揺れる東京レース場。ジャパンカップの戦いが終わり、勝者を称える歓声が響き渡っている。
《ゴールドシップ、ゴールドシップが勝ちました!このウマ娘がやはりやりました!日本の総大将が、後方からの見事な追い込み勝ちぃぃぃ!最後の最後にキタサンブラックを捕まえたぁ!》
《ですが、キタサンブラックの粘りもお見事でしたねぇ。最後は抜かれてしまったとはいえ、もしや!と思わせるようなレースっぷりでした!》
《ヴェニュスパークはまたも届かず2着、サウンズオブアースも最後にキタサンブラックを躱しての3着に滑り込み。4着はキタサンブラック、サウンズオブアースとの差はクビ差です!5着サトノクラウンはキタサンブラックから離れること4バ身差!》
1着から4着まではクビ差の接戦。残り100mを過ぎても競っていた厳しい勝負。ゴールドシップは、レース後の汗とは別に冷や汗をかいていた。
(キタサンを侮ってたわけじゃねぇ。むしろ最大限警戒してた。けど、最後の最後……抜くのにあんな手間取るとは思わなかったぜ)
最終的に抜くことはできたが、地力の差を根性で埋めてきたようなもの、と推測する。抜かれたくないという意思、勝ちたいという思いが、ゴールドシップ達が抜いていくことを許さなかった。恐ろしい執念だと認識する。
ただ、勝者は自分。観客から贈られるエールに、拳を上げて応援する。
「おぉぉらっっしゃぁぁぁぁぁい!ゴルシちゃんの優!勝!だぁぁぁぁぁい!!」
「「「うおおおぉぉぉおおお!!」」」
ゴールドシップを称える歓声は鳴り止まず。ジャパンカップという大きい魚を釣り上げた彼女を称え続けていた。
その光景の中、拍手を送りつつも肩を落としている黒白リボンのウマ娘。キタサンブラックが負けたことに悔しさを覚えている。
「キタさん……っ」
尊敬している先輩が負けてしまった。しかし、その走りは彼女の目に焼き付いている。ステータス上格上の相手に最後まで逃げ切ろうとした姿勢、諦めなかった強さは、確実に黒白リボンのウマ娘の中に刻み込まれた。そんな彼女ができることは。
「お疲れ、様ですキタさん。かっこよかった!です!」
キタサンブラックにエールを送ることだ。声が届いたのか、キタサンブラックは黒白リボンのウマ娘に一礼をする。そして、少しだけ申し訳なさそうな笑顔の後。
「次は勝つとこ、見せるからね!」
そう約束した。
キタサンブラックの敗北を悔しがっている。これは高村トレーナーも同様だ。
ゴールドシップはジェンティルドンナやホッコータルマエとしのぎを削ったウマ娘。サウンズオブアースも春秋天皇賞制覇に加えてクラシック二冠、ヴェニュスパークはG1を10勝以上している欧州最強だ。このメンバーの中でよくやった、相手が強かった……そんな慰めの言葉は、いくらでも出てくる。それでも高村の頭に湧いてくるのは、担当であるキタサンブラックを負けさせたことに対する悔しさだ。
(……いや、自分が悪いとか、もっとやりようがあったとか。そんなことよりもやるべきなのは)
「次だ。次戦を見よう。問題点を洗い出して、次こそは勝とう」
だが、下は向かない。見据えるのは先のこと。自分が悪いと責めるのはダメな反省、やるべきではないと判断する。
(それに、ヴェニュも負けちゃったからね。彼女のケア、は……多分僕の方でやるんだろうな)
ついでにヴェニュスパークも突撃してくるだろうな、と予感し備えておく。もはや担当といっても過言ではないヴェニュスパーク。彼女のこともしっかりと覚えている高村だった。
◇
息を整えて、あの子の言葉にもしっかりと応えて。次こそは勝つと宣言しました。あとやるべきことは……あたしの中での反省。
自分としてはバクシンできていた。仕掛けどころも間違ってなかったし、最後まで走り切ることはできた。その結果が、4着。
(これはもう、言い訳のしようがない。積み上げてきたものの差、地力の差……!)
