ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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キタサンですよ。


将来に向けて

 あたしが所属しているチームには、同期ですごい人がいる。それが、ドゥラメンテさんだ。

 

 

 ドゥラさんは強い。一緒のチームで競い合ってきたからこそ、あたしにはよく分かっている。

 

「ふぅン、タイムも伸びている。末脚に関しては、君はピカ一だねぇ」

「……ありがとうございます。ですが、これで終わるわけにはいきません。もう一本、お願いします」

「ハッ、【ST-2】のデータに加えてミーティアのデータももらえるたァな。こりゃ万々歳だ」

「別に構わないよ」

 

 元々はバクシンオーさんの適性を伸ばすために、一緒にトレーニングをしていた仲だった。加入時期が一緒で、共に過ごす時間も長かった。そうなったら、意識しない方が難しいわけで。あたしとドゥラさんは、気づけばライバルのような関係になっていた。

 ドゥラさんは凄くストイック。強くなることに余念がなくて、常に高みを目指しているような人。あたしには持ってないものをたくさん持っていて、羨ましく思ったことは一度や二度じゃない。

 

(また速くなってる……ドゥラさん凄いなぁ)

 

 着実に成長して、ミーティアの先輩達に並ぼうとしている。ううん、並ぶだけじゃない。いつかは超えるために、ドゥラさんは自分を鍛え続けているんだ。その精神も、あたしにはないもの。みなさんについていくのが精一杯で、父さんのような誰かに勇気や元気を上げられるウマ娘になるには程遠い。あたしの目標には、とても届かない。

 

(……ないものねだりしても仕方ないよね)

 

 けれど、その度に言い聞かせる。他の人と比べたって仕方ないんだって。あたしはあたしで頑張るしかないんだって。そう言い聞かせて今日も頑張る。

 

「よ~し……ハァァァ!」

 

 キタサンブラック、次のレースも頑張ります!

 

「キタ君のタイムも素晴らしいものだねぇ。ドゥラ君と共に、ジュニア級の平均タイムを大幅に上回っている!」

「やっぱスゲェなオメェんとこ」

「そうでしょうそうでしょう!トレーナーさんは素晴らしい方ですから!」

「なんであんたが威張ってんの?」

 

 うおおおりゃあああ!目指せジュニア級G1制覇ぁぁぁ!

 

 

 

 

 

 

 シュガーライツ博士のメカウマ娘、サティさんを交えてのトレーニングも慣れてきたなぁ。最初はびっくりしましたけど、慣れると気にならなくなったというか。そろそろアップ……あっぷでーと?なんとかがあるって言ってましたね。そちらはトレーナーさんが何とかするらしいです。

 

「トレーナーさん、また無茶してないかなぁ。いつもお仕事頑張ってますし」

 

 これは、またあたしのマッサージの出番ですね!トレーナーさんを癒すためにも、このお助け大将が一肌「あ、キタちゃんだ!」ん?この声は!

 

「ダイヤちゃん!それに、クラちゃんも!」

「ハァイ、奇遇ねキタサン」

「偶然だねキタちゃん!」

 

 ダイヤちゃんにクラちゃんだ!2人ともジャージを着ていて土汚れがある、ということは……理事長が言ってた、アレかな?

 

「2人は畑の帰り?」

「うん。ちょうどチームのみんなやクラちゃん達と一緒にやってたの」

 

 やっぱり、理事長が言ってた農作業の帰りだったみたい。2人とも頑張ってるんだな~。

 

 

 トレセン学園ではいま食がブーム。理事長主導の下、畑の発展と開発を、新たな野菜の栽培と収穫が行われているんです。その野菜を調理して作るアスリート食の開発も進められていて、理事長が所有している畑が学園の生徒やトレーナー達に一般開放されているんだとか。あたしも食べてみたんですけど、人参もジャガイモも今まで食べたことないぐらい美味しくて!

 

「ダイヤちゃんもクラちゃんも頑張ってるんだね」

「うん!今はジャガイモの収穫も頑張ってるの」

 

 ダイヤちゃんもクラちゃんも頑張ってるみたい。ダイヤちゃんはシュヴァルちゃんと一緒のチームだから、シュヴァルちゃんも頑張ってるんだろうな~。

 そんな風に思っていると、クラちゃんが不思議そうにあたしを見てた。

 

「ところで、キタサンのチームはやらないのかしら?畑で見かけたことがないのだけれど」

「ゔっ」

 

 い、痛いところを突かれた……!

