ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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ジャパンカップ

 本日のメインレース・ジャパンカップを観戦するため、多くのファンが東京レース場に集まっている。天候にも恵まれ、晴れ空が広がる中での出走になりそうだ。

 

「ゴールドシップとサウンズオブアース、海外からはヴェニュスパークが来るからな!楽しみだぜ~」

「特にヴェニュスパークは連続参戦だからな!結構珍しいから嬉しいよな~」

「前回は3着、今回こそはって意気込んでるみたいだし。どうなるか楽しみ!」

 

 特に人気を集めているのはヴェニュスパーク。フランスのトリプルティアラウマ娘、加えて海外のレースで凄まじい戦果を上げている、通称【フランスの女神】。取ったG1は10を超えている、海外の最有力候補だ。前回に引き続いての出走、凱旋門賞二連覇にBCターフ制覇の称号を引っ提げての参戦。海外勢による久しぶりのジャパンカップ制覇なるか?と期待を集めている。

 対する日本からはゴールドシップにサウンズオブアース、そしてキタサンブラックだ。この3人がヴェニュスパークに対抗するメンバーとして挙げられている。日本総大将は──ゴールドシップだ。

 

「凱旋門賞はアレだったけど、ゴールドシップの実力は本物!ジャパンカップではヴェニュスパークに勝ってくれる!」

「アースも負けてないわ。ジャパンカップも勝って、勢いのままに有馬記念も勝って秋シニア三冠よ!」

「頑張ってくれよー、キタちゃーーん!応援してるからなー!」

 

 凱旋門賞3着とはいえ、後方一気の末脚でヴェニュスパークを追い詰めたゴールドシップ。春秋天皇賞制覇を引っ提げての参戦サウンズオブアース、ジャパンダートダービーと菊花賞をレコード勝ちしたキタサンブラック。この3人よりは評価は落ちるが秋華賞覇者のサトノクラウン。迎え撃つ日本勢もまた、豪華なメンバーだ。

 余談だが、出走メンバーを見たゴールドシップはただ一言だけ、こういった。

 

「樽前鮭はいない。よしっ!」

「なんの確認をしてますのあなたは!」

「うるせぇ!マックちゃんには分かんねぇんだよあいつのおっかなさがよぉ!」

 

 ダートに今なお君臨している魔王は芝の黄金船すらも恐怖させているようだ。まぁダートの魔王は芝にも出張してくるため、油断ならないというのは確かにそうなのだが。

 

 

 出走しているウマ娘が続々と姿を現している。実況のアナウンスがレース場に響く。

 

《天気に恵まれました東京レース場。海外のウマ娘が集まるこの舞台、G1レースジャパンカップ!芝2400m、バ場の状態は良バ場の発表です。いや~、今回も豪華なメンバーが集まりましたね》

《そうですね。海外勢からはまたヴェニュスパークが出走しますから。ゴールドシップとしては、凱旋門賞のリベンジを果たしたいところでしょう》

《1番人気はヴェニュスパーク、2番人気にゴールドシップ。3番人気はサウンズオブアース、4番人気にキタサンブラック。海外のウマ娘が1番人気を掴みました。ですが、人気は譲っても勝利は譲らない日本勢。果たしてどのようなレースになるのか?》

 

 順調にウォーミングアップをしているキタサンブラックを、観客席から眺めるドゥラメンテ。その瞳には、悔しさが混じっていた。

 

「……私も出たかった」

「ダメ。問題はなかったけど、そもそも出さないって決めてたから」

 

 何かを必死に訴えかけているドゥラメンテだが、トレーナーである高村には暖簾に腕押し。ダメの一点張りだった。菊花賞による消耗が凄かったので仕方がないのかもしれない。

 高村を中心としたミーティアメンバーが固まっている。その中に、()()()()()()()()が一人、いた。

 

「……」

 

 黒白のリボンが特徴的なウマ娘。タブレット片手に、出走するウマ娘達を観察している。真面目な雰囲気を漂わせる、そんなウマ娘。彼女はミーティアに仮入部、否、すでに入部を確約しているウマ娘だ。

 彼女は難しい表情を浮かべる。タブレットにあるのは、キタサンブラックと有力なウマ娘を比較したデータ。

 

「やっぱり、キタさんが勝つのは難しいんでしょうか?」

 