あたしはまだまだクラシック級で、あたしに先着したゴルシさん達はみんなシニア級。あたしよりも先輩です。
そんな人たち相手にクビ差だったのだから誇れると思います。よくやったって、頑張ったって。きっとみんな慰めてくれる。でも、そうじゃない。ううん、気持ちは嬉しいけど……!
(あたしは、勝ちたかった!差があるのは分かってた、経験で負けているのは分かってた!それでもあたしは、理屈とか抜きで勝ちたかった!)
悔しい、すっごく悔しい。ゴルシさん達に勝てなかったことが、あたしの力が足りなかったことが、最後まで逃げ粘れなかったことが凄く悔しい。もっとやれることがあったんじゃないか?できることがあったんじゃないか?って思わずにはいられない。
けど、それはご法度。負けをしっかりと認めて、改善点を洗い出して次につなげる。それが強くなる秘訣だから。
「……へ、バチバチじゃねぇかよキタサン」
あたしを見ているゴルシさん。笑顔なのは勝者の余裕か、それとも別の感情なのか。分からないけど、あたしが言えるのは。
「ゴルシさん、おめでとうございます!」
「おう。ゴルシちゃんが丸っと解決してやったぜ!」
「でも、次は負けませんよ!あたしが逃げ切ります!」
「おーおー、威勢がよろしいこと。けど、アタシに勝つのは難しいぜ~?」
上等です!難しいのは分かってますから!
「それでも、次はあたしが勝ちますから!また有馬記念で勝負です!」
「……やる気じゃん。いいぜ、アタシも出走予定だし、またそこで勝負だな」
「無論、私も出走予定だとも!」
うわぁ!?急にアースさんが!
「キタサン、君のメロディーアは変わらず
「あ、ありがとうございます。アースさんも有馬記念に?」
「スィ!今回の
お2人とはまた戦う。今度こそは負けない!
あたしのジャパンカップは4着だった。5着のクラちゃんとの差は4バ身、クラシック級ということを加味したらあたしは大健闘かもしれません。
(でも、満足はできない。今度こそ勝つために!)
「帰ったらトレーニングです!バクシンわっしょーーーい!」
「レース後にトレーニングはダメだからね。いくらキタサンが頑丈だからって、無理するのはダメだよ」
「は、は~い……」
暮れの有馬記念。1年の締めくくりのレース。今度はドゥラちゃんも出走する。次こそは勝ちましょう!
◇
ジャパンカップが終わって1週間後。キタサンのトレーニングを眺めているけど。
「バクシンわっしょーーーい!有馬記念制覇に向けて頑張りますよー!」
「ばくしーん」
「バクシンです」
うん、調子は良さそうだ。反省会でもそうだったけど、キタサンはもう前を向いている。問題はないだろう。
(敗因がしっかりしていて、自分のやるべきことを理解している。まぁ、単純なんだけども)
「地道に積み重ねていくしかない、か」
調子よさそうにトレーニングをしているキタサンにドゥラ、そして新しく入部した子。あの子は特にキタサンブラックを尊敬しているらしく、ミーティアの門を叩いたみたいだ。彼女達は今サティのサポートを受けながらトレーニングをしている。
〈サティは日々進化している。見ろ!今となってはここまでのスピードを出せるようになったぞ!〉
サティのスピードは人間を超えて、デビュー前のウマ娘ぐらいのスピードは出せるようになった。加えてサポート性能もピカ一なので、トレーニングの効果が飛躍的に上がっている。
しかも、サティだけじゃない。
「おーし、その辺で切り上げておけ。これ以上やっても効果は見込めねェ、次のトレーニングに移んぞー」
エアシャカールやビワハヤヒデのみんなもトレーニングを手伝ってくれている。こっちもサポートがメインだけど、大助かりだ。エアシャカールたち曰く。
「ミーティアのデータが貰えンなら対価としては当然だ」
