分野を問わず、常にスポーツの世界で結果を残してきた一族。アスリートの血族がこの時代に送り出した、血の結晶。それが私、ドゥラメンテだ。トレーナー達は私のことをよくそう言っている。
私自身、一族の方々はみな尊敬している。誰もが歴史の転換点というべき人達であり、輝かしい実績を残してきた。私も見習い、それに続く必要がある。
「私は最強を証明する。私が、レース界の転換点となる。それこそが私の目標だ」
あらゆるものを圧倒し、全ての記録を塗り潰して、あらゆるウマ娘を下して私は頂点へ君臨する。私の成すべき使命、私の証明だ。
だが、そのための障害は強大と言わざるを得ないだろう。
トレセン学園は言わずもがな、全国から才能を見出されたウマ娘達が集う舞台。無論、誰もが強者であり油断ならない相手だ。私の同期となるウマ娘もまた、強者。そんな彼女達をねじ伏せる必要が、私にはある。
ただ……一番の障害は、私が所属しているチームにある。【チーム・ミーティア】、世界にその名を轟かせる最強のチーム。全員が圧倒的な力を保有しており、レース界の頂点に君臨してきた方々ばかりだ。私が尊敬する相手でもあり、私が倒さねばならない相手。
「バクシンバクシーーンッッ!この委員長に続け~ッ!」
チームの象徴であり、リーダー的存在であるサクラバクシンオー。トゥインクル・シリーズで今なお輝く記録、SMILE区分G1の全制覇を成し遂げた、史上最強の
「全く、毎度毎度この掛け声だけはどうにかならないものかねぇ……」
チームの頭脳、アグネスタキオン。サクラバクシンオーとは違い、中距離に限定しているが、その中距離では最強を誇るウマ娘。トゥインクル・シリーズ史上初の凱旋門賞制覇を成し遂げ、世界の中距離路線を総ナメした超光速の粒子。ワールド・ベスト・レースウマ娘・ランキング*1が発表したレーティングは140。英国のマイル~中距離路線に君臨した怪物と同値を叩き出している。
「私はもう慣れましたわ。訂正するのも面倒ですし」
チームで唯一ティアラ路線に進み、誰もが圧倒する力を見せた女傑、ジェンティルドンナ。狙った着差で勝利する計算高さ、競り合いでの圧倒的な強さは今もファンの目に焼き付いているだろう。ティアラ路線でレーティング135の最高値を叩き出しており、芝とダートの両路線で結果を残してきた。
「もう象徴みたいなものじゃないですか。諦めて受け入れましょうよ」
「君までツッコミを放棄するな!私一人にかかる負担がとんでもないことになるだろう!?」
チームの広報担当、ウマチューブで幅広くPR活動をしているホッコータルマエ。普段はアイドル然としている彼女だが、ひとたびレースとなれば別人のように変わる。緻密な計算でレースを支配し、ウマ娘を屈服させる。加えて、一度負けた相手には二度負けない。そのことからついた二つ名、【復讐の魔王】。こちらも芝とダートの両刀であり、芝と砂のダービーを同時に制したのは彼女のみの記録だ。
チームに所属しているウマ娘は、全員が最強ともいうべき実力者。彼女達を導いてきたのが、私のトレーナー──高村聖だ。
「ひとまず、ウォーミングアップが終わったらそれぞれのメニューに移ろうか。ドゥラは……瓦割かな」
「あぁ、分かった」
【神童】、【大天才】……彼を指す言葉はたくさんある。事実その通りで、彼は世界を股にかけて結果を残してきた。
純スプリンターに三冠どころかNHKマイルも含めた四冠制覇、日本勢初の凱旋門賞制覇に加え、英愛のチャンピオンステークス、BCクラシック制覇と、その功績は多岐にわたる。彼は人から目に生気がない、光が灯ってないと言われているが……私はさほど気にしたことがない。そんなもの、些細なことだ。
彼こそが世界最高のトレーナーだと評する声は多い。無論、それをよく思わない者もいるらしいが……彼からは気にした発言を聞いた覚えがない。
「別に。僕はただ君達の願いを叶えて動くだけだからね。僕への批判の声とかは、あまり気にしたことがないかな」
とのことだ。おそらく、嫉妬の声など効かないタイプなのだろう。常に私達のために動き、最善を尽くしてくれるトレーナー。私もとても信頼している。
……そして、チームにはもう一人、ウマ娘がいる。
「ハァァァ~~~ン!……よし、喉の調子も絶好調!今日も頑張るぞ~!」
キタサンブラック。私と同時期にデビューしたウマ娘であり、私と同じ時期にチームに加入した──最初のライバルだ。
元々、私とキタサンはバクシンオーのトレーニングの手伝いをしていた。その後もトレーナーがいないということでバクシンオーとトレーニングを続け、気づけばチームに加入した……半ば押し入りのようになってしまったのだが、それはいいだろう。トレーナーも問題ないと言ったからな。
同じ時期に、ずっと近くでトレーニングをしていた。必然、他のウマ娘と比べて競う機会は多くなる。一緒に走る度思い知らされるのだ。彼女は、私にはない強さを持っていると。そして、私の心が疼く。
