ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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ダービー終戦。


激闘の後に

 追い上げるドゥラメンテ。逃げるキタサンブラック。どちらが勝つかは予想がつかなかった。どちらが勝っても全くおかしくなかった。

 最後の最後まで分からなかった激突。制したのは──変則二冠のドゥラメンテ。

 

《ドゥラメンテ!ドゥラメンテ!ドゥラメンテ!やはり強かったドゥラメンテ!最後の最後に捲った、勝った!変則三冠ウマ娘の誕生だ!ドゥラメンテ強し!》

 

 勝ったドゥラメンテは膝をついて荒い呼吸をしている。

 

「ハァ……ハァ……ッ!くっ、は……!」

 

 新鮮な空気を取り込もうとしている。けれど、上手く吸うことができない。観客の歓声に応える余裕もない、立ち上がる力もない。その姿だけで、どれほどの激闘だったか、ファンにも理解できた。

 ドゥラメンテだけではない。サトノクラウンにシュヴァルグランといった有力ウマ娘、他のウマ娘も立ち上がるのもやっとといった姿。ラチに身体を預ける者もいれば、杖代わりにしている子もいる。

 熱い名勝負の後。全員が倒れそうなほどに疲労を感じている──ただ一人を除いて。

 

「──ッッ!」

 

 声にならない悲鳴を上げる、キタサンブラックだ。彼女のみ、五体満足を思わせる状態で立ったままだ。

 彼女とて疲労は感じている。本来なら立っているのもやっとだ。けれども、彼女は膝をつかずに立っている。悔しさで血が流れんばかりに強く拳を握り、歯が砕けそうな勢いで強く嚙んでいる。

 

(負けた、負けた!)

 

 己の敗北を認識して、悔しさを爆発させる。あと少し届かなかった。もう一歩が出せなかった。そのことを強く認識する。

 立ったまま天を仰ぐキタサンブラック。膝をついて俯き、荒い呼吸を繰り返すドゥラメンテ。パッと見たらどちらが勝者か分からないような光景。この姿に、ファンは身震いをする。

 

「おいおい、キタサンブラックはまだいけるのかよ……!」

「こりゃ菊花賞も分からねぇぞ!」

「変則四冠か、菊花賞でリベンジか!どっちに転んでも、絶対にすげぇ勝負になる!」

「確実に名勝負になるじゃねぇか!こりゃ、見に行かないと損だぜ!」

 

 キタサンブラックが見せるスタミナ。クラシック最長距離の菊花賞。最終戦の舞台で、キタサンブラックとドゥラメンテは三度激突する。三度目の勝負はどうなるのか?二度あることは三度あるか、はたまた三度目の正直か。どちらになったとしても、ファンは盛り上がること間違いなしの名勝負になるだろうと直感していた。

 

 

 歓声が響き渡る中、膝をつくサトノクラウン。いまだ整わない息の中で、彼女は思い知らされる。

 

(やっぱり……私はこの距離までが限界ね)

 

 己の適性の限界。自分は中距離までしか走れないことを悟る。そして、今から適性を改造しても……菊花賞には間に合わないことを理解する。自分とは違い、立ったままのキタサンブラックが視界に入ったことで思い知らされることになった。

 

(だから、何としても勝ちたかったけど……仕方ないわね)

 

 大きく息を吸って、吐く。動作を何度も繰り返すことで、どうにか息が整う。

 

(挑戦を切り替えましょう。菊花賞は諦めて、私は)

「さらに上の相手へ、挑みましょう。経験を積む……そのために」

 

 どうにかして立ち上がり、ターフを去る。日本ダービー3着……当然、この結果に納得していないサトノクラウンは、さらなる飛躍を誓って控室へと戻っていった。

 

 

 そしてシュヴァルグラン。彼女も荒い呼吸を繰り返している、が。ドゥラメンテとサトノクラウンに比べれば比較的軽症である。

 ただ、彼女の場合は別の問題が出ていた。

 

(……やっぱり、凄いなぁ)

 

 ネガティブ思考である。元々力の差は理解していたが、この日本ダービーでさらに印象付けられてしまった。

 ずっとキタサンブラックの後ろを追走していたシュヴァルグラン。ついていくのもやっとであり、走り終わった後は膝をついて倒れこんでしまうほど。だが、彼女がマークしていたキタサンブラックはというと……出走したウマ娘の中で唯一立ったままである。呼吸も、誰よりも早く整っていた。

