近づく大阪杯。シュヴァルグランも出走予定であり、キタサンブラックと走るのを楽しみにしている。
(最後に走ったのが、菊花賞。あの時よりも、強くなった……よね?)
まだ完全に自信を持てていないが、もう臆病だった彼女はいない。ライバルに勝つために、自分の強さを見せるために立ち上がった。
地道に努力を重ねてきた。キタサンブラック達に勝つために、トレーニングを頑張ってきた。その成果を見せる時だと、気合いを入れている。
ただ、成長したのは自分だけではないことも、シュヴァルグランはしっかりと分かっている。
「シュヴァル。大阪杯に向けて、敵情視察と行こうか」
「もう慣れっこだけどさ~、なんでキタちゃんフェブラリーステークスに出走してるんだろうね?」
「……まぁ、タキオンさんのチーム、どこでも出走するので」
選ばれたレースに疑問を抱きつつも、チームの全員で観戦に向かった。少しでも多くの情報を持ち帰るために。
(キタさんは、逃げ。先行もできる逃げのスタイル。一番近いのは、バクシンオーさん)
レース前には情報を整理し、見るべきポイントを探る。対策を練るために。
海外遠征を経て、どれだけ強くなったのか?映像だけでは分からない強さもきっとある。
日本のレースで見極める。彼女達の強さが、どれほどのものになったのかを。
結論から言うと、シュヴァルグランはただ圧倒された。
(……強い)
コパノリッキーの実力は知っている。ホッコータルマエと鎬を削り続けて、日本のダート界の頂点に君臨していたウマ娘だ。ホッコータルマエにだって、何度も勝利したことがある猛者。強さを知っていた。
そんなウマ娘を相手にして、ドゥラメンテは勝利を収めた。それだけじゃない、キタサンブラックも2着だがコパノリッキーには勝っていた。
「コパノリッキー相手に、しっかりと勝ち切る、か」
「差は僅かだが、勝ったという事実は無視できない。どうやら、今の彼女達は一筋縄ではいかないようだ」
その差は僅か。しかし、観客席越しでもしっかりと感じることができた──今の彼女達の強さを。
(やっぱり、キタさんたちは強いなぁ)
震えそうになる身体。シュヴァルグランは……立ち向かう。
(競いたい、走りたい。今のキタさんたちに負けないように、僕は僕のできることをっ)
これまでの彼女だったら、逃げていたかもしれない。勝てないと決めつけて、回避する選択をしたかもしれない。
だが、臆病なシュヴァルグランはすでにいない。キタサンブラック達の強さを見てもなお、勝負する道を選ぶ。
彼女達の強さは知っているから、それでも挑むことが大事だと教えられたから。精神的に成長したシュヴァルグランは、彼女達に挑む道を選ぼうとしていた。
シュヴァルグランの成長を、チームのメンバーは満足そうに眺めている。
(成長したね、シュヴァル)
これならば大丈夫だと、天城は笑みを零す。後はどうやって勝つか、それだけだ。
「それじゃ、明日から本格的な対策会議をしようか」
「は、はい!」
前を見据える。強敵を倒すために。
◇
フェブラリーステークスのキタさん達は、凄かった。リッキーさん相手に、あそこまで戦えるなんて。
それに、誤解しがちになるけど元々はダートを走れなかった2人なんだ。今はもう、ダート最強を相手にしても勝ち負けできるレベルになった。
(本当に凄いなぁ、キタさんのチーム)
聞けば全員が似たような感じらしい。いずれは新しく入ったっていう2人も同じようになるのかな……考えない方が良いかもしれない。
今僕がいるのは、VRウマレーター。それも、三女神様に相談している。
「さてさて、迷える子羊くんがしりたいのはなにかな?」
「わたし達がなんでも答えてあげるわ~」
「そ、その」
本当なら、聞くべきじゃないことかもしれないけど。せっかくだし聞いてみようと思った。
「僕とキタさんの実力は、どれくらい離れているんでしょうか……?」
「どういう意図で聞こうと思った?」
バイアリータークさんの鋭い視線が突き刺さる。ちょっと後ずさりしちゃったけど、それでも。
「あくまで、数値上ではどうなのかなって。一つの、指標にはなるかもしれませんから」
これは本当のこと。僕とキタさんのステータスを比較したら、どれだけ離れているのかは少し気になった。
別に、大きく離されていたからどうというわけじゃない。追いつけるように努力をすればいいだけの話だから。
それでもこうして聞こうとしたのは、多分。
(現在地点を知りたかったから、だ)
今の自分がどこにいるのか?キタさんとの差が、どれくらい開いているのか。気になったから聞いてみただけ。それ以上の意味はない。
三女神様の答えを待つ、けど。
「う~ん……それは高村トレーナーに聞いた方がよくないかい?それなりに接する機会はあるだろう?」
至極真っ当な疑問……た、確かにそうだけども。
「い、一応、ライバル、なので。教えてくれない可能性も、ありますし」
「彼なら気にすることなく答えてくれると思うけどね~。まぁいいわ」
