この空を、共に   作:ちま

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最終話です。今回ゲーム本編の(支援)会話の引用が多いです。「原作の大幅コピー」に当たらないといいのですが…(・・;

注:この世界の元旦(?)がいつかわからないので作中に出て来る手紙の年度はすべて606年としています。


最終話:再会

数多の戦いの末にアリティア軍は祖国を取り戻した。このとき、グルニア遠征へと発ってから一年以上の月日が流れていた。

 

「マルス様。」

グラへと出陣する前に国内の現状を把握するためにも数日間アリティアに留まると聞き及び、クリスは思い切ってマルスに声を掛けた。

「クリス?どうしたんだい?」

「今が大事な時であるのはわかっていますが…一日だけでも、休暇をもらえませんか?」

「…何か事情がありそうだね?」

「はい。実は…故郷の村に俺の帰りを待つ人がいます。騎士登用試験で王都に来て以来、一度も帰っていません。一目でもいいから会いに行きたいのです。」

手紙も結局グルニア遠征以降、送れていなかった。

「君には大切な人がいたんだね。いいよ。会いに行くといい。」

「ありがとうございます。」

快く許してくれたマルスにクリスは深々と頭を下げた。

 

そして。兵舎の馬を借り、クリスはセラ村へと帰ってきた。だが久しぶりに足を踏み入れた我が家は無人で埃が積もり、もう長いこと誰も住んでいないように見えた。

「ミカリス……」

――俺に愛想を尽かして去ってしまったのか?

恋人よりも夢を優先し、一年以上も放っておいた当然の結果だと思われた。意気消沈してすぐにこの場を去ろうとしたクリスだったが、そのときダイニングテーブルの上にある一通の手紙に気付いた。手に取り、埃を払って慎重に中身を取り出す。

 

 

 

606年○月×日

親愛なるクリス

 

あなたがこれを読むのがいつになるのか、読むことがあるのかわからないが、この手紙を残していくことにする。マケドニアでクーデターが起こり、妹が囚われた。妹を助けるために俺はマケドニアへ行く。たとえ離れてもいつもあなたを想っている。

 

あなたの誠実な恋人 ミカリス

 

 

 

「ミカ…リス…」

手紙を胸に抱き締め、震える声で恋人の名を呟く。

――マケドニアのクーデターから一年以上の月日が経っている。ミカリスが今も戻っていないということは……そういうことだろうか?

絶望的な思いで考える。それでも立ち止まるわけにはいかなかった。戦争はまだ終わっていない。クリスは手紙を懐に仕舞うと城へ戻るべく馬を駆った。

 

クリスがアリティア城に帰り着く頃には、もう辺りは昏くなっていた。厩舎に馬を返し壁掛け松明が灯る回廊を兵舎へと向かっていると石畳の床に煌めく物が落ちているのに気づいた。近づき、拾い上げる。

「? ペンダント……誰のだろう?あれ?この紋章…確か…」

――ミカリスがしていたのと同じ…?

「クリス殿、それは…」

回廊の向こうから慌てて駆け寄って来たのは赤き竜騎士ミネルバ王女だった。

「! し、失礼しました。ミネルバ王女の落とし物ですか?」

「ああ、すまない。実は先ほどから探していた。君が見つけてくれたのだな。感謝する。」

ペンダントを受け取りながら王女が礼を述べる。

「…これは幼い頃に、母上からいただいたものでな。ミシェイル、私、妹のマリア…三人が同じペンダントを持っている。」

「ミシェイル王子も……」

「ああ。昔は…私たちは仲の良い兄妹だったのだ。だが知っての通り…前の戦争で私とミシェイルは敵同士として相争った。私はマルス王子の側へ、そしてミシェイルはメディウスの側へ…昔のように笑い合える時は…残念だがもうあるまい。」

