同じく、変態の次郎坊 作:イチャパラで優勝していくわね
「…小南が、いない………どこにもいない………………………」
自称マダラことオビトは悲嘆に暮れていた。
ゼツによる「長門の死体は、輪廻眼ごと小南が隠した。小南ならば、確実に隠し場所を知っている」という調査報告があって、オビトは直ぐに雨隠れに向かった。だというのに、そこにはもはや小南はいなかった。行方知れずになっていた。
ペインによる木ノ葉襲撃の顛末を見届けたゼツが、帰還するまで凡そ1日と半。その期間を狙ったかのようにして
それでも輪廻眼を回収しようと頑張ったが、やはりというか無理だった。
過日の、次郎坊による雨隠れ襲撃事件は、その存在全てが無かった事にされており、オビト、黒ゼツでさえその襲撃事件があった事さえ知る由もない。どれだけ調べても、音隠れのオの字も出てこず、寧ろ「あぁ、天使様なら木ノ葉へ講和の使者として向かったよ」とか「いやァ、岩隠れに向かったって話だぜ?」とか「お怪我を負ったペイン様の治療の為、湯隠れの里へ湯治に行ったって噂だ」などの情報が入り乱れて捜査はどん詰まりであった。
それは何故かというと、まァ当然の如く次郎坊のせいだ。非常に念入りに音隠れの存在を秘匿した。極めつけは多由也の音幻術であり、あの辺り一帯の雨隠れの人々を記憶操作してしまっていた。
オビトはすごすごとアジトに帰るしかなかった。
そんなこんなで、輪廻眼無しの最終決戦を強いられる。かわいそうである。
五里同盟が想定よりずっと早く強固に成った理由も、助けてやったサスケが暴走して五影会談を襲ったからだ。サスケは誠に自分勝手でオビトの言うことなんか聞いちゃくれない。かわいそうである。
それでも白ゼツの成り済ましゲリラ戦術で、忍連合の結束を崩してやろうと頑張ったが、連合とオビトの共倒れを狙ったカブトが、オビトの本拠地やら白ゼツの能力を暴露したせいで崩壊した。かわいそうである。
それでも諦めずに頑張って戦ったが、カブトが勝手にエドテン・マダラを前線に投入して、あーもうめちゃくちゃだよ状態に突入。誰も言うことを聞いてくれない。かわいそうである。
とどめにエドテン・イタチが、仕込んでいた別天神により自力で洗脳を解いてしまって、そんでもってイタチと接触してしまったサスケが本格的に裏切って、カブトもうちは兄弟に敗北して戦線離脱。
各戦線のエドテン勢が昇天していくのに、暴れん坊のマダラだけは自力でエドテン・解をして、もうなんの縛りもなく暴れたい放題で酷いものだ。
この一連の〝かわいそうである〟の原因の大半は、大蛇丸だ。サスケもカブトも大蛇丸が育てた忍である。ついでに言えば、輪廻眼紛失事件も大蛇丸のせいだ。
だいたい全部大蛇丸のせいだったが、悪辣に笑う変態蛇の陰には変態デブがちらついている。
輪廻眼もないので外道魔像も使用できず、結局オビトはボコボコになったが、すんでのところで五影をボコボコにしたマダラが合流。その瞬間から何とかなった。ボロボロではあったが。
「オビト…外道魔像はどうした?さっさと尾獣のチャクラを魔像に入れろ。………それに、貴様に預けてあった輪廻眼はどうした。なぜ万華鏡で戦って――」
「――輪廻眼は、ない」
「…なに?」
「長門が裏切り、輪廻転生の術を木ノ葉の里に使用した。…そして死んだ。奴の輪廻眼も行方知れずだ」
「貴様、オビト…!」
なんたる無能だ。
マダラは激昂しかけたが、今この場での仲間割れは愚の骨頂であると、オビトを殺すことは何とか抑えたが事は重大である。
そうなると、マダラ自身が十尾の人柱力となる夢は潰えたと言えた。
いやそれだけではない。
無限月読とて、これでは不可能になったも同然であった。
カブトが心血を注いだ特別製である穢土転生体のマダラは、身体スペックも全盛期級であり、晩年に開眼した輪廻眼すら備えていたが、無限月読の術者となるには十尾の人柱力となる事が前提条件である。
そして人柱力になるには穢土転生体ではなく、生命体でなくてはならない。
さらに、輪廻転生の術は自分以外にしか使用できず、マダラが十尾の人柱力となるには自分以外の輪廻眼の使用者が必須条件だったのだが…長門の持っていた〝マダラの輪廻眼〟が失われたのだとしたら、もはやマダラを真の生命体として復活させられる者はいないし、輪廻眼を持たぬオビトも、十尾人柱力の条件を満たせないのだ。
「オレ達の悲願…〝月の眼計画〟はどうなる!外道魔像はオレが口寄せは出来ても、このままでは誰も人柱力になれぬのだぞ!」
穢土転生体のマダラが持つ輪廻眼は、抜き取られれば塵となって消えてしまう代物であり、マダラ以外には使用できないのだから、これでは全く八方手詰まりである。
涼しい顔をしているが、陰に控えている黒ゼツもまた密かに絶望に落ちていた。
(なんて事だ…!これじゃあ母さんの復活は不可能じゃないか…!!あの僅かな間に…一体誰が小南を匿ったというんだ!1000年の計画が…あと一歩だった計画が…こ、こんなとこで…頓挫するっていうのか!!!いや…なんとしても、なんとしても長門の輪廻眼の行方を…探すんだ!探してみせる!!)
