに抵抗しようと試みるうちに体術も感知能力も抜群に成長させていた。

 

(ウチの背後…!)

 

笛を奏でつつ、後ろ回転蹴り。

 

「あぐっ!?」

 

小南の脇腹に鋭く刺さり、妙齢の美女の顔が苦悶に歪んだ。

 

(こいつら…、デカブツは見た目通りのパワーと、そして似つかわしくないスピード…!そして…女のほうは、見た目通りの速度と、似つかわしくないパワー…!外見に釣られるなんて、私もまだまだね…!)

 

そんな彼女を押しつぶすように、間髪を容れずに残りの怒鬼、〝縛〟と〝爪〟が重量を活かしてのストンピング攻撃。

大通りの舗装道路が砕け散って、ちょっとしたクレーターが出現したが、そこには小南の姿はない。

 

(…チッ、外した。チョロチョロと速ェ雌ネズミが)

 

しかし、今度の回避術はそう上手くはいかなかった。

小南が次の地点に出現した時、それと全く同じタイミングで彼女の眼前に巨体が現れていた。

 

「っ!?な…!!」

(やはり、速い!!)

 

「捕まえたぜ、小南さん」

 

次郎坊の大きな掌が小南のやわな首を掴み、そのまま一気に彼女をビルのコンクリートへと縫い付けた。

怪力によってミシミシと音を立てる首。

だがそれだけでなく、小南は自身のチャクラが急速に萎んでいくのが分かった。

 

(チャクラを吸われている…!?それも、こ、こんな高速で!!マズい…!マダラ対策の〝神の紙者の術〟も、この街中では……!)

 

彼女が自身の能力もフルに活用して用意した6000億枚の起爆札。

それら殆ど全てを、既に雨隠れ外縁部の近海に紙変化で仕込んでしまっていた。

今彼女がすぐさま使える起爆札はざっと100枚。

 

「ぐ…ぅ…!」

(だが100枚もあれば、人一人を爆殺する程度容易い…!)

 

小南の指先が動く。

それに従って、彼女のコート内に仕込んでいた起爆札がするりと抜け出て、次郎坊の背に猛烈に殺到した。

 

「おお!?」

 

「……死、ね…っ」

 

次々に爆発が起きた。

次郎坊の巨体が盾となって、小南には爆発の威力が直接的には及ばないが、それでもこの至近距離では衝撃は大きい。

小南も少なくないダメージを負うが、これで敵1人を確実に葬れるなら安いダメージだ。小南はそう思っていた。

もうじき、自分の首を締め付けるこの掌も、力無くだらりと垂れさがる。

チャクラ吸収も、じきに終わる。

 

爆破は続いている。

 

起爆札を次々に操り、衝撃に身を削られながらも小南は意識を失わないようにしながら、連続爆破を実行する。

だが…。

 

 

 

――ミシ、ミシミシ…

 

 

 

自分の首を締め上げる怪力は一向に緩まない。

 

「…っ!?な、ぜ…!!」

(まだ、死なないの!?まだ…私の、首を…締める力は…っ、チャクラを吸う速度は…っ、全然、衰えない!!!)

 

小南の意識がぐらりと暗転しかけた。

呼吸が阻害されている。

チャクラが枯渇しかけている。

 

それでも小南は次々に起爆札を次郎坊の大きな背中に貼り付けて爆発させているのだ。

だというのに、やはり次郎坊の腕に込められている力は全く変わらない。

動じていない。

 

(バ、バカな……!?これで…100枚の、起爆札は……全部、爆破させた、のに!)

 

直接貼り付けて100枚を連続爆破した。

だが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがにかなり痛えな…!」

 

爆煙が風と雨に流されて、姿を表したのは…少しの火傷と煤で体を汚した巨体。

次郎坊は痛みに震えながらも、やせ我慢のぎこちない笑顔を作っていた。

やせ我慢出来てしまうレベルで、起爆札を耐え凌いでいた。

それも実態透過だとか、神威だとか、時空間忍術で凌ぐのではなく、物理的に踏ん張ってただ耐えただけであった。

無論、肉遁による弾力や振動で爆発の威力を散らして抑え込んではいたが、それでも頑丈さで凌いだという事実は変わらない。

そして次郎坊の笑顔とセリフは、もちろんあの念能力バトル漫画リスペクトである。

次郎坊、リスペクト(パクリ)だらけの男。恥をしれ恥を。

 

小南の美貌が驚愕と絶望に染まる。

 

「ばけ、も、の…っ」

 