痛みに耐えるように王女は俯き眉を顰める。が。

「だが、もはや未練はない。」

「……ミネルバ王女。」

王女が毅然と顔を上げたとき、クリスは彼女の面差しがミカリスに似ていることに気付く。

――まさか。

「その…つかぬことをお伺いしますが、そのペンダントはレプリカなどが出回っていたりは…」

「レプリカ?あり得ぬ。これは母上が我ら兄妹のために信頼のおける彫金師に依頼して造らせたもの。我ら兄妹の持つ三つしかないはずだ。」

「……」

「クリス殿?どうかしたのか?」

「俺は…このペンダントを持つ人を知っています。」

「何?」

「彼はミカリスと名乗っていた。これを…」

と言ってクリスは先ほどセラ村で手に入れた手紙をミネルバに見せた。

「これは…兄上の筆跡……」

「この手紙にある妹とは、貴女のことですね?」

「そうだ。」

「ミカリス…いや、ミシェイル王子は貴女を助けた後、何処へ?」

一縷の望みを込めてクリスが尋ねるが。

「わからぬ。ただマリアを探し出す、とだけ…」

「そう…ですか。」

「クリス殿。」

名を呼ばれてクリスが伏せた目を上げると、感極まった様子でミネルバが自身を見つめていた。

「君は…兄上が辛い時に傍に居てくれたんだな。」

「ミネルバ殿…」

「大丈夫、兄はきっと生きている。そう簡単にやられるタマではない。いつか再会できると信じよう。」

王女は涙を堪えながら、微笑んだ。

 

 

それから。アリティア軍はグラを下しアカネイア・パレスで暗黒皇帝ハーディンを倒した後、地竜封印のために飛竜の谷へとやってきた。

そこで住民より『北東の村に、重傷を負った若い竜騎士が現れた』との情報を得る。それを聞いたとき、クリスにはその竜騎士がミシェイルだという確信めいた直感があった。ミネルバ王女も思うところがあったらしく、マルスに件の竜騎士が兄かもしれないこと、そしてクリスの恋人が兄であったことを話し、彼とともにその村に向かわせて欲しいと嘆願し、許可を得た。

そして。二人で襲い来る蛮族や野生の飛竜を薙ぎ倒しながら必死に北東の村へと急いだところ。

「あっ、あれは!?」

クリスが遠目に村の外れで血を流し蹲っている飛竜を見つけ、駆け寄った。

――ミシェイルの愛竜アレキサンダー。彼はこの近くに…?

「アレキサンダー…」

自身の飛竜から降りたミネルバも傷ついた飛竜を見て痛まし気に呟き、頸を撫でる。その足元からは血の跡が傍の小屋へと続いていた。クリスとミネルバが顔を見合わせて頷き合い、小屋の戸口まで来ると耳を澄ませた。中から苦し気な喘鳴の音が微かに聞こえる。

「…………。兄上…?もしや…、ここにおられるのか…?」

「…ミネルバ、か…」

ドア越しのミネルバ王女の問いかけに中から掠れた声が返り、王女は勢いよくドアを開けた。狭い部屋の中を見ると、壁際にある粗末なベッドに瀕死のミシェイルが横たわっていて二人はショックを受けた。

「!その傷は…!なんとういう…すぐに手当てを!」

ミネルバ王女が駆け寄って、ミシェイルが目を開けそちらに顔を向けたとき、彼女の後ろにいるクリスの存在に気付いた。

「ク…リス…」

痛まし気に自身を見つめる恋人にやっと会えた喜びと今まで彼を欺いていた罪悪感が鬩ぎ合う。ミシェイルはクリスと目を合わせていられず、ズタズタになった衣服の前を(はだ)け動揺しているせいか覚束ない手で傷薬を塗り始めた妹に目を移した。

