ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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ドゥラメンテは何を見出すか。


見えた光明

 トレーナーからもらったUSBを確認。入っていたのは……過去の私のレースデータだった。

 

(皐月賞に日本ダービー……それだけではない。メイクデビューの映像も入っている)

 

 湧き上がるのは何故?という感情。今更過去のレースデータが入ったUSBを、トレーナーが渡した?それも他のウマ娘ではない、私自身の。しかも勝ったレースだけではない、負けたレースも入っている。

 自分の映像を見て何になるというのか。なんでだ……そう思わずにはいられない。

 

(だが、トレーナーは今の私に必要なものだと言っていた。その言葉に嘘はないだろう)

 

 眠っているキタサンを起こさないように映像を何度も何度も見返す。そうだ、トレーナーが私に必要なものだと言っていた。彼が意味もなくこのデータを渡すはずがない。私の成長に繋がる何かが、私が失くしてしまったものがあるはずだ。

 何度も何度も巻き戻して見る。画面を食い入るように見る。一瞬も見逃さないように、失った何かを見つけるために。

 

(……この時は確か、最後の直線に全てを注ぎ込む気概で挑んでいたはずだ)

 

 できるだけ当時のことを思い出しながら。

 それから、皐月賞の映像を見ている時だろうか?私は──たどり着く。

 

(中山の直線は短い。だが、この時の私は……ッ!)

 

 そういう、ことか。

 この時のキタサンとは違うとはいえ、最後の直線だけで捲ると決めていた。どれだけの差が開こうとも、最後の直線だけで捲れる自信があった。今の私も意識自体は変わっていないだろう。しかし、自信があるとは言えない。

 

(キタサンの成長、ステータスの上昇による選択肢の増加。ふっ、私もキタサン同様に、器用なタイプではないというか)

「似た者同士のライバルだな、私達は」

 

 思わずベッドで眠っているキタサンの方を見て笑ってしまう。ここまで似通っているとはな。

 

 

 ……さて、映像を見返していたら、いつの間にか日付を回りそうになっているな。

 

「寝よう。明日のトレーニングで、トレーナーとすり合わせなければならない」

 

 PCの電源を落とし、ベッドに入る。明日のトレーニングに備えて、しっかりと体を休めた。

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。ミーティングを終えた後にトレーナーに呼びつけられる。

 

「さて、ドゥラ。USBのデータは「問題ない。昨日あの後しっかりと見た」うん、じゃあ。今後のトレーニングについて話し合おうか」

「あぁ。今の私に足りないものも分かった。失ってしまったものも、な」

 

 私が見つけたものをトレーナーに報告。そして、トレーナーが感じた今の私に必要なものを聞かせてもらう。当たり前だが、私達の言葉は一致していた。

 

「さて、それを踏まえた上でのトレーニングだけど。その前に次走のクイーンアンステークスを詰めていこうか」

「あぁ。そう期間があるわけではない。クイーンアンステークスが終われば、キングジョージが待っている」

 

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。イギリスの中距離レースでも最高峰のレースであり、アスコットレース場で開催されるG1だ。ヨーロッパを代表するレース……凱旋門賞と並んで有名だろう。

 私はこのレースに出走する。そして──キタサンもだ。

 

「あまりにも短い。その期間を有効的に活用する。キタサンに勝つためにな」

「そうだね。それじゃ、サティと一緒にトレーニングをしようか」

「頼む」

 

 トレーニングのすり合わせも終わった。時間を少しも無駄にしないために、さっそくトレーニングを実行。

 

「よろしく頼む、ライツ博士」

「あ、あぁ。今日も頼むよドゥラメンテ」

 

 ?何か困惑しているようだが……まぁいいだろう。問いただすようなことではないかもしれない。

 ST-2にダイブインしたライツ博士とのトレーニング。それにしても、このST-2もかなりの進化を遂げたものだ。

 

(最初はトレーナーよりも遅かったが、今ではメイクデビューのウマ娘とそん色ないレベルまで仕上がっている)

 

 加えて、こちらの筋肉を限界ギリギリまで鍛えられるメニューを実践することができる。凄いものだな、ロボット工学というものは。

 

(……だとしても、先ほどからこちらを見てくるな。どうかしたのだろうか?)