「クククク…酷い言われようだ。…小南さんよォ…あんたのチャクラ、美味かったぜ?そう…例えるなら、それは熟しながらも品の良いワイン…花のような香りとフルーティーな味わい。超飲みやすい。グビグビいける」

 

小南の残り少ないチャクラを、ほんのちょっぴり残して吸いきってやると、小南は意識朦朧となってとうとう抵抗は終わり、そして次郎坊のチャクラ品評会なんざ誰も聞いちゃいねーのであった。

 

「多由也」

 

「おう、あとはウチに任せな」

 

促されたと思い、多由也は笛を奏で始めるが………次郎坊は、チャクラ品評会についてコメントを求めていた。次郎坊はちょっと寂しそうに「ふっ…」と笑っていた。背中は煤けていた。

朦朧とする小南の耳に、美しく幻想的な笛の音が響く。

その旋律はゾッとする程に美しく、そして抗いようのない魅力であった。

やがて小南は音色に溺れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」と元気に帰ってきた次郎坊と多由也。

大蛇丸も、「あら、お帰りなさい」とか言いながらおっかさんオーラを漂わせながら出迎えていた。そして、2人が持って帰ってきた土産に目を丸くする。

 

「まさか…本当に輪廻眼を手に入れてくるなんてね」

 

特別な容器に入れられた目ん玉二つ。

特徴的な五重丸、六重丸、七重丸…とにかく丸がいっぱいの、グルグルおめめな眼球。

どう見ても輪廻眼だ。

大蛇丸は、ほぅっと熱い溜息をついて眼球に見入っていた。

 

「素晴らしい……素晴らしいわ。……次郎坊、多由也…よくやったわァ!傷一つない、完璧な状態の輪廻眼よ!」

 

歓喜する大蛇丸。

彼にとっては輪廻眼への喜びが全てであり、次郎坊達が持ち帰ったもう一つの〝土産〟については既に余り興味がない…というふうであった。

 

「小南…どうします?大蛇丸様」

 

「え?ああ、そうね。適当に後で実験するか洗脳しとくわよ。飛段と角都の横のポッドが空いてるからぶち込んどいてちょうだい」

 

「暁コレクション、この調子でコンプリートしたいっすね」

 

「もう半分以上死んでるでしょ…コンプリートは無理ね。それにこんな奴ら、もう別にどうでもいいわよ」

 

折角持ち帰った小南だが、大蛇丸のこの投げやりな態度である。

次郎坊はちょっと悲しくなった。

そして多由也は上機嫌に笑った。

 

「だから言ったんだよ。殺してバラして海に捨てりゃいいってよ。……てめー、大蛇丸様はきっと喜ぶ、とか何とか言ってたが………………―――ひょ、ひょっとして………やっぱし、てめーの好みの女だったのか、そいつ

 

後半、多由也の声が不安気に揺れて小さくなっていった。

しかし次郎坊はきっぱり言い切った。

 

「バカな!!オレは多由也一筋だ!!!今回の二人旅だって、帰りにあんだけ多由也とイチャイチャパラダイスしていたのに何故オレを疑う!!!」

 

「っっっ!!!!ばっ、バカ!!!?デカい声で言うンじゃねーよ!!!!イ、イ、イチャパラなんざ、してねェし!!!」

 

鬼童丸も左近も君麻呂も重吾も、へー、という顔で二人のやり取りを眺める。

一見、いつも通りのように見えるやり取り……しかし、付き合いの長い彼らは見抜いていた。()()()を。

匂う、匂うぜ、と左近がニタニタと近づいてくる。

 

「で、二人はもうヤッたのか?」

 

本番まで行ったのか、と聞いている。

左近は指で丸を作って、そこに人差し指差し込んでストローク。実にストレートなハンドサインである。

 

「おお皆、喜んでくれ!とうとう―――」

 

「ヤッてねェ!!!こんなエロいだけの豚くせーデカチンヤローとヤるわきゃねーだろ!!!!」

 

「へぇ?デカチン…?ほー?…見た事でもあんのかねェ?はっはーん……なるほどねェ…。……なんか今日の多由也、豚臭くねェか?豚臭いっつーか、次郎坊の体臭っつーか?」

 

「ククク…オレの攻略眼をもってすりゃ分かる……それに加え、さらに歩き方がぎこちねーぜよ…!」

 

「ふむ…確かに体幹がいつもよりブレているな」

 

鬼童丸に続いて、いつもは我関せずを決め込む君麻呂までもが話題に加わってきた。

 

