ホープフルステークスを勝利したキタサンブラック。朝日杯フューチュリティステークスを制したドゥラメンテと同じチームである彼女の展望には当然注目が集まっていた。ドゥラメンテと同じチームなだけでなく、所属しているチームが名実ともに世界最強レベル。気にならないはずがない。
多くの報道陣が詰め寄った。どちらの路線に進むのかを。ただ、同路線になることはないんじゃないか?と目されていた。序盤から競い合うことはないだろうと、少しばかり落胆しつつインタビューをする。
だが、記者達の予想は良い意味で裏切られた。
「キタサンブラックとドゥラメンテは、どちらもクラシック路線に進みます」
トレーナーである高村聖の言葉。両名ともにクラシックの冠へ挑むと答えた。疑う記者もいたが答えは変わらない。
「ほ、本当にキタサンブラックとドゥラメンテの2人はッ!」
「はい。2人とも、クラシックへ挑みます」
記者達は色めき立つ。ミーティアで同時期にデビューしたウマ娘として、ジェンティルドンナとホッコータルマエの例があったが彼女達が競い合ったのはシニア級。クラシック級で戦うことはなかった。だから、キタサンブラックとドゥラメンテの2人もシニア級以降で対決することになるんじゃないか?というのが大方の予想だった。
「ぜ、前哨戦は!?」
「キタサンブラックは前哨戦を挟まずに挑むつもりなので、2人が戦うとしたら皐月賞ですね」
しかし、その予想を裏切ってクラシック級の序盤から同じレースに出走すると明言した。クラシックの初戦、皐月賞からだ。
(おいおい、もうクラシック戦が楽しみになってきたぞ!)
2人はこれまでのミーティアの例に漏れず、すでに世代最強の地位を確立しつつある。どちらも4戦4勝の無敗、皐月賞でどちらかの無敗が崩れ去る。あるいは、どちらも崩れる可能性だってある。残念に思いつつも、それ以上に感じるのは──期待だ。
(キタサンブラックは前の位置で、ドゥラメンテは後ろでレースを展開する)
(スタイルが対極的な2人。間違いなく熱い勝負になる!)
(こいつは良い記事になりそうだ~!)
どちらが上なのか?どちらがクラシック三冠の挑戦権を得るのか?胸が高鳴る記者達。
「今からクラシックが楽しみですよ!」
「はぁ」
やはりミーティアは話題に事欠かない。改めてそう感じさせるインタビューとなった。
◇
キタサンのホープフルステークスも終わって、気づけば年末。
「アップデートイグザムも無事に終わったね。うん、シュガーライツさんの研究も順調そのものだ」
本人も小躍りしそうなほどに喜んでいたのは印象深かったね。僕の視線に気づいたら顔を赤くして咳払いをしていたけど。サティの研究は順調で、最初のころと比べたら随分とマシになったものだ。さすがにまだまだ足りないものが多いけど、進んでいるという実感を抱くことが大事。今後に期待していこう。
三女神様とのトレーニングもよい調子。というか、三女神様達はほぼ個々人で完結しているので、僕がやっていることは不足しているステータスを見てメニューを考えるくらいのもの。三女神様達と相談して決めるので、実を言えばあまり負担にはなっていない。割とあっさり決まるし。
「メニューを考えるくらいはあまり手間じゃないし。まぁ……だからと言って畑には関わらせてくれないんだろうけど」
さすがにあそこまで念押しされたら退くしかない。秋川理事長やたづなさんを怒らせるのはもう勘弁だから……今も大概な気がするのは気にしないでおこう。気にしたら負けだ。
さて、今後の予定を考えるとしよう。まずはキタサンとドゥラの2人だ。
「ドゥラの次走は共同通信杯、キタサンはそのまま皐月賞に直行。ライバルは……サトノクラウンにシュヴァルグランが目立つね」
ドゥラはサトノクラウンに、キタサンはシュヴァルグランに完勝したけど、向こうも対策を取ってくる。どっちも油断ならないトレーナーだし、警戒を引き上げておいて損はない。
ノートを広げて、キタサンとドゥラのステータスを確認する。
ドゥラメンテ
