ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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ドバイ戦ですわよ。


衝撃のドバイ戦

 迎えたドバイワールドカップミーティング。ドゥラとキタサンはそれぞれ違うレースに出走する。

 

「さぁイクイさん、はぐれないように委員長の手をしっかり掴んでくださいねッ!」

「は、はい」

「なんか久しぶりだな~、ここの空気」

 

 実際のところ、結構ドバイのレースには来ているからね。加えて、出走した際には必ず勝ってたりする。

 一応、念のために変装もしている。全員ここでは有名人だしね。衝撃のレコード勝ちを収めたタキオンに現状唯一の偉業であるドバイワールドカップの二連覇を達成しているタルマエ、これまた唯一の偉業であるドバイシーマクラシックの連覇を果たしたジェンティル。注目されない方がおかしいメンバーなので、変装は必須だ。

 見やすい位置を確保して、レースが始まる時を待つ。

 

「じゃあ、しっかりと見ようか。ドバイのレースはシーマとワールドカップだけじゃない、他の距離もあるから」

「はい。分からないところは逐次質問してもよろしいでしょうか?」

「もちろん、構わないよ。それに、バクシンオーやみんなが率先して教えるだろうからね」

 

 実際バクシンオーはうずうずしてるし。イクイノックスを可愛がっているみたいだ。

 

《まもなくゴドルフィンマイルが始まります。メイダンレース場、距離はダート1600m。注目は……》

 

 おっと、始まるな。ノートとペンを取り出して、僕もレースに集中するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 レースは進んでドバイターフが終わる。かなり見応えがある勝負だった。

 

「日本から出走してきた子が獲りましたか!それにしても見事なレースですッ!」

 

 バクシンオーの言うように、ドバイターフを勝ったのは僕たち以外の日本からの挑戦者だ。先行の位置から鮮やかに抜け出しての勝利。お手本のようなレースだった。

 そして、ドゥラが出走するドバイシーマクラシックの時がやってくる。ドゥラはというと……あぁ、うん。

 

「またあのステップを刻んでるね、ドゥラ。どうも緊張しているみたいだ」

「皐月賞やダービーの時もやってましたね、ドゥラメンテさん」

「そうだねイクイノックス。無意識にやるみたいで」

 

 いつもみたいに脚を高く上げる、独特なステップを刻んでいた。まぁレース前には整えているし、問題はないと思うけど……?

 

「うん?なんか騒がしいけど……何があったんだろう?」

「ドゥラ君が連れていかれようとしているねぇ。なんか必死に抵抗しているけど」

「……って、ドゥラさん落鉄してるじゃないですか!」

 

 え、本当に?

 

「あぁ、本当ですわね。落ちた蹄鉄を他の方が拾ったのでしょう。そして、打ち換えようとしているみたいですが」

「ドゥラは拒もうとしている、と」

 

 多分、緊張しているせいで今の現状を分かっていないのだろう。いつも通りに尽くそうと躍起になっている、今更別のことはしていられない、って考えているかもしれない。そのせいか、蹄鉄を打ち換えるように薦めている子達の言葉を聞こうとしていない。

 けど、落鉄した状態で走るのはかなりまずい。ここは仕方ないけどっ!

 

「ドゥラッ!」

 

 大きな声で、ドゥラへと呼びかける。彼女は即座に反応して僕の方を見た。うん、僕が声を上げたらそうしてくれると思っていたよ。

 

「ど、どうした、トレーナー。私ならば問題はない。全てにおいて十全の力を発揮することを約束しよう」

 

 こちらへと歩み寄ってくるドゥラ。その気持ちは嬉しいけど、その前にだ。

 

「ドゥラ、蹄鉄が外れているよ。君に近づいた子たちは、君の蹄鉄が落ちたことを教えてくれていたんだ」

「……本当だ。気づかなかった」

「すぐさま蹄鉄を打ち換えよう。そして、教えてくれた子達に礼を言おう。できるね?」

「あぁ。問題はない」

 

 ドゥラはすぐに戻って、蹄鉄を打ち換える作業に移った。その前に、教えてくれた子達に頭を下げてお礼を言うのを忘れずに。

 

《ドバイシーマクラシックですが、ドゥラメンテが落鉄しましたので発走が遅れます。今しばらくお待ちください》

 

 よし、これで十分に力を発揮できるだろう。後は、結果を出すだけだ。

 