「無駄だ…。もはや助かる傷ではない。それより、マルス王子を…呼べ。俺は奴に…渡さねばならぬものがある。」

「王子はまもなく来られる。兄上、しっかりされよ!今、私が手当てを…」

「俺も手伝います。」

クリスも所持していた傷薬を取り出し、ミシェイルに塗布し始めた。だが二人の手当て虚しく。

「ぐっ…ふっ…!」

ミシェイルが血を吐きながら咳き込む。

「兄上!」

「ミネルバ…頼みがある。俺が死んだら…この書をマルス王子に…。俺はもはやここまでだ…。後は…お前が…マリアを……」

――最期に一目、クリスに会うことができた。あと心残りはマリアだけだ。

ミシェイルが震える手で一冊の書籍を差し出したが。

「あ…兄…上…。っ…兄上らしくもない弱音を!いつからそのように弱くなられた。いつだって強く気高く…誰にも頼らず、己一人で道を開く…兄上はそのような人ではなかったのか。私は、受け取らぬ!妹の手を借りずとも兄上がご自分で渡せば良い。」

王女は頑なに受け取らなかった。

「ふ…言ってくれるな…」

「だから、兄上…、あなたはここで死んではならぬ。どうか、生きて…」

ミネルバ王女の悲痛な声が訴えた。

 

 

竜の祭壇最深部にミネルバが探し続けていたマリア王女は、いた。

「マリア!目を覚ましなさい。私です、ミネルバです。どうしたの!しっかりしなさい。」

虚ろな目でメディウスを守るように佇む妹姫にミネルバが必死に呼びかける。その甲斐あってマリア王女の目に光が戻った。

「うーん…あ…ミネルバ姉様…あっ、きゃ―――メディウスが…」

「もう、大丈夫よ、安心して。ごめんね、マリア。あなたを、こんな目に遭わせて。」

姉の姿を見とめてきそうな顔でその胸に飛び込む。

「姉様…怖かった…怖かったよ。あっ!ミシェイル兄様はどうされたの?私を、助けようとしてガーネフと戦ってくれた。」

「ミシェイルは…大丈夫よ、マリア。心配しないで。」

兄のことを思い出してガバッと身を起こしたマリアにミネルバは安心させるように伝えた。

「わっ、ホント?じゃあ、国に帰ったらまた昔のように、みんなで暮らせるのね。よかったね、姉様。あぁ、早くミシェイル兄様に会いたいな。」

「マリア……」

妹マリアの願いが叶わぬことを、ミネルバは言えなかった。

 

 

 

 

後に英雄戦争と呼ばれる二度目の戦争が終結し、地竜の封印もなされ、世界には平和が訪れていた。――のだが、ここマケドニア山岳城壁・北東の村の片隅にある修道院の平和は破られ、若いシスターの怒り声が響いた。

「信っっじられない!何でもっと早く教えてくれなかったの!?」

若いシスター――元王女であるマリアが両脇で握り締めた拳を震わせ、彼女の前に居並ぶ面々を睨み付ける。そこには決まりが悪そうに佇むミシェイル、ミネルバ、そしてクリスがいた。

「…ミネルバ。お前の言い方がまずかったんだぞ。」

「私が悪いとでも?もとはと言えば兄上が…」

「ああもう!」

マリアが片足をダン、と地に叩きつけた。

「ミネルバ姉様が『ミシェイルはもう昔のようにみんなでは暮らせない』って言うから私、てっきり兄様が…し、死んだ、って、思っ、て……」

マリアが怒り顔から一転、泣きそうな顔になって声を詰まらせる。戦争終結後、王族の身分を捨てたマリアとミネルバはレナとジュリアンが切り盛りするこの修道院を手伝って孤児たちの面倒を見ていたのだが、飛竜の谷・北東の村で瀕死の重傷を負いながら奇跡的に一命を取り止め、養生を終えた兄ミシェイルが恋人のクリスと共に彼女たちに会いに今日、修道院を訪ねてきたのだった。