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行C 差しA 追い込みA
スピード:A 803
スタミナ:C 424
パワー :B+ 755
根性 :D 344
賢さ :C 487
キタサンブラック
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しG 追い込みG
スピード:B+ 782
スタミナ:B 608
パワー :C+ 557
根性 :D 347
賢さ :C 472
最初のころからずっとバクシンオーの適性上げを手伝ってきた影響か、適性がとんでもないことになってるな。いや、ミーティアのみんなそうなったんだけど。
「他の人達は、適性を上げようにもキツそうだしな。適性が分かるのは僕ぐらいだし、僕から適性のことを教えてもらっても今度は確かめる手段がないし」
こればかりはどうしようもないことかもしれない。それに、大体は得意分野を伸ばすって方針だから適性外のことをしようなんて思わないだろうからね。適性外だろうが何だろうが挑ませる僕の方が異端だ。
サトノクラウンとシュヴァルグランは2人よりも一段か二段くらい劣るステータス。というよりは、基本的には満遍なく上がってバランスが良い。これは他の子達にも言えることだけど。
皐月賞でライバル候補達がどこまで上がってくるか。これも計算して今後のトレーニングを立てよう。後はサティを交えたトレーニングだったり、三女神様の叡智だったり。年末特番を流しながら、PCで作業を進めていく。量はそこまでないのですぐに終わった。
終えた後、今度は別の準備。年明けのパーティに向けて、準備をしないとね。
「まさかドゥラから招待されるなんてね。ジェンティルみたいだ」
なんでもドゥラのお父さんが僕にかねてから会いたいと思っていたみたいで。年末にその話を聞いて、年明けで丁度いいからとパーティに誘われた。特に用事があるわけでもないので承諾、年明けはドゥラのところでパーティだ。
「……ジェンティルとかサトノの2人もいるみたいだし。理事長もいるらしいし」
お金持ちの家が集うようなパーティ。正直、ジェンティルの家に何度かお呼ばれされてなかったら危なかったな。マナーはちゃんと覚えているとはいえ、緊張はするから。
「スーツもそれなりに値が張るやつを用意してある。しっかりと準備は万端、後は本番を待つだけだね」
もう問題はないはずだ。本番に向けて備えるとしよう。お店で買ったそばを用意して、年越しの準備。そのまま時間は過ぎていった。
余談だけど、ミーティアメンバーの年明けの返事最速はバクシンオーだった。朝日が昇る前ぐらいにはメッセージが飛んできたし。
◇
そしてパーティ当日。どこを見ても富裕層と思われるような人しかいない場所に、一般の家出の僕が一人である。正直な話、浮いていてもおかしくない。
(まずは、ドゥラのお父さんにあいさつしよう。招待してもらったわけだし)
「行こう、トレーナー。父さんが待っている」
「分かった」
ドゥラに連れられて、僕はドゥラのお父さんの下へ。ただ、どういうわけかかなり視線を感じる。
「アレが噂の……」
「本当に目に生気がないわね」
「しかし、その眼は確かだ。お近づきになるのも」
……気にしない方がいいだろう。なんとなく察しはつくけど。
他の方と話しが終わったドゥラのお父さんは、僕達を見るとにこやかな笑みを浮かべてこちらへときた。丁寧にお辞儀をして挨拶をする。
「初めまして。私、ドゥラメンテさんのトレーナーを務めております、高村聖と申します」
「あぁ、初めましてだね。そう固くならなくていい、どうか気楽に接してくれ」
第一印象は、寡黙そうな人だ。ドゥラと似たような雰囲気を感じ取れる。ただ、いざ話してみると寡黙という印象はなくなった。
「今日は我らの招待を受けてくださり、ありがとうございます。私も、貴方にはお会いしたかった」
「……ドゥラメンテさんのトレーナー、だからですか?」
首を横に振った。どうやら違うみたいだ。
