京都レース場に10万人を優に超えるファンが詰めかける。天候は晴れ、雲一つない快晴日和であり、走るのには絶好のコンディションだ。
本日のメインレース菊花賞。クラシックの最終戦、最も強いウマ娘が勝つと言われるそのレースは、クラシック級ウマ娘にとって未知の領域である3000mの距離を走ることになる。勝つにはスピードとスタミナの両方が必要になるレースだ。
今回のレース、最注目はやはりドゥラメンテ。1番人気の変則三冠ウマ娘にして、サクラバクシンオーの記録に王手をかけ、世代No.1と評されている。後方からの捲りは圧巻の一言、彼女の末脚が今日も炸裂する景色を見に来た、というファンは多い。
「頑張れよドゥラメンテ~!ここを勝って四冠だー!」
次に注目されているのはキタサンブラック。菊花賞は2番人気であり、ステイヤー評価ということもあってか日本ダービーよりもドゥラメンテの人気に迫っている。この2人の間に、ほぼ差はないと言ってもいいだろう。
皐月賞・日本ダービーで共にドゥラメンテの2着。この菊花賞では巻き返しを期待されている。日本ダービーでのスタミナに加え、ジャパンダートダービーでの逃げ切り勝ち。ドゥラメンテの偉業を止めるのは彼女しかいない、と評されている。
「キタさーん!己の信じるバクシンを突き進みましょーうッ!バクシンバクシーーーンッッ!」
この2人に離されての3番人気にはシュヴァルグラン。これまでのクラシックレースは全て掲示板内であり、神戸新聞杯も危なげなく勝利した。サトノクラウンが秋華賞へと向かった今、シュヴァルグランが3番手だという声は多い。
「シュヴァルー!頑張ってねー!」
「シュヴァちー!応援してるよー!」
彼女の姉であるヴィルシーナと、妹のヴィブロスも応援に来ていた。シュヴァルグランに応援の声を飛ばしている。当のシュヴァルグラン本人は帽子を深く被っているだけだったが。
出走前に身体をほぐすウマ娘達。ドゥラメンテはいつものようにステップを刻んで……いない。
「……」
静かに目を閉じ、昂る気持ちを抑えつけているようにも見える様。ドゥラメンテの頭にあるのは、菊花賞をどのようにして勝つか、だ。
(夏合宿でスタミナを鍛えた。トレーナーも、私のスタミナはかなり伸びていると言っていた)
「勝つために最善を尽くした。後は、結果を出すだけだ」
いつもの緊張は感じない。それ以上に、菊花賞を楽しみにしている自分がいる。調子は絶好調、ドゥラメンテに陰りはない。
ドゥラメンテ
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行C 差しA 追い込みA
スピード:UF5 1351
スタミナ:A+ 911
パワー :UG2 1227
根性 :B 687
賢さ :S+ 1099
対するキタサンブラック。こちらもまた非常に落ち着いている。周りを見ることなく、しっかりと今日の作戦を頭の中で考えていた。
(もう迷わない。ドゥラさんもシュヴァルちゃんも、他のみんなも関係ない)
「あたしはあたしの走りを貫く。バクシンオーさんと同じように!」
胸に手を当て、深呼吸をする。瞳に迷いはない、この菊花賞を必ず勝つと意気込んでいた。
キタサンブラック
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しG 追い込みG
スピード:UF3 1337
スタミナ:UF1 1319
パワー :SS 1142
根性 :B+ 748
賢さ :S+ 1081
そしてシュヴァルグランは、帽子を目深に被って考えていた。自分は、どうすればいいのかを。
(僕には、何があるんだろうか?どうして菊花賞を走るのか、なんで、キタサン達と走ってるのか……その理由、は)
「……見つかると、いいな」
少しの不安要素はあるものの、レースに集中しようと気持ちを落ち着かせている。こちらも調子は絶好調、好走が期待できるだろう。
シュヴァルグラン
適性:芝A ダートG
距離:短G マG 中A 長A
脚質:逃げG 先行A 差しB 追い込みF
スピード:SS 1144
スタミナ:A+ 987
パワー :A+ 901
根性 :A+ 936
賢さ :A+ 972
ウォーミングアップをしている中、ファンファーレが響き渡る。発走の時が近づいていた。
ウマ娘達はゲートへと向かう。それぞれが割り当てられた番号へ、係員の誘導に従って一人ずつ入っていく。