オビト・マダラ・黒ゼツのラスボス同盟は、まことに気の毒なこととなっていた。
そしてラスボス同盟がそんな事になったちょっと前…全ての真実を知りたいと願うサスケは、死んだと思っていた ――大蛇丸に記憶を操作されそう信じていた―― 大蛇丸を蘇らせ、そこを足掛かりにして〝うちはの真実〟を知ろうと画策していた。
だが、捕らえていたアンコの呪印は何も反応を示さず、頭の上にハテナが浮かんでいたわけだが、そこに颯爽と我らが大蛇丸様が現れた。
サスケの動向は常に呪印で監視していたから、実に絶妙なタイミングで登場していた。
「っ!?お、大蛇丸…!なんで…!呪印から出るのでもなく…なに普通に歩いてやがる!!」
サスケの背後では水月が「大蛇丸様が生きてる~~!?」とか喚いていた。
イタチのイザナミをくらい、無限ループにハマって沈黙しているカブトに優しく触れながら、そのチャクラを吸収したりしつつニコッと大蛇丸は笑う。
「簡単よ。私は生きていた、という事ね」
「な、なにを言っている…!お前は、オレが乗っ取り返して…」
「正確には、サスケ君に乗っ取られたあと蘇ったのよ。ほら、デイダラとの戦いの時…あなた随分消耗したでしょう?あの時にね…君麻呂達にあなたは捕捉されて、その時に復活してたのよ、私」
記憶は消しておいたから知らないのも無理ないわよ、とあっけらかんと大蛇丸は言ってのけた。
衝撃の真実にサスケの目が見開いた。
イタチの真実も衝撃だったが、大蛇丸の真実も結構ショッキングであった。
なにせ、それが本当なら自分は大蛇丸の掌の上だったも同然であるからだ。
「それで…私に聞きたいことがあるんでしょう?」
凄まじい悔しさと不甲斐なさ、屈辱を感じながらも、サスケはそれでも大蛇丸を頼らなくてはならない。
だが何だか自分が酷く幼稚で滑稽に思えてくる…とサスケは感じていた。
3年前から、いつもあれだけイキリ散らしておきながら、結局のところいつだって自分は誰かの手のひらの上で転がされているだけではないか。
イタチの愛故の優しい掌の上。
オビトの野望の手先として掌の上。
そして大蛇丸を出し抜いたとばかり思っていたのに、結局は彼の掌の上で歩く道を御されていたのかもしれないし、ひいてはうちは一族全体が、ダンゾウの掌の上で弄ばれてもいた。
サスケの鼻っ柱が、急速にへし折れていく。
しかし、だからといって心まで折れるわけにはいかなかった。
「……そうだ。あんたの、手を借りたい。……貸してくれるか?」
さっきまでの鋭い気配が嘘のように消え失せて、どこか自信を失って気弱な空気さえ纏い始めたサスケがそう嘆願すれば、大蛇丸の胸はときめいた。変な意味ではない。母性本能がくすぐられるという意味だ。
「あら…随分ショックを受けちゃったみたいねェ…自信を無くす事はないわ、サスケ君。あなたはよくやっている」
「そ、そうだよサスケ。相手は大蛇丸様だからさァ。この人、特別製だもん!ほら見なよ、首だってうねうね伸びてベロ伸びて…――〝この人〟って言ったけどホントに人ォ?」
大蛇丸と水月から慰めのような言葉まで受けても、サスケはちょっと意気消沈したままであった。
そしてそのまま大蛇丸御一行は木ノ葉の里へと潜入。
木ノ葉の郊外にある、うずまき一族の能面堂へ向かい、屍鬼封尽の鬼の面を入手すると、そのままうちは一族の氏神を祀る南賀ノ神社本堂の地下へと赴いて〝儀式〟を行う。
本来の運命の通りに事は進んでいった。
自分を人柱として屍鬼封尽を解除し、サスケに取り憑いていた白ゼツ達を炙り出し、自分の命が尽きる前にそのうちの一体に不屍転生を行い、そして残った白ゼツを依り代に穢土転生を発動。
封印されていた歴代火影を召喚した。ついでに自分の腕もようやく治した。
実に忙しい大蛇丸。
そして、柱間の口から里の歴史を聞きだし、扉間からうちはの闇を聞かされ、ヒルゼンからイタチの真実を改めて聞かされた。
それらを聞いたサスケは暫し瞑目し、そして改めて里を守ると決めた。
ついでにチャクラを感じ取った香燐が合流して、ちょっとした音隠れ流の漫才を大蛇丸とかサスケと展開したりもした。
