ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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大阪杯ですわよ。


大阪杯・その差はどれほど

 各陣営が気合いを入れて臨む大阪杯。特に今回はドバイに負けず劣らずの盛り上がりを見せていた。

 理由の一つに、キタサンブラックの出走がある。

 

「フェブラリーステークスでコパノリッキーに先着してたからな。それに、やっぱ芝が本領だよ!」

「芝が本領という割にこのドバイワールドカップは……?」

「触れるな。気にするんじゃない」

 

 惜しくも敗れてしまったものの、ドゥラメンテとともに強さを証明した彼女。この大阪杯でもダントツの1番人気で出走する。

 また、先日開催された高松宮記念ではドゥラメンテが2バ身差で勝利を収めた。これでドゥラメンテは連勝である。

 ライバルに負けるわけにはいかない。この大阪杯は何としても取る。そう意気込んでいた。

 

 

 対するライバル達もまた役者揃い。かつてキタサンブラックを下したこともある古強者サウンズオブアースに、同世代のライバルであるサトノクラウンとシュヴァルグラン。全員がキタサンブラックを意識しているような発言を残していた。

 

「やれることは全部やってきました。後は発揮するだけです」

「もう、逃げません。ちゃんと向き合って、勝ちます」

「久方ぶりに相まみえる強敵に燃えているよ。壮大な(グランディオーソ)レース(セッション)にするさ!」

 

 サウンズオブアースだけは違ったが。

 

 

 出走するメンバーがターフに姿を現す。目に見えて不調なウマ娘もいれば、好調を維持している子もいる。どのようなレースを見せてくれるか、ファンは期待に胸を高鳴らせていた。

 

《この日がやってきました。阪神レース場芝2000m、大阪杯。晴れ空が広がる良バ場での発走となります。最注目は何と言っても、キタサンブラックでしょう!》

《そうですね。フェブラリーステークスは惜しくも敗れましたが、ダートの王者コパノリッキーに先着。それに今回は中距離ですからね。より、実力を発揮してくれることでしょう》

《2番人気にサウンズオブアース、3番人気にシュヴァルグランと続きます。役者揃いの大阪杯、春シニアの一冠目を手にするのはどのウマ娘になるのか!》

 

 そして、キタサンブラックがレース場に姿を現す。瞬間、今日一番の歓声が響き渡った。

 キタサンブラックに対する声援。ファンの声に、笑顔で手を振って応える。そんな彼女を、周りのウマ娘は鋭く睨みつけていた。

 このレースにおける一番強い敵。警戒せざるを得ない。コンディションはどうかと目を光らせている。

 その視線を意に介さず、キタサンブラックはサウンズオブアースの下へと足を運び。

 

「アースさん!」

「やぁキタサン!……より勇ましく(ヴィルトゥオーソ)になったようだね」

「?はい、海外で走ってきて、あたし、凄く成長しました!」

 

 だから、キタサンブラックはサウンズオブアースをまっすぐに見据える。

 

「もう負けません。今回は、あたしが勝ちます」

「ッ!スィ、ベニッシモなレース(セッション)にしよう!」

 

 キタサンブラックからの挑戦状に答えるサウンズオブアース。観客のボルテージは上がりっぱなしだ。

 

 

 宣戦布告を遠くから見つめる2人。サトノクラウンと、シュヴァルグラン。

 サトノクラウンは思い出す。キタサンブラックのデータを。

 

(数値上、そこまでの差はない。ただ……キタサンは)

「崩しにくい。海外遠征の成果、見せてもらうわ」

 

 絶望的な差が開いていたクラシックシーズン。そこから差を詰めることができた。後は、実際に体感するだけである。

 シュヴァルグランは、深呼吸をして気持ちを落ち着かせていた。

 

(……震えはない。大丈夫だ)

「もう、憧れるだけじゃ終われない……!」

 

 覚悟を決めて大阪杯に臨む。全ウマ娘が、戦場(レース)へと足を運び始めた。

 

 

 ファンファーレが響き渡り、ゲート入りの時間が迫る。一人、また一人とゲートに収まっていく。

 キタサンブラックは逃げるにはうってつけの枠番、1枠の1番だ。サトノクラウンは外目の6枠、シュヴァルグランとサウンズオブアースはそれぞれ3枠と4枠と真ん中寄りである。

 今、最後のウマ娘がゲートに収まった。少しの静寂。切り裂くように響き渡る──ガコンッ!というゲートの音とともに、ウマ娘達が一斉に飛び出した。

 

《最後、大外枠のアングーダがゲートに収まりました。G1レース、春シニアの一冠目大阪杯が今っ、スタートしました!各ウマ娘一斉に飛び出した!好スタートを切ったのは最内枠のキタサンブラック、キタサンブラックが好スタートでグングン伸びてきます。内枠を活かしてキタサンブラックが逃げる構えか?》