 シュヴァルグランも4着。加えて、3着のサトノクラウンとの差はクビ差、1着のドゥラメンテとの着差は2バ身あるかないか。皐月賞よりも着差は縮まっており、間違いなく成長している。だがそれ以上に、キタサンブラックの強さが目に焼き付いていた。

 

(……戻ろう)

 

 勝負服の帽子で表情を隠す。みじめな自分を隠すように、弱い自分を見せないように。このまま黙って消え去ろう、そう思っていたシュヴァルグランの耳に届いたのは。

 

「よく頑張った!シュヴァルッ!」

「……えっ?」

 

 彼女のトレーナーからの、労いの言葉だった。少しの悔しさと、労わるような優しい表情を浮かべて。トレーナーである天城はシュヴァルグランへと声をかけた。

 そして、次々と聞こえてくるチームのみんなの声。

 

「お疲れシュヴァル!惜しかったよ!」

「次に、活かしましょう。差は、縮まっています」

「まだまだ、シュヴァルさんはここからです!」

「雲外蒼天……君が進む道の先には、必ず青空が広がっているはずだ」

 

 シュヴァルグランを励まし、次こそは勝とうと応援する声。その声を聞いて、シュヴァルグランの胸は温かくなる。気づけばネガティブな感情は消え、残ったのはレースに負けた悔しさ。目尻に涙を浮かべ、耐えるようにターフを後にする。

 

(……頑張らなきゃ)

 

 胸に宿った闘志の火は、いまだ消えず。

 

 

 ドゥラメンテ。今の彼女の姿は、勝者とは思えないだろう。荒い呼吸を繰り返し、必死に息を整えている。

 

(勝った……が、さすがにキツいな……!)

 

 領域を使い、それでもなお届かなかった。だからこそ渇望した、さらなるその先を。最後の一滴まで絞りつくすほどの力をドゥラメンテは発揮した。結果として勝利を得ることができた。

 どうにか整えることができたドゥラメンテ。日本ダービーの勝利を分析し、そして──キタサンブラックのことを考える。

 

(しかし、恐ろしい。キタサンはまだ、先がある!)

 

 最後の最後に捲ることができた。ただ、キタサンブラックは誰よりも早く息が整っており、立ち上がるのも厳しい中でキタサンブラックは立っていた。

 並外れた心肺機能の持ち主。出走者の中でも飛び抜けたスタミナを保有するからこその立ち居振る舞い。ドゥラメンテの身体は震える。

 

(菊花賞……クラシック最長距離の3000m。キタサンが、本領を発揮する舞台)

 

 日本ダービーでギリギリだった。菊花賞は、このままだと間違いなく負ける。それを事実として受け止めなければならないと、ドゥラメンテは強く刻み付ける。

 

「それでも私は負けない。最強の証明、クラシック四冠を取る。海外への挑戦は、後でもいい」

 

 今やるべきことはキタサンブラックとの勝負。海外への挑戦はクラシックが終わってからでもいいと考えていた。

 震える脚を叱咤し、なんとか立ち上がるドゥラメンテ。ウィナーズサークルへと向かう準備を進める。

 

(最後まで油断はしない。私は勝つ)

 

 歩を進めるドゥラメンテ。先ほどまで膝をついていた姿はなく、勝者として堂々と振舞っていた。

 

 

 日本ダービーの勝者はドゥラメンテ。最後の勝負は、秋の京都へと持ち込まれる。

 

 

 

 

 

 

 日本ダービーから少し時間が経って。あたしは軽いランニングをしている。激戦だった日本ダービーだけど、身体を動かすくらいなら大丈夫とトレーナーさんから許可をもらいました。あたしの回復の早さに驚いてましたけど。

 走りながら日本ダービーのことを思い出す。ドゥラさんの末脚は凄かったなぁ。最後の最後に捲られてしまった。やっぱりドゥラさんは強いや。

 

(今回の敗因……か。多分だけど、これ、って言ったものはある)

 

 今回のダービーはみんな疲労困憊だった。思い返してみれば、あたし以外はみんな膝をついてたりラチを支えにしてた子達ばっかりだった。そんな中で、あたしだけ普通に立っていた。

 確かにキツかった。それは確かだし、あたしも全力を出して走っていた。けど、あたしには……全部を絞りつくしたような感覚はなかった。

 

(あたしのスタミナは、まだ余裕があった。本当の本当にバクシンすることができなかった)

 

 でも、1000mのロングスパートだし、あたしの限界だと思ったんだけどなぁ……。よく分からないや。

 それに、レース後バクシンオーさんに言われた。

 

「とても良いバクシンでした、キタさん!ドゥラさんとの素晴らしい勝負、思わず委員長も走りたくなりましたよ~ッ!」

「ですが、キタさんはまだまだ自分を信じ切れていない様子。それが勝敗を分けましたね」

「以前にも言った気がしますが、なによりも自分を信じましょう、キタさん。あなたは強い、この学級委員長が保証しますともッ!」

 

 もっと自分を信じたほうがいいって。バクシンした方がいいって言われた。う~ん……まだまだ足りないのかな?