歴代火影と、サスケを見守る大蛇丸達も最後の戦場へ向かう事となるが…いつの間にか一行を密かに追尾する者が、先程の香燐以外にも1人増えていた事に気づいたのは、〝そいつの関係者〟以外では千手兄弟だけであった。
そいつの関係者とはつまり、音隠れ御一行であり、千手兄弟は音隠れ衆の様子から尾行する者が彼らの身内である事に勘づいていた。
「…兄者、気づいているか」
「ああ。だが悪意は何も感じぬし、あの大蛇丸達の様子からするとあやつの関係者のようだな。味方ぞ」
「そのようだが……しかしサルや、あの四代目に気付かれぬあの高速移動…見事だな」
「ふふ、今の木ノ葉にも心強き忍が育っているという事ぞ!」
穢土転生された歴代火影と、愉快で残虐な大蛇丸一行。そしてプラス1人…。前線で踏ん張っているナルトや綱手達のもとへ推参しようとしていた。
オビトにとっては、さらなる踏んだり蹴ったりな絶望の幕開けである。
外道魔像は、エドテン・マダラが備えていた輪廻眼によって口寄せは出来た。
捕らえた尾獣達を暫時、魔像へと封じ、着々と十尾復活の手順を進めている。
だが、肝心の人柱力はどうだ?何も用意できていない。その伝手はなにもない。
そしてこんな大乱戦スマッシュ第四次忍界大戦状態では、じっくり腰を据えて計画を練り直す事もできない。
オビトとマダラは、どちらかというと脳筋派だからだ。
色々と役割をこなしてもらいたい貴重な駒…
インテリ枠だったカブトは、戦場を掻き回すだけ掻き回して、さっさと無力化されてしまった。
今ここにいるのは、脳筋派オビトと、真なる脳筋マダラだけだった。
2人が取った行動は実に単純だ。
「この十尾を使って――」
「――ああ。砂利共を全員黙らせてから、ゆるりと考えるとしよう」
無限月読の即時実行を諦め、敵勢力の徹底粉砕に注力した。それだけであった。
しかし、この場に黄泉から一時帰還した歴代火影と、サスケ達が帰還した事で場は硬直する。
この場にあって、唯1人の勝ち組…それはマダラである。
マダラだけが実に嬉しそうに、意気揚々と千手柱間と大怪獣バトルを展開し始めていた。
マダラによって胴を千切られた綱手。
そこへ颯爽と旧友がやって来て、そして部下達に命じて千切れた上半身と下半身をドッキングさせるべく作業に入る。
本来の運命なら、ここでカツユと香燐を使って回復させるわけだが、大蛇丸はそこでその両者に待ったをかけた。
「私が治療するわ」
普段、温厚で冷静で礼儀正しいカツユだが、以前までの自分勝手を極めて恩師と仲間と友を裏切り清々しいまでに邪悪であった大蛇丸を知っているから、思わずキレそうになった。あのカツユが一瞬、「は?(威圧)」と漏らしたのは実に稀有な事であり、あのウィスパーボイスでそんな吐き捨てるように言われたら唾も一緒にかけて下さいと懇願してしまうだろう。
「私の治癒の方が確実で、何より安全です。まだ、あなたをそこまで信用できません、大蛇丸」
「随分と嫌われたものね」
「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうです?」
「あなたは〝治癒〟という概念に関しては仙界随一。さっきも言ったけど、少しでも私の治療に攻撃性を感じたらいつでも酸で溶かしなさい。それに…もたもたしてていいの?このままでは他の五影も危ういわよ?綱手は、他の影達を治療し…そして綱手自身は私のチャクラで治療する。これが最も効率が良く、そして確実……違う?」
「…」
カツユはぐぬぬ、と黙り、そして大蛇丸の治療が始まる。
カツユの小さな分裂体をどかして、印を組んでから患部に手を当てチャクラとその他諸々を注いでいく。
カツユが見る限り、確かにそこに一切の悪意は感知できず、心の底から綱手を治癒再生させようと奮闘しているのが分かった。
(…これは、確かに私の治癒よりも早いし…綱手様自身のチャクラを消費しないから、綱手様の力も温存できる。……………―――これは……綱手様のチャクラが漲ってきている?温存どころじゃない…寧ろ、どんどん増えて肉体も若返っている…!?)
