ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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もうオリジナルウマ娘タグでもつけるべきかと考えている今日この頃。


激突の有マ記念

 迫る年末の大一番有馬記念。シニア級ではこのレースを最後にトゥインクル・シリーズ引退を表明しているゴールドシップ、クラシック級からは世代最強の2人であるドゥラメンテとキタサンブラックが出走。祭典に相応しいウマ娘が出走する。

 そんな中で、サウンズオブアースのトレーナーである朝霞は悩んでいた。この勝負、どうしたものか?と。

 

「むむむ~……」

 

 一番意識すべきなのはゴールドシップ、これは担当であるアースとも意見が一致している。現状トゥインクル・シリーズ最強*1のウマ娘であり、ジャパンカップも後方からの追い込み勝ちで勝利を収めた。

 

「アースももうちょっとだったんだけどなぁ。あとちょっと届かなかったな~」

 

 サウンズオブアースも惜しいところまではいったが負けは負け。しっかりと受け入れたうえで、次の有馬記念では負けないようにと対策を練っている。

 悩める朝霞トレーナー。彼女の下に現れたのは。

 

「おや、悩めるディレットリチェ。どうしたのかな?」

 

 サウンズオブアース本人だ。バイオリンを演奏しながら朝霞へと近づいてくる。

 なぜバイオリン?と思いつつもいつものことなので気にしない朝霞。隠すことでもないと判断したのか、現状の悩みを打ち明ける。

 

「アースの有馬記念が近いでしょ?どうしたものかな~って」

「あぁ、次の有馬記念素晴らしい(モルト・ベネ)レース(セッション)になるだろう!キタサンの元気な(アニマート)逃げ、後方から嵐のように(テンペストーソ)迫りくるゴルシさんとドゥラメンテ!そして出走するウマ娘による壮大な(グランディオーソ)レース(セッション)!私の情熱(パッショナート)は溢れるばかりだ!」

 

 うっとりとした表情で有馬記念への思いを語るサウンズオブアース。当の朝霞は──アースが楽しそうにしているので笑顔を浮かべている。言葉の意味はちょっとしか分かっていないが。

 ただ、一転。今度は真面目な表情に切り替える。

 

「だから、安心してほしい。完璧なレース(セッション)にすると約束しよう。どうか、悲しまないでおくれ」

「別に悲しんではないけど……でも、そうだね」

 

 朝霞はなお笑う。相手の強さを知りながらも、アースの強さを信じて。

 

「勝とうか、アース!後これ、私ができる範囲でまとめた資料だから!」

「スィ!もちろんさ愛しのディレットリチェ!」

 

 2人は進む。有馬記念制覇に向けて。

 

「それに、私に良い考えがあるからね。どうか、私のアド・リビトゥムを期待していてほしい」

「よい考え?なんか凄そう!」

 

 確かな一歩を踏みしめていた。

 

 

 ついでに。

 

「ところで、かの魔王(ディアボロ)は参戦しないのかな?」

「ごめん、タルマエちゃんが出走してきたらもっと頭を悩ませていたと思う。だってあの子に関しては対策が無意味になるし」

「それは残念。彼女がいれば、もっと壮大な(グランディオーソ)ものになると思っていたのに」

「出走したら出走したで、ゴールドシップちゃんが絶叫すると思うよ……?」

 

 どこかでホッコータルマエが何でですか!?と言いそうな会話を繰り広げていた。ちなみに彼女は東京大賞典に出走予定である。

 

 

 

 

 

 

 師走の空気が流れている中山レース場。年末最後の大一番有馬記念の日がやってきた。実力と人気を兼ねそなえた16人のウマ娘による祭典に、ファンは心を躍らせる。

 

「シニア級はゴールドシップにサウンズオブアース、クラシックからはキタサンブラックとドゥラメンテのミーティアのウマ娘!こりゃ楽しみだよな!」

「これで盛り上がらないは嘘ね。楽しみだわ~」

 