(彼女こそが、私を脅かす最強のライバルとなる)
予感だった。生涯のライバルになる、終生の相手となるだろうと。彼女を超えることが、私が最強を証明する第一歩になる。そう感じさせた。
事実、彼女は強い。メイクデビューに始まり、芙蓉ステークス、京都ジュニアステークスと連勝している。それも、2番手に5バ身差以上つける形で。私も目下3連勝中だが、意識せざるを得ないだろう。
競うライバルがすぐ近くにいる。それがどれだけ嬉しいことか。
「キタサン。君には負けない」
「え!?え、え~っと、あ、あたしも負けないよドゥラさん!」
先達は最強、同期に強いライバルがいるチーム。高め合うには最高の環境だ。私は、このチームにいることを誇りに思っている。それだけで終わるつもりは毛頭ないが。
……これは完全な余談だが、どうやらトレーナーは理事長から畑の出禁を食らったらしい。曰く、野菜を活かした料理を食すのは構わないが、研究のレポートや改善案などには一切手出し無用とのこと。
「出禁ッ!他のトレーナーとそのウマ娘達がやるので高村トレーナーは畑業務に携わらないことッ!」
「で、でも」
「でも、じゃありませんよ~?シュガーライツ博士のお手伝いに加えて、三女神様のお手伝いもしているんですから、これ以上お仕事を増やそうとしないでくださいね~?」
トレーナー。こればっかりは理事長達が正しいと思うぞ。というか今でさえも多忙なのに何をやっているんだ君は。
◇
大事なレースを控えたある日。私は父と会った。数少ない、父との交流の機会。大事にしなければ……!
「ドゥラ。ジュニア級のG1、朝日杯に挑むそうだな?」
「ッ!はい、私は、朝日杯に挑み……そして勝利します」
最初に口を開いたのは父さん。次のレースの予定を聞いてきた。ならば答えなければならない。勝つのは私だと。
「それは、完璧な最強であるためか?朝日杯はジュニア級の最強を決める戦い。ここを勝って、まずは世代の頂点に君臨する必要がある……そう考えているのか?」
父からの試すような問い。完璧な最強、か。
「父さん。私はあのチームにいるといつも思い知らされます」
「……」
「私が目指す頂は、とても遠く険しいものだと」
以前の私ならば、このようなことは言わなかっただろう。弱さを隠し、虚勢を身に纏い、緊張して、ボロボロになっていたかもしれない。
だが、そうはならない。なぜならば私は知っているからだ。チームのみんなと関わっていくことで分かった。どのような強者にも……弱い時はあるのだと。そして大事なのは、全てを背負う覚悟を持つことなのだと。
「私が所属しているチームの方々は強い。己の弱さを隠して勝てるような相手ではない。そう思い知らされる毎日です」
「ドゥラ……」
「ですが、私は諦めません。頂点へ至るためには、この弱さも甘んじて受け入れます。それが強くなるためならば、私は弱さを許容します」
そして、その果てにある最強を掴む。誰もが認めるような強さの頂に、私は立つ。父さんは、私の言葉に満足したのか笑みを浮かべていた。
全てを背負う……緊張してしまうが、問題はない。なぜなら、私にはトレーナーがいるからだ。彼が土台を整えてくれる、私はただ、自分の実力を信じて走ればいい。
「父さんもご存じの通り、私のトレーナーは素晴らしい方です。ウマ娘に寄り添い続け、結果を出し続けてきた」
「あぁ、私も彼の名声は聞いているよ。とても高潔な人物だと」
やはり父さんも知っていたか。偉業を考えれば当然のことかもしれないが。
「いつか彼とは直接会ってみたいものだ。まだ面識がないからね」
「それならば、年末のパーティに誘うというのはどうでしょうか?彼ならば受けてくれるかと」
「それはいいかもしれない!では、その手筈を整えよう」
「では、トレーナーには私の口から」
父さんとの語らいはとても楽しい時間だった。少ない時間だったが、満足のいくものだった。
◇
私の環境は、最高といってもいい。世界最高のトレーナーと世界最強のチームに加え、自分を脅かすライバルが近くにいる。強くなるという意味ならば、ここ以上の場所などない。
だからこそ、私は結果を出す。最強の証明を、私の血の証明をする。
《第4コーナーを回って最後の直線に入りました。先頭を走るのはサトノクラウン、サトノクラウンが先頭だ!1番人気ドゥラメンテはまだ後方に控えている、ここから届くのか!?沸き上がる阪神レース場、朝日杯もいよいよ大詰めです!》
不思議だ。緊張していた場面でも、落ち着いてレースを俯瞰できる。ジュニア級といえどG1という大舞台、限られたウマ娘しか到達できない領域に足を踏み入れているのに、不思議なほど落ち着いている。
(この程度の状況、窮地でも何でもない。
大外に持ち出す。目の前に障害は何もない。好き好んで大外を走るウマ娘などいないし、対策などしようがないのだから。
「──行くぞ」
自分の脚にありったけの力を込める。余計な思考は一切いらない、後はただこの直線を駆け抜けるのみ!