「そこまでです!大蛇丸…!ただの治療ではない……一体何をしたのですか!」
口を開け放ち、今すぐにでも酸を吹き出せるようにして威嚇するカツユ。
大蛇丸は警告に従い、すぐに手を離した。
「心配性ね…それに主想い………本当にマンダと大違いで、綱手が羨ましくなっちゃうわね」
「答えなさい。綱手様に何をしたんですか」
「カツユ…あなた程の者ならもう分かっているはず。私は約束通り一切綱手に悪意ある行動はしていない。これは完全なる善意よ。綱手が、今のような仮初の若さではなく、真の若さを取り戻せば彼女の有り余るチャクラは全て攻撃と再生に転換できる。そのための細工をプレゼントしたのよ。……大丈夫…これは危険なものではない…既に、私自身で安全性と効果は実証済みだから」
カツユはまたもぐぬぬ、となった。
殺すべきか、この裏切り者の言葉を信じるべきか非常に悩みどころであった。
かつてカツユが敬愛する主人の親友として、戦友として、何度も命を救ったし救われた。その思い出はカツユにもあるから、余計に裏切られたショックは彼女?にもあった。
しかし、一方で今の大蛇丸の雰囲気は、かつて自来也と綱手が背中を預けて明日を語り合っていた頃の雰囲気に近いモノを持っているのにも気付いていた。
むむむ、と悩み続ける中、その時に綱手がツヤツヤお肌となってムクリと背を起こし、攻撃態勢に入っていたカツユを止めた。
「…大蛇丸。私へのプレゼントとは何だ?」
「ふふふ、あなたのお祖父様の血肉…」
「っ!貴様、柱間細胞か!?」
「あれは安全性に問題があるから、あれそのものではないわ。私が独自に改良したもの。今の私は全身ほぼ全てが柱間細胞なのだけれど――」
さらりと重大案件過ぎることを告げる大蛇丸に、綱手も思わず「はっ?(威圧)」と突っ込まずにはいられない。
「――まぁ聞きなさい。私の今の体は、私が元々所持していた自前の細胞とか、その他色々が1割…残り9割が柱間細胞。殆ど柱間細胞で構成されていたゼツを乗っ取る前から、私は黄金比とも言うべき配合比率に辿り着いた。その結果…非常に安定しているのよ。ダンゾウや、あのマダラやオビト達が使っていた柱間細胞よりも強化比率は低いけど、暴走の可能性はゼロよ。断言できる。…名をつけるならば大蛇丸細胞とでもいうべきかしら」
「………お前、そんなけったいなモノを私に勝手に移植するな!こういうのは必ず事前に患者に許可を得るものだ!医道に反する!」
大蛇丸はケロリとしている。カエルではなくヘビだが、ケロリとしている。
「私の本職は医者ではないしね………まァ結局あなたは強さを得たのよ?マダラを相手にしているこの状況では、里を守る義務のある火影は手段を問わず戦うべきだと思わない?……それとも、倫理観にもとるからと、とれる手段をとらず、ただ座して里の者達ごと滅ぼされるつもり?」
綱手は胸中の複雑な感情そのままが表層へと現れた顔で、古き友人を見ていた。
「…………ふん…私を、木ノ葉を勝たせる為に、か………里を裏切ったお前が、今更………なぜだ?」
「今は色々と興味の幅が広がってね。…昔は自らが風となり風車を回したいと思ってたわ。……でも、今はいつ吹くかも分からない、他の風を待つ楽しさもしれた。その風を楽しむ前に密封されたくないからね」
「…相変わらず、訳のわからんことを………――だが、自分勝手で押し付けがましい研究狂いは相変わらずのようだが…少し変わったか」
「人は変わるものよ。…それか、その前に死ぬかの二つ……
大蛇丸の言葉に、綱手はピクリと反応した。
そして、生きて帰ったら、もう好き勝手やってカッコつけて風来坊などさせてやらぬ…と密かに決意していた男への想いが、一瞬、僅かに頭をもたげた。
「大蛇丸…お前がもっと早くそうなってくれたなら、自来也も死なずに……」
どこか寂しげな、過ぎ去った郷愁の念に駆られるような空気が二人の間には流れていたのだが、次の瞬間にはそれは消え失せた。