《クラシックロードの終着点、クラシックの第三戦菊花賞。最も強いウマ娘が勝つと言われるこのレース、京都レース場芝3000mの戦い。クラシック級ウマ娘にとっては未知の領域です。バ場の状態は良バ場の発表、天候は晴れで開催されました。絶好のレース日和です。注目のウマ娘といえばやはり?》
《はい。ドゥラメンテですね。皐月賞・NHKマイル・日本ダービーの3戦を制して変則三冠。菊花賞を勝てば、サクラバクシンオーに並ぶクラシック四冠の称号を得ることができます。期待が高まりますね》
《注目を裏付けるようにドゥラメンテは1番人気、8枠16番での出走。しかし、人気だけで全ては決まらない。強力なライバル達が立ちはだかります。その筆頭ともいえるのがこのウマ娘、2枠4番のキタサンブラックでしょう》
《そうですね。クラシック二戦はどちらもドゥラメンテの前に敗北。ですがこの菊花賞は絶対に譲れないと意気込んでいました。本質はステイヤーの彼女、菊花賞はまさに本領を発揮できる舞台と言えますね》
注目ウマ娘の紹介。最有力候補であるドゥラメンテとキタサンブラックが紹介され、シュヴァルグランも候補として挙げられている。
《3番人気は離されてのシュヴァルグラン。皐月賞と日本ダービーでも掲示板内を確保するなど、堅実に結果を残し続けています。キタサンブラックとドゥラメンテを追い詰めるのであれば、彼女が筆頭候補になるでしょう。枠番も悪くありません、4枠8番からの出走です》
そして、今最後のウマ娘がゲートに収まった。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり、発走の時を静かに待っている。
ヒリついた空気が支配する京都レース場。ウマ娘はゲートが開くその時を待っている。焦りに閉塞感、早くこの空間から出たいと気持ちを昂らせている。
《最後のウマ娘がゲートに入りました。クラシック最後の戦い菊花賞、栄冠は誰の手に渡るのか?注目の一戦》
待って、待って……ガコン!と、ゲートが開いたのと同時に、ウマ娘達は一斉に飛び出した。出遅れたもの数名、それらを除き綺麗なスタートを切る。
《菊花賞が今っ、スタートしました!始まりました菊花賞、オーボエリズムとアイゼンテンツァー、そしてアグリゲーションが出遅れたか?それ以外は綺麗なスタートを切ります。まず飛び出すのはどのウマ娘か?やはりこのウマ娘だキタサンブラック!4番のキタサンブラックがハナを主張しようとしている!》
《やっぱりきますね。そして、ここも》
《楽には逃げさせない、スカンダも行きます。スカンダも果敢にハナを主張する!キタサンブラックとスカンダ、そして遅れたアイゼンテンツァーも慌ててハナを取りに行く。誰が先頭に立つのか?先行争いが繰り広げられます!》
菊花賞、開幕。
◇
注目が集まる1周目の第3コーナー。ハナを取ったのは──キタサンブラック。アイゼンテンツァーはキタサンブラックに競り合い、スカンダはこれまでとは一転してキタサンブラックの後ろに控える構えを取った。アイゼンテンツァーには焦りが見えるが、キタサンブラックに焦りはない。
《第1コーナーを曲がります。先頭はキタサンブラック、キタサンブラックが先頭に立って逃げています。競り合うようにアイゼンテンツァー、スカンダはキタサンブラックの後ろに控えています現在3番手。キタサンブラックが先頭に立ってペースを握ります》
《キタサンブラックの逃げは強烈ですからね。無理に競り合って自滅しないように注意したいところ》
《位置取り争いは少し落ち着いているか?3000mの長丁場、序盤で体力を消耗しすぎないように注意したいところ。3番人気シュヴァルグランは先行集団に姿が見えます。現在6番手の位置につけている。1番人気ドゥラメンテはやはり最後方、レースの一番後ろでじっくりと機会を窺っている》
キタサンブラックを無理に追い抜こうとしているアイゼンテンツァー。なんとしてでもハナを取りに行こうとする動きであり、キタサンブラックを逃げさせたくないという意識が垣間見える。
だが、キタサンブラックは意に介さない。ちらりと周りを一瞥すると、自分の走りにだけ意識を割く。
(大丈夫、大丈夫。しっかりと落ち着いてレースを展開だ)
ペースを大きく乱さず、一定のリズムで走る。スタミナの消費を抑えられ、周りに流されることなく盤面を展開する。こうなると、周りのウマ娘には焦りが生まれる。
(やっぱり先頭を奪った方が?)