改めて待つ。時間は、あんまりかからなかった。
「結論から言うと、
「っほ、本当ですか?」
「嘘ではない。貴様とキタサンブラック、ドゥラメンテとの差は、数値上はほぼないと言ってもいいだろう」
あ、ドゥラメンテさんとの比較もしてくれたんだ。にしても、数値上はそんなに差がないのか。
と、なると。
「だけど、経験値の差が大きいわね。向こうは海外の猛者を相手に立ち回ってきた。あなたも日本の強敵相手に戦ってきたけども」
「レース場の違い、対戦相手の違い、戦法の違い……細かいものはいくつかあるが、この差を埋めるのは容易ではない」
「加えて、向こうは身近に強力なライバルがいるからねぇ。際限なしに強くなってるよ」
うん、思った通りだ。
僕とキタさん達の差は、そう簡単に埋められるものじゃない。海外で戦った経験があるキタさん達の方が上なのは、分かり切っていたことだ。
これは別に、アースさんやクラウンさんがどうこうという話じゃない。日本と海外の差は埋まっているけど、戦法の違いからどうしても生まれてしまうもの。
(分かってたことだ。これは、逃げた僕が悪いんだから)
もっと海外戦の経験を積んでいれば、追いつけたかもしれない。でも僕はそうしなかった。この現状もまた、僕が招いたこと。
(反省は後回しだ。今は、できることをやらなくちゃ)
「で、でも。勝てないわけじゃない、ですよね?」
「ッ!……それは勿論、その通りさ」
僕の言葉に、しっかりと答えてくれるダーレーアラビアンさん。その目はどこか、優しかった。
「あくまで経験値の差が大きいだけ。勝てないわけじゃない」
「不利なことは間違いないわ。でも、それだけでレースの勝敗は決まらないもの」
「あぁ。数値や経験の数で勝てるのであれば、レースにとにかく出走したウマ娘が勝つことになる。そうならないのがレースだ」
僕の疑問に答えてくれる。僕の道を、しっかりと示してくれる。本当に、ありがたいなぁ。
聞きたいことは聞けた。
「あ、ありがとうございました、三女神様。お忙しいところを」
「構わないわ。あなたたちを教え導くのが、わたしたちの役目だもの」
お礼を言って、VR空間を後にする。道は示された。なら後は、努力を重ねるだけ。
「心配は杞憂だったようだな。彼女はちゃんと、前を向けているようだ」
「あぁ。こうして成長するのを見ると、やっぱり嬉しいね」
「何度でも立ち上がってくれるわ。きっとね」
~~~ッ!は、早く戻ろう!恥ずかしい!
「あ、お帰りシュヴァル~。それじゃ早速畑に……なんでそんなに顔真っ赤なの?」
「き、聞かないでください!」
テイオーさんの話を最後まで聞かないで畑に直行しないと……!顔が熱いっ!
時間が経てば、ちょっとは冷静になれた。
(畑……なんだか落ち着くなぁ)
どうして畑?なんて思ったけど、いざやってみると結構楽しいな。
「トレーナー、さん。G1プレートの、ことですが」
「うん、そろそろ作れそうだからまた作ろうか」
「やった~!ボク、アレ美味しいから大好き!なんか強くなった気がするし!」
それにしても、ここの野菜は三女神様のパワーが込められているらしい。理事長さんがそう言ってた。三女神様の加護がある野菜、なんとなく凄そう。実際に凄いけど。
そして、畑と言えば。
(向こうにクラウンさん達はいるけど……やっぱり、キタさん達はいないな)
最初の段階で弾かれていたらしいけど、本当のことだったみたい。まぁ、ミーティアのトレーナーさんは働きすぎで有名だし、仕方ないのかな?
とと、畑の調子をしっかりと観察しないと。
「シュヴァル。調子はどうかな?」
「あ、会長さん。特に問題はないみたいです」
「そうか。それは良かった」
チームのみなさんとも、あの日以来いつも以上に仲良くなった、気がする。僕の主観だけど、間違ってはいない、と思う。
畑仕事が終われば、次はいつものトレーニング。
「もう少しで大阪杯……頑張るぞ!」
「その意気だよシュヴァル!キタちゃん達をあっと驚かせよう!」
畑の野菜を食べた後だと、いつもより強くなれる気がする。ううん、きっと気のせいなんかじゃない。
(これがきっと、女神様の加護)
キタさん達は、シュガーライツさんと一緒にトレーニングしている。効率は、かなり良いらしい。
でも、畑の野菜はそれと同じぐらいの効果がある。それは数値で確認済みだ。
(後はもう、僕が逃げないようにするだけだ)
逃げる気はない。逃げて後悔したことを、僕は知っている。
挑むんだ。怖いし、脚が竦むけど、それでも挑むんだ。
彼女達の輝きに負けないように。自分だって輝けることを証明するために……偉大なウマ娘になるために!
「ハァァァァァッ!」
「っ、ほう……かなり気合が入っているようだね。その調子だ!」
「やるじゃん、シュヴァル。だけど、ボクだって負けないよ!」
僕はやる、やり遂げるんだ!
シュヴァち……!なおヴィブロスはドバイに行ってます。