「会いに来るのが遅くなって済まなかった。」

「私も『ミシェイルは恋人のところへ行くから、もう昔のようにみんなでは暮らせない』って言うべきだったわ。」

末の妹の涙に弱いのか、兄と姉は素直に謝罪する。そしてミシェイルは妹を何とか宥めようと頭を巡らし――彼がセラ村を発つときに持ち出したある物を思い出した。

「マリア。これで機嫌を直してくれ。」

ミシェイルが微笑み、荷袋からオルゴールを取り出し蓋を開けると、美しいワルツが流れ出した。マリアは思わず顔を上げ目を輝かせる。

「まあ綺麗な音色!そのオルゴール、私に下さるの?」

「あー…すまないマリア。これは大事な思い出の品だからやれない。」

「んまっ!」

ミシェイルは済まなそうに言い、すぐにまたオルゴールを荷袋に仕舞い込んだのでマリアはぷくー、と頬を膨らませた。

「? クリス殿?顔が赤いようだが……」

「い、いえ、何でもありません。」

「あっ、そろそろ子どもたちに癒しの杖を教える時間だわ!もう行くわね。ごきげんよう、兄様、クリス!」

子供たちがチャペルに集まり始めたのを見てマリアはくるり、と踵を返し行ってしまった。後にはミシェイル、ミネルバ、クリスの三人が残された。

「…兄上は、」

「うん?」

「またクリス殿の故郷セラ村に戻るのですか?」

「いや…俺がスターライトの魔道書をアリティアに齎した見返りに、マルスが城近くの森番の小屋を自由に使っていいと言った。俺はそこに住むつもりだ。」

「俺たちへのマルス様なりの気遣いです。気軽に会いに行ける距離ですし、飛竜の居場所もあります。」

「そうですか。…クリス殿。兄をよろしく頼みます。」

赤髪の元王女は礼儀正しく頭を下げた。

 

「…従騎士の頃のお前の手紙。」

修道院を辞し、飛竜に相乗りして北――アリティアを目指して飛びながら、ミシェイルがクリスに話し掛けた。

「ん?」

「多くの新しい出会いで随分と充実していたようだな。」

「まあ……充実?していたかな。」

少しばかり時間ができると書いていた手紙にはあえて書かなかったが、騎士登用試験は過酷な訓練の連続で一日を終えた後は疲れ切って泥のように眠っていた。

「あのときは聖夜祭、帰れなくてごめん。」

ずっと気にしていたことをクリスはミシェイルに直接詫びた。

「試験の最中だったんだ。仕方ないさ。…だが正直、同年代の奴らと過ごすうちに俺のことなど忘れてしまうのではないかと思った。」

「ミシェイル……あんたは聖夜祭、誰かと過ごした?」

彼が村の娘たち誰かの招待を受けてともに過ごしていたとしてもよかった。ただ恋人が聖夜祭に寂しい思いをしなかったかどうかだけがクリスにとって重要だったのだが――ミシェイルの答えは予想だにしないものだった。

「いや。洞に毛布に食べ物、ワインを持ち込み、焚火を焚いてアレキサンダーと過ごした。」

「え…」

クリスが驚きで目を瞠る。そして…徐々に可笑しさが込み上げてきた。

「はは…」

「笑うな。真面目に話しているんだ。」

「本当にあんたは “誠実な恋人”だな。俺もそう書けば心配しなかった?」

憮然と宣うミシェイルに笑いを含んだ声でクリスが言うと。

「…………あの置き手紙、読んだのか?」

長い()の後、低い声が返った。

「ああ。」

「よもや捨てずに持っているなどということは…」

「大事に持っているよ?」

「破って捨てろ。もしくは燃やせ。」

「あんただってあの日のオルゴール、持っているじゃないか。」

「それとこれとは話が別だ。誰かの目に触れたらどうする。」

手紙が既に妹ミネルバに読まれていることをミシェイルは知らない。そしてその後も暫く二人の応酬は続いたが――最後は楽し気な笑い声に変わった。




最期までお読みいただき、ありがとうございました!
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