ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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NHKマイルですわ~。


刻む蹄跡

 NHKマイル直前のインタビューにて。ドゥラメンテはこう答えた。

 

「勝つ。それだけだ」

 

 事前予想では圧倒的な1番人気。キタサンブラックやサトノクラウンといった有力候補は出走せず、飛び抜けた実力を誇っているドゥラメンテのみが出走を宣言している。結果、勝つならば彼女以外にあり得ないだろうとまで書く記者がいるほどだ。それほどまでにドゥラメンテの勝利は確実視されている。

 無論、他陣営も黙って指を咥えてみているだけではない。自分たちにできる限りの調整を行い、万全の体勢でNHKマイルへと駒を進める。

 そして、本番の日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 東京レース場。晴れ空が広がる空の下、NHKマイルに出走しているウマ娘達が駆けている。

 

《第3コーナーを曲がります。先頭を走るのはオリジナルシャイン、オリジナルシャインがハナを取っています。同じく逃げるトゥプシマティ、トゥプシマティとオリジナルシャインが先頭を走ります。先行勢は3バ身後ろ、4人から5人ほど固まっているでしょうか?そして最注目ドゥラメンテはやはり後方待機策を選んでいます》

《非常に落ち着いてレースを展開していますね。東京の直線は長いですから、後方組の末脚を発揮するには良い舞台ですよ》

《縦に長くなったバ群、隊列はわずかに横に膨らんでおります。世代のマイル王を決める戦いはクラシック四冠を目指すウマ娘の蹄跡となるのか?第3コーナーを越えてまもなく第4コーナー、少しずつ差が縮まってきております》

 

 ドゥラメンテは後ろから2、3番手の位置。他のウマ娘は当然ドゥラメンテを警戒するように動いており、彼女の些細な動き出しも見逃さないようにしている。

 

(負けない!)

(取らせるもんですか!勝つのはあたし!)

 

 かなりの敵からマークされているドゥラメンテ。ただ、彼女は冷静にレースを見ていた。目線だけで周りのウマ娘の位置を確認し、抜け出すルートを模索している。

 

(今はまだ、時ではない。ただ、隊列は膨らんでいる……これならば、外ではなく内でも抜け出せるだろう)

 

 いつもの外ではなく内を抜けるルートも十分に可能であることを悟る。リスクを考え、一瞬のうちにどちらがより勝ちにつながるか?を判断。導き出した答えは──第3コーナーと第4コーナーの間、膨らんだ隙をついてのコース取りだ。

 最内、というわけではない。真ん中寄りに抜けていき、最後の直線に向けて位置を取る。その間もずっと、内に秘める衝動を抑え続けていた。

 

(まだだ……まだ早い。焦るな、私。その時はもうすぐ来るのだから……!)

 

 疼く脚。早く本気を出させろと逸らせる本能。熱く滾り、ドゥラメンテの意思で解放されるその時を待っている。

 

《第4コーナーを回ります。オリジナルシャインとトゥプシマティのペースが落ちてきているか?先行勢がじわじわと差を詰めてきました。そして後方からはドゥラメンテ、ドゥラメンテが上がっていきます》

《少し仕掛けが早いですね。囲まれる前にベストポジションを取ろうとしているのかもしれません》

《内に閉じ込められるリスクを承知の上で上がってきているか?ドゥラメンテが上がってきています現在10番手。先頭はまもなく最後の直線、勝負所へと入っていきます!》

 

 待つ。飢えた獣のように。

 待つ。目の前で餌をぶら下げられているが、飛び込まずにじっと待つ。

 全ては勝利するために。圧倒的で、誰もが強者と認める勝ちを得るためにドゥラメンテは待ち続けていた。己の本能を開放するその時を。そして見えてきた──本能を開放する瞬間が。自らの力を開放するその時が。

 

(ッ!来た、私の道が!)

 

 最後の直線が見えてきた瞬間、渾身の力を込めて蹴り上げる。先ほどまでとは比べ物にならないほどの力で、ドゥラメンテは躍動する。

 全身の血液が沸騰する。低く沈み込み、ひたすらに前の獲物(ゴール)めがけてありったけの力を込めて走る。

 

「ちょ、っと待って……!」

「はやすぎる……!」

 

 他とは一線を画すスピード。皐月賞で知っていたはずのそれは、分かっていても対処できるものではなかった。一人、また一人と。なすすべもなく抜き去られていく。

 

《最後の直線に入りました。先頭はオリジナルシャインとトゥプシマティが粘っている!最後まで粘れるかオリジナルシャイン、トゥプシマティ!だがここでドゥラメンテだぁぁぁ!ドゥラメンテが上がってきている!1番人気のドゥラメンテが瞬く間に上がっていく!東京の坂を上るウマ娘達、ドゥラメンテが前との差を一気に詰めていく!》

《やはり素晴らしいスピード!惚れ惚れする速さです!》

《最後の直線を向いた段階で8番手、次々と躱して現在4番手、いや3番手につけたドゥラメンテ!残りはオリジナルシャインとトゥプシマティ!粘れるかオリジナルシャイン!トゥプシマティ!》

 

 対策をしても対策できない。封じようにも封じれない。そしてウマ娘達は理解するのだ。

 

(どうしろってのよ、こんなの……!)