「君の名声を知れば、誰もが一度は会ってみたいと思うだろう。稀代の天才トレーナー、時代が生んだ怪物……高村聖トレーナー」
「……恐縮です」
ドゥラのお父さんが口にしたのは、新聞や雑誌なんかで言われている僕を指す言葉だ。いざ口にされると恥ずかしいな。
「君が導くウマ娘は一騎当千の活躍が約束され、適性外のレースであっても勝たせる手腕を持つ。適性外のレースで勝つことがいかに厳しいかは、この業界に身を置く立場の人間としてよく分かっているつもりです」
「ありがとうございます。自分なりに一生懸命頑張りました」
「頑張った、か」
実際そうとしか言えない。
ドゥラのお父さんから聞かれたことは、スポーツに関連したのが多かった。後は僕の目のこととか。
「高村トレーナーはウマ娘の適性が見えるそうですが、レース以外にも発揮できるのですか?」
「……難しいです。基本的にはレースの適性しか見ることはできません」
「なるほど……いやすまない。変なことを聞いたね」
後は、ドゥラのこと。親としてはやっぱり心配みたいで、チームでは上手くやれているかどうかを聞いてきた。特に問題なく過ごしているので無難な返事をしたけど。
そして、ニュースを見たのだろう。
「ドゥラのクラシックのことですが……どうやら、同じチームの子と戦うようですね」
「はい。同じチームで、同じ世代のキタサンブラックと競うことになります」
クラシック戦のことについて。先ほどまでの柔らかい雰囲気はなくなって、鋭い目つきになる。思わずのけ反ってしまうような圧だ。
「率直にお聞きしましょう。同じチームの子と戦うことになった理由と、意図を教えてください。基本的に、同じチームのメンバーが同じレースに出走することは稀だと思っています」
「そうですね。そうそうありません」
「だから、お聞きしたいのです。どうしてドゥラとキタサンブラックさんを一緒のレースに出すのか。どちらが先に言ったのか。そして……あなた自身はどう思っているのか?」
理由に、意図か。まずは簡単なものから答えていこう。
「先に言ったのはドゥラメンテさんの方からです。キタサンブラックさんと戦うことになっても構わない、と」
「……」
「その通りです、父さん。私は、トレーナーに望むところだと伝えました」
同じクラシック路線を選んだ2人。2人とも譲れない思いがあって、ならば勝負することになっても構わない、と2人とも意見が一致した。だからこそ、出走に踏み切ったわけだからね。
そして意図に関してだけど、これに関してはない。
「ドゥラメンテさんとキタサンブラックさん、どちらにも譲らない思いがあります。ぶつかるのは必然、そこに僕の意図はありません」
「あなたがよく口にしている、担当のウマ娘がそう願ったから、ですか?」
「そうなります。僕はいつだって、担当の子達が本当に望むことをしてあげたいと思っています。この戦いもその一つ、僕の意図はないと断言します」
そもそも僕自身、記録なんてものには興味がない。世界最高のトレーナーだとか言われているみたいだけど、僕個人としては気にしたことがない。僕がやりたいことはいつだって変わらない、やるべきことは決まっているのだから。
「記録に拘りはありません。ただ、担当の子達が悔いを残さないようなレースにしてほしい。ただその一心で、僕はがんばっています」
「……そうですか」
しばらく天を仰いだ後、ドゥラのお父さんは頭を下げた。
「申し訳ありません、高村トレーナー。空気を悪くしてしまって」
「いえ、構いません。お気持ちは分かりますから」
もしかしたら、ドゥラとキタサンが戦うのをただ見たいから一緒のレースに出走させる!みたいな考えだってあるわけだから。僕はそんなこと断じてしないけど。
「あなたの人となり、どことなくわかった気がします。これからも、ドゥラのことをどうかよろしくお願いします」
「……微力ながら。頑張ります」
握手を交わして、お話は終わり。少し緊張したな。
ずっと隣にいたドゥラはどこか上機嫌だった。何かいいことでもあったのかな?