 

 大阪杯が始まる。

 

 

 

 

 

 

 大阪杯はキタサンブラックの逃げが展開されている。キタサンブラックの外につけるようにエコノアニマルが走り、先行勢のマークはほぼキタサンブラックに集中している。

 シュヴァルグランは走りやすさを感じていた。

 

(マークがキタさんに集中しているから、凄く走りやすい)

 

 風除けも申し分なく、スタミナの消耗を抑えた状態で走り続けることができている。第1コーナーを曲がる時も、余裕をもって曲がることができた。

 ただ、好機とは思わない。

 

(キタさんにマークが集中する理由は、一番強いから。僕がマークされていないのは、キタさんよりも侮られているから)

 

 冷静に状況を分析する。なぜ自分がフリーを維持できているか、その理由もしっかりと分かっていた。

 

(怒ったりはしない。実績を考えれば当然。だから漁夫の利を狙えたらいいんだけど……)

 

 前を見る。まだキタサンブラックの背中は見える位置にある。あるが、その雄大さに少し慄く。

 

「肝心のキタさんは、マークを意に介していないっ」

 

 普段通りに走っているキタサンブラック。ペースを崩すことなく、自分の走りを貫いている。

 加えて、プレッシャーをかけているはずが逆にプレッシャーを感じることになっていた。3から4バ身程離れている位置にいるシュヴァルグランでさえも感じる圧。近くにいるウマ娘は、ひとたまりもないだろう。

 どうしてプレッシャーを感じているか?それについても、今のシュヴァルグランなら見当がついていた。

 

(圧倒的な自信。揺らがない自信は、それだけで気圧されるっ)

 

 同じチームの先輩たちを相手にしてきたからこそ、分かる。崩れない自信が、どれほど恐ろしいものか。崩せないことで、どんな形で自分に返ってくるか。

 見ているだけでは終われない、とも思うが。下手をしたら自分も巻き込まれかねない。だからこそ静観が吉だと判断して、先頭集団を見守っている。

 

《第2コーナーから向こう正面へ。ペースとしてはやや平均、キタサンブラックが逃げています。競り合うエコノアニマル、アップルシードルを先頭にした3人のウマ娘がマークについています。集中的にマークされていますね》

《そうですね。これほどのマークはかなりきついでしょう。スタミナを削られているかもしれません》

《5番手にはシュヴァルグラン、シュヴァルグランがこの位置につけている。シュヴァルグランからちょっと離れた位置に6番手サトノクラウン。サウンズオブアースはさらに離れた11番手の位置にいます》

 

 仕掛ける位置を見誤らないように。注意してレースを展開していた。

 

 

 観客席では、ミーティアのメンバーがいつものように講義を交えつつレースを観戦している。

 

「ほぅら見たまえ、イクイ君アイ君。あのスタイルこそが、キタ君をキタ君たらしめているものだよ」

「……傍目には、普通に逃げているだけ、なんでしょうけど」

 

 アーモンドアイは冷や汗をかいている。キタサンブラックの走りを、理解しているのだろう。

 

「絶対に崩れない自信。バクシンオーと同じだ」

「そうッ!これこそが模範的な委員長のスタイルッ!学級委員長が板についてきましたねキタさーーーんッ!バクシンですよバクシーーンッ!」

「委員長君のことは放っておいて、だ。私やタルマエ君のような搦手タイプからすれば、ま~彼女の逃げはキツいよ」

 

 楽しそうに語っているアグネスタキオン。先生役が思いのほか楽しいのだろう。語っている内容は、対峙するウマ娘からすれば恐怖でしかない情報だが。

 

「一応崩せる自信はある。だが、こちらもそれ相応のリスクを背負わなければならないねぇ」

「キタさんの逃げは、先行勢からすればかなり厄介です。スタミナを削りたいのに、ちょっとやそっとのマークじゃ微塵も削ることができませんから」

「加えて、彼女は先行にもシフトできますわ。逃げでペースを握るもよし、先行でじっくりうかがうもよし。進化した彼女を止めるのは容易ではありません」

「欧州では私も苦しめられた。今のキタサンを打ち破るのはかなり厳しい」

 

 ミーティアメンバーがそれぞれの所感を語る。全員がキタサンブラックを打ち負かすのは難しいと語っており、それほど実力を認めていることに他ならない。

 

「「「まぁ得意距離なら負けないけど」」」

 

 ついでに自分が負けるとは微塵も思っていなかった。

 イクイノックスは先輩たちが口にしていたことをメモしている。アーモンドアイも、しっかりと記憶していた。

 