 高村に不安そうに問いかける彼女。高村は……頷く。

 

「正直、凄く難しいね。データ上では負けてるし、経験だってあっちの方が豊富。勝ち目は薄いと思う」

「……っ」

「けど」

 

 まっすぐに、黒白リボンのウマ娘を見据えてしっかりと言い放つ。

 

()()()()()()。勝つための一つの要素でしかない。キタサンが勝てる可能性は、0じゃない」

「0じゃ、ない」

「そう。なにより、僕達が彼女の勝利を信じてあげないといけない。だから、精一杯応援をしよう」

 

 高村の言葉。黒白リボンのウマ娘は頭の中で言葉を反芻し、しっかりと記憶する。

 

「はい。私の骨身にしっかりと刻んでおきます。今の言葉を」

「うん。もうそろそろ始まるし、しっかりと応援しようか」

 

 ファンファーレが響く東京レース場。ウマ娘達がゲートに入り、緊張した空気が流れ始める。

 

《各ウマ娘、順調にゲートへと入ります。海外勢からは現・世界最強と名高い【フランスの女神】が出走してきました。前回は3着、悔しさを晴らすことはできるのか?しかし、そうはさせまいと勢いづく日本勢。凱旋門賞のリベンジを果たすと意気込むゴールドシップを筆頭に、自分たちのホームで負けるわけにはいかないと気合いが入っています》

 

 順調に進む枠入り。そして今、最後のウマ娘がゲートへと収まった。静まり返る東京レース場、静寂が支配する空間。ファンは胸を高鳴らせ、ウマ娘はゲートが開くその瞬間を待ちわびる。

 まだか、まだか。緊張が支配する東京レース場の空気を切り裂くように──ゲートの開く音が響き渡った。同時に、ウマ娘が駆けだす音が静かな空気を破壊するように轟く。

 

《さぁ始まりました!各ウマ娘、揃って綺麗なスタートを切ります。ジャパンカップ開幕です!まず飛び出したのはっ、やはりこのウマ娘だキタサンブラック!2枠から飛び出した4番のキタサンブラックが果敢に行きます!》

 

 ジャパンカップが始まった。

 

 

 

 

 

 

 すぐさま先頭を奪って走る。幸いにも、あたし以外に逃げウマ娘はいなかったみたいですんなり先頭を取ることができました。ここからあたしがすべきことは、ペースを守って走ること。

 

(後ろの人達に惑わされないように。自分の走りを貫く!)

 

 こうやって考えている間にも、後ろの人達があたしのペースを乱そうと走っている。でも、問題はない。タルマエさんと比べたら、まだ耐えられます。

 

《順調に飛ばして逃げますキタサンブラック。現在向こう正面を走っています各ウマ娘。先頭は変わらずキタサンブラック、マークするようにすぐ後ろアメティースタとアルトピャーノ。アルトピャーノから1バ身の差で先行集団の先頭コンテストライバル。この先行集団の一番後ろに、サウンズオブアース春秋天皇賞覇者がいます》

《キタサンブラックは執拗にマークされていますが、自分のペースを守れるかどうか?一筋縄ではいきませんよ》

《ヴェニュスパークは後方集団の先頭、12番手につけています。その後ろにはサトノクラウン、秋華賞ウマ娘。最後方はクリッカー、その1バ身前にゴールドシップ。ですが、ゴールドシップは徐々に位置を押し上げ始めています。ゴールドシップが徐々に上がっているぞ》

 

 ……うん。向こう正面半分を過ぎた頃。ここから徐々に、上がっていこう!

 

(菊花賞はもった、だから今回も大丈夫……とは思わない方がいいよね)

 

 トレーナーさんから言われました。菊花賞でできたから、といって他のレース場でも同じことができると思わない方がいいって。

 考えてみれば当たり前の話で。コース上の造りが違うからコースに合わせた走りをする必要がある。東京は最後の直線に高低差2mの坂が待ち受けている。それも考えてレースをしないと……って、あまり深く考えちゃダメダメ!考えすぎたらあたしのいいところがなくなっちゃうから!