「…多由也の内側から次郎坊のチャクラを感じる」

 

重吾も加わってきた。

 

「なっ、な、な、な、なわけねーだろ!!?てめーらの目は節穴かよ!!!低能のゲスチンヤロー共じゃしょーがねーかもな!?全然ハズレだ、カス共!こんなキモい変態デブとヤる女なんざいねェんだよ!この世には!!」

 

多由也の声は少々上ずり、顔は何故か真っ赤で、そして動揺著しい。眺めている次郎坊は、そんな多由也が心底かわいいと思ってによによしていた。

ニヨニヨして、そして道中の()()()を思い出し、思い出す度、嬉しさ悦び歓喜絶頂は天を突き抜けて正気を削っていく。

 

「ひどい!多由也…そこまで言わなくていいだろ!オレで…処女捨てたくせに!」

 

だからか、ヨヨヨ、と泣き崩れる真似をして余計な事を暴露した。多由也は激怒した。羞恥心も大爆発した。冷静な思考など出来ぬ。このドスケベ悪逆で乙女心を逆撫でするクソデブを裁かねばと決意した。

 

「てめーもウチで童貞捨てたくせに何言ってやがる!!ブッ殺すぞ、このエロデブが!!!」

 

叫びつつ、瞬時に状態2へと変化し、久々のマジパンチが次郎坊の脳天に炸裂していた。アジトの床が割れ、クモの巣状に亀裂が広がりクレーターが生じる。

愛あるパンチは防げない。

次郎坊は、常日頃そう言っているように、どうも多由也からのアタックはオートで肉遁解除してしまう癖があるようだ。

次郎坊…バタフライチョウジにやられた時のアヘ顔のまま撃沈した。完璧なる撃沈であった。

 

そしてその瞬間、多由也は「あ…」と呟いて氷つき、そして段々とその顔は赤の濃度をこれでもかと濃縮して濃度500%くらいの真っ赤になって、特徴的な三本筋の入った帽子からは、羞恥の煙がぷしゅーーーーっと吹き出す。

音の七人衆は、全員が「ほぉ…」と呟いて、そして鬼童丸は非常にムカつく笑顔のまま六本腕で拍手し、左近はわざわざ右近の顔を向かい合わせに生やして、「おい聞いたか?」「あぁ聞いた聞いた…お熱いねェ」とか言い出して、君麻呂は呆れたような溜息をついてから微笑み、重吾は嬉しそうに「おめでとう!」と純粋に祝福していた。

誰も次郎坊の心配なぞしちゃいなかった。

タフなデブだし大丈夫だろうと誰もが確信していた。

 

「あらまァ…フフフフ。そう……でも、忍びたる者、忍の三禁は守らないといけないわよ?結婚前の体液交換は感心しないわねェ…。細胞の一欠片からさえ血継情報は抜き取れるのだから」

 

大蛇丸まで言い出した。しかも身も蓋も無い言い方で。

多由也の目は泳ぎまくっていて、それはもう動揺が痛いほど伝わってくる。

普段はあんなにも勝ち気で、圧倒的なまでに強気なくせに、こうなるとダメねぇ…と大蛇丸は心底で微笑む。

 

「まァ、でも私の管理下にあるあなた達なら別に大丈夫かしらね。子が出来ても面白そうだし。……次郎坊、多由也、紆余曲折あったけど交尾おめでとう」

 

言い方ァ!と誰もが思っていた。

まぁとにかくコレで騒動は終わりかと誰もが思っていたのだが、空気の読めないバカはまだいたらしい。

攻略大好き考察大好きゲーム脳な鬼童丸は、なぜ今回に限って多由也が次郎坊に攻略されたのか、それが非常に気になっていた。ずっとブツブツと考察し続けていたのだ。次郎坊と長年バカやっていたせいで、頭の良いバカになってしまっていた。そしてそんな頭の良いバカな彼は、己の考察を口に出して披露しだした。

 

「…なるほど。つまり、次郎坊が敵ながら美女である小南を殺さず拾って帰ったことで、ひょっとしたら年上美女が好きなのか?とでも焦った多由也が、とうとう一線越えを許しちまったと―――ゲボッ!!!?」

 

さっきよりは多少手加減された多由也の状態2パンチが鬼童丸の腹に炸裂していた。

 

「バカかあいつ…」

 

左近の呟きが虚しく響く。

今日も音隠れは平和だった。

今夜の音隠れディナーは御赤飯であった。

 

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