(負かすのが難しいスタイル……)

(王道には王道と呼ばれるだけの理由がある。これも学びね)

 

 すでに向こう正面を半分過ぎた。ここで──レースが速くなる。

 キタサンブラックがペースを上げ始めた。後続も離されまいとペースを上げ始め、後半戦に入ったことを思わせる。

 

《キタサンブラックがいまだ先頭。第3コーナーめがけて駆け抜けるキタサンブラック。シュヴァルグランは4番手に浮上。サトノクラウンは少し下がったか?現在8番手。サウンズオブアースが徐々に上がってきた、サウンズオブアースは上がってきたぞ。サトノクラウンはっ、まだ動かない》

《サウンズオブアースの動き出しにつられないようにしていますね。冷静にレースができています》

《さぁ、先頭キタサンブラックが第3コーナーに入ります。キタサンブラックが先頭、2番手に1バ身差エコノアニマル。表情は少し苦しそうだ!》

 

 キタサンブラックがペースを支配している。それが大阪杯の現状だ。

 

 

 

 

 

 

 サトノクラウンは中団でずっと機会を窺っていた。自分が勝ちを狙える機会を。

 

(キタサンが集中的にマークされるのは想定済み……で、あんまり効かないってのが私の予想)

 

 サトノクラウンはこの展開を予測していた。必ずキタサンブラックが作り出すペースになるだろうと。

 彼女が得意としているのは消耗戦。スタミナ勝負に持ち込んで、最後の粘り脚で1着をもぎ取る走り。ほぼ全ての勝ちパターンが消耗戦による勝利だったことから、サトノクラウンは確信していた。

 だからこそ、じっと息を潜める。

 

(逆転の一手を打つために!)

 

 クラシックシーズンでは強さを見せつけられるだけだった。その後は、恐れをなして逃げていた。少なくとも、サトノクラウンはそう認識している。

 だが、もう逃げない。最後まで立ち向かうことを決めた。苦手分野にも手を伸ばして、キタサンブラックに挑み続けることをトレーナーに誓った。

 

《まもなく第4コーナーから最後の直線へ!サウンズオブアースが上がってきているぞ、サウンズオブアースが3番手浮上!シュヴァルグランも負けじと上がっていく、サトノクラウンはまだ7番手まだ7番手!だが外に持ち出している視界は良好!先頭を走るのはキタサンブラックだキタサンブラックだ!春の一冠目、キタサン祭りが響き渡るか大阪杯!最後の直線、先頭で入ってきたのはキタサンブラックだ!》

 

 コーナーを曲がり切ったサトノクラウンが目にしたのは──開けた視界。前には誰もおらず、末脚を発揮するにはもってこいの舞台が整っていた。

 

「さぁて、ここから逆転しましょうか!」

 

 己を鼓舞し、一気に上がる。先頭を走るキタサンブラックを捕まえるべく、瞬く間に躱していった。

 

《最後の直線、キタサンブラックが先頭を譲らない!シュヴァルグランとサウンズオブアースが突っ込んできてっ、ここで大外からサトノクラウンが来たぁぁぁ!サトノクラウンが上がってくる、サトノクラウンが上がってくる!猛然と襲い掛かるサトノクラウン末脚を一気に爆発させた!》

《先頭との差を縮めていってますよ!サトノクラウンの勢いが凄いです!》

 

 キタサンブラックとの差は、着実に縮まっていた。

 少しずつ、少しずつ差を縮めていくサトノクラウン。シュヴァルグランとサウンズオブアースが追っているキタサンブラックを、サトノクラウンも追いかける。

 勢いはサトノクラウン。追いつくんじゃないか?と思わせる末脚に、観客はどよめいていた。

 これはあるんじゃないか?サトノクラウンの勝利か?と色めき立つが、ここで観客が目にしたのは──二の足を発揮するキタサンブラックの姿だ。

 詰められた差を、戻し始めるキタサンブラック。消耗戦を仕掛けていたはずなのに、脚を残していたとしか思えない脚色。不思議でならなかった。

 

(うっそでしょ!?)

 

 思わず目を見開くサトノクラウン。必死になって追いかけるが……キタサンブラックに追いつくことは叶わず。

 

《だがキタサンだキタサンだ!春一番のキタサン祭りだキタサンブラックッ!見事勝利で飾ったキタサンブラック、春シニアの一冠目を手にしました!2着は1と1/2バ身差サウンズオブアース、3着はシュヴァルグランです!サトノクラウンは良い追い込みでしたが、あと一歩及ばずでした!》

 

 最終的に4着で終えることになった。




ちなみにモブウマ娘の中にもステータスがオールAとかSに突入している子がいますよ……魔境が過ぎるぞ!
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