ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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レコード決着の菊花賞である。


菊花賞の終わり

 菊花賞の決着に京都レース場は静まり返っている。あまりの衝撃に理解が追いつかず、現実を受け入れるまで時間がかかっていた。

 

「……お、おぉ!」

「「「うおおおぉぉぉ!」」」

 

 徐々に、少しずつ理解していく観衆。ライバル・ドゥラメンテへのリベンジを果たしたキタサンブラック。従来のレコードタイムを1秒も縮める衝撃の決着、誰もが拳を握って応援したくなった激走を目に焼きつけ、観客は今日一番の声で称賛した。

 

「すげぇ、すげぇよキタサンブラック!ついに勝ったぞー!」

「記録はならなかったけど、こんなの見れたら文句はねぇよ!みんなお疲れさまー!」

「キタちゃーん!おめでーとう!」

 

 キタサンブラックは膝をついて息を整えている。それも少しの間だけ。立ち上がり、観客席の方を見る。

 

「~~~ッ!応援ッ!ありがとうございまーーーすッ!ワッショォォォイ!」

「「「わっしょぉぉぉい!」」」

 

 拳を天高くつき上げて、いっぱいの喜びを爆発させている。レースを勝った喜び、ファンの期待に応えた嬉しさ、様々な感情が混じっているように感じた。

 

《衝撃のレコード決着、これが新世代のステイヤーだキタサンブラック!彼女の今後が、非常に楽しみになるレースでした!クラシックの最終戦、菊の冠を戴いたのはキタサンブラックだぁぁぁ!》

「「「わっしょい!わっしょい!」」」

 

 秋の京都にキタサン祭り。どこまでもいつまでも続いていた。

 

 

 キタサンブラックが観客席に手を振る光景を眺めるドゥラメンテ。悔しさを感じつつも、やはり相手は強いのだと再認識していた。

 

(油断はなかった、慢心もなかった。ただ、実力で負けた、か)

「やはり、君は強いな。それでこそ、私が倒すべきライバルだ」

 

 思わず笑みがこぼれる。次こそは負けない、今度は自分が勝つ番だと言い聞かせて、ドゥラメンテは立ち上がる。キタサンブラックの下へと足を運んでいた。

 

「キタサン」

「あ、ドゥラさん!」

 

 ドゥラメンテに反応するキタサンブラック。ドゥラメンテの表情は、晴れやかだった。

 

「おめでとう。君に、負けてしまったか」

「あはは。でも、まだ公式戦1勝2敗であたしが負けてるんだけどね……」

「まぁ、そうだな。そして、今後君の勝ち星が増えることはない」

 

 手を差し出し、キタサンブラックもそれに応じる。最終的にクラシックの3戦全てをワンツーフィニッシュで飾った2人が、固い握手を交わす。

 

「次に勝つのは私だ。君にはもう負けない」

「ううん、次もあたしが勝つよドゥラさん!いっぱいいっぱい勝って、ドゥラさんの勝ち星を追い越すから!」

「なら、私はそれ以上に勝とうキタサン。追いつかせる気はない」

 

 2人が握手を交わす光景に、ファンは感無量の声援を送っていた。

 

 

 そんな2人をさらに外から眺めているのは……シュヴァルグランだ。憧憬の目で2人を眺め、自分の現在位置を確認し、勝負服の帽子を目深に被る。表情が見えないように、情けない自分を隠すように。

 

(3着……まぁ、立派にやれた方だよね)

 

 ドゥラメンテに迫る3着。一時はドゥラメンテを躱して2着に滑り込んでいたが、最後の最後に差し返されての3着。あの2人に立派に戦ったとファンは褒めるかもしれないだろう。

 だが、シュヴァルグランの気持ちは晴れない。よく分からないもやもやが、彼女の心に巣くっている。

 

(ドゥラメンテさんに勝てる、ってとこまでいったんだ。僕としては頑張った方、やれた方。うん、頑張った、頑張ったんだ……)

 

 無理やり自分を納得させるために言い聞かせる。自分は頑張ったと、あの2人相手によくやったと。思ってもいないことを繰り返して自分を納得させる。

 

「っ、お疲れシュヴァルー!」

 

 チームメイトであるトウカイテイオーからの声援。他のメンバーもシュヴァルグランに労いの言葉をかけている。

 

「お疲れ様です、シュヴァルさん!つぎ「サトノダイヤモンド」か、会長さん?」

「……よく頑張った、シュヴァルグラン。お疲れ様」

 