 この中で一番人気を勝ち取ったのは──ゴールドシップ。ジャパンカップの激走に加え、これまでの好成績から彼女が1番人気に輝いていた。

 

「いや~分かってんなお前ら!やっぱゴルシちゃんがNo.1ってわけよ!」

 

 本人も1番人気にご満悦であり、張り切っている。これには期待ができるだろう……と、思いたいが。

 

「ゴールドシップさん!くれぐれも、くれぐれもっ!変な気は起こさないでくださいまし!」

「だ~い丈夫だってマックちゃんよぉ。このゴルシちゃんを信じてくれよ~」

「信じているからこそ不安なんですわ!」

 

 この大一番でやらかしそうなのがゴールドシップというウマ娘。メジロマックイーンが再三に渡って釘を刺していることからも大体察することができる。どうかゲートで立ち上がらないでくれと願うばかりだった。

 

 

 次いでの2番人気はサウンズオブアース。ゴールドシップに負けず劣らずの人気を集めており、実績も申し分ない。普段通りの彼女の立ち居振る舞いにファンは安心感を覚えていた。

 

「頑張ってね~!アースー!」

 

 朝霞トレーナーからの声援に笑みを深めるサウンズオブアース。期待に応えるため、素晴らしいレースにするため。彼女は気合いを入れてレースに臨む。

 

 

 3番人気。ここもほぼ差はなくキタサンブラックが人気を集めた。ジャパンカップでは敗北したものの、最後に見せた驚異の粘り脚。有馬記念でも発揮してくれるのでは?という意外性も評価されている。

 そして4番人気はドゥラメンテ。キタサンブラックとは少し離れているが、豪快な勝ち方から多くのファンがいる彼女。さらには変則三冠ウマ娘というネームバリューも大きい。

 

「頑張ってー、ドゥラメンテー!」

「頑張れよ、キタちゃーん!」

 

 笑顔で手を振るキタサンブラックと相変わらずのステップを刻むドゥラメンテ。約一名ちょっとだけ不安は残るが、調子は絶好調。良いレースになるだろう。

 

 

 上位4人の人気が突出している有馬記念。そして。

 

「……あら、シュヴァルもきたの?」

「あぅ……く、クラウン、さん」

 

 観客席にはサトノクラウンとシュヴァルグランの姿があった。サトノクラウンは、トレーナーとチームメイトであるヴィルシーナも一緒である。隣にはヴィブロスとそのトレーナーの姿もあった。

 

「あ~!シュヴァち、私が誘っても行かないから、って言ってたのに~!」

「……別に、いいだろ。気が変わったんだよ」

 

 帽子で視線を合わせないようにするシュヴァルグラン。そんな妹の様子を見て、ヴィルシーナはヴィブロスをなだめる。

 

「まぁまぁいいじゃないヴィブロス。そうだ、シュヴァルも一緒に見ないかしら?」

「……僕はいいよ。どこか別のところで見るから」

「あら、でも今から席を探すのは大変だと思うのだけれど」

 

 ヴィルシーナの指摘に言葉を詰まらせる。実際、中山レース場は人が混みあっており、とてもじゃないが今から席を探すのは難しいだろう。なにより、サトノクラウンからの提案。

 

「よかったらシュヴァルもここで見ない?」

 

 この提案を断ることができず。自分の隣を主張するヴィブロスの提案を断ってサトノクラウンの隣に座った。

 気まずい空気。周りの空気とは正反対の空気をまとわせているシュヴァルグラン。なんとかこの空気を変えようと、サトノクラウンは気になっていたことを質問した。

 

「シュヴァルはどうして出走しなかったの?確か、ファン投票で選ばれてたわよね?」

 

 ただ、言ってから気づいた。この質問は失敗だったと。あっ、となるが時すでに遅し。帽子をさらに深く被ったシュヴァルグランは、ぼそりと呟く。

 

