ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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まずはBCターフですよ。


ブリーダーズカップ開戦

 アメリカレースの祭典、ブリーダーズカップ。この年の盛り上がりは、例年以上だった。

 

「『来たぜ来たぜぇ、ミーティアのウマ娘が!』」

「『もうこの日が楽しみで眠れなかったの!おかげさまで寝不足よ!』」

「『今日はどんなレースを魅せてくれるんだ?世界を股にかける流星!』」

 

 チーム・ミーティアから出走する2人のウマ娘。それも、芝のレースで頂上決戦を繰り広げている2人なのだから盛り上がるのは必然と言えるだろう。

 BCクラシックに出走するドゥラメンテ、BCターフに出走するキタサンブラック。欧州で熱い勝負を繰り広げた2人がアメリカに来るということで、この日を心待ちにしていたファンは多い。中には連日連夜大盛り上がりのファンたちの姿も散見された。

 

 

 さて、今回のブリーダーズカップはサンタアニタパークレース場での開催。ブリーダーズカップで、ミーティア。ここで思い出されるのは──ジェンティルドンナとホッコータルマエの激突である。

 芝の最強ジェンティルドンナVS砂の頂点ホッコータルマエ。2人の勝負は見るものを熱狂の渦に巻き込む素晴らしいものだった。アメリカのベストレースに選出されるほどに。

 出走するレースは違うが、素晴らしいレースを繰り広げてくれる。アメリカのレースファンは、そう信じてやまなかった。

 

 

 レースのプログラムは順調に進み、迎えたBCターフ。会場のボルテージは上がりっぱなしだ。

 

《さぁ次のレースは芝12ハロン、BCターフだ!ここに出走してくるのは、世界で活躍し続けている日本のキタサンブラック!G1勝利数は8、逃げと先行で走れるウマ娘だ!ダントツの1番人気、その期待に応えることはできるのか!?》

「『頑張れよー、キタサンブラックー!』」

「『凄いレースを見せてちょうだーい!』」

 

 応援の声に笑顔で手を振るキタサンブラック。ウォーミングアップを終えた彼女がゲートに向かう瞬間、戦士の顔をした彼女の表情が垣間見えた。

 ゲートが開く瞬間を待つ。この瞬間だけは、レース場も静まり返る。

 静寂の空気。切り裂くように──ガコン、と。音を立ててゲートが開いた。

 

《始まったぜBCターフ!盛り上がっていけよお前らぁ!さぁ、まず先頭を奪うのはどのウマ娘か?内から果敢に行くぞキタサンブラック!このウマ娘がレースを支配するか?キタサンブラックが先頭を奪いに来た。だが他のウマ娘も黙って指を咥えてはいない。逃げさせたキタサンブラックが恐ろしいことは知っているからだろう!》

《彼女はアスコットのゴールドカップを勝ってるからね。膨大なスタミナですり潰されたらひとたまりもないよ!》

《キタサンブラックに競りかけるノースランドダンサー。欧州のレースでキタサンブラックと戦い続けたノースランドダンサーが彼女に競りかける!アーリントンミリオン覇者のグローバルリスムも果敢に行くぞ!13人のウマ娘が激しい先行争い、抜け出すのは誰かっ、キタサンブラックキタサンブラック!キタサンブラックが抜け出している!追いかける12人、BCターフの幕開けは激しい先行争いとともに!》

 

 キタサンブラックが綺麗なスタートから一気に抜け出して先頭に。逃げる態勢を取るが、そうはさせまいと後続が差を詰めてくる。BCターフの立ち上がりは激しいものとなっていた。

 

 

 レースを観戦しているミーティアのメンバー。申し訳程度の変装をして、高村はノートに書きこんでいる。

 隣にはイクイノックス。自分の糧にするために質問することが多い彼女は、必然的にトレーナーである高村の近くを陣取ることが多くなっていた。

 

「キタさん、抜群のスタートで抜け出しました。けれど、同じようなスタートでもあのペースなら控えることも多い。そうしないのは?」

「アメリカのレーススタイルが関係しているから、だね」

「確か……ハイペースになりやすい、でしたか?これは、アメリカのコースの造りも関係している」

 

 イクイノックスの質問に頷いて答える高村。タブレットにメモを取りつつ、コーナーを曲がるキタサンブラックを観察するイクイノックス。

 

《キタサンブラックの逃げ、キタサンブラックが飛ばして逃げている!ノースランドダンサーが並んで競りかける、グローバルリスムも負けていないぞ!向こう正面に入ったBCターフ、キタサンブラックの逃げが炸裂しているぞ!バ群は固まっている、一団となって進む!先頭から最後尾まで10バ身あるかないかだ!》

「起伏が少なく、平坦なコースが多いアメリカのレースはハイペースになりやすい。策と策がぶつかる欧州とは真逆」

「そう。欧州のウマ娘が手間取るのもこれが関係している。スローな展開になりやすい欧州とは全然違うからね」

「真逆の性質……ゆえに適応が難しい。ですが、キタさんは」

 

 キタサンブラックは快調に飛ばして逃げている。一度たりとも先頭を譲っていない。他のウマ娘も必死に競りかけているが、キタサンブラックが近づかせないようにペースを落とさない。

 

