夏合宿も順調に過ごしていた今日、記者のインタビューに答えることになった。タイトルは、クラシック最終戦菊花賞への意気込み、のようなものだと聞いている。
「現在変則三冠。菊花賞を制することができれば、ミーティアの先輩であるサクラバクシンオーさんに並ぶことになります。緊張はありますか?」
「ない、とは言い切れない」
「ふむふむ。やはり緊張はあると……それはやはり、強力なライバルが関係していたり?」
ライバル、か。クラウンは出走しないが、シュヴァルグランは出走予定だと聞いている。彼女もまた、良いライバルだ。
「あぁ、そうだ」
「なるほど。ライバルはキタサンブラックさんだけですか?」
「違う。走る相手全てがライバルであり敵だ」
「ほうほう、菊花賞に出走するメンバー全員をライバルと思っていると」
隣にいるトレーナーは特に何も言わない。私がインタビューを受けると言ったら同伴してきたグル姉はどこか心配そうな表情をしているが、なぜだ?私は完璧に答えている、グル姉が心配するようなことなど何もないというのに。
「皐月賞と日本ダービー。どちらも2着はキタサンブラックさん。しかしその差は僅かにですが縮まっています。率直な感想をお聞かせください」
「彼女はステイヤーだ。距離が長くなるほど強くなる。油断はしない」
「ミーティアのトレーナーさんも言ってましたね。厳しい勝負になると?」
「私は勝つ。最強の証明のために、圧倒的に勝つだけだ」
弱さは見せない。自信に溢れた私を見せる……記者の表情がどこか微笑ましいものを見る目なのは気のせいだろうか?
「菊花賞への意気込みは十分、目指すべきはやはり?」
「最強だ。いつ、どんな時でも揺らがない……私は最強を証明し、この血を刻む。トゥインクル・シリーズの歴史に、ドゥラメンテという最強の名を刻む」
「溢れる自信、素晴らしいですね!」
どうだ、グル姉。私は完璧にこなせただろう?受け答えも問題なくできる、グル姉が心配することなど何もない*1。
「続いてトレーナーさんの方なのですが……菊花賞の展望をお聞かせください」
「ドゥラメンテもキタサンブラックも、どちらも勝てるように調整しています。特に警戒しているのはシュヴァルグランですね」
「シュヴァルグランですか。皐月賞は3着、ダービーは4着ですが良い内容でした。しかもトレーナーはシンボリルドルフとトウカイテイオーのトレーナーですからね」
スラスラと受け答えをしているトレーナー。さすがだ。
「クラシックでドゥラメンテさんとキタサンブラックさん、2人が戦ってきているわけですが。それはドゥラメンテさん達側の意思を尊重した形でしょうか?」
「はい。彼女達が戦いたいと願ったからこそ、私はクラシックで激突する道を提案しました。2人とも、その先に目標があると言ってましたので」
「ずっと身近にいたライバル、だからこそ負けられない……!素晴らしい関係ですね!記事にしてもよろしいでしょうか?」
トレーナーからの目配せ。勿論構わない。何も不都合なことなどない、事実なのだから。
「ありがとうございます!これは良い記事が書けそうです!」
「いつもお世話になっています。アグネスタキオンの時もそうでしたし」
「いえいえ、こちらもあのミーティアを取材できるんですから、Win-Winですよ。今後ともご贔屓にしてくださると嬉しいです」
この記者さんはミーティアを記事にする時、いつもいの一番に来る人だ。【月間トゥインクル】の乙名史?記者にも劣らず。好意的な記事を書いてくれるのでトレーナーが嬉しそうにしていたのを思い出す。
「ただでさえ……おっと、これは後にでも」
「そうですね。良い話ではありませんし」
「?」
どうしたんだろうか、トレーナーも記者さんも。記者さんの方は苦い表情をしているが……ここで語る気はないようだ。
「楽しみですね~菊花賞!前評判通りの2人がやはり勝つのか?それとも伏兵が差すのか!」
「頑張って調整します」
「勝つ」
これでインタビューは終了。次はキタサンか。
◇
夏合宿中だけど、菊花賞前のインタビューをやることになりました。が、頑張って受け答えするぞ!
「さて、まずは菊花賞への意気込みについてお願いできますか?」
「は、はい!精一杯頑張ります!お祭り娘の本領を見せちゃいますよ~!」
「元気いっぱいのあいさつですね。トレーナーさんの言葉ではステイヤーらしいですが?」
ステイヤーは長距離ウマ娘のこと。トレーナーさんはあたしのことをステイヤーって言ってたし、何よりあたし自身距離が長い方が得意だ。
「はい!長い距離の方が、あたしに合ってるような気がします!」
「それでは、3000mの長丁場である菊花賞は得意分野だと?」
「併走でもたまに走ってますけど、良い感触です。問題なくこなせると思います!」
最初は緊張してたけど、受け答えしているうちに緊張はほぐれてきました。よ~し、この調子でこなしますよ~!
