ドゥラメンテを対象にしたコロネーションカップ後のインタビューは言葉少なに終わった。いつも言葉が少ない彼女だが、今回はさらに短い。
「己の不徳を再確認できた。それだけだ」
「これ以上無意味に時間を費やしている暇はない」
「私には他にやるべきことがある」
報道陣に対してこの姿勢を貫き、取り付く島もない。ただ、代わりにとばかりにトレーナーである高村の方が答えていた。
「今回の敗北は着差以上のものを感じていると思われます。半バ身、縮まったようにも思えますが、差を突き付けられたと感じているみたいです」
「また、自分が許せないと思っているのでしょう。あくまで私の予測にすぎませんが、何かが彼女にとって琴線に触れた。そう思っているのかもしれません」
「次走のクイーンアンステークスではこうはいかない。必ず勝利してみせる……そう意気込んでいます」
報道陣はある程度納得し、インタビューを続行。無事?に終えることができた。
レース後、ドゥラメンテは高村と一緒に問題点を洗い出す。
「また、追いつくことができなかった。さらには、キタサンに対しもう勝てないなどと思ってしまった……!一生の不覚だッ!」
「……確かに、ドゥラなら思いもしないことだね」
「あぁ、到底許せることではない!」
メンタル面での不調、技術の不足。様々な問題点を挙げたが、ドゥラメンテにとって今回一番許せなかったことがコレだ。最強を目指す彼女にとってあってはならないこと、思ってはいけないこと。なにより自分は何を学んできたのだと思わざるを得ない思考。そのことをずっと恥じていた。
「しかも、あろうことか脚質が不利だから、コースが不利だからと、自分以外のせいにしようとした!私にはそれが許せない!」
「……そっか」
「真の最強は揺らがない。どこであっても変わらない!十全の実力を発揮して、必ず勝利を掴み取る!今回のコロネーションカップでは、私自身の至らなさを見せつけられた……ッ」
わなわなと震え、拳を強く握るドゥラメンテ。よほど我慢ならないことだったのだろう。今もこうして自分を責め続けるほどに。
そんな彼女を、高村はじっと見据え──落ち着かせるために頭を撫でる。
「落ち着いて、ドゥラ。冷静さを見失おうとしている」
「……トレーナー」
「反省は大事だ、自分の至らなさに怒るのもいい。けど、そればっかりはダメだ」
優しい声色で、自分の意見をしっかりと伝える。これ以上怒りに身を任せないように、ドゥラメンテが自分を責めすぎないように。高村は言い聞かせる。
「確かにもう勝てない、なんて思ってしまったのは良くないね」
「……ッ」
「なら、
やってしまったことを悔いるばかりではなく、やらかしたことを踏まえたうえで自分がどうするか?そう問いかける。
ドゥラメンテはしばし考えこんで、口を開いた。
「……もう二度と勝てないなどとは思わない、思いたくない。そのためにも」
「うん」
「勝ちたい、キタサンに。今はただ、それだけだ」
キタサンブラックに勝つこと。それが、ドゥラメンテが決めた目標だった。
高村はドゥラメンテの頭から手を放し、目を閉じる。
「まずは目先の小さな目標から。悪くない」
「最強を目指すにしても、キタサンに勝たなければ何も始まらない。彼女の強さを知り、そして勝利する」
「ただ、今のキタサンは強敵だ。ステータスも拮抗しているし、迷いがない。勝つのは至難の業だろう」
「だからこそ」
ドゥラメンテは正面から高村を見据える。強い意志の籠った、まっすぐな瞳。闘志を宿らせ、不安さを微塵も感じさせない強い目。腹積もりは決まっていた。
「教えてくれ。キタサンに勝つためには、どうすればいいのか?君の意見を聞かせてほしい」
「僕の意見、か」
「私だけではたどり着けない。君の力を貸してほしい」
「勿論構わないよ。僕は君のトレーナーだ、遠慮なく頼ってほしい……まぁ、ガネー賞の時に頼ってほしかったけどね」
何も言わなかったし、と少し残念そうに呟く。思い当たる節があるのか、ドゥラメンテは慌てた。
「あの時は、私だけの力で何とかしようと思っていた。だが、コロネーションカップでこの様だ……その、すまなかったと思っている」
「気にしなくていいよ。自分だけの力で何とかしようとするのもまた、成長することに繋がる。その先を考えたらね」
言いながらノートPCを開いて、何かのデータを引っ張り出そうとしている。一つずつピックアップしていき、USBへと入れていく。
「ドゥラ、僕からのアドバイスはたった一つだ……
「原点に、だと?」
「うん。今の君はちょっと合わないことをしようとしているからね。コロネーションカップで確信した」