「問題なく適応していますね」

「トレーニングで速めのペースに慣れさせておいたからね」

「後はこのまま逃げ切れるかどうか、ですが」

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 ずずい、っと。会話に割り込むジェンティルドンナ。さらっと逆側の隣に居座る彼女は、優雅な笑みを浮かべながらBCターフを観戦していた。

 

「実況や解説の方も説明していらっしゃいましたが、あの子はアスコットのゴールドカップを制している。世界最長距離のG1、今更2400mで切れるスタミナはありませんことよ」

「そうですね。キタさんのスタミナは、それこそ無尽蔵に近い」

「その通り。今の彼女を相手取るのは、容易ではなくてよ」

 

 微笑むジェンティルドンナ……が、その笑顔からは威圧感がある。獲物を狙う捕食者のような笑顔、今すぐにでも戦いたいと言わんばかりのプレッシャー。周りの観客の背筋が凍るほどの圧だった。

 

「ジェンティル、抑えて抑えて」

「あら失礼。ほほほ」

 

 高村に窘められて抑えるジェンティルドンナ。ホッと胸を撫で下ろす周りの観客である。

 

 

 

 

 

 

 先頭を走る。いつもなら控えるペースでも、ここアメリカでは違う。一度でも譲ったら、そのまま追いつけずに負けてしまう。そんな気概で走る。

 誰よりも風を受けるこの感覚、後ろにいる12人の圧を、あたしは一身に受けます。

 そのうえで!

 

(あたしは勝つ!)

 

 より強く、みなさんの期待に応えるために!

 走るペースは緩めない。相手の走りを、真っ向から打ち破る!

 

《もうすぐ第4コーナーを越えて最後の勝負だ!先頭はキタサンブラック、一度たりとも先頭を譲らない逃走劇!2番手ノースランドダンサーとの差は2バ身はついている、その差が徐々につき始めている!》

《これはキタサンブラックが上手いね!彼女、コーナリングの技術も飛び抜けている!ただ速いだけじゃこの差は作れない、速さと技術、そしてそれらを支えるスタミナがあるからこそ、今の2バ身差があるよ!》

《これがミーティアのウマ娘、欧州で激闘を繰り広げたウマ娘の強さだ!しかし、他のウマ娘も負けてないぞ!キタサンブラックに負けじと競りかけている!》

 

 第4コーナーを抜けて、最後の直線に入る。みんなの歓声が一番聞こえる場所、残りは約300m!

 走る、脚を懸命に動かして走る。

 

《キタサンブラックが先頭譲らない!これが日本が生んだ逃げウマ娘キタサンブラック!ノースランドダンサーが必死に競りかける!しかしその差は縮まらない!残り200を切って先頭はキタサンブラックだ!》

 

 がむしゃらに走る。領域を使って、最後の力を振り絞る。ずっと先へ、もっと先へ!

 

《キタサンブラックだキタサンブラックだ!アメリカの地でも逃亡劇が炸裂したキタサンブラックお見事!!なんてパワフルなレースだ、最初から最後まで、一度たりとも先頭を譲らなかったぜ!これがキタサンブラックの逃亡劇、現地で見れたお前らはラッキーだ!》

《やっぱ凄いねぇ彼女の逃げは!捕まえるのは容易じゃないよ!》

《2着ノースランドダンサーは差を縮められずの2バ身差2着!これは悔しい結果、これからも頑張ってくれ!3着はグローバルリスムだ!》

 

 そうしてあたしは、BCターフを制した。

 

 

 息を整えて、みなさんの声援に応える。

 

「応援、ありがとうございまぁぁぁす!」

 

 日本語だけど……え、英語だとちょっと分からなくて。勉強はしたんですけど、咄嗟に出たのはやっぱり日本語でした。

 え~っと、トレーナーさんは……いました!最前列で、変装をしてますけど分かります!イクイちゃんもいるし、あたしの存在をアピールしないと!

 

「トレーナーさぁぁぁん!あたしの走り、見ててくれましたか~!?」

 

 トレーナーさんは小さく手を振ってくれて、イクイちゃんは拍手をしてくれてる!嬉しいな~!

 ……それにしても、ここまで来たんだなぁ。

 

(ミーティアに入って、みなさんに鍛えられて。海外で結果を出すことができました)

 

 最初はちょっぴり不安でした。あたしが結果を残せるのかって。眠れない日だってありました。

 けれど、積み上げてきた努力は裏切らない。自分に自信を持つことが大事だって、バクシンオーさんに教えられた。

 それからは、もう迷わないようにした。あたしは強い、あたしは勝てるって自信をもって挑んで。結果、ここまで来たんだ。

 

(ドゥラさんと並ぶ、現・世界最強の一角。ちょっと恥ずかしいけど、悪くない)

 

 それだけあたしの実力が評価されてるってことだから。やっぱり嬉しいです。

 このBCでも、香港でもドゥラさんとは走らない。次に走るのは──日本に戻った時。

 

(そして日本には、クラちゃんにアースさん、シュヴァルちゃんがいる。みんなと走るのが、本当に楽しみ!)

 

 あたしがいない間にみんな強くなってるから。そんなみんなと走るって考えたら、ドキドキする。

 

(アースさんにはリベンジしないと!クラちゃんとシュヴァルちゃんは、もっと強くなってるから全力で応える!どうしよ~、今から楽しみになってきちゃった!)

 

 あたしの次走は──香港スプリント。次走も頑張ります!




あらやだキタちゃん強すぎ。
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