向こう正面に入って落ち着いた展開。先頭はスカンダ、2番手にキタサンか。
ペースとしては平均的、やや早めかな。控えているキタサンとのリードを広げるためにスカンダがペースを上げているのが原因ってところか。
《向こう正面半分を過ぎました。先頭は依然としてスカンダ、スカンダが先頭です。2番手キタサンブラック、真ん中内寄りを進みますスカンダから遅れて半バ身の差。3番手は集団になっています、先頭はアビルダ。シュヴァルグランはこの位置につけている》
《少し落ち着いてきましたね。ですが、スカンダとしてはキタサンブラックとのリードを保ちたい展開。どこまで差を広げることができるか?》
《キタサンブラックの持ち味を活かしたくはないですからね。先行集団5人からちょっと離れて8番手にザオバアー。列は縦長になっています、後ろから4人目の位置、この位置にサトノクラウンはつけている、外目をキープ。最後方は変わらずドゥラメンテ、1番人気ドゥラメンテは最後方をキープしている》
ドゥラも変わらない位置取り。最後方に控えて機会を窺っている。ノートを取り出して、いろいろと確認。
(現状、ドゥラとキタサンのスピードに決定的な差はない。あるのは、それぞれスタミナとパワーのどちらかに突出しているということ)
キタサンはスタミナ。ドゥラと比べて、長く持続する末脚が使える。ロングスパートを仕掛ければ、キタサンに分がある。
ドゥラはパワー。瞬発力勝負になれば、ドゥラに敵う相手はこのレースにいない。差を広げられなければ、ドゥラが追い込む。
重要なのはタイミングだ。どこでどう抜け出すか。それが勝敗を左右する。
……それと、サトノクラウンのステータスが少し驚いたことになっているね。
サトノクラウン
適性:芝A ダートG
距離:短G マA 中A 長E
脚質:逃げG 先行B 差しA 追い込みD
スピード:B+ 798
スタミナ:C+ 526
パワー :C+ 568
根性 :C+ 537
賢さ :C+ 508
(皐月賞の敗戦から対策をしたんだろう。でも、思い切りがいいというか)
皐月賞からダービーまでの間、ずっとスピードトレーニングだけをやっていた。そう言わんばかりのステータスをしている。CだったスピードがBまで上がっているからね。この短期間でここまで上げたんだから大したものだ。後は……スキルをどう活かすか、か。
ドゥラメンテ
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行C 差しA 追い込みA
スピード:S+ 1087
スタミナ:C 478
パワー :A 897
根性 :D+ 378
賢さ :C+ 593
キタサンブラック
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しG 追い込みG
スピード:S 1049
スタミナ:A+ 932
パワー :B 601
根性 :C 422
賢さ :C+ 596
向こう正面も半分を過ぎた頃。展開がどうなるのか、しっかり見ておかないとね。
◇
……さて、現状を分析だ。
(私の視界にクラウンがいる。おそらくだが、私の動き出しに合わせて彼女も動くはずだ)
現在私の位置は最後方。変わらない位置、ベストなポジションだ。見える位置にはサトノクラウン、キタサンは先頭を走っているか、それに近しい位置にいる。シュヴァルグランもキタサンの近くだろう。
私のマークは変わらずキツい。最後方に控えているとはいえ、楽な抜け出しはさせないぞと内側はしっかりと固められていた。
(もうすぐ向こう正面も終わる。ならば、この位置から押し上げるとしよう)
しかし、関係ない。私はただ強さを証明するのみだ。スピードを上げ、後ろからの捲りを開始する。
《まもなく第3コーナーに入ります。あっとここでキタサンブラックが上がってきた、キタサンブラックが上がってきたぞ。なんと第3コーナーを待たずしてキタサンブラックが上がっていく。これはキタサンブラックのロングスパートだ!これに気づいたスカンダ、抜かせまいと上がっていきます。最後の戦いに向けて戦局が動きます日本ダービー、先行集団も追いかける!》
《後方からもドゥラメンテが上がってきてますね。後ろでも動きがあります》
私の動き出しに合わせるように、前にいるウマ娘達がペースを上げ始めた。だが、関係ない。
「くぅ……っ!」
私が見据えるのは勝利のみ。この場にいる全員を下し、私がダービーを獲る。
(特に、キタサンの逃げ切り勝ちを許さないためにもさらにペースを上げる必要がある。問題はない……スタミナも、多少は鍛えている!)
