ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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おダービーですわ


日本ダービー開幕

 14万人を超えるファンが訪れる東京レース場。本日のメインレースはクラシックの第二戦日本ダービー。クラシック級ウマ娘の頂点を決める戦いを、今か今かと待ちわびている。

 最注目は変則二冠ウマ娘ドゥラメンテ。前走のNHKマイルで出した1ハロン10秒フラットというタイムの衝撃、最後方から捲って勝つド派手な勝ち方、本人のクールな佇まいからかなりの人気を集めており、日本ダービーでも1番人気に推されていた。

 

「やっぱドゥラメンテだよドゥラメンテ!ドゥラメンテしか勝たん!」

「最強のアスリート血統、日本ダービーも問題なく勝ってくれるさ!」

「楽しみだな~、最後方からの捲り勝ち!」

 

 今回も派手な勝ち方を決めてくれるだろうか?サクラバクシンオーに並ぶことができるか?ファンの期待は高まり続けている。そんなドゥラメンテは、ターフで足を高く上げてステップを踏んでいた。

 

(平常心……平常心だ……ッ!)

 

 皐月賞でも見せたステップ。とどのつまりは緊張している。本人の性格的な問題もあるので仕方なしかもしれない。

 次に注目されているのはキタサンブラック。上位2人が突出した人気を誇っているのは皐月賞と変わらずだ。

 

「キタサンブラックも侮れないぞ。皐月賞はドゥラメンテの2着、しかも僅差だ」

「加えて、ミーティアには復讐の魔王がいるからな。もしかしたら、継承している可能性もあるいは」

「想像したくない……彼女って確かステイヤータイプなんでしょ?なら、ダービーはあるんじゃないかしら?」

 

 キタサンブラックの評価はかなり高い。皐月賞でドゥラメンテと死闘を演じただけではなく、掛かった状態で、それでも競り合っていたことからかなりのスタミナを保有していることは明らか。ドゥラメンテよりも息が整うのが早く、ステイヤーとしての片鱗を見せている。距離が延びる日本ダービーではキタサンブラックが有利だ、という声も多い。

 注目されている本人、キタサンブラックはというと……非常に落ち着いていた。

 

(今回はペースを乱さないように。しっかりと決めよう!)

 

 ドゥラメンテとは対称的な様子、ストレッチをこなして身体をほぐしている姿に観客も期待を寄せる。

 

 

 少し離れての3番人気はシュヴァルグラン。皐月賞3着に加え、青葉賞1着の実績から評価を上げていた。上位2人には劣るかもしれないが、もしかしたら?という可能性を秘めている。そんな予感を感じさせての3番人気。

 シュヴァルグランはガチガチに緊張している。立ち居振る舞いは挙動不審であり、忙しなく視線を動かしていた。

 そんな彼女の胸にあるのは、一つの思い。

 

(に、日本ダービー……クラシックを目指すウマ娘にとって、一生に一度の夢舞台。そこに、僕は立ってるんだ……)

「は、恥ずかしくないレースにしないと……」

 

 自らを奮い立たせて、勝負へと臨む覚悟を決めた……まだ少し震えているが、これもまた愛嬌なのかもしれない。

 上位人気の顔ぶれは変わらない。4番人気はサトノクラウン。シュヴァルグランとは評価が逆転した形となった。

 ただ、彼女の頭は冷静だ。自分のやるべきことを確認し、日本ダービーで勝つ算段を立てている。

 

(……大丈夫よ。これまでの自分を信じて、ただ走ればいい)

「Revengeよ。皐月賞のようにはいかないわ」

 

 己を信じ、鼓舞して決戦へ。彼女が見据えるのは──勝利のみ。

 

 

 鳴り止まない喧噪の中、東京レース場にファンファーレが響き渡り、ウマ娘達はゲートへと向かう。

 

《この日を迎えました。東京レース場メインレース、クラシックの第二戦日本ダービー。芝2400mの戦い、晴れ渡る空、良バ場での開催となります。クラシックの頂点を決める戦い、日本ダービーを制した者は世代の頂点といっても過言ではないでしょう。もっとも運のあるウマ娘が制するレース、ですが時にその運すらもねじ伏せて勝利をつかむ優駿たちもいました。さぁ、今回はどのような名勝負が生まれるのか?》