 

 

最強に対策は無意味なのだと

 

 

 坂を上るドゥラメンテ。粘るオリジナルシャインとトゥプシマティはともかくとして、先行勢よりも明らかに勢いが違う。先行勢が一歩進んでいる間に、三歩も四歩も先を進んでいるような走り。まさしく、モノが違う走りだった。

 

「すっげぇぞドゥラメンテー!いけいけー!」

「頑張ってー!変則二冠よー!」

「バクシンオーに並べー!」

 

 坂を上り終えた頃にはオリジナルシャインとトゥプシマティに並ぶ……まもなく躱す。後は、ドゥラメンテの独壇場だ。

 

《粘れるかオリジナルシャインとトゥプシマティっ、いや!粘れない粘れない!坂を越えて、あっという間に躱したドゥラメンテ!ドゥラメンテ先頭だ、ドゥラメンテ先頭!後ろとの差を広げていくドゥラメンテ独走!》

 

 独走態勢に入ったドゥラメンテ。追いかける他のウマ娘達。ただ、あまりにも格が違った。

 どんなに一生懸命に走ろうとも引き離される。本気を出しているのにどんどん差は開いていく。一歩進むたびに先頭(ドゥラメンテ)の姿は遠のいていく。

 ドゥラメンテは後ろを見ない。彼女の目はゴールしか捉えていない。

 

(最強の証明を!私の蹄跡で刻んでやる!)

《ドゥラメンテ独走!ドゥラメンテ独走!これほどまでに強いのか!?これがドゥラメンテの強さなのか!まさに圧倒的だドゥラメンテ!2番手以下をどんどん引き離していくドゥラメンテ!》

 

 最終的に。ドゥラメンテと2番手以下の差は永遠に縮まることはなく。

 

《まさに圧倒、これこそがドゥラメンテだぁぁぁ!!ドゥラメンテが圧倒的な強さでNHKマイルを制した!2着との差は実に7バ身!日本ダービーに向けて視界は良好!これこそがドゥラメンテの強さだぁぁぁ!》

《いやぁ……長い直線ということもあるんでしょうが、皐月賞以上の末脚だったんじゃないでしょうか!?これは凄い!》

 

 ドゥラメンテが7バ身差をつけて勝利した。他を寄せ付けない強さ。瞬く間に躱して先頭に躍り出る速さ。世代のマイル王に輝いたのは、ドゥラメンテ。

 東京レース場のファンは声を上げてドゥラメンテを称賛する。

 

「おめでとーうドゥラメンテー!」

「カッコいいー!日本ダービーも頑張ってねー!」

「このまま三冠だー!」

 

 改めて強さを再認識する。彼女ならばサクラバクシンオー以来のクラシック四冠を達成できる。そう思わせるだけほどに、ドゥラメンテは圧倒的だった。

 

 

 ドゥラメンテは自らの手を見つめる。逡巡し、今回のレースを振り返っていた。

 悪くない内容だと思っている。しかし、それで満足はしない。

 

(……東京においては私が有利だ。だが、他が対策をしてこないわけがない)

 

 NHKマイルの勝利に驕らない。彼女が見据えているのはその先──同じ東京レース場で開催される日本ダービーだ。

 

(クラウンは私と同じで後方脚質だ。間違いなく、皐月賞以上に強敵となる。それに、キタサンがアレで終わるはずがない。これで満足するわけにはいかない。シュヴァルグランは……未知数だ。トレーナーがトレーナー、警戒しておくに越したことはない)

「クラシック四冠は挑戦であり通過点だ。私は、誰よりも強いことを証明する」

 

 呟き、観客へと一礼をしてターフを去る。その足でウィナーズサークルへと向かっていた。

 

 

 報道陣のインタビューでは、相変わらずの劇場が繰り広げられる。

 

「NHKマイル制覇おめでとうございます!これで変則二冠、順調ですね!」

「まだ道の途中だ。この勝利で一喜一憂するわけにはいかない」

「あ、は、はい」

「クラシック四冠はまだ一例しか存在しない。私はまだまだ満足していない」

 

 必要最低限のことしか喋らないドゥラメンテ。

 

「え、え~っと……次は日本ダービーですが。自信のほどは?」

「勝つ。それだけだ」

「……万全の体勢を整えます」

「あの~、そ、それだけですか?」

「?それ以外になにか?」

 

 最低限のフォローしか入れない高村聖。記者からすればやりにくいことこの上ない2人だった。

 

(サクラバクシンオーは圧が強いけど勝手に喋ってくれる分まだマシだった!)

(こっちの2人、マジで必要な言葉以外は喋らねぇぇぇ!)

(ある意味最悪の組み合わせだよ!)

 

 聞かれたことにしか答えない2人。いつも通りとはいえ、変わってほしいと思わなくもない。

 なお、同じチームであるキタサンブラックは笑顔で報道陣に応対している。聞かれたことに一生懸命に答え、こちらにもフォローを入れてくれるお助け大将っぷり。そちらと比べたら、ドゥラメンテの対応はあまりにもアレだった。

 

「げ、現時点で警戒しているウマ娘はいますか!」

 

 月間トゥインクルからの質問。ドゥラメンテは少し目を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「まず、同じチームのキタサンブラック。彼女の強さを私はよく知っている。最重要で警戒している相手だ」

「ぜ、前回もそう言ってましたね。他には!」

「サトノクラウン。東京の直線は長い、皐月賞以上に脅威だ。後はシュヴァルグラン。彼女も警戒対象だ」

「ほ、他の質問……」

 

 どうにかこうにか取材は進行。紙面や雑誌でお出しできるほどにはまとまった情報を得られた。

 

「変わらへんなぁ、あの2人。ホンマに記者泣かせの2人やわ」

「まぁ、そうですね。でもいいんじゃないですか?ファン受けいいですし」

「そやけどなぁ……どうにかならへんもんか」

 

 NHKマイルを制したドゥラメンテ。次なる戦いは──日本ダービー。




【ドゥラメンテ驚異の末脚!ラスト1ハロンのタイムは10.0秒!】
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