「キタサンブラックさんと言えば、やはり同じチームのドゥラメンテさん。彼女はどのような存在でしょうか?」
ドゥラさん、か。いつもなら仲の良いチームメイト、って答えるけど。菊花賞を想定するならそうじゃないよね。
「仲間である以上に、ライバルです。特に、皐月賞と日本ダービーどっちも負けちゃってますから。菊花賞は是が非でも勝ちたいです」
「ッ!……良い気迫ですね、やはり一番意識しているライバル、ということでしょうか?」
頷きます。間違ってないから。あたしにとってドゥラさんは仲間でライバル。超えるべき目標なのだから。
「クラシック最後の冠は譲れない。お祭り娘は変則三冠のドゥラメンテから逃げ切れるか?……といったところですかね?」
「あ、あはは。まぁドゥラさんは強いので、一筋縄じゃいかないですけど。それでも精一杯頑張ります!」
「こちらも期待が持てますね~。ありがとうございます!」
その後も細々としたことを聞かれたけど、普通に答えることができました。インタビューはたくさん受けてきたけど、やっぱり緊張するなぁ。
「ちなみに、キタサンブラックさんは海外遠征のことは視野に入っているでしょうか?」
「かい、がい?」
「えぇ。ドゥラメンテさんはゆくゆくは海外を考えているようでしたが、キタサンブラックさんはどうなのかな、と思いまして」
海外、海外かぁ……あんまり考えたことがない。タキオンさんやジェンティルさん達が戦った舞台で、凄いところなのは分かっているんですけど。自分がそこに立つかどうかなんて考えていなかった。
思わずトレーナーさんを見ます。でも、トレーナーさんは何も言わずにあたしを見るだけ。多分だけど、あたしの答えを待っているんだと思う。
(海外……あまり考えてこなかった)
タキオンさん達が立った舞台に、あたしも立つ。ちょっと前までは想像できなかったことかもしれない。けど、頭に浮かんできたのは──ドゥラさんと一緒に、海外のレースを走っている景色だった。同時に、あたしを応援してくれるおじさん達の言葉を思い出す。どんな時でも、どんな場所でも応援するという言葉を。
(……あたしは、どうしたいのか)
悪くないのかもしれないと思った自分がいる。きっと、それが答えだ。
「っ、すみません、変な質問「ある、と思います」え?」
「可能性としては、考えています。海外のレースを走る、悪くないと思っている自分がいます。まだちょっと、分からないですけど」
言葉を濁しちゃったけど、ほぼ確定かもしれません。海外のレースを走る……その可能性を、あたしは考えている。
沈黙した場。でも、次の瞬間には記者さんはぺこりと頭を下げました。
「ありがとうございます、答えてくださって。答えにくい質問だったかもしれません」
「い、いえいえ!あまり考えてこなかったことなので!ちょっと戸惑っちゃっただけです!」
考えこんじゃったから記者さんには悪いことしちゃったな……まぁ最後には笑顔になってたからいいか。
「ありがとうございます、夏合宿の貴重な時間を。トレーナーさんはもう少しよろしいでしょうか?」
「構いません。それじゃあキタサンはみんなと合流してトレーニングね」
「はい!今日も気合い入れて頑張りますよ~!わっしょいわっしょーい!」
インタビューも終わっていざトレーニングへ!今日も頑張りますよ~!
◇
僕と記者さんだけとなった部屋。ここから先は、ちょっとキタサン達には話せないような内容だ。
「……正直な話、酷いところは本当に酷いですね」
「まぁ、やっぱりその手の話題は出てくると思っていました」
その内容は、ミーティア全体に対する評判。ぶっちゃけると好意的7割、批判的3割といったところかな。俗にいうアンチ記事というのもまぁ出てきているわけで。見るのも話すのも気分が良いものじゃない。
「臆面もなく言ってきますね、彼らは。やっぱりミーティアか、と」
「私は尽くせる手を尽くしているだけですが……やはり気に入らない相手もいますからね」
「だとしても、正直な話どうかと思いますよ。あんな記事、私は許せないですね!」
机を乱暴に叩く記者さん。この人本当に良い人だな。タキオンの時からそうだったけど。記者さんが言っている記事については大体察しがつく。思い出すのもイラつくからここでは語らないけど、日本ダービーのあの記事には本当にムカついた。荒唐無稽な話だし。
「あんな熱い勝負を繰り広げていたのに、それに水を差すような真似をするなんて……!同じ記者として到底許せませんよ!」
「まぁその記者達、業界から干されたらしいですけど。何があったんでしょうか?」
「さぁ……?あいにくと、我々の方もよく分かっていないので」
ま、受けが悪かったとかそんなところだろう。好んで買う人もいるだろうけどごく一部、ということが証明された、ということか。
「気にしていてもしょうがないですし、私は私のやるべきことをやるだけですから」
「……まぁ、高村トレーナーがそう言うなら。でも、我々は断固として!そのような記事は否定します!」
燃えている記者さん。この先もこの人とは良い関係を築いておきたいな。
(この人や乙名史さんばかりだったら、なんて思うけどね)
でも、感性は人それぞれだ。ミーティアのことを好意的に見てくれる人もいれば、否定的に見る人もいるだけの話。分かりあうことは難しいだろう。だからまぁ、僕は僕のやりたいようにやるだけだ。ウマ娘のために常に全力で、これはもう変わらないのだから。
「それで、ミーティアの今後についてですが……」
その後は普通にインタビューが進行した。いつも通り、面白みのない話だと思うけど、記者さんは楽しそうにしていたのが印象的だったな。
インタビューが終わって、記者さんと別れて。
「さて、キタサン達の様子を見に行こうか」
今日も頑張ろう。夏合宿は一日たりとも無駄にできないから。
今回みたいにいい人もいれば、カスみたいな記者もいるという話。実際ミーティアみたいなチームがいたらアンチが凄そうではある。