「え?」
「……だから…っ、自来也も、死なずに済んだと……っ」
すっとぼけた大蛇丸に、綱手は怒りのボルテージを少々あげた。
ここで素直に謝るなりなんなりをすべき流れだろ!そう思っていたからだ。
「ああ、そうだったわね。うん、そうね…死んだわね。確かに一度死んだけど……――」
「お前、何を…?????」
何を言いたい。
そう言いかけた時に、綱手が最も聞きたかった
もう二度と聞けぬと思っていた、鬱々とした空気をカラッと吹き飛ばす快活で渋みのある、あいつの声であった。
「やーやー絶景かな絶景かなァー!!さすがはマダラが使う花樹海降臨だのォ!」
大蛇丸はくすくす笑い、綱手は思考の追いつかなくなった顔で、ぽかんとその声を聞いていた。
大蛇丸と綱手の長話が終わるのを待って、ここぞというタイミングを見計らっていたらしい。
ちなみに、大怪我の綱手を見てすぐにでも飛び出したのだが、役に立たないからすっこんでいろ、と大蛇丸に一喝されてすごすごと退がり大蛇丸のちょっと後ろにずっと控えていた。
「おうおう!しばらく見ねーうちに、なんもかんもが大変わりだのォーーー!まさか忍連合に、あのマダラたぁ、時代が進んだのか退がったのか…どっちか分かんねーのォ」
カンッ、と高下駄鳴らして、大馬鹿者が綱手の元へ帰ってきた。
「じ、ら…ぃ…――――」
ダンの霊体と再会しても堪えていたものが、綱手の両目からぽろぽろと溢れた。
「なんだ、綱手。ワシに見惚れているのかぁ?ン~?そういえば、帰ってきたらワシに惚れてくれるんだったかのォ?ぐわはははは!!――はッ!!?」
綱手が、猛烈な勢いで自来也へと駆け寄る。
――これは…殴られる!!
自来也の長年の経験が、勘が告げる命の危機。
せっかく大蛇丸によって復活できたのに、綱手の一撃を受けては下手をすればまたあの世へ行きかねない。
(もしそうなったら、これほど忙しくあの世とこの世を行ったり来たりするのは、ワシが初めてだろうのォ!)
だなんて呑気な事を内心で考えつつ、自来也は飛んでくるであろう綱手の拳を甘んじて受け入れる。
カッコつけて飛び出して置きながら、ろくな情報も渡せず半ばで事切れた自分の不甲斐なさは、確かに罰されるべきと思っていた。
だが。
「自来也っ!!」
「おおおお!!!?」
「あらあら」
大蛇丸の眼の前で、綱手と自来也の熱い抱擁が繰り広げられていた。
「お前…お前…っ、なん、で…っ、生きていたのか!?穢土転生じゃ…ないだろうな!目を見せろ!!!このバカヤロー!!!」
「お、おお…!ち、近い、近い近い近い!見りゃ分かるだろ!穢土転生の目じゃないだろーが!!」
「…っ、もっと…見せろ…!見せろよ、バカヤローが…っ」
「つ、綱手…」
控えていた自来也のもっと後ろ…大蛇丸の部下軍団の中でも水月と香燐が、「うわぁ♡」とか「あの二人…50歳超えだよね?人目も憚らず…こんな場所でよくいちゃつけるね」とか「恋に年齢なんて関係ないだろーが、この水月ヤローが!あんな素敵な関係に、ウチもサスケとなるー!♡」とか騒いでいて、大蛇丸は特等席から生暖かい目で自来也と綱手を見守っていた。
つい先日、想いを成就させた己の弟子コンビの姿が、眼の前の同志2人と重なる。
熱烈に自来也を抱きしめて、ようやく一安心したのか、良い歳して…と自分でも恥ずかしくなったようで顔を真っ赤にして自来也を突き飛ばしてから、改めて自来也の襟を締め上げながら自来也と大蛇丸、双方をキッと睨む。
「自来也、お前…死ぬなって言っただろ!死なずに…戻ってこいって…!お前…っ、なのに…死ぬなんて…っ、お前まで…ダンと縄樹のように、私のとこに帰って来なくって………わたし…っ、この大バカヤロー!!」
「ぐえええっ、綱手!締まっとる!お前の馬鹿力で…、締まっとるぅぅっ!また死ぬぞ、ワシっ!?」
「また簡単に死なないでちょうだいよ?生き返らすのも楽じゃないんだからね」