まとめ終わり、データが入ったUSBをドゥラメンテへと手渡す。不思議そうな表情で受け取るドゥラメンテだが、高村は構わず告げる。
「あいにくと、今日はもう時間がないからこれだけ手渡しておく。明日また一緒に話そうか」
「それは構わないが……このUSBに入っているのは?」
「僕が考える、
そろそろ良い時間。気づけば長いこと話していたらしい。トレーナーは部屋から出ようとしている。
「トレーナー!」
「なにかな?」
引き留めるドゥラメンテ。両の拳を握って、堪えるような表情。思わずトレーナーは心配して駆け寄ろうとするが。
「そ、の。帰る前に……頭を撫でてもらってもいいか?」
「……はい?」
「さっきのだ。悪くなかった……迷惑じゃなければ、もう一度頼みたい」
「……まぁそれくらいいいよ」
なんとも言えない気持ちになる高村。頭は撫でておいた。
◇
ドゥラとの反省会が終わった。キタサンとの反省会も終わったので、後は三女神様とのトレーニング、か。
さっきドゥラに手渡したデータのことを思い出す。ドゥラのことを考えれば。
(あのデータである程度のことは察せるはずだ。明日詰めていって、トレーニングを組む)
それにしても、キタサンの成長っぷりは目覚ましい。クラシック戦の中距離では後れを取っていたけど、今のキタサンならば五分の勝負ができるだろう。
変わったことと言えば……キタサンは今まで以上に思い切りがよくなった。グランドマスターズでの戦いが、キタサンにさらなる成長をもたらしてくれた。バクシンオーとの勝負は無駄じゃなかったわけだ。
ドゥラは、今はちょっともがいている。けれどこれまで積み上げてきたものがしっかりとあるんだ。無駄にはさせない。
(次はクイーンアンステークスにアスコットのゴールドカップ、か)
ドゥラはマイルに、キタサンは超長距離のレースにそれぞれ向かう。ドゥラはアスコットのゴールドカップは辞退した、んだけど。その理由は確かめるためだ。
(自分のマイルの適性。本人が一番よく分かってるんだろうな)
マイルの距離で走ると調子が良いと言っていた。つまり、ドゥラにとっての最適性はマイルになるのだろう。
……問題はない。今のドゥラならばしっかりと受け入れることができる。
(最初は中距離で結果を出すことに拘っていた。でも、今はそうじゃない)
キタサンに勝つ。それが今のドゥラの目標だ。距離に拘るのを止めて、目の前の勝利に執着し始めている。執着は言い過ぎかもしれないけど。
2人はまだまだ成長する。キタサンの成長を感じ取ってドゥラが、ドゥラの成長を感じ取ってキタサンが。お互いが影響を与えあってより高みへと上っていく。漫画とかでもよく見る、良いライバル関係だ。
「ジェンティルとタルマエは……なんか違うな。お互いに完成した状態で戦いあってたし」
あの2人も同世代だけどライバルとはちょっと、いや、確実に違う。ライバルなんて生易しいものじゃない気がする。
さて、諸々の用事も終わったわけだし、三女神様のところに〈ピロン♪〉行こうと思ったけどLANEが来たな。誰だろうか。
「……倉科君か。近況報告かな」
トーク画面を開くと、案の定サトノクラウンの状況を報告する内容だった。彼女の適性が今どうなっているのか、それを知りたいらしい。
「朝早くからマメだね。確か、あっちは今6時くらいだし」
直近のレース映像も添付されてきたので眺める。映像越しでも適性が見れる、っていうのはとんでもないな本当。
「……順調に長距離の適性が上がってきてるね。それに、最初は乗り気じゃなかったのに」
映像のサトノクラウンは倉科君の指示通りにトレーニングをしている。それも、何か心境の変化があったことを感じさせるほど熱心に。
ちょっと聞いてみるか。これを送ってきたということは起きてるだろうし。通話のボタンをタップして反応を待つ……すごっ。ワンコールどころかワンコールが鳴り終わる前に出てきた。
《た、高村!クラウンの適性は!?》
「随分と前のめりだね……まぁいいよ。サトノクラウンの長距離適性はCまで上がってる。ここまで頑張ってきた成果はちゃんと出てるよ」
《~~~ッ!よし、よし!》
分かりやすいな。画面の向こうで喜んでいるのが目に浮かびそうだ。
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。サトノクラウン、なにかあったの?」
《え?いや、別に何もねーけど》
「そう?渋々やってた長距離のトレーニング、なんか乗り気になってるからさ。倉科君との間で何かあったのかなって」
《ゴンッ!》
……電話の向こうから悶えるような声が流れてるな。どっかにぶつけたのだろうか?慌てるようなことなの?