 

 ダメだ。先ほどからチラチラとこちらを見てくるST-2が気になって仕方がない。何か用があるのかもしれないし、いったん切り上げるとしよう。

 

「どうかしたのか、ライツ博士。先ほどから私を見ているが」

〈え!?あ、あ~。そ、そうかな?気のせいじゃ〉

「気のせいではない。私に対する視線を間違うはずがないのだから」

〈うぐっ〉

 

 ロボットであることを忘れそうなほどに、人間味を感じさせる仕草。ライツ博士は、言いにくそうに口を開いた。

 

〈その、だな。君が焦っているのではないか、と思うとどうしても、な〉

「焦っている?……あぁ。まぁ確かに焦ってはいるが」

〈そうだろう?でも、無茶はダメだ。無茶をしたら最悪の結果が待っているからな。だからどうか、ケガをするような真似だけはしないでほしいんだ〉

 

 ケガをするような真似、か。それほどまでに危ういと思われていたのか。少し否定しづらいところがあるな。

 それに、ライツ博士が心配するのも分かる。彼女の置かれている状況を考えると、な。私に待ち受けている未来が最悪なものとなる可能性も十二分にある……そう考えると、彼女にとっては気が気でないだろう。特に、ライバルであるキタサンに負けている今の私はな。

 だが、大丈夫だ。ライツ博士が危惧しているようなことは起きないと約束できる。

 

「大丈夫だ。トレーナーがついているからな。彼は最適なトレーニングを組んでくれている。心配しているようなことは起きないだろう」

〈そう、か……信頼しているのだな、聖トレーナーのことを〉

 

 彼を信頼、か。当然だな。

 

「彼は我々に対して誠実に接している。いつも私達のために行動し、結果を出してきた。そんな彼を、私はとても信頼している」

〈……あぁ。これまでの行動を見ていると、彼がどのようなトレーナーなのかはよく分かる〉

 

 そうだろう。彼は素晴らしいトレーナーだ。少し目が死んでいるかもしれないが、それもまたいいところだ。

 ライツ博士はっ?分からないな。ST-2は俯いているようだが。もしや、何か不調があったのか?

 

〈もし、私の世界に彼がいたら……〉

「どうかしたのか?ライツ博士」

〈ッ!あ、あぁいや、なんでもない!トレーニングを続けようかドゥラメンテ!〉

「?あぁ」

 

 結局、その後は何を聞いてもはぐらかされた。問題がないならないでいいのだが。

 

 

 

 

 

 

 ドゥラメンテのトレーニングは順調に進み、クイーンアンステークスの日を迎えた。アスコットレース場で開催される8ハロン──約1600mのマイル戦。かつてBCマイルも制したウマ娘が出走する中で、ドゥラメンテは堂々の一番人気でレースを迎えていた。

 雨の影響か重バ場での開催となった本レース。結果の方はというと。

 

《残り200を切りました。さぁ後方からドゥラメンテが追い上げた!ドゥラメンテがグングン追い上げた!あっという間に先頭に追い付いて躱したドゥラメンテ!この舞台では負けられない、凄まじい末脚だ!この脚こそが日本のドゥラメンテ!英雄の末脚!》

 

 実力をいかんなく発揮し、先頭を走っているウマ娘を瞬きの間に躱す。その後はドゥラメンテの独壇場だ。

 

《ドゥラメンテ突き放す、ドゥラメンテが突き放す!その差を1バ身、2バ身と広げてまだまだ開いていく!これこそがドゥラメンテだ変則三冠は伊達ではない!》

《凄いね、マイル戦の彼女!別人みたいだ!》

 

 最終的に4バ身差をつけての勝利を飾る。欧州での初勝利を、マイル戦であるクイーンアンステークスで飾った。

 

《これこそがドゥラメンテェェェ!クイーンアンステークスを圧勝で飾ったドゥラメンテ!ヨーロッパでの初勝利はマイル戦!豪快な末脚で見事差し切りましたドゥラメンテ1着!》

《凄いねぇ。短い距離の追込は不利なのに、それを感じさせない勝利だったよ!》

 

 喝采に包まれるアスコットレース場。ドゥラメンテは右手を上げて応えていた。

 

 

 レース後のミーティングにて、報告をする。

 

「やはり、マイルは走りやすいな。適性の通りだ」

「うん。つい最近、君のマイル適性はSに変わったからね」

 

 トレーナーである高村と一緒に、自身の適性について話す。極めて冷静に、気にした様子を見せずに淡々と。

 

「マイルが最適性、か。願わくば中距離だったが……問題はない」

「最強は距離を選ばない、だろう?」

「あぁ。現に、ミーティアのメンバーはみなそうだ。距離もバ場も選ばない、故に最強として君臨している。私も、そうありたい」

 