「っ…それだ、生き返らせるなんてどう考えても真っ当な手法ではあるまい!どういうことだ、大蛇丸!お前一体…今度は何をした!私にヘンテコなもん移植した思えば…!事と次第によっては…助けてくれた恩もこの場で消え失せるぞ!」
「……そうね。これを見せたほうが早いかしら」
バッ、と大蛇丸が己の顔を掴み、そして顔面の右半分を引っ剥がす。
「っ!!?そ、それは……その目は!」
「そう、輪廻眼よ」
ふふふ、と微笑む大蛇丸の顔は、まるで改心などしていないような狡猾な蛇そのものの悪人面である。その悪人面の、剥がれた皮から覗く片目は、紛れもなく多重螺旋の瞳…輪廻眼そのものであった。
次から次に判明するショッキング過ぎる事実の連発に、綱手は思わず立ち眩みでもしそうな程であった。
こいつもう本当にいい加減にしろよと魂の奥底から叫びたい気持ちでいっぱいである。
「…………………………………ペインの輪廻眼を……お前が手に入れたというのか?」
どこか疲れたように綱手が聞くと、
「ええ。部下達ががんばってくれてね」
うふ♡と茶目っ気たっぷりに笑って答える。だがいくら茶目っ気たっぷりでも大蛇丸は大蛇丸だ。どうみても邪悪な陰謀家にしか見えない。これもかつて最低値を記録してしまった人徳というものだろう。
「ほら、私って不屍転生の術があるじゃない?だから、外道・輪廻転生の術も…猿飛先生が屍鬼封尽で影分身で多数封印やってたみたいに、術の抜け道でノーリスクでいけるんじゃないかと思ってね」
綱手に抱きしめられ、鼻と鼻がくっつく程の至近距離でジロジロ舐め回すように見られたメロメロショックから立ち直った、純情中年自来也がその言葉を引き継いだ。
「で、大蛇丸のやつが、死んでたワシを輪廻転生で呼び戻してのォ。死者蘇生の代償として己の命が尽きる寸前に、不屍転生で新たな生命を得た…というわけだ。…しかも、不屍転生先の肉体は、てめーの肉体の複製体だっていうからたちが悪い。…ったく、全く褒められた行為じゃーねーのォ、大蛇丸。しかも不屍転生もいつの間にか改良しやがって。3年間必要だったインターバルが、なんでこの短期間で3日になっとるんだ!」
そのへんの不死関係の術が劇的に改善したのは、暁の不死コンビのお陰であった。
彼らを使った実験は日々とても充実し大変面白可笑しかったと、後に大蛇丸は述懐する。
「黙りなさい。誰のお陰で生き返ったと思ってるの?」
「ぐ…っ、……むぅ……だ、だが誰も頼んじゃいねーのォ。お前が勝手にやったことだしぃ?」
「あら、そんな事言っていいの?私…あの時の事…録画しているけど……」
「おっ、お前、それはワシが蘇りたてで意識朦朧としてる時に、輪廻眼で幻術かけて言わせたんだろーが!!?あんな土下座、無効だ無効っ!!」
「え~?再生しちゃおうかしら?この全忍集う大戦争中に、大上映会始めてもいいのよ?ククククク…綱手も見る?〝やっぱお前がNo.1だのォ!〟…名台詞だわね、ほんと」
「やめろォ!」
「やめんか馬鹿者ども!!!」
大蛇丸に土下座しつつそんな言葉を口走る自来也をちょっと見たいと思いつつ、自来也と大蛇丸、双方の頭にげんこつを降らす綱手。
本気になれば当然避けれるそれを、二人は敢えて受けていた。
そして、ちゃんとケンカも辞める。
「……ふふっ、なんだか懐かしいノリね」
「大蛇丸……不屍転生の手順を含めれば、何度でも輪廻転生を使えてしまうというのか?」
「……ダンや縄樹を蘇らして欲しい?」
「違う。あの二人は…もう死んだんだ。浄土でゆっくりさせてやりたい。……そうではなく、命をこれ以上弄ぶような…摂理に
その言葉には、今の大蛇丸の非人道的行為は、一定範囲内で認める…という意味も暗に含んでいた。