《あ、あ~……その、なんだ。お互いの間で認識のすれ違いみたいなことが起きてた、というか》
「うん」
《と、とにかく何でもねぇ!お前が協力してくれてるのはありがたいが、あくまでも利用しているだけ!ライバルにこれ以上の情報は渡さないぞ!》
「適性とか見せてもらってるからこれ以上渡すものなんてほとんどなさそうだけどね」
《そうじゃん!?》
まぁ文句のない状態で長距離のトレーニングをやっているのであれば問題はないだろう。
《ま、まぁ!今クラウンは長距離を走れるように超絶特訓中だ!今度こそ勝つからな!》
「うん、頑張ってね」
《そっちもな!あ、キタサンブラックの勝利おめでとう!ドゥラメンテは頑張れ!そんだけ!》
電話が切れる。なんというか、いつも通りだね。というかこっちのレースちゃんと見てるんだな。
「フフ」
おっと、思わず笑いが漏れてしまった。これで全部の用事が終わったし、VRウマレーターがある部屋に急ごう。
三女神様のトレーニング。いつものように過去のデータから名ウマ娘のデータを呼び起こしての併走だ。
「いやはや、交流会は良かったねぇ。今度の予選も楽しみだ!」
「今の子達、凄く強いわ~。思わずこっちも滾っちゃう」
「彼女達も日々進化している。ならば、我々もその基準にアップデートしなければな」
前回の交流戦で女神様達は走ったわけだけど、全敗。今の子達は凄いと評価し、そのうえで自分たちもさらに強くならなきゃと語っていた。
なら、僕はそれを後押ししよう。三女神様がさらに強くなるように。
「おーい子羊くーん。ちょっとこっちで話をしないかい?」
「……まぁいいですけど」
休息も大事だよね、うん。
さて女神様との話だ。何が話題に上がるのやら。
「俺さ、前々から思ってたんだけど。子羊君の目って凄いよな」
「どうしたんですか藪から棒に」
「だって、機械以上に正確に適性が分かるじゃない?凄いなんてものじゃないわ~」
話題に上がったのは僕の目に関することだ。まぁ、確かにそうだけども。
「それに、貴様は必ず偉業を成し遂げている。自分が担当しているウマ娘だけではない……他のウマ娘もだ」
「やれることを精一杯やっていますので」
「ま、子羊君は凄いってことだ。うんうん、天晴だな!」
……なんかこっぱずかしいな。三女神様から褒められるって思うと凄いことだけど。
ただ、急にダーレーさんの目つきが優しいものに変わる。どうしたんだろうか。
「なぁ子羊君。
「ッ!」
「おっと、みなまで言うなよ?俺達は
……冷静に考えれば、知っていてもおかしくはない。AIとはいえ、彼女達は三女神。神様なのだから。
ただ、そうだね。
「──」
女神様の質問に答える。一言だけじゃ済ませられない、今の僕の気持ちを。
その答えに、彼女達は。
「そっか」
慈しむような笑みを、浮かべていた。
無料十連毎日やってくれ。