一人ずつ躱していき、前へ前へと位置を取る。第3コーナーの曲がり、最短の経路を、できる限りスピードを維持したまま曲がっていく。
(スピードを出しすぎると外に膨らむが、私には関係ない。どのみち大外を曲がることになるからな)
後方脚質の弱点でもある必ず外に振らされるという点。問題なく勝てるように仕上げてきた。後はただ、実力を十全に発揮すればいい。
コーナーを曲がり、第3コーナーを越えて第4コーナーへ。ここでさらにギアを上げる。前との差を詰めるためのペースアップ、まだ全力発揮しない。
ドクンと、心臓が高鳴る。鼓動は少しずつ早くなり、比例するように私の衝動は大きくなっていく。
《第4コーナーも中間を過ぎます。後方から上がってくるドゥラメンテ、その後ろにサトノクラウンが追走。先頭はスカンダに代わってキタサンブラック、キタサンブラックが先頭に変わります。キタサンブラックがスカンダを躱して先頭へ。少しずつ差を広げていくキタサンブラック、後続も上がってきているぞ!》
逸る気持ちを抑えろ。この衝動は最後の直線まで大事にとっておけ。だが、気持ちの中に……わずかな焦りが生まれている。
(キタサンの位置が、想定以上に遠い……。冷静にレースを展開していたか)
キタサンに私のような瞬発力はないが、代わりにスピードの持続力がある。おそらくだが、ロングスパートを仕掛けたか。どの地点で仕掛けたかは定かではないが……考えられる線として、第3コーナーの中ほどから準備を進めていた、といったところか。捕まえるのは並大抵のことではない。
すぐ後ろにはクラウンもいる。彼女もダービーに向けて鍛えてきたのだろう。私に比肩する、とまではいかないが、それでも他の出走者と比べると速いスピードで上がってきていた。
(ならばっ!)
「臆する理由はない……さらにギアを上げるッ!」
スタミナはまだ持つ。最後の直線に向けて、さらに差を詰める!そうしなければ、キタサンに逃げ切り勝ちを許してしまう!
だが、向こうとの差はあまり縮まらない。当然だ、ロングスパートを仕掛けているのだから、彼女以上の速度で巡行しなければ縮まらない。私とキタサンはほぼ同じ速度で上がっている、差が縮まるはずがない。
ここで、気を落ち着かせる。焦る気持ちを押さえつけ、逸る衝動を必死に抑え込み。やるべきこと、成すべきことのみに焦点を当てる。
(日本ダービーの勝利のみッ!)
真の強者は揺るがない。あぁそうだ、だからこそ私は──諦めない!
◇
っ、後方からの圧が増してきた。おそらくだけど!
(ドゥラさんが来た……他の子達よりもはるかに凄い圧で、ここに飛んで来ようとしている!)
もうすぐ最後の直線に入る。あたしとドゥラさんの差は分からないけれど、結構な差がついていると思う。でも、油断したらすぐにでも食い千切られる!
脚は緩めない。今回はしっかりと溜めることができた。ロングスパート1000m……このスパートを、耐える!
「バクシンっ、ワッショォォォイ!」
気合いを入れる。最後の直線に入ってもあたしのスピードは落ちない。
《さぁ最後の直線!勝負所へと入っていきます、先頭で入ってきたのはキタサンブラック、キタサンブラックが先頭で最後の直線に入ってきました!》
「「「わぁぁぁぁああああッ!」」」
先頭はあたし。後ろからの圧がどんどん増してきてる……!
(ここからでも追いつきかねないって感じさせる圧、ドゥラさんの本気!そしてドゥラさんは……この最後の直線で、さらに上がる!)
余裕はない、がむしゃらに走るしかない。多分だけど危機的状況ってやつなのかもしれない。けど、あたしは……ドキドキしている!
よくわからない高揚感、必死に走る充足感、だけど……
(スタミナはまだ
坂を上る頃。ここで──後ろからの圧が段違いに強くなった。
《さ~あここからドゥラメンテが上がってきたぁぁぁ!ドゥラメンテが最後の直線に入ります、ドゥラメンテが上がってきた!ドゥラメンテが後方からさらに捲ってくる!追従するサトノクラウン、しかしその差はジワリと広がってきている!だが食らいついているぞサトノクラウン、皐月賞とは違う!》
《前で逃げるキタサンブラックを捕まえることができるか!ドゥラメンテの末脚は驚異の一言ですからね!》
《キタサンブラックを必死に追従するシュヴァルグラン!その差をジワリと詰めている、3バ身の差!逃げるキタサンブラック、坂を上る!》
ッ、ドゥラさんが最後の直線に入った。感覚で分かる、圧で理解できる。ドゥラさんが最後の直線に入ったんだって。
後ろには、シュヴァルちゃんが控えている。差を詰めようとしている。ドゥラさんの圧に交じって、クラちゃんが上がってきているのも感じる。確認する余裕はない、なんとなくの気配だけど……不思議と分かるような気がする。
(もっと……もっと……)
走る、走る。ひたすらに走る。坂を越えて、残り200mのハロン棒を通過して。あたしはさらに走る。スタミナは十分、このまま駆け抜けることは可能!
