学園のファン大感謝祭。前回は海外遠征で参加できなかったけど、今回は!
「ほら、早く行こうキタちゃん!」
「待ってよダイヤちゃ~ん!」
参加することができます。久しぶりの、ダイヤちゃんと一緒に!
思えば、海外遠征から帰ってきた後もずっと忙しかった。取材の対応だったり、グッズのことだったり。だからダイヤちゃんとは寮で顔を合わせるぐらいで、お出かけなんてできなかった。
でも、今日は違います。お互いに都合があって、こうして一緒に回ることが叶いました!
で、あたし達は今とある場所へと走っています。特設ステージ、もう少しで始まる逃げ切りシスターズのライブを見に行くために急いでるんですけどぉ。
「早くしないと、逃げ切りシスターズのライブ始まっちゃうよ?良い席はもう埋まっちゃってるかも」
「わ、分かってるけど~人が多くて。それに」
「あー!キタサンブラックだー!」
子供の元気な声が聞こえる。振り返ると、キラキラした目であたしを見ていました。
こ、これは……!
「キタサンブラックー、あく手してー!」
やっぱり、あたしのファンの子だ!
「うん、勿論いいよ!」
「やったー!」
ファンの子と握手を交わして、と。よし、急ごう!
「さっきから大人気だね、キタちゃん。当然だけど」
「ダイヤちゃんもだよね?あたしと同じくらい引っ