フランスからアメリカへ。ブリーダーズカップの調整をしながら、サティの研究を進めているわけだけど。
〈もう一度頼めるか、ナリタタイシン〉
「いいよ……やる気じゃん」
シュガーライツさんのやる気が凄い。ナリタタイシンとの併走に始まり、協力者たちとの併走やバクシンオーたちとも併走を重ねている。
サティの出力は問題ない。シュガーライツさんの肉体面もクリアしてある。だから、後は気持ちの問題だと考えていた。メンタルが与える影響は凄まじいことを、僕は学んだから。
そのために凱旋門賞を観てもらったんだけど……効果てきめんだったみたいだね。
ただ、トレーニングのし過ぎは良くない。そろそろ休憩を入れなきゃ。
「シュガーライツさん、朝から詰めすぎなので少しは休憩した方がいいかと」
〈ん?……もうこんな時間か。少々夢中になりすぎていたようだ〉
サティの身体からダイブアウトして、シュガーライツさんに意識が戻る。疲労が見えるけれど、その表情は晴れやかなものだった。
「久しぶりだ、研究以外でこんなにも時間が過ぎるのを早く感じるのは」
「それだけ、夢中になっているってことだと思います。最近のシュガーライツさんは前以上に熱心に打ち込んでいるので」
「あぁ。今は走るのがとても楽しいんだ……あの時に、戻ったみたいに」
自分の脚を撫でるシュガーライツさん。思い出しているのだろう、昔の自分を。
「研究の成果も出てきている。やはり、最後に必要だったのは私自身の気持ちだったようだな」
「精神が肉体に与える作用はバカにはできません。時に思いもよらない爆発を生み出す……僕も、ミーティアのみんなから学んだことです」
「そうだな。私も今、実感しているよ」
こちらへと向き直るシュガーライツさん。にこやかな表情で僕を見ていた。
「君のおかげだ。君やビワハヤヒデたちの手助けがあったから、ST-2はここまで進化することができた。ウマ娘と遜色ない速さを出すことができた」
「僕は自分にできることを精一杯やっただけです。それがシュガーライツさんの力になれたのならば、嬉しいです」
「力になれた、どころではないさ。君達がいなければST-2は完成しなかった。君達無しに、今の私はいないと断言できる」
シュガーライツさんの感謝の言葉。そして、頭を下げていた。
「本当にありがとう。あの時、君を頼ったのは……間違いではなかった」
それは、こっちも同じことだ。シュガーライツさんは自分たちにない新しい観点からのアプローチをたくさんくれた。それが、キタサンやドゥラの成長に繋がった。
こちらこそ、シュガーライツさんにお礼を言いたい。
「……こちらこそ。キタサンやドゥラの成長にも繋がったので、ありがとうございます」
「ははは。私の力などそれこそささいなものだろう。だが、謙遜は良くないな。ありがたく、君の言葉を受け取っておこう」
サティの研究は最終段階へ。後は、この先をどうするかだけど。
「そうだ、聖トレーナー。実は折り入って相談があるのだが……」
「どうしましたか?」
「実はだな、このST-2を──トレセン学園の大感謝祭でお披露目しようと考えているんだ」
大感謝祭で、サティをか。
「新たな可能性を、こんな道もあるのだということを、学園のみんなに周知してもらいたい。ひいては、世間の人達に分かってもらいたい」
「……なるほど」
「私と同じような境遇の子がいるだろう。そんな子達の希望になれるような、ST-2が秘める可能性を感じてもらいたいんだ。その場として、私はファン大感謝祭を選んだ」
なぜそれを自分に?と思うが……なんとなく察しがつく。僕の予想通りならば、答えは決まっている。
「そこでだ。君達に、ST-2を発表する場に一緒に立ってほしいんだ。先に述べたように、君達の協力なしにST-2の完成はない。だから、君達にもST-2のお披露目会に来てほしい」
「勿論、良いですよ。ビワハヤヒデたちには?」
「……ありがとう。勿論、彼女達にもお願いする予定だ。大切な、仲間だからな」
くすぐったそうに、照れくさそうにしているシュガーライツさん。気持ちは、分からないでもない。いざ言葉にすると照れくさいものがあるのは。
こうして、サティの研究は順調に進んでいた。ついでに。
「そうそう、三女神様のボディに関してはこんな感じで進めているんだが……」
「……大分容姿が近いですね。メカっぽい三女神様です」
「当たり前だ!へ、下手なものを作ろうものなら私は祟られてしまう!それを抜きにしても、三女神様のAIが入るボディでそんな変なものを作れるか!」
祟られるかどうかはともかくとして、いつぞやの三女神様のボディ計画も進んでいた。これは進めていいものなのだろうか?……まぁ気にしない方向性で行こう。
◇
BCクラシック出走の時が近づいている今、トレーニングにも熱が入る。
「ふっ、併走では私の方が勝ち越しているな」
「むっ!で、でも本当にちょっとの差だから!ここからあたしが勝ち越しますから!」
「楽しみにしている」
キタサンはBCターフに出走。今回と香港では、私とキタサンは別々のレースに出走する。
キタサンとも、長い間戦ってきた。皐月賞から始まった私達の戦い。本来ならば、これほどまでに戦うことはできなかっただろう。
(記録に固執するならば、キタサンと戦わない選択肢はあった。だが)
私が目指す最強に至るには、キタサンというライバルに勝つことが必要不可欠。誰もが認める最強になるためには、キタサンとの衝突は避けられない。そう思っていた。
……もっとも、今は純粋に勝負がしたいと感じているがな。
(心地よい感覚。キタサンとの勝負はいつも限界ギリギリで、最後までどちらが勝つかは予想がつかない。ヒリついた勝負ができる)
欧州では改めて実感した。身近にいる相手こそが最強にして最高のライバルだと。
……ライバルで思い出したが。欧州遠征もあってか日本のクラウンたちとは全然走れていないな。
「クラウンやシュヴァルとも戦いたいが……特にアースにはリベンジを果たしたいのだが、遠征で戦うことはなかったな」
「そうだね。ドゥラさんの言うように、シュヴァルちゃん達が海外に来ないことには戦えないもんね」
自分で選んだ選択とはいえ、少し寂しいものがある。ライバルは多ければ多いほどいい。己を磨くことができ、より高みへと至ることができるのだから。
「でもでも!また戦えるようになるよ!シュヴァルちゃん達、きっとすっごく強くなってるんだろうな~」
「当然だ。海外で私達が強くなっているように、クラウンたちもまた強くなっているに違いない。特に、シュヴァルは凄いそうだ」
「あ、秋の天皇賞だよね!クラちゃん達を寄せ付けなかったあのレース!」
シュヴァルは秋の天皇賞を制した。このまま秋シニア三冠路線に進むらしい。そうなると、最大の障害となるのはアースだろう。クラウンに関しては、年末は香港のレースに出走する関係上ジャパンカップも有馬記念も出走しないそうだからな。
「クラちゃん長距離も走れるようになったし、楽しみだな~」
「あぁ。菊花賞で戦う機会がなかったから、楽しみだ」
まずいな、日本に1年も帰ってないから少し寂しさを覚えてきた。遠征の最初の方で克服したものと思っていたが……そう簡単にはいかないらしい。郷愁を感じるのは悪くないことだが。
……さて。話はここまでにしておこう。
「休憩は終わりだ。トレーニングに戻ろうキタサン」
「うん、そうだね。ブリーダーズカップも近いし、張り切っていこー!」
「おー」
アメリカレースの祭典、ブリーダーズカップ。目指すは一つ、勝利のみだ。
余裕があるからって昼寝をするのは止めろ私。