潔癖で在りすぎれば、改心した大蛇丸がまた敵に回ってしまうかもしれず、そしてそうなったら、不屍転生と輪廻眼を手にした大蛇丸は、今現在大激戦を演じているオビト、マダラの二人と匹敵する脅威となって、世界の平和を脅かすだろう。それが簡単に予想できた。
「フフフ…なるほど……なかなかしたたかに成長したわね、あなたも。……いいわ。輪廻転生は多用しない。使う時は、そうねェ……自来也、綱手、あなた達の承認を得るっていう決まり事はどう?………それに、不屍転生と併用して分かったけど、自来也を蘇らせた直後、私の精神…魂は酷く疲弊したのよ。不屍転生は魂もある程度リフレッシュしてくれるけど、短時間での連発は無理ね。……安心した?」
「…まァ、少しはな。……しかし、本当に随分と変わったな。お前がそんな約束事を自分から言い出すとは」
「言ったでしょう?今は他の風を求めているってね…」
「良く言うのォ。ちゃっかり輪廻眼までてめーのモンにしておきながら」
「私はあんたと違って要領がいいからね」
ベロリと舌を出して自来也を挑発するかのように大蛇丸は笑う。
自来也も引きつった笑みを浮かべるが、それは全く以前のような憎しみ合うものではなかった。
そのずっと前…彼らが命を預け合うチームだった頃の、三忍と称えられていた頃の空気そのものであった。
たとえ命を救われた恩があろうと、あの自来也が大蛇丸を受け入れてこういうやり取りをしているという事は、綱手が感じた大蛇丸の〝変化〟は真に良い傾向なのだろうと、綱手はそう確信できていた。
今まで気張っていた綱手の表情も、自然、緩んでいた。
「…まったく、お前らときたら。…………しかし、大蛇丸…最後にもう一つ聞かせろ」
「ものによるわね」
「なぜ輪廻眼に適応できた?カカシの例を見ても…うちは一族以外に、写輪眼は重たいものだ。その最終進化でもある輪廻眼とくれば、負荷は想像を絶する。いくら柱間細胞でチャクラ量を底上げしたところで、輪廻転生まで使いこなせるとは思えん」
「ぬっふっふ…ワシが説明してやろう、綱手。大蛇丸はの…サスケの呪印から復活する際に、サスケの細胞を自分に取り込んだ。それによって輪廻眼への適正を高めておるわけだのォ。おまけに柱間細胞はチャクラ量の増加だけではなく、写輪眼系統の副作用も大幅に軽減するから輪廻眼も安定しとる」
「随分とくわしいな、自来也」
「そりゃ詳しくもなろうというものだのォ…ワシは、復活してからこっち、外界と隔離されてひたすら大蛇丸のアジトで本調子を取り戻す修行してたわけだし」
「…修行?」
ニヤッと自来也が悪戯小僧のように笑った。
「まァ、それは…これからの三忍揃い踏みの
「ふん、この新時代の忍が台頭してきてるって頃合いに、今更私達がしゃしゃり出るのも何だか恥ずかしいがな」
「あら別にいいじゃない。……どうやらサスケ君と、ナルト君と…あんたの弟子のサクラだっけ?ふふふ、新・三竦みをしてるみたいだけど……本家本元の三竦みの恐さを知らしめるのも先達の役目よ?」
五影と手を取り合ってマダラと戦った時、これほど心強い事はないと、そう思っていた綱手だが、今、確実にあの時以上に綱手の心は勇気に溢れていた。強くなっていた。
身震いするほどに、どうしようもない歓喜と勇ましさが綱手の心の中を吹き荒れる。
永遠に失ったと思っていた、自来也と大蛇丸とのスリーマンセルは、やはり綱手の中では不可侵の聖域であった。
(まったく…今日はなんて日だよ。ダンに会えたと思ったら……大蛇丸が戻ってきて………、そして―――自来也…!お前まで私のところに帰ってきてくれるなんて、な!!)
三忍が並び立ち、そして翔び立つ。
弟子達の三竦みと張り合うかのようなその出で立ちは、木ノ葉の忍達全員の心を震わせるだろう。
…が、今現在誰よりも震えるぞハートしてたのは、大蛇丸の斜め右後ろ5m程のところ、大蛇丸の部下軍団の中にいた。
お察しの通り次郎坊である。
(ああ…元祖三竦み……!!大蛇丸様と綱手さんと並び立つ自来也先生ェ…!あなたの勇姿…最高です!)