 

 蹄鉄を打ち換えたドゥラの準備が終わったことで、ドバイシーマクラシックが始まる。

 

《ウマ娘の態勢が整って、スタートしましたッ!各ウマ娘綺麗なスタートを切ります。最初に飛び出すのはどのウマ娘か?注目の1番人気ドゥラメンテは後方待機の構えか?後ろへと位置をつけています》

 

 ドゥラはいつも通りの後方待機策。中盤までは前を窺い、しかるべきタイミングで進出。そして最後の直線で一気に捲る、変わらない動き。

 展開としてはスローペース。これといったペースメーカーがおらず、先行勢がお互いに様子見に徹していることが災いしてか、遅めの時計を計測していた。

 

「ふぅン、最初の1000mも日本と比べれば遅めだねぇ。こうなると前が有利になるが」

「ドゥラメンテさんは、頭に入れている可能性がある」

「当然ですわ。自分のスタイルを貫くと決めているのだから、その弱点もしっかりと補う。力を示すためにね」

 

 実際、ドゥラは最後方に拘らず後ろから4番目の位置をキープしていた。先頭との差は……いや、さすがに向こう正面だから分からないな。ただ、ドゥラは後方で大人しくしていた。

 

《向こう正面に入りました。先頭で逃げるのはアルトピャーノ、アルトピャーノが快調に飛ばして逃げています。ドゥラメンテは後ろから4番手の位置、先頭との差は11バ身あるかどうかの差。ペースはゆったりとしたペース、各ウマ娘脚を溜めていますね》

 

 ドゥラが動いたのは第3コーナー。少しずつ早くなっていくペースを感じ取り、続くようにドゥラも進出を開始した。

 順位を上げていくドゥラ。バ群が少しずつ固まっていく。

 そして、第4コーナーを越えて最後の直線へと入った。

 

「っ」

「あら」

「……来ますね」

 

 ──瞬間、ドゥラの放つ闘争心が膨れ上がる。観客席でも感じるようなプレッシャーを放ち、後方から……言葉通りぶっ飛んできた。

 

《最後の直線に入りました、先頭は依然としてアルトピャーノしかしこれは苦しいか?ここでドゥラメンテが捲ってきたッ!さぁ後方からドゥラメンテ、ドゥラメンテが来ました!あっという間に躱していくドゥラメンテ、アルトピャーノとの差をぐんぐん縮めていく残り4バ身!ここでアルトピャーノと先頭変わったインサラータ!》

 

 出走しているほかのウマ娘とは一線を画しているスピード。キングジョージを制したウマ娘と競り合うように上がっていき、徐々に引き離していく。

 

「ほほ~う、走りのキレが増しているねぇ!最高潮に達すれば1ハロン10秒を切ることができる末脚、これが常時使えるようになれば!」

「えぇ!模範的な委員長になれる日もそう遠くないですねッ!」

 

 委員長かどうかは分からないけど、ドゥラの勢いは全く衰えない。残り200mで先頭に並んだかと思えば、あっという間に抜き去っていった。

 

「『いけいけー!ドゥラメンテー!』」

「『やっぱりミーティアのウマ娘は素晴らしいわ!惚れ惚れしちゃう!』」

 

 最終的には全てのウマ娘を引き離して、ドゥラは4バ身差での圧倒的な勝利を飾った。

 

《ドゥラメンテドゥラメンテ!圧巻の勝利だドゥラメンテェェェェェッッ!後方からのごぼう抜き!見事な末脚、衝撃の強さ!これがドゥラメンテの強さだ!日本のウマ娘がドバイターフに続いてドバイシーマクラシックも制した!》

 

 拳を掲げるドゥラ。微笑み、こちらを見ている。

 

勝ったぞ

 

 そう言わんばかりの表情に、僕は思わず笑った。

 

 

 

 

 

 

 ドバイシーマクラシックの決着。メイダンレース場は大盛り上がりだ。

 

「『痺れるな~ドゥラメンテの末脚!日本のレース映像見た時から、ずっと生で見たかったんだ!』」

「『本当ね。彼女の勝ち方は華があるわ!』」

「『次のレースも期待してるぞ~!』」

 

 ファンの声援に応えているドゥラ。うん、実力を十分に発揮できたレースだったね。

 