 

「ど、どうしたの?キタちゃん。凄く神妙な顔になってるけど……」

「なにか言いづらいことでもあるのかしら?相談に乗るわよ?」

「え、え~っとぉ、そのぉ……」

 

 い、言いづらい!凄く言いづらい!

 クラちゃんが気になっている、あたし達を畑で見かけない理由は、とても言いづらいものなんです。ただ、クラちゃん達はあたしに何かあったんじゃないかって本気で心配している表情で……そんな顔をされると、さすがに言わないわけにはいかなくて。

 

「そ、その。あたしのトレーナーさんは2人とも知ってるよね?」

「うん。あの人がどうかしたの?」

「あの人ならむしろ畑に乗り気で協力しそうな気がするけど」

「そ、その~。それが問題、というか~」

 

 い、言うしかない!

 

「トレーナーさん、シュガーライツ博士の研究とVRウマレーターの件があるからこれ以上はダメ!って理事長さんに言われたらしくて……畑、出禁になってるの」

「……はい?」

「トレーナーさん、理事長の畑出禁になってるんだ……関わったら絶対に仕事に繋げるだろうからって」

 

 前科があるせいか、トレーナーさんの仕事に対する信頼なんてあってないようなもので。仕事の成果や資料は信頼しているけど、休むということただ一点においては誰よりも信頼されていないらしいです。

 これに関してトレーナーさん曰く。

 

「なんでだろう……」

 

 みたいな不思議そうな表情してました。いや、そんな不思議そうな顔することでしょうか?残当だと思いますよ?

 

 

 これにはダイヤちゃん達も驚いたみたいで。信じられない、みたいな顔の後どこか納得したような感じになってました。

 

「と、トレーナーさんが高村さんはいつ休んでるんだろう?って心配してましたけど……心配は的中してたんだね」

「まさか理事長達にストップをかけられるほどだなんて……だから目が死んでるのかしら?

 

 でもトレーナーさん、また無茶してるんだろうなぁ。こういうのなんて言うんだろう?え~っと……わ、わーかーほりっく?だった気がします。

 ま、まぁこれがあたし達を畑で見かけない理由で。トレーナーさんが関わらないということで必然的にミーティアのメンバーも関りが薄くなってる、というか。畑とは違うことを優先しているというか。

 

「それに、あたし達はシュガーライツ博士のお手伝いをしてるから」

「シュガーライツ博士?というと……」

「確か、メカ開発を専門にしている方だよね?キタちゃんはそっちのお手伝いをしてるんだ?」

 

 ダイヤちゃんの言葉に頷く。畑には関われないけど、代わりにシュガーライツ博士をお助けしちゃいますよ~!

 

「そうだよ!今度はあっぷでーといぐざむ?っていうのをやるんだ!」

「へ~、そうなんだ!」

「なんというか、よく分かってません、って感じね。キタサン」

 

 うっ、クラちゃんにはバレてた……。

 

 

 お互いの近況を報告し合っていると、やっぱり話題に出てくるのは──レースのことだった。

 

「クラちゃんは次朝日杯だよね?」

「係呀!確か、ドゥラメンテさんも出走するのよね?」

 

 クラちゃんの次走は朝日杯。朝日杯には、ドゥラさんも出走する。あたしは、どちらかしか応援できないわけで……。

 

(う~……!どっちも応援したい~!)

「ドゥラメンテさんは強敵……でも、負けないわ!私も強くなっているもの!」

「頑張ってねクラちゃん。私も応援に行くから!」

 

 決意を固めているクラちゃん。相手がドゥラさんでも一歩も引く気はないみたい。

 

「キタサンはホープフルステークスに出走するのよね?」

「うえぇっ!?あ、あっ、うん!あたしはホープフルに出走予定、かな?」

 

 これに関してはトレーナーさんと相談の上だ。マイルも走れるけど、あたしはどちらかといえば中距離以上が得意だから、中距離のホープフルステークスを選んだ。ドゥラさんはマイル寄りの中距離だから朝日杯、って感じで。

 

「ホープフルステークス……そっちにはシュヴァルさんが出走予定だね」

「キタサンはシュヴァルと戦う、ってわけね」

「うん。シュヴァルちゃんも強くなってるだろうし、油断はできないな」

 

 ダイヤちゃんと同じチームに所属しているシュヴァルちゃん。ダイヤちゃんのトレーナーさんは、シンボリルドルフ会長やテイオーさんを育てた凄腕のトレーナーさん。油断しないようにしないと!