《逃げるキタサンブラック、残り200m!シュヴァルグランが差を詰める、後続が上がってきているが、ドゥラメンテのスピードが飛び抜けている!キタサンブラックとの差を6バ身、5バ身と一気に詰めてきたぁ!追従するサトノクラウンも負けていない、サトノクラウンもドゥラメンテを追従する!》
先頭を走るあたし。油断なく走っていた、問題なく走れていた。そんなあたしに襲ってきたのは──悪寒。
(ッ!)
背筋すら凍りつきそうなほどに増したプレッシャー。あぁ、やっぱり……!
「最強は、私だッッ!!」
「ここまで届くんだね、ドゥラさんッッ!!」
最後の、勝負です!
◇
届かない。そう思わせるほどの差だった。
(皐月賞とは状況が違う。キタサンのスタミナは万全でない状態だったからこそ、10バ身の差を覆すことができた)
捲りが有利な東京レース場であっても、この差を覆すのは難しい。そう思わずにはいられないスピードを、キタサンは叩き出している。
(あぁ、やはり)
「君は、私の最大のライバルで。君は、凄いウマ娘だ」
思わず笑みがこぼれる。だからとて、私は──負けるわけにはいかないッ!
(限界を越えろ)
歯を食いしばり、ありったけの力を脚に込める。
(後先のことを考えるな)
全身の血液を沸騰させろ。この最後の直線に、己の全てを懸けろ。
(勝つ、勝つ。勝つ!勝つ!!)
全身の細胞が躍動する。心臓がうるさいくらいに高鳴っている。キタサンブラックを捕まえろと、レースに勝利しろと私の血が騒ぐ!
「最強は、私だッッ!!」
「ここまで届くんだね、ドゥラさんッッ!!」
ぶち抜く、絶対にッ!
《ドゥラメンテがサトノクラウンを置き去りにする!サトノクラウン必死の追走、離されまいと必死に粘る!じわりじわりと広がる差、2番手シュヴァルグランを躱してドゥラメンテが2番手に浮上した!キタサンブラックとの差はわずかに1バ身!皐月賞と変わらない顔ぶれだ、この4人での争いになるか!?後続も上がってきているが、キタサンブラックとドゥラメンテの勝負になる!》
◇
2つのプライドが激突する。
《ドゥラメンテ!ドゥラメンテ!ドゥラメンテが差を縮める!キタサンブラックが粘る!キタサンブラックが脅威の粘りを見せる!》
後方からの捲りを決めようとするドゥラメンテ。前での逃げ切り勝ちを狙うキタサンブラック。2人に差はない。
《サトノクラウンも負けていない!サトノクラウンも必死に食らいつく!シュヴァルグランはどうだ!?シュヴァルグランは粘れるか!先頭はキタサンブラック、ドゥラメンテとの差はわずか!さぁここまで来たぞドゥラメンテ!》
必死の形相で歯を食いしばるウマ娘達。勝利という栄光に向かって、最後まで気を緩めずに走る。
《残り50m!ここでドゥラメンテ並ぶことができるか!?ドゥラメンテきた、ドゥラメンテきた!ドゥラメンテきた!キタサンブラックここからも粘る!やはりこの2人の争いになる日本ダービー!大接戦、大接戦だ日本ダービー!ドゥラメンテかキタサンブラックか!?変則三冠か皐月賞のリベンジか!》
熱は伝播する。ファンも声を枯らしそうなほどに声援を送る。熱い勝負を繰り広げるウマ娘達に、精一杯のエールを届ける。
《ドゥラメンテ!キタサンブラック!ドゥラメンテ!キタサンブラック!ドゥラメンテェ!キタサンブラックゥ!》
時が止まったかのような感覚を覚えるゴール前。ドゥラメンテとキタサンブラック、両者の身体は重なったようにも見えた。どちらが勝ったのか、どちらが先にゴールラインを割ったのか。判断できたのは──両者の差。
《ドゥラメンテ!ドゥラメンテ!やっぱり強かったドゥラメンテェェェェェッッ!!これで変則三冠!クラシック四冠に、王手をかけましたドゥラメンテェェェ!キタサンブラックとの差はハナ差、ハナ差での決着となりました!ですが、2着のキタサンブラックもこれまた凄い!やはり世代の代表はこの2人だ!次の勝負は、秋の京都へと引き継がれていく!3着はキタサンブラックから1バ身差サトノクラウン!》
ターフに膝をつくドゥラメンテ。悔しさで身体を震わせながらも立っているキタサンブラック。勝ったのは──ドゥラメンテだった。
クラウンもクラシックでなっていいステータスじゃない()。ちなみにシュヴァルはオールBだったりします。クラウンよりスピード以外のステータスがほんのり上がってる感じ。