 よし、ひとまずペースを上げよう。振り落とすためのペースアップじゃない、下げたペースを戻すものだ。

 

《最初の1000mは59秒7、59秒7というペース。キタサンブラックが逃げている、後方からはゴールドシップが徐々に上がってきていますね。第3コーナーに向けて、落ち着いてレースを展開したいところ》

 

 もうすぐ第3コーナー。先頭を取ったらスタミナは温存してきた、走り抜けるだけのスタミナはある。視界は良好、問題は──ない!

 

「いかせないよ!」

「逃げさせない!」

 

 後ろの人達があたしについてくる。正直、煩わしさはある。でも気にしたら負けだ。マークされることなんて承知の上、あたしはこのまま、バクシンする!

 リズムは崩さない。崩さないままにペースを上げる。引き離す……ことはできないけど、予測の範囲内だ。

 

(ここから少しずつペースを上げる。コーナーの曲がり方は、ちゃんと勉強してますから!)

 

 息を入れるタイミング、コーナーの曲がり方。全部バクシンオーさん達から教わっている。これまで通りにやるだけだ。

 見えてきた第3コーナー。あたしは最内をキープしながら曲がっていく。この曲がりで、後ろのウマ娘があたしと並んできた。

 

「抜かせませんっ!」

「ク……っ!」

 

 あたしと競り合いになるアメティースタさん。アルトピャーノさんは、来ないみたいだ。

 まだ、まだ息は入れない。タイミングはここじゃない、もっとベストなタイミングを見極めろ。ううん、違う。見極めるんじゃない……感覚で理解しろ!

 

《第3コーナーでアメティースタがキタサンブラックに並びました。キタサンブラックとアメティースタの激しい競り合い、内のキタサンブラック外のアメティースタ。不利なのはアメティースタの方か?この競り合いには付き合わないアルトピャーノは虎視眈々と機会を窺っている。後方からはゴールドシップ、ゴールドシップが上がってきた!そしてゴールドシップを風除けに、サウンズオブアースも位置を上げ始める!ヴェニュスパークはどうか?ヴェニュスパークも内から上がる!》

《動きが出てきましたね。最後の勝負に向けて、全員がペースを上げましたよ!》

 

 後続が上がってきてるのが肌で分かる。ビリビリと、圧が強くなってきているのが分かる。

 

(やることは変わらない。自分の力を信じて、バクシンするだけ!)

 

 最内をキープし続ける。こうなると不利なのはアメティースタさんの方。現に、旗色が悪くなったことを察しているみたいで苦しそうにしている。

 相手が弱いところを見せたら、あたしの強みで押しつぶす!ここでさらにバクシンです!

 

「ッ、いかせない!」

《キタサンブラックさらにペースを上げる!後続との差を広げにかかって逃げ切り態勢を作ろうとしている!これに付き合うアメティースタ、スタミナは最後までもつのか?》

《キタサンブラックはステイヤーですが、アメティースタは長距離の経験がありません。これはちょっと厳しいですよ》

《第3コーナーの中腹を越えてまもなく第4コーナー大欅を越える!先頭はキタサンブラック、最内の経済コースを勢いよく進んでいきます!》

 

 逃げて逃げて逃げまくる!絶対に、届かせません!

 

《じわりじわりと引き離していくキタサンブラック、アメティースタとの差を広げていきます。これには焦ったかアルトピャーノも慌てて追いかける。キタサンブラックが差を1バ身と広げた。さぁお祭り娘が逃げているぞ。府中でもお祭り娘が逃げている第4コーナー!ですが、ここで後続からゴールドシップが浮上!ゴールドシップが4番手まで上がってきた!》

 

 逃げ切る、そう思った矢先のこと。ひときわ大きい圧を感じる。この圧は……!

 

「逃がさねぇぜ錦鯉!アタシがまるっと釣り上げてやらぁ!」

 

 ゴルシさん!ここできましたか!

 差はまだある。だけど、残りの距離を考えたらこの差はちょっとまずいかもしれません!それに、ゴルシさんが来たということは……アースさんにヴェニュさんも上がってきてるということ!

 

《ここでゴールドシップが4番手に浮上!すぐ後ろにはサウンズオブアースが控えています!前との差は3バ身から4バ身程、最後の直線前に捕まえようと動いたか?ヴェニュスパークは現在8番手、先頭との差は10バ身あるかないか。まだ足を溜めていますヴェニュスパーク!》

 

 ……余計なことは考えない。あたしがやるべきは走ること、そして勝つこと。

 

(だったら、このまま気合を入れて逃げます!)