「当たり前のことを当たり前にこなす。難しいことですけど、ドゥラさんは無事に勝ちましたね」

「ふぅン、タイムも悪くない。上がり3ハロンも最速を記録している。この調子でいきたいところだ」

「お疲れ様ですドゥラさーーんッ!見事なバクシンでしたよーッ!」

 

 タキオンに教えてもらいながら、今回のタイムを記録していく。

 

《見事なレースを見せてくれましたドゥラメンテ!今後は欧州のレースに出走予定の彼女、次のレースも目を離せません!》

 

 ドゥラメンテを称賛する声は止まない。その状況で、タキオンは。

 

「……さて、次でどうなるか、だねぇ」

 

 次。ドバイワールドカップに出走する、キタサンのことを考えているみたいだった。

 タキオンの言葉に反応して、イクイノックスが心配そうな表情を浮かべている。

 

「次、何かあるのでしょうか?もしかして、キタさんになにか?」

「そういうわけじゃない。彼女は絶好調そのものだっただろう?ただ……」

 

 一呼吸おいて、タキオンは口にする。懸念していること、というよりは自分が予想していることを。

 

「ドゥラ君の声援は、おそらくキタ君によって塗り替えられる。それだけの話だ」

「……それってつまり」

「キタ君は衝撃のレースを展開するかもしれない、ということさ」

 

 タキオンの言葉にヒリつく空気。気づいた頃にはドバイシーマクラシックに出走していたウマ娘達は退場していた。

 

 

 ──そして、会場はタキオンの言っていた通りになる。

 少しの時間をおいて始まったドバイワールドカップ。ダートということもあり、序盤から激しい位置取り争いが繰り広げられていた。ただ、レース自体はキタサンが一人で逃げる形になっている。理由は単純で、オーバーペースを感じ取ったからだろう。

 序盤からハナを主張して無理やりペースを作ろうとする。そんな相手に付き合う必要はない、と他のウマ娘はキタサンの後ろに控える。その結果起きたのは──

 

《最後の直線、先頭で入ってきたのはキタサンブラックだ、キタサンブラックだ!キタサンブラックの逃げが炸裂しています、2番手との差は何と8バ身ッ!慌てて追いかけている各ウマ娘、サクラメントステートが追い付こうと必死になる!だがキタサンブラックが逃げる、逃げている!》

 

 キタサンが終始ペースを握ったことによる、圧勝ペース。最後の直線に入った段階で8バ身はついているかのような差、後続が必死に追い上げているけど、道中思いっきりペースを下げていたキタサンはまだまだ余裕がある。というか、長距離を走り切るスタミナを有しているキタサンがへばることはほぼない。

 観客はあまりの衝撃に口を開けて固まっている。ドゥラが後方一気の末脚を炸裂させたと思ったら、今度は同じチームのウマ娘によるとんでもない逃げを見ているのだから仕方ないのかもしれないけど。

 

「良いですよキタさーんッ!とても良いバクシンですッ!模範的なバクシンですよ~!」

「かつてのタルマエさんみたいですわね」

「す、すごい……!」

 

 その後は縮まることはなく。キタサンが圧勝でドバイワールドカップを制した。

 

《キタサンブラック、キタサンブラックだ!これが強さだキタサンブラックゥゥゥゥゥッッ!!す、凄まじい逃げを披露してくれました!控えたウマ娘をあざ笑うかのような完璧な逃げ!圧巻の逃げ切り勝ちを収めましたキタサンブラック!2着との差は実に9バ身差!これがキタサンブラックの強さだ!今年の欧州は、どうなってしまうのかぁぁぁ!?》

「わっしょいわっしょぉぉぉい!バクシンワッショイでーーすッ!」

 

 いまだ歓声を上げることができないでいる観客。漏れ出た言葉が耳に入ってくる。

 

「あ、アメイジング……っ」

「おぅ……こ、『こいつは完全に予想外だった!』」

「凄まじい……!」

 

 言葉を失う、というのはこういうことを言うのだろう。それだけのレースを見せていたようだ。

 

「トレーナーさーーん!勝ちましたよーーー!わっしょーーい!」

 

 こっちに向かって大きく手を振っているキタサンに手を振り返しながら、ドバイワールドカップミーティングの全日程が終了した。ドゥラとキタサンは見事に勝利、次は──欧州のガネー賞だ。




欧州「来ないでもらっていいですか?」
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