 

 

 色々と考えながら商店街を走っていると。

 

「お、キタちゃんじゃないか!」

「え?本当だ!お~い、キタちゃ~ん!」

 

 あ、商店街のおじさん達!

 

「おはようございます、おじさん達!」

「数日前は日本ダービーだったのに、元気だねぇキタちゃん」

「はい!いつでもどこでも元気いっぱい!それがあたしの取柄ですから!」

 

 商店街の人達が続々と集まってきました。なんだか、久しぶりな気がするな~。

 おじさん達は日本ダービーのことを口にした。あたしは負けちゃったけど、おじさん達は温かい言葉をくれました。

 

「ダービーは惜しかったねぇ、キタちゃん。あともうちょっとだったのに!」

「まさかあそこから捲ってくるなんて!でも、キタちゃんなら次は勝てるさ!」

「これ、キタちゃんのトレーナーさんに渡してくれよ。ウチの魚を食べてさらに強くなってくれ!」

「いや、同じチームだからドゥラメンテちゃんも強くなるよそれ」

 

 おじさん達からはいろんなものをもらいました。新鮮な野菜だったりお魚だったり果物だったり!嬉しいな~。よし、たくさん食べて強くなるぞ!

 

「ありがとうございます!皐月賞も、ダービーも負けちゃいましたけど……次のレースでは勝ちますね!」

「おう、楽しみにしているよ!」

「キタちゃんの勝利の笑顔、見せてくれよ~!」

「俺たちゃどんな時も、どんな場所でも。キタちゃんを応援しているからね!」

 

 おじさん達の温かい言葉。嬉しくなるし気合いが入ってくる!頑張ろうって気持ちが湧いてきます!

 

「はい!次のレース──ジャパンダートダービーも頑張りますね!」

 

 あたしの次のレースはジャパンダートダービー。タルマエさんも勝ったこのレースを、あたしは次の目標に決めた。少しやりたいことがあるし、確認したいことがあるから。それは秋になってからじゃ遅い。なるべく早くしたかったから。だから、ジャパンダートダービーを目標に定めた。

 幸いにもダートは走れるようになった。トレーナーさんからのお墨付き、しっかり勝ちますよ~!

 

「「「え?」」」

 

 ……あれ?おじさん達、なんかびっくりしてる?ポカーンとしてるけど……どうしたんだろう?

 

「え、えっとぉ……キタちゃん?ジャパンダートダービーっていうのは?」

「はい、あたしの次走ですけど」

「確か、ダートのレースだよね?でも、キタちゃんは芝しか走れないんじゃ……」

 

 あ、あ~、そういうことだったか。確かに芝しか走ってないから誤解されても仕方ないか。

 

「大丈夫です!チームのみなさんのおかげで、あたしもドゥラさんもダートは走れますから!まぁドゥラさんはジャパンダートダービーに出走しないんですけど」

「え、え?」

「あ、もうこんな時間だ!それじゃあおじさん達、またね~!」

 

 籠にたくさんの野菜とお魚と果物を背負って、いざランニングの続きです!

 

「バクシンワッショーイ!おじさん達の期待に応えるためにも頑張りますよ~!」

 

 美味しい食材で作ってくれるトレーナーさんの料理、楽しみだな~。みなさんと一緒に食べましょう!

 

「……本当にキタちゃんのトレーナーさんはどうなってんだ?芝とかダートの適性って、そんな簡単に克服できるもんじゃねぇよな?」

「分からん。少なくとも、オラたちの常識が壊されちまったよ」

「というかキタちゃん、あの激闘でもう走れるのかい?しかもあんな荷物を背負って……てっきり応援を呼ぶものだと思っていたのに」

 

 次のレースに向けて、バクシンバクシンです!

 

 

 

 

 

 

 某所、トレーナー室にて。

 

「……くしゅん!」

「あら、風邪ですか?高村トレーナー」

「……いえ、体調には気を配っているので。誰かが僕の噂をしているのかもしれません」

 

 高村聖と駿川たづなのそんな一幕があった。




キタサンは丈夫だねぇ。なおドゥラメンテはまだトレーニングお休み中です。
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