とのこと。そこまでのことなのだろうか?と思いつつも言及するのもなんだし、素直に好意を受け取っている。
「調子よさそうだね、ドゥラさん!」
「あぁ。これ以上君に後れを取るわけにはいかないからな。菊花賞のリベンジをしなくてはならない」
「なら、こっちは日本ダービーのリベンジだよ!皐月賞は果たしたけど、ダービーの分はまだだもん!」
「こちらも負けない……少々荒々しくいくぞッ!」
「張り切っていこー!」
キタサンとドゥラ。同じ世代のライバル2人はお互いに刺激を与えあっているみたいだ。良い傾向だね。
さて、いいところでトレーニングを切り上げて、ここからはドゥラの併走、キタサンは少しの間休憩だ。想定はマイル戦。理由は……ちょっとしたこと。
「マイルなら俺、だな」
「よろしく頼む、タニノギムレット」
タニノギムレットとの併走。それを眺めていたら、サティinシュガーライツさんがこちらへとやってきた。
〈聖トレーナー。そういえば、ミーティアに新しく入ろうとしている子はあの子だけなのか?〉
「……まぁ、そうですね。現状あの子は入部を確約しています」
〈う~ん。実績を考えれば、もっといてもおかしくないと思うのだが〉
現状ミーティアに入ってきたのは、キタサンに強い憧れを抱いているあの子だけ。一応、ミーティアの門を叩いたのは何も彼女だけじゃない。というか、かなりの数が
〈何かほかに理由があるのか?ミーティアに入らない理由が〉
……なんでだろうか?よく分からない。
「僕の目ですかね。やっぱり、初見の子は驚いちゃうみたいで」
〈……すまなかった〉
謝らなくてもいいんだけどな。別に気にしていることじゃないし。というか、これなんて理由にならないと思う。確かにびっくりはしていたけど。
しかし入部する子が少ない理由か。皆目見当がつかないんだけどな。なんて思っていると。
「いや、普通に考えて気後れするでしょこんなチーム」
ナリタタイシンがそう答えた。気後れ?
「ミーティアの実績は、surprise──驚きの連続だ。確かに、強くなるには最適の環境だが」
「それ以上に、ミーティアのウマ娘という評価が重すぎるんだ高村トレーナー。並のウマ娘ならば重責で潰れてしまうほどには」
「……そうなの?」
「それしかねェよ。考えてもみろ?育てたウマ娘は基本的に世界最強。ンなチーム、よっぽどの理由がなけりゃまず入ってこねェ。いくら強くなれるとはいえ、な」
……つまりいつかのタルマエみたいなことになると。なんとなく理解できてしまうのは良いのか悪いのか。
でも、結構な数体験入部してくれたんだけどな。好感触の子も他に数人いるし。中には一瞬小学生か?と間違えてしまった子もいたけど。まさかニシノフラワー以上に小さい子がいるとは思わなかった。
「ま、あの黒白リボンはそのよっぽどの理由があるやつだ。つか、あいつやべェな。マジの天才だ」
「確かに、デビュー前にしては筋がいい。いや、筋がいいとか、そんなレベルで済ませていい逸材じゃない」
エアシャカールとビワハヤヒデの視線の先にいる新規入部の子。まぁ……僕の目から見てもあの子はヤバい。すさまじい才能を秘めていることが分かっている。
「ただ、その分体質が弱いね。十分気を付けないとまずいんじゃない?」
「当然。体質改善をひとまずの目標に、ゆっくりじっくり育成するつもりだよ」
「貴方が育てるあの子……とても、楽しみだ」
どことなくワクワクしている自分がいる。うん、楽しみだ。
余談だけど、ドゥラとタニノギムレットの併走は。
「ハーッハッハッハ!調子が良さそうじゃないか、
「あぁ。不思議と、マイル戦だと調子がよくなるようだ、な!」
順調だ。このまま距離を伸ばしていって、万全な体制で有馬記念に挑もう。
エアシャカール達が驚愕するほどの才能を持つ黒白リボンのウマ娘……いったい誰なんだ()