 

「お互いに頑張りましょうね、キタサン」

「うん!クラちゃんも頑張って!」

「私はまずデビューからだな~。頑張って2人に追いつくね!」

 

 お互いの近況報告もほどほどに終わって、あたし達はそれぞれチームへと戻る。自分のレースへ向けて準備を整えることになりました。

 

 

 

 

 

 

 あたしの環境は、多分というか絶対に最高の環境だと思う。バクシンオーさんを筆頭に、癖は強いですけど凄く良い先輩達に恵まれているし、なによりドゥラさんという同世代のライバルがいる。ライバルがいない、なんてこともあるみたいだから、その点あたしは恵まれているんだろう。

 トレーナーさんだって凄い人だ。バクシンオーさんと一緒に四冠を取っただけじゃなくて、日本初の記録をたくさん持っています。いつもあたし達のために頑張ってくれる、優しいトレーナーさん。

 

《先頭はスカンダ、スカンダが先頭でレースを進めます。その後ろにはキタサンブラックが控える形、1バ身後ろにキタサンブラック。キタサンブラックがマークしている状況で、最後の直線に入りました。中山の直線は短いぞ、後ろの子達は間に合うか?》

 

 落ち着いて、落ち着いてレースを展開します。焦るのは悪手、あたしの位置で勝負するなら、冷静に状況を見極めることが大事。

 

(焦ってスタミナを消耗するのが一番ダメ。それに、その隙を見逃すような相手じゃない)

 

 あたしの仮想敵、ドゥラさん。後方一気の追い込みで全てを置き去りにするスタイル。みなさんが太鼓判を押すほどに完成されている、ドゥラさんの黄金パターン。封じ込めるのは楽じゃありません。

 けれど、あたしはドゥラさんに挑まなければならない。だって、あたしもドゥラさんも目標は同じ──クラシック三冠を取ること。

 

(ドゥラさんは譲らない。だから、あたしも譲らない。戦うしかない)

 

 目標が同じだから、あたしとドゥラさんはクラシックで戦うことになる。これは、その前哨戦だ。

 ペースは速めに流れていた。あたしは、まだまだ余裕がある。

 

「行きますっ!」

 

 ペースをさらに早める。バテて落ちていく前の子を追い抜いて、あたしは単独先頭に躍り出た。

 

《さぁキタサンブラックだ、キタサンブラックが躱した躱した!キタサンブラックが先頭に変わります!4番手からシュヴァルグランも伸びてくる、シュヴァルグランが伸びてくるがっ、これはキタサンブラック、キタサンブラックだ!スピードのモノが違う!キタサンブラックが突き放す!》

《スタミナも十分といった様子ですね!》

 

 後はこのまま──駆け抜けるだけ!

 体力にはまだまだ余裕がある。残ったスタミナを、全部振り絞るつもりで走り抜ける。

 息を吸う。前に進む。また息を吸う。さらに前に進む。あたしのスピードは落ちることなく、中山を走り抜ける。

 

《キタサンブラック突き放す、キタサンブラックが先頭で駆け抜ける!中山レース場を駆け抜けるキタサンブラック、シュヴァルグランが追いすがるがその差は開いていく!》

「キタ、サンッ!」

 

 後ろを見る必要はない。あたしに必要なのは、ゴールを見ることだけ。走って、息を切らして。走って、駆け抜けて。あたしは──誰よりも早くゴール板を駆け抜けた。

 

《キタサンブラック駆け抜けたぁ~!ホープフルステークスを制したのはキタサンブラックゥゥゥ!逃げるかと思えば、同じ逃げを取ったスカンダの後ろに控えて足を溜めていました!最後の最後に躱して、見事にホープフルステークスを制しました、圧巻の4バ身差勝利だキタサンブラック!2着はシュヴァルグランだ!》

 

 走り終えた後、荒い呼吸を繰り返す。吸って、吐いて。すぐに息は整った。

 

(……次は、皐月賞)

 

 ドゥラさんだけじゃない。クラちゃんやシュヴァルちゃんもきっと出走してくる。みんな強いから、絶対に出走してくるはずだ。

 

(……負けたくない)

 

 誰にも負けたくない。勝って、あたしはクラシック三冠を取りたい。テイオーさんやバクシンオーさんみたいな三冠ウマ娘に、あたしもなりたい!

 

(これから先のトレーニング、もっと頑張らなくちゃ!)

 

 でも、その前にまずは!

 

「みなさ~ん!応援、ありがとうございました~!」

「お疲れ様ーキタちゃーん!」

「次も頑張るんだよキタちゃん!応援してるからね!」

「このまま三冠制覇だ~!」

 

 よ~し、頑張るぞ~!




キタサンも順調。
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