 

 気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする者。緊張で顔を青くする者。むしろなるようになれと笑う者。

 

《上位人気の顔ぶれは変わらず。1番人気はやはりこのウマ娘を置いて他にはいないでしょう。皐月とNHKマイルで変則二冠、後方からの捲りで我々を熱狂させる彼女。このダービーで三冠目なるか?7枠14番ドゥラメンテです》

《パドックでの調子は良さそうでしたね。今回の走りも楽しみです》

《人気は譲っても勝利は譲らない。2番人気は8枠17番のキタサンブラック。皐月賞は惜しくも2着、このダービーで雪辱を果たしたいことでしょう》

 

 一人、また一人とゲートへ入っていく。緊張した空気が会場を支配し、少しずつ重苦しくなっていく。

 

《ミーティアの天下はここまでだ。青葉賞を制して調子は万全だシュヴァルグラン。3枠5番からの発走です》

《青葉賞とダービーを同時制覇したウマ娘は今まで一人もいませんからね。初の偉業に向けて期待したいところ》

《この大舞台で負けられない、サトノに悲願の栄光を。6枠11番のサトノクラウン。4番人気です》

 

 最後のウマ娘がゲートに入る。完全に静まり返ったレース場、発走の時を今かと待ちわびるドゥラメンテ達。早くここから出せと、自由にしろという声が聞こえてきそうなほど。

 

《最高の栄誉をこの手に。日本ダービーが、今っ》

 

 静寂の空気を切り裂いて──ゲートの開く音が会場に響き渡る。瞬間、ウマ娘達が一斉に駆け出した。

 

《っ、スタートしました!日本ダービー開幕です!まず飛び出したのは、やはりこのウマ娘だキタサンブラック!8枠の大外から果敢に飛び出したキタサンブラックがハナを取りに行く。そうはいくまいとやはりこちらも来ました2枠のスカンダ!お前の自由にはさせないとスカンダもハナを主張する。12番は少しスタートでもたついたか?それ以外はきれいなスタートを切りました》

 

 日本ダービーが開戦した。

 

 

 

 

 

 

 大外から飛び出してハナを取りに行く。けれど、無理には主張しない。あくまで内を取りに行くためのスタートだ。

 

(スタートは上々、このまま内に切り込めば!)

「させないっ!」

 

 けど、そう簡単にはいきません。他の子もハナを主張するように動いてきた。やっぱり、大外からのスタートは結構な不利!

 

《飛び出すキタサンブラック。熾烈な先行争いが繰り広げられていますね。内を取りたいキタサンブラックですが、これはちょっと厳しいか?》

《大外の不利が出ましたね。逃げウマ娘の彼女にとっては厳しいですよ》

《外からキタサンブラック、内にはスカンダこの2人がペースメーカーになるか?これは皐月賞と同じ展開だ、皐月賞の再現なるか?ドゥラメンテは後方に控える構えを取ります、サトノクラウンも同じ位置。シュヴァルグランは前目につけている》

 

 第1コーナーまでに内へはいりたい。けれど、取れないのなら……仕方ない。

 

(無理に競り合ったらそれこそ皐月賞の二の舞。なら、内は捨てる)

 

 消耗するくらいなら外を走ると割り切ろう。無理な位置取り争いはせずに、外で逃げる。さすがに外にいるあたしをマークしようとは思わないのか、内の有利を捨てたくないのか。前を走るウマ娘は集団になってますけど、あたしは外でその様子を俯瞰できる。

 

(先頭はスカンダさん、そしてアビルダさん。皐月賞でもあたしをマークしてた子達だ)

 

 彼女達は内枠からのスタート。特にスカンダさんは2枠を活かして飛ばすように上がっていってる。あれはたぶん、なにがなんでもハナを取りたい動き。皐月賞のあたしと一緒だ。

 

《まもなく第1コーナー。キタサンブラックは外を走ります。集団の外を走るキタサンブラック、現在4番手から5番手の位置。ハナを取ったのはスカンダ、スカンダがハナを取りました。2番手はアビルダ、3番手シュヴァルグラン。キタサンブラックは現在5番手だ》

《落ち着いてレースをしていますね。皐月賞の二の舞にはならないぞということでしょうか?》

《外枠の不利を背負いながらも冷静にレースを運びますキタサンブラック。外で虎視眈々と機会をうかがいます。バ群は広がりつつあります。まもなく第1コーナーへと入るウマ娘達。先頭はスカンダ、スカンダが先頭です》

 

 ペース計算は……いやいや、あまり細かいことを考えちゃダメ!あたしがやるべきことは、バクシンすることだけ!

