ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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欧州ということでね。


欧州遠征へ

 凄いレースだった。ドバイシーマクラシックが終わり、ドバイワールドカップを観戦していたが、思わずそう言いたくなるほどのレースをキタサンは展開していた。

 

《キタサンブラックが一人逃げる展開となりました。勢いよく進むキタサンブラック、快調に飛ばしています。後ろとの差を少しずつ広げていく。しかしこれは勢いをつけすぎか?》

《掛かっているかもしれませんね。落ち着きを取り戻せるといいのですが》

《2番手はサクラメントステートが先頭。サクラメントステートが後続10名を引き連れて走っています。キタサンブラックとの差は開いていくが、2番手以下は激しい争いだ》

 

 先行争いにさせることなく、スタートダッシュを決めて先頭を奪った。さらにはペースを緩めない、これもまた見事。

 序盤からスタートし、勢いを緩めずに走ることで、後続のウマ娘にキタサンは暴走している、と印象付けた。その結果、単騎で逃げる展開となる。

 そして中盤にも入れば……やはりな。

 

(キタサンはペースを落とした。それも、他のウマ娘には分からないぐらい自然に)

 

 まだ中盤に入った頃。キタサンはペースを少しだけ落とした。他のウマ娘は位置取り争いに夢中で気づいている様子はない。4バ身あった差が徐々に近づいていってるが、キタサンは気にした様子を見せない。適宜後ろを確認し、自分の位置を確認しつつ走っている。

 恐ろしいな。観客席にいても感じさせる、他を圧倒するだけのプレッシャー。思わずのけ反ってしまいそうになるほどだ。それでいてなお、キタサンは。

 

(まだまだ余裕、というところだな)

 

 もっとも、キタサンはステイヤーだ。持久戦になれば、このレースで彼女に勝てる者はいないだろう。私でさえも……。

 そして迎えた最後の直線。キタサンは2番手に8バ身はつけているんじゃないか、という差で入ってきた。

 

《最後の直線、先頭で入ってきたのはキタサンブラックだ、キタサンブラックだ!キタサンブラックの逃げが炸裂しています、2番手との差は何と8バ身ッ!慌てて追いかけている各ウマ娘、サクラメントステートが追い付こうと必死になる!だがキタサンブラックが逃げる、逃げている!》

(今更慌てたところで遅い。キタサンがここから落ちることは決してないのだから)

 

 単純に、仕掛けるのが遅くなった。後続の敗因はこれに尽きるだろう。キタサンが暴走していると決めつけ、彼女の実力を侮った。

 確かにジャパンカップや有馬記念の敗北があるだろうが、それでも私達は日々進化している。今回出走している最有力ウマ娘達と遜色ないステータス……とまではまだいかないが、それでも近いステータスは記録している。

 

(ステータスは絶対視するものではない、か)

 

 確かにそうだ。ステータス上では相手の方が上、だが私は勝ち、キタサンは私よりも凄い結果で勝とうとしている。私達の勝因は、相手の侮り、無意識の慢心かもしれないな。全ては私の想像に過ぎないが。

 結局差は縮まることはない。むしろ広がっていった。

 

《キタサンブラック、キタサンブラックだ!これが強さだキタサンブラックゥゥゥゥゥッッ!!す、凄まじい逃げを披露してくれました!控えたウマ娘をあざ笑うかのような完璧な逃げ!圧巻の逃げ切り勝ちを収めましたキタサンブラック!2着との差は実に9バ身差!これがキタサンブラックの強さだ!今年の欧州は、どうなってしまうのかぁぁぁ!?》

 

 キタサンの9バ身差圧勝。ふっ、さすがは私のライバルだ。そうでなくてはな。

 

(キタサンの成長スピードは早い。グランドマスターズの交流戦を経て、さらに進化を遂げた)

 

 バクシンオーを筆頭としたスプリンター達との戦いで、キタサンは強くなった。ここにいても強さをひしひしと感じるぐらいには……ッ!