 シンボリルドルフ達は、次こそは、とは言わない。この状況で、どれだけつらい言葉なのかが分かっているからだろう。今はただ、頑張ったシュヴァルグランを労っていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 その言葉に少しだけ救われて、わずかな惨めさを感じて。シュヴァルグランはターフを後にした。

 

 

 レースを観戦していたサトノクラウンは勝者であるキタサンブラックに拍手を送る。素晴らしいレースだったと、手放しの称賛を送る。

 

「凄かったわキタサン。私も……私もっ」

 

 だが、気づけば涙がこぼれていた。理由は分からない、自分の意思とは無関係に流れている。

 

「あ、あら?あら?」

(どうして、かしら……なんで、私は)

 

 知らずにこぼれる涙。感じる胸の痛みが関係しているのだろうか?そう思わずにはいられないサトノクラウン。

 結局、少しすれば収まった。理由は分からない、けれどどこか──悔しい。そんな感情を抱いて、サトノクラウンは京都レース場を後にする。

 

 

 菊花賞勝者──キタサンブラック

 

 

 

 

 

 

 ウィナーズサークルでのインタビュー。キタサンブラックと高村トレーナーは報道陣に囲まれている。

 興奮気味の報道陣。激戦を制したキタサンブラックに対し、我先にとマイクを向けていた。

 

「おめでとうございます、キタサンブラックさん!ついにドゥラメンテさんにリベンジできましたね!」

「あ、ありがとうございます!ドゥラメンテさんはとっても強いので、勝てて一安心です!」

「菊花賞をレコード勝ち。しかもあわや3分切りという素晴らしいタイム。意識していましたか?」

「う~ん……正直、走ることに精一杯で。レコードを出そう!とは思ってなかったです。頑張って走ったらレコードだった、みたいな感じで」

 

 キタサンブラックの愛嬌もあって、取材は和やかなムードで進行している。高村の方は特に口を挟むことはせずに静観している。

 

「ドゥラメンテさん以外に注目していた相手は?」

「やっぱり、シュヴァルちゃんですね。今日のレースもシュヴァルちゃんの圧を感じてました。凄く強くなったんだなぁって」

「向こう正面半分を過ぎた頃からスパートをかけていましたが、アレは意識的に?」

「あ、そうですね。ここからならあたしは持つだろうし、もたなくても気合いでなんとかしちゃえ!って感じで!」

「それが結果的に勝利につながったと。いや~、お見事なレースでした!」

 

 記者受けが良いキタサンブラック。寡黙なドゥラメンテと違い、元気ハツラツでいろいろと答えてくれるキタサンブラックはありがたい存在だろう。どちらにもよさがあって優劣をつけたいわけではないが、トレーナーである高村がドゥラメンテと同じく寡黙なのも相まって、ありがたいのはキタサンブラックの方だった。

 

(あ~本当に良い子。取材のし甲斐がある~)

(ドゥラメンテも悪くないけど、なんだかこっちが元気貰えるよな~)

 

 思わず癒しを覚える報道陣だった。

 

 

 菊花賞のインタビューは順調に進んでいく。レースの内容についてはあらかた聞き終わり、次に話題に上がったのは──次走についてだ。

 

「キタサンブラックさんは次走をどのように考えていますか?」

「菊花賞を終えた今、次に待ち構えるのはシニアの強敵たち!次走をどのようにお考えでしょうか?」

 

 クラシック級の若武者が次走に選んだのはどのレースか?やはり最有力候補となるのはジャパンカップだろう。世界中の強敵が集まる舞台であり、先の凱旋門賞に出走したゴールドシップも帰国後に、秋シニア三冠路線に進むつもりのサウンズオブアースも出走予定。さらにはゴールドシップを下して凱旋門賞二連覇を成し遂げたフランスの女傑、ヴェニュスパークもBCターフの後に出走するつもりだと明かされている。ここにキタサンブラックとドゥラメンテが加わるとなると、超豪華メンバーでの出走だ。

 期待を胸に次の言葉を待つ報道陣。キタサンブラックの答えは。

 

「えっと、ジャパンカップと有馬記念に出走予定です!ひとまず年内はこの2つで最後です!」

 

 イエス。それどころか年末の大一番である有馬記念にも出走を予定しているということで、盛り上がりは最高潮へ。

 

「ジャパンカップと有馬記念、両方ですか!?」

「は、はい。体調と相談にはなりますけど、一応その予定で行くつもりです」

「ど、ドゥラメンテさんの方はどうでしょうか!?高村トレーナー!」

 

 キタサンブラックは出走がほぼ確定。となると気になるのはドゥラメンテの方だ。矛先が向いた高村は、毅然とした態度で応える。

 