 

 第4コーナーで息を入れる。1つ大きな深呼吸、この深呼吸が大事。

 

 

 走って走って──見えてきた、最後の直線!キタサンブラック、駆け抜けます!

 

 

 

 

 

 

 最後の直線に入ってくる各ウマ娘。先頭で入ってきたのはキタサンブラック。クラシック級の菊花賞ウマ娘が、一度も先頭を譲らないまま最後の直線に入ってきた。

 

《先頭はキタサンブラック、キタサンブラックです!逃げる逃げるキタサンブラック、東京の高低差2mの坂を上ります!3バ身のリードを保つ!だがゴールドシップが追い上げてきている!サウンズオブアース、そして最後の直線でヴェニュスパークも来たぁぁぁ!ヴェニュスパークを筆頭に、ザオバアーとサトノクラウンも上がってくる!しかしヴェニュスパークの勢いが凄まじい!瞬く間に差を詰めていく!》

 

 キタサンブラックとゴールドシップの差は3バ身。勢いはゴールドシップの方が上。その差は少しずつ縮まっていく。

 

「が、頑張れキタちゃーん!負けるなー!」

 

 商店街のおじさん達も必死に応援する。だが差は無情にも縮まっていく。

 

「キタさん……ッ!」

 

 黒白リボンのウマ娘も、手を握って必死に祈る。キタサンブラックの勝利を、トレーナーである高村と一緒に。

 

《ゴールドシップ追い上げる!ここでサウンズオブアースが外に持ち出した!ゴールドシップを躱そうとしている!先頭キタサンブラック、差が2バ身から1バ身になった!さらに後方からはヴェニュスパーク、ヴェニュスパークだ!ヴェニュスパークが凄い勢いで上がってくる!?サトノクラウンも上がってきた残り200m、ここから逃げ粘れるかキタサンブラックゥ!》

 

 勢いが衰え始めているキタサンブラック。落ちてくるウマ娘を見逃すような上位陣でもない。ゴールドシップにサウンズオブアース、ヴェニュスパークがキタサンブラックを射程に捉える。

 

(あいにくと、もう負けねぇって決めてるんでね。このまま追い抜かせてもらうぜキタサン)

 

 ゴールドシップが追い抜こうとした、その時。

 

「まだ、まだぁッ!」

「ンなっ!?」

 

 すぐに躱せると思った。キタサンブラックは限界で、一呼吸の間に追い抜けると確信した。しかし、キタサンブラックを追い越せない。残り100を切って並んだまでは良いが、そこから先追い抜くことができない。

 それはサウンズオブアースにヴェニュスパークも同様だ。ただ、サウンズオブアースはむしろ笑みを浮かべていたが。

 

(そうだね。君のメロディーアは、ここで止まるはずがない!)

(ヒジリが育てた子、やっぱり一筋縄じゃいかない!)

(ふっざけやがってあのロウニンアジめ!クラシック級でもとんでもねぇじゃねーかよ!知ってたけど!)

 

 4人が競り合う最後の直線。誰が抜け出すか?誰が一番にゴールするか?観客は必死に声を上げて応援をする。

 

《キタサンブラック粘る、キタサンブラック粘る!まだお祭りは終わらないっ、が!さすがに厳しかったかここでゴールドシップが前に出た!ゴールドシップ先頭、ゴールドシップ先頭!キタサンブラック必死に粘る!粘るがっ》

 

 最後。一番最初にゴール板を駆け抜けたのは──2着のヴェニュスパークをクビ差で下した。

 

《ゴールドシップ!ゴールドシップだ!最後方から怒涛の追い込みゴォォォルドシップゥゥゥ!!ゴールドシップがジャパンカップを制しました!凱旋門賞の借りは、これで返したゴールドシップ!ヴェニュスパークを退けて、クビ差で勝利を収めたゴールドシップゥゥゥ!》

《早めの抜け出しが功を奏しましたね。見事なレースでした!》

《2着はヴェニュスパーク、3着はハナ差サウンズオブアース!そして4着はキタサンブラックの大接戦!》

 

 【黄金の浮沈艦】ゴールドシップ




この後ドロップキックされるゴルシトレ。
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