(でも、今も結構なオーバーペース……!)
アイゼンテンツァーとスカンダはキタサンブラックからハナを奪おうかどうかと迷う。特にアイゼンテンツァーはそれが顕著だ。外からキタサンブラックに揺さぶりをかけていたが、最終的には我慢できずに無理やりハナを奪う。1週目の第4コーナー、下りに合わせてアイゼンテンツァーは位置を上げていく。
しかし、キタサンブラックを引き離せない。ハイペースで逃げるアイゼンテンツァーに対し、キタサンブラックはノーマルの逃げ。明らかな実力の差を感じさせられた。
《アイゼンテンツァーが無理やりハナを奪います。アイゼンテンツァーがハナを取る。しかしキタサンブラックは最内を落ち着いて進みます、意に介しません。ですが、差は思ったより離れていない。これは充てられているか?》
《掛かっているかもしれませんね。何としてでもハナを取りたいのか、皐月賞の二の舞は避けたいところです》
引き離したいアイゼンテンツァー。現実はそう上手くいかない。キタサンブラックを思うように引き離すことができずにいた。
(こうなったら!)
スタートダッシュの失敗、思うように引き離せない相手、それが本レースでも注目を集めているウマ娘、さらには世代トップ。アイゼンテンツァーを暴走させるには十分すぎる理由が揃っていた。逃げは逃げでも大逃げ、破滅しかねないペースで逃げるアイゼンテンツァー。キタサンブラックは……揺らがない。
(いや、ここでついていっちゃったらダメだ。まだ見るだけ)
後ろからスカンダも上がっていくが、キタサンブラックは動かない。静かにレースを俯瞰する。
(ホームストレッチが見えてきた!まずは、1周目のホームストレッチだ)
状況を的確に見極め、先行集団を引っ張るような形で3番手に収まるキタサンブラック。ホームストレッチに入る頃には、先頭のアイゼンテンツァーは2バ身のリード、2番手スカンダは1バ身の差になっていた。
《1周目のホームストレッチに入ります。先頭は変わりましてアイゼンテンツァー、アイゼンテンツァーが逃げています。やはり我慢できなかったかスカンダここで2番手に浮上。キタサンブラックは3番手に控えています先頭から2バ身の位置。先行集団はキタサンブラックのすぐ後ろ、シュヴァルグランはこの位置変わらず》
《掛かっていると思われましたが、キタサンブラックは冷静ですね。こうなると、アイゼンテンツァーとスカンダの2人が心配です》
《ホームストレッチに入ったウマ娘達。このあたりで位置取り争いも落ち着いてくる頃。そろそろ落ち着かないと後の展開に響くぞ、レースは縦に長くなっています》
集団は逃げる2人、キタサンブラック、先行集団、中団、後方集団、ドゥラメンテと綺麗に分かれている。沸き上がる歓声を受けて、ウマ娘はスタンド前を走っていく。
ドゥラメンテは後方集団から2バ身離れた位置の最後尾につけており、後方から圧をかけ続けていた。少しでも気を緩めれば追い抜く、焦りを誘発させるプレッシャーを。
(重要なのは仕掛けるタイミングだ。早すぎれば自滅、遅すぎたら追いつけずに敗北。少しの判断ミスも許されない)
勝利を手繰り寄せるため、思考を止めないドゥラメンテ。今の位置からどのタイミングで押し上げるか?そしてどこでスパートをかけるのが適切かを見定める。焦りはない、あるのは勝利へのプランを立てることだけだ。
菊花賞の立ち上がり。ペースとしてはやや速めのペースで展開されている。