「難しいです。ただでさえ長距離のレースで消耗しているので、ドゥラメンテのジャパンカップ出走は、ほぼないと見ていただいて構いません」

 

 こちらはノー。ドゥラメンテのジャパンカップ出走は絶望的と知って、わずかに肩を落とす報道陣。しかし。

 

「ただ、年末の有馬記念は本人の意思にもよりますが出走を予定しています」

「ッほ、本当ですか!?」

「はい。それに、キタサンブラックとの勝負もありますので疲労が回復しきればほぼ確実に出走します」

 

 有馬記念には出走する。この情報で沈んだ気持ちは一気に回復した。

 そして、衝撃の情報はまだまだ終わらない。

 

「あとあと、来年のシニア級からは長期的な海外遠征をするつもりです!ドゥラさんも一緒に!」

「……えっ?」

 

 思わず呆然とする報道陣。キタサンブラックの言葉に、開いた口が塞がらない。

 

「まずはドバイのレースを目標に、その後は欧州を中心に出走予定で~。えっと、確か……」

ガネー賞だね」

「そうだ、ガネー賞!ガネー賞が欧州の始動戦になる予定です!」

 

 次々と出走予定のレースを口にするキタサンブラックだが、放心状態の記者達。最後にはインタビュー時間のギリギリどころか過ぎても質問は終わらなかった。

 

 

 そして、次の日の一面は菊花賞制覇以外にもキタサンブラックとドゥラメンテが海外レースに挑戦する旨が書かれており、ファンの度肝を抜いた。

 

「おいおいマジか!?」

「夢じゃねぇよな……!?」

「キタサンブラックとドゥラメンテが!2人が海外のレースに殴り込みだぁぁぁ!」

 

 果たしてどんな結果を残すのか?クラシック級と変わらず、目が離せないことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 これで菊花賞までは終わった。ひと段落、ってところだね。

 次に海外遠征のことなんだけど。

 

「そ、その、だな。聖トレーナー」

「どうしましたか?シュガーライツさん」

 

 なにやら言いにくそうにしているシュガーライツさん。どうしたのだろうか?

 

「君は、海外遠征をするみたいではないか?」

「そうですね。キタサンとドゥラが遠征するので、僕やみんなも必然的についていきます」

「で、では……ST-2のことは……」

 

 ?目に見えてしょんぼりしているけど、どうしたのだろうか?

 

「もちろん、忘れていませんよ。ST-2も同時に進行します……って、そうだった」

 

 あぁ、肝心なことを伝え忘れていた。

 

「シュガーライツさんも海外に行きませんか?エアシャカール達も、良ければついてきてくれると嬉しい」

「「「は?」」」

 

 面食らった顔をしている。ま、確かに驚くだろうな。僕が同じ立場になったら同じ顔をすると思うし。

 

「……予算下りンのかよ?」

「理事長、乗り気だから。受け入れ先も決まってるし、向こうも人数が増えてもOKらしいから問題はないよ」

「し、しかし……我々のトレーナー陣も含めると結構な数だぞ?本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫。ちゃんと許可は取るから」

 

 向こうも問題なさそうにしてるし。移動手段もしっかりと確保してある。みんなのGOサインさえあればいつでもいける状態だ。

 

「ハーッハッハッハ!さすがは一騎当千(エインヘリヤル)戦乙女(ヴァルキューレ)を導く先導者(オーディン)!全てが豪快だ!」

「Understand.そういうことならば、私は同行しよう。トレーナーにも、convey──伝えて、おく」

「……ほんと、よく分からないね、アンタ」

 

 ナリタタイシンに何か言われているけどまぁいい。肝心のシュガーライツさんはというと……迷ってるみたいだ。ただ、ちょっと後押しすればいけるかもしれない、ってところか。

 

「シュガーライツさん。海外に行けば、ST-2はさらに進化できるかもしれません」

「ぐっ」

「ま、単純に全体的な母数が増える。しかも海外の技術も盗めンだ。間違いなく、ST-2は進化を遂げる」

「ぐ、ぬぬ」

 

 頭をひねって考えて。悩み抜いた末に出した答えは──首肯。

 

「分かった!元々私から協力を申し出たこと、私が臆してどうする!私もその海外遠征に同行しよう!」

「ありがとうございます。では、詳しい日程はまた後程」

 

 こうして、僕たちの海外遠征が決まった……その前にまずは、ジャパンカップと有馬記念が待ってるけどね。




タニノギムレットのセリフ難しすぎ問題。
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