 拳を握り、いつか自分も同じ高みへと至り、そして頂点に立つと誓うドゥラメンテ。最早不安要素はなく、吹っ切れた様子だ。

 

「弾みをつけることができた。次のレースでは、またキタサンとの勝負になる。それまでの間に調整しなければならない」

「そうだね。明後日はキタサンが出走するアスコットゴールドカップだ」

「偵察させてもらうとしよう」

 

 疲労も見られず調子も好調。次のレースに向けて、視界は良好だ。

 

 

 1日明けてのロイヤルミーティング3日目。この日はキタサンブラックがアスコットゴールドカップに出走する。イギリスで開催される19ハロン210ヤード──約4014mのレース。超長距離の戦いだ。

 日本のG1最長距離が天皇賞・春の3200m。それからさらに800mも伸びた本レースは、日本のウマ娘にとっては未知の領域だろう。加えて重バ場、スタミナの消耗はさらに増す。

 18人のウマ娘が出走を表明。キタサンブラックは……堂々の1番人気だった。

 レースは序盤から落ち着いた展開。キタサンブラックがハナを取る形で先行し、アスコットのレース場を駆け抜ける。

 

《先頭を走ります、日本のキタサンブラック。キックブルーにスウェイランドが競りかけてスタミナを削ろうとしています。キタサンブラックを先頭にした3人から離れて3バ身差、この位置に先行集団がつけています。様子をうかがう先行集団、長丁場のこのレースで落ち着き払っています》

 

 集中的なマークを受けている。中距離で結果を残したウマ娘を、本場のステイヤーたちが徹底的にマークしているのは異様な光景だろう。

 だが、それだけの理由がある。

 

(相手はミーティアのウマ娘。勝算がなければここには出走してこない!)

(自由には走らせない。本命を勝たせるために!)

 

 ラビット──有力候補を勝たせるために死に役に徹するキックブルーとスウェイランド。マークし続けることで、キタサンブラックのスタミナを削ろうとしていた。

 しかし。

 

「……フゥーっ」

 

 キタサンブラックは、()()()()()()()()()()()()()()走っていた。

 アスコットレース場を駆け抜けるキタサンブラック。おにぎりのような形をしているアスコットのコーナーの頂点、スウィンリーボトムを曲がって、オールドマイルコースに入っても先頭は譲らない。待ち受けるのは高低差20mの坂。それも、最後の直線残り1ハロンまでずっと上り続けなければならない。

 

「何度拝見しても恐ろしいコースですね。これもまた、特徴的なコースです」

「本当にね」

「……私もいずれは」

 

 イクイノックスと高村がそんな会話を繰り広げつつも、キタサンブラックは先頭を譲らないままにオールドマイルコースを駆け抜けていた。

 いつ落ちるのか?ファンはハラハラしながら見守っていたが……その心配は杞憂であることを思い知らされる。

 

《最後の直線に入っても勢いは衰えず!日本のキタサンブラックが逃げまくる!すでにキックブルーとスウェイランドは落ちていった、それでもキタサンブラックは落ちない止まらない揺るがない!なんという強さだ、何というスタミナだ!?》

《日本のセントレジャー*1を勝ったから長距離は得意とは思ってたけど、これは凄い!》

《すでに残り100を切って先頭は譲らないキタサンブラック!後続との差は3バ身から4バ身のセーフティリード!このまま突き進むか!》

 

 一度も先頭を譲らない。最初から最後まで逃げ切る圧巻の走り。日本からやってきた新世代のステイヤーが、欧州の長距離レースに君臨する。

 

《これで年明け4連勝!これが強さだキタサンブラックゥゥゥッ!キタサンブラックの逃げ切り勝ち!ゴールドカップを制したキタサンブラックお見事!》

《いやはや。これはもう世界最強は決まったんじゃないのかい?》

「わっしょぉぉぉぉぉぉい!」

 

 キタサンブラックの逃げ切り勝ち。ドゥラメンテのクイーンアンステークスに続く、ミーティアの勝利で飾った。

 

 

 歓声が響く中、キタサンブラックとドゥラメンテの視線が交錯する。

 2人の間に言葉はない。視線だけで、会話をしていた。

 

(勝負だよ、ドゥラさん!)

(あぁ。勝負だキタサン!)

 

 再戦。次の勝負に思いをはせる2人。次なる戦いは──キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。

*1
菊花賞のこと。イギリスではセントレジャーステークス




アスコットもまぁまぁやばい造りしてる。やっぱパリロンシャンってまだ大人しい方なんだなって。
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