地面が爆ぜる。私の筋肉が躍動し、全ての力を前に進むために使う。速く、速く、1秒でも速く!
「う、そ」
「速すぎ……!」
追い抜く。全てを置き去りにするスピードで、誰もが疑う余地のない速さを見せて駆け抜ける。私の最強を、証明するッ!
《さぁ~来ました!大外一気だドゥラメンテ!外から一気にドゥラメンテが飛んできた!彼女の黄金パターンが炸裂する!なんというスピードだ、もうすぐで先頭サトノクラウンを捕らえるぞ!》
疑う余地のない強さをここに!このスタイルで私は、頂点へと君臨する!
「くっ、ドゥラメンテ、さん……!」
残り100m。先頭であるサトノクラウンを抜いて私は先頭に立つ。後はこのまま引き離すだけ。私の──勝利だ。
《ドゥラメンテ!ドゥラメンテだ!やはり強いこれこそがドゥラメンテだぁぁぁ!直線で捲ったドゥラメンテ1着!朝日杯を制したのはドゥラメンテ!2着のサトノクラウンに2と1/2バ身差をつける快勝です!》
《いや~気持ちの良い勝ち方ですね!後方からの直線一気!すごい勝ち方です!》
《これが私の王道だ!そう言わんばかりの快勝です!朝日杯を制したドゥラメンテ、彼女の今後が非常に楽しみです!》
レース後は呼吸を整える。まずは、朝日杯を制することができた、か。
観客席へと視線を向ける。その先には、トレーナー達がいた。もちろん、キタサンもいる。私の勝利を祝福し、喜んでいる彼女達の姿が見える。
(キタサン。君と戦うのは……クラシック三冠だ)
彼女の次走はホープフルステークス。私は走ることはできない。私達が戦う舞台は、クラシックの舞台になるだろう。私もクラシック路線、彼女もクラシック路線だからだ。
キタサンのレーススタイルは私とは真逆。逃げで走るのが彼女の得意分野だ。お互いのことを熟知している関係上、不利なのは私の方だろう。
だが、関係ない。私はこのスタイルを貫くと決めた。トレーナーも許容してくれた。後は、トレーナーを信じて突き進めばいい。
(彼は私を高みへと導いてくれる。私が目指すべき最強へと)
私は揺るがない。この走りで、君の逃げを粉砕しよう。
「私は三冠を取る。それだけではない……NHKマイルをも手中に収め、クラシック四冠へと至ろう」
かつてはバクシンオーが通った道。クラシック四冠という大偉業。私も挑戦する。そして、到達してみせよう。君というライバルを下して、だ。
……いけないな。相手はキタサンだけではない。今回走ったクラウンに、シュヴァルも油断はできない。この勝利に驕ることなく、常に高みを目指さなければ。
《1着のドゥラメンテに惜しみない拍手が送られます!1番人気の期待に、見事応えたドゥラメンテ~!》
視界は良好。さぁ、クラシックに挑もうか。
現状の説明に入りますと
高村陣営→メカウマ娘+グランドマスターズ
他陣営→大豊食祭+グランドマスターズ
みたいな感じです。畑出禁にされる男高村。