 

「……大丈夫、大丈夫だ。キタサンと戦う機会はたくさんある。この海外遠征で、彼女とは何度も戦うことになるだろう」

 

 海外の強敵達、そして一番近くにいるライバル。思わず体が震える。そう、彼女らと、キタサンと走る時が楽しみな武者震いだ。

 

「……そうだ。だからきっと、これは違う」

 

 武者震いに決まっている。そう、決して──

 

 

今のキタサンに、自分が勝てるか?という不安からの震えでは。断じてないはずだ

 

 

 

 

 

 

 ドバイでのレースが終わって次は欧州。今度こそは万全の対策を取って移動する。

 

「イクイちゃん大丈夫?お水飲む?」

「だ、大丈夫です。前回よりは多少和らぎました」

 

 結果としては、イクイノックスの乗り物酔いは多少緩和された。他のメンバーも、前回よりは影響が少ない。ただ、完全に無くなるまでは慣れとの戦いだねこれは。

 そして着いたフランスの空港。出迎えてくれるのは。

 

「ヒジリー!」

 

 ヴェニュである。引退したとはいえ、お仕事の依頼とかあるかもしれないのに大丈夫なのだろうか……後ろから付き添いで来たであろうモンジューの表情を見るに大丈夫じゃなさそうだけど。

 

「『貴方を迎えに行くと聞かなくてね。幸いにも、仕事は日程の変更がきくものばかりだったから何とかなったよ』」

「『僕個人指定なんだね』」

 

 肝心のヴェニュは僕の隣を陣取っている。くるりとジェンティルたちがいる方へ向いたかと思うと、勝ち誇ったような笑顔を浮かべていた。

 

「フッ」

「……あらあら、随分と躾がなっていませんわねぇ?モンジューさん」

 

 なんかヴェニュとジェンティルの間で火花が散っているような気がするけどまぁ気のせいだろう。この2人が争う理由なんてないし……いや、1つだけあるな。

 

(凱旋門賞。ヴェニュにとって初めて負けたのが、ジェンティルが勝った凱旋門賞だしな。敵対心を抱くのも無理ないか?)

 

 なんかちょっと怪しい気がするけど。まぁいいや。

 

「『早速行こうかモンジュー。宿泊先は君達の方で手配してくれてるって聞いたけど』」

「『ブレないな貴方は。そうだ、我々の方で遠征の間滞在してもらう宿を用意している。どんな方でも利用できる場所だから安心して欲しい』」

 

 モンジューの案内で宿へ。なお道中で他のトレーナー陣から尊敬のまなざしで見られていた。

 

「流石だねぇ聖トレーナー。フランス語ペラペラじゃないか」

「まぁ、勉強しましたので。来ることも多いですし」

「あ~、凱旋門賞とかいろいろあるもんな」

 

 勿論、座る席はウマ娘とトレーナー陣で別だ。当たり前だけどね。

 

「ヒジリの隣……」

「『ヴェニュ。お前は私がいない間部屋の掃除をさぼっていたな?』」

「ぎくぅっ!?」

「『戻ったら部屋の掃除だ。分かったな?』」

「う、Oui……」

 

 ヴェニュ、また部屋の掃除をさぼってたのか……。

 

 

 案内された宿舎は豪華なもので。てっきりそこそこの宿を提供してもらえるのかと思っていたら凄い豪華だった。

 

「……聖トレーナー。俺達本当にここ使ってもいいの?」

「モンジュー曰く。僕も驚いています」

「むしろ気が引けるんだが」

 

 せ、せっかく使えるわけだしありがたく使わせてもらおう……欧州にいる約1年間はここで生活することになるのか。

 

「さ、さて!今日のところは長旅の疲れがあるだろうし、素直に休もうじゃないか諸君!」

「ライツ博士。言いながら意識がベッドに向いているのは気のせいか?」

「そそそそんなことはないぞ!?決して、決して!寝たら気持ちよさそうなふわふわ具合だからというわけではないぞ!」

 

 別に寝たいなら寝たいでも問題ないと思うんだけどな。シュガーライツさん目の隈が凄いし、飛行機でも熟睡だったし。それにしても、確かに凄いなこのベッド。少し押すだけでも沈み込む、寝たら包み込んでくれそうだ。