 

(難しいことを考えちゃうからダメなんだ。それが、バクシンオーさんとの走りで学んだこと)

 

 確かにタルマエさんの逃げは理想的かもしれない。でも、人には得意不得意がある。悔しいけど、タルマエさんの計算し尽くされた逃げはあたしには合わない。それを皐月賞で痛感した。

 

(バクシンするだけなのもダメ。どんな時でも冷静に、ここぞという場面で切る!)

 

 落ち着いて、落ち着いて戦局を見極める。自分が出せる限界値を見極めて、早め抜け出しのロングスパート。これがあたしのスタイルだ!

 

 

 外を回る。内の集団は、ちょっとずつバラけ始めてきた。スカンダさんが飛び出して、後は少し下がり気味になっている。あたしは3番手に浮上、シュヴァルちゃんはあたしより後ろに控えるみたい。

 

(まだペースを温存。無理をする段階じゃない)

 

 位置が上がっても冷静に。あたしのペースは乱れていない、それは分かってます。

 

《第2コーナーもそろそろ中間地点。隊列は徐々に縦に長く広がっていきますね。先頭は依然変わらずスカンダ。2番手アビルダ、スカンダから半バ身遅れての追走。3番手外キタサンブラック外から内へと切り込みます》

《皐月賞でもそうでしたが、コーナリングが非常に上手いですね。今取れる最短の道を通っていますよ》

《見事なコーナリングで3番手に浮上キタサンブラック、その後ろにシュヴァルグランが最内を陣取ります。先行集団から遅れること2バ身、中団はこの位置につけている。中団先頭に立つのはアングーダ、アングーダが中団を引っ張ります。サトノクラウンはこの位置につけているぞ、前から11、12番手といったところでしょうか?最後方は変わらずドゥラメンテ、彼女にとってのベストポジションだ》

 

 シュヴァルちゃんが後ろについた。さっきまでは感じなかった、マークされている圧を感じる。だけど、動じない動じない……しっかりと、自分のペースを逸脱しないように!

 

(頑張りましょう!バクシンワッショーイ!)

 

 

 

 

 

 

 シュヴァルグランはキタサンブラックのマークにつく。プレッシャーをかけているが、効いている様子はない。むしろ、逆にシュヴァルグランがキタサンブラックの圧に飲まれそうになっていた。

 

(凄く、大きい山みたいだ……!険しい山を前にしているみたいな……!)

 

 崩れない。むしろこちらにプレッシャーを与えてくる。それでも、シュヴァルグランは冷静さを保つように努めた。

 

(ここで飲まれたら、相手の思うつぼ。それに、会長さんの圧に比べたら……!)

 

 チームのリーダーでもあるシンボリルドルフとの併走を思い出し、思わず身震いしそうになったシュヴァルグラン。なんとか持ち直して、キタサンブラックのマークを継続する。

 

 

 後方ではサトノクラウンが状況を確認していた。

 

(バ群は縦長、でも序盤も序盤だから問題はないわね。相変わらず、後ろからの圧が凄いけど)

 

 最後方に陣取っているドゥラメンテが発する圧。後続のウマ娘の何人かは掛かりそうになっていたが、サトノクラウンをはじめとした数名はなんとか耐えていた。

 

(皐月賞で体感しているもの。ちょっとはマシになっているわ)

「マシになっているだけ、なんだけど。でもNo problem.このまま走りましょう」

 

 崩れずにペースを守るサトノクラウン。皐月賞とは一味も二味も違う。勝利に向かって前進するのみ。

 

《レースはまもなく向こう正面へ。少しペースが落ち着いてきたか?スカンダが先頭。2番手アビルダ、3番手キタサンブラックだ》

 

 日本ダービーの立ち上がりは問題ない。どこで誰が仕掛けるか?




また披露しましたドゥラメンテステップ。
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