イイハナシダナーと1人涙を流していた。
「うわ、キメェーんだよ、このエロデブ!」
多由也は、濃い顔で落涙している次郎坊を見て引いていた。引いてはいたのだが、一度肌を重ねてしまったからか、多由也という女は情に厚く絆されやすい一面もあったようで、「…まァ、あーいうとこも…少し、か、かわいい…かもしれねェ…」なんてひっそりと思っていた。チョロい女になりかけていた。
それはともかく、単純に次郎坊は自来也が好きだったし、捻れた運命の今生においては幸いにして彼と会って話しをする機会にも恵まれた。
大蛇丸が輪廻眼の試運転とばかりに、輪廻転生の術を発動した後…アジトにて強化された自分の体と死んでいて鈍った勘を取り戻す為に、自来也は大蛇丸のアジトに籠もって修行していた…というのは先程自来也が語ったとおり。
その際に、音の七人衆は自来也と幾ばくかの交流を重ねた。
最も懐いたのは、言うまでもなく次郎坊だ。
主にエロ方面で何とも気が合い、女とはなんぞや!という問答を三日三晩繰り広げたのは、既に音隠れの伝説の女体真理問答として、一部有志によって密かに経典化される程のものだったという。
「次郎坊…おぬし、見どころがあるのォ。…我、問わん…女とはなんぞや…!」
「女とは……乳、尻、太ももにございますが、それはいわば副菜。主菜は、オナゴの素直になれぬ意地らしい心…!即ち、男のスケベに怒り、恥じらい、それでも惚れた男にたまーに見せる乙女心と、そして〝今夜だけ…いいぞ♡〟という、秘められた花園への門が開かれるその瞬間でございます!!」
この時、自来也の脳裏に去来する〝「いいぞ♡」イメージガール〟は綱手だ。
そして次郎坊の脳裏に去来する〝「いいぞ♡」イメージガール〟は多由也だ。
どちらもピッタリであった。
「っっ!!!!次郎坊ォ、イイ答えだのォ!!!!おぬし……ッッ、ワ、ワシは…ワシは、嬉しい!!!ワシの志を理解する同志と…ついに出会えたのだのォ…!我が忍道継ぐ者あれど、エロ道継ぐ者ついぞ無し…、そう思い苦節云十年…っ、ワシは…とうとうエロ道を共に開拓し、そしてワシの後を継ぐマスラオを見出した!!!」
「師匠ォーーーーーー!!!!!」
「次郎坊ォーーーーーーー!!!!!」
2人は激しく咆哮し、そして肩を抱き合って涙を滝のように流していた。
大蛇丸と多由也が、キレているようにも諦めているようにも悟っているようにも見える不思議な顔で、その光景をずっと眺めていたという。
エロの情熱Aとエロの情熱Bの掛け算が、奇跡的で変態的な化学反応を起こす。数日の内に自然発生した女体真理宗は、凄まじい勢いで音隠れが隠れ蓑とする小国〝田の国〟に普及しだしたのだ。
イチャイチャパラダイスと女体真理経本なる書物がセットで20%引き特価で書店で店頭販売され、しかもそれが大ヒットとくれば、大蛇丸的には悪夢であった。
大蛇丸は即刻「こ、こんなものが私の音隠れ発祥になってしまうなんて…とんでもない汚点よ!なんという邪教!飛段のエセ宗教とは比べ物にならないほどに有害だわ!」と焚書を命じる。
大蛇丸によって実験体とされつつ、利害関係の一致と廉価版呪印による縛りによって大蛇丸の新たな駒となっていた飛段と角都、そして小南によって ――小南には、大蛇丸の調査によって判明した、輪廻眼の本当の由来と、長門に輪廻眼を埋め込んだ連中の真の狙いを説明して説得もした―― 音隠れに対して徹底的な経典狩りが行われた。それは苛烈にして迅速であった。
「おらおら!てめーら、あのニョタイ何とかって本を出しやがれ!そんなくだらねー教え捨てて、ジャシン様の教えに乗り換えろォ!ゲハハハ!」
「くだらん…実にくだらん仕事だ。……だが、大蛇丸は金払いがいいからな。ふん…まァ、これも仕事だ。貴様らさっさと本を出せ」
「こんな卑猥な説話集が広まったら…自来也先生の名誉に傷がつく。何としてもこの本は根絶しなくては。―――………………名誉に、傷…つくかしら?…むしろ、自来也先生らしいのでは…」
再始動した暁残党の初仕事がこれか…と3名は最初嘆いたとされるが定かではない。
だが、既に音の速さで(音隠れだけに)問答集は写本され、一部有志達の間で厳重に秘匿され、今でもアングラな売店で高値で取引されているとかなんとか。