 

「アヤベ君がいたら小躍りするぐらいには喜びそうだな」

「僕は面識ないんだけど、それぐらいのものなの?というかなんで?」

「アイツ、ふわふわに目がねェんだよ。だからこのフワフワの布団を知ったらすっ飛んでくんじゃねェのか?」

「流石にないでしょ」

 

 ナリタタイシンのツッコみ。まぁシュガーライツさんの言う通り、今日のところは長旅の疲れがあるので全員何もすることなく寝ることになる。

 そう、全員寝るからいけるはずだ!

 

「仕事をまとめるとしよ「バクシンバクシーーンッ!就寝の時間ですよトレーナーさんッ!」……知ってた」

 

 結局仕事をすることなく寝た。ちなみにだけど遠くの方からシュガーライツさんの声が聞こえたな。

 

「待て待て待て!?今から寝るところだ、今から寝るから君の手を借りなくても「大丈夫です!お助け大将キタサンブラック、ライツさんをしっかりとお運びしますね!」待ってくれぇぇぇぇ……」

 

 あぁ、うん。シュガーライツさんも僕と同じ目に遭うことになったか。

 

 

 次の日。モンジューのトレーナーさんと合流して、一緒にトレーニングをすることに。後は伸び悩んでいる子がいるので、僕に少し手ほどきして欲しいそうだ。好意に甘えっぱなしはダメだから勿論OKをする。

 ドゥラとキタサンは……うん、タキオンやジェンティルたちの時に一緒にトレーニングしてたから、特に影響はないね。ただ、どちらかと言えば。

 

「バクシンわっしょーーーい!」

 

 キタサンの方が、走りやすそうにしているかな。ドゥラも影響はないけど、キタサンの方が調子が良さそうに見える。

 

(こっちの芝が合っているのかもしれないね)

 

 果たしてどんなレースを展開するのか……少しワクワクしている自分がいる。ガネー賞はすぐそこ、キタサンもドゥラも、万全の調整をするように努めよう。

 そして、トレーニングには明らかにトレーナーではないだろう人達も見物に来ていた。

 

「『ほほう、あれが日本の』」

「『良いな。どういう機構をしているのかぜひとも知りたい』」

 

 ただ、会話の内容から大体の察しがつく。シュガーライツさんのサティを見に来た人たちだ。白衣を着ているし、いかにも技術職っぽい見た目をしているし。

 向こうはサティに興味を持っている。ならば、やることは1つだ。サティにダイブしているシュガーライツさんの手を引いて、彼らのもとへと連れていく。

 

〈ひ、聖トレーナー!な、なにを?〉

「彼らはサティに興味を持っています。ここは、新たな知見を得る良い機会かと」

〈そうは言うが……〉

「フランス語、話せますよね?なら大丈夫です」

 

 最悪の場合は僕がフォローすればいい。サティの新たな強化のために、こっちの人達の話はぜひとも聞いておきたいはずだ。

 シュガーライツさんも悩んでいたが、最終的には意を決したように。

 

〈……分かった。早速話をしに行こう!〉

「はい。分からないフランス語があれば僕がフォローを入れますので」

 

 こうして、こちらの技術者とのコンタクトが取れた。話し合いの結果は──成功。好感触であり、彼らは笑顔で去っていった。

 

「『とてもいい話が聞けたよ!またぜひとも見学させてくれ!』」

「『今度別の仲間と一緒にこっちに来るよ!実りのある意見交換会にしよう!』」

 

 よし、これでつながりができた。サティの研究に、さらなる躍進が見込めるだろう。

 

〈ふぅ……礼を言おう、聖トレーナー。君のおかげで助かった〉

「いえ。これぐらい構いません」

 

 サティの研究もかなり進んでいる。シュガーライツさんの目的を達成する日も、そう遠くないはずだ。




クラシック期はキタサンにとっての試練が、シニア期ではドゥラにとっての試練が?
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