「……怖いから。後、キタサン達が眩しすぎて」

「あ、あ、あ~……へ、変なこと聞いちゃってごめんなさいね!?というか、どの口がって話よね!本当にごめんなさい!」

 

 2人はファン投票で選ばれていた。有馬記念への出走自体は可能だったが、どちらも辞退している。サトノクラウンは適性外だから、シュヴァルグランはキタサンブラック達が眩しすぎるから。その理由で。

 ただ、2人は内心気づいている。自分たちは──逃げたのだと。同世代にいる最強の2人、キタサンブラックとドゥラメンテと戦わずに、適性外だからと、彼女達の輝きが眩しいからと出走をしなかった。その事実が、2人の心に重くのしかかっている。

 

(怖いから、か……それはきっと、私も同じね、シュヴァル)

(……2人は僕とは違う。海外でも活躍できるような、これからも記録を出し続けるようなウマ娘。僕とは根本的に違うんだから)

 

 だが、2人はもう一つ気づいている。目をそらそうとしている現実に、これから起こりうるかもしれない未来に。

 それは──この有馬記念が、キタサンブラックとドゥラメンテにリベンジする最後の機会になるかもしれないということ。シニアからは海外遠征する2人は、トゥインクル・シリーズに復帰することなくドリームトロフィーに移籍するかもしれない、ということだ。

 

(でも、しょうがないよね……)

(本当にこれで、良かったのかしら)

 

 心に影を落とす2人。自分たちの選択は正しかったのか?これで本当に良かったのか……疑問は尽きない。それでも、これから戦う2人のために頑張って応援しよう。そう固く誓った。

 

 

 

 

 

 

 中山レース場にファンファーレが響き渡る。出走を知らせる、開始の時がすぐ間近に来ているという合図。喧騒は少しずつ小さくなり、ゲートに注目する。

 

《年末の大一番、トゥインクル・シリーズの締めくくりにふさわしい舞台有馬記念!ついにこの日がやってきました。中山レース場芝2500m、天気はあいにくの曇り空ですが良バ場の発表。人気と実力を兼ねそなえた16人のウマ娘達が、師走のレース場を走り抜けます。まずは1番人気の紹介をしましょう。1番人気はゴールドシップ!8枠15番からの出走です!》

《ちょっと枠番に嫌われましたね。ただ、大外枠は彼女にとって好都合、追い込み勝ちを狙いたいです》

《続いての2番人気は5枠9番サウンズオブアース!枠番は良い感じですがちょっと不利か?3番人気はキタサンブラック、6枠11番からの発走です。4番人気のドゥラメンテは3枠6番からの出走》

《キタサンブラックもちょっと枠番に嫌われましたね。逃げウマ娘の彼女にとって外枠はつらいところ》

 

 一人、また一人とゲートに入るウマ娘。ゴールドシップは枠入りを嫌ったためか、係員の誘導の下ゲートに入る。

 そして今、最後のウマ娘がゲートに入った。中山レース場が完全に静まり返る。

 

闘志が伝わる。早くこのゲートを飛び出して、一目散に駆け出したいという闘志が。

 

気迫が伝わる。絶対に勝つという強い意志、この場にいる誰よりも強いという自信が。

 

 師走の冷たい空気を切り裂いて──ガコン!と。ゲートの開く音が響き渡り。ドドド!と、ウマ娘達の走る音が次いで聞こえてくる。

 

《最後のウマ娘がゲートに収まってっ、スタートしましたッ!各ウマ娘綺麗なスタート、出遅れはなしです!まず飛び出したのはやはりこのウマ娘!菊花賞レコードホルダーのお祭り娘キタサンブラックが6枠から飛び出した!激しい先行争い、誰がハナを切るのか注目したいところ!》

 

 有馬記念が始まった。

*1
ただしダートは除く




色々な思いがある有馬記念スタートです。ただ、明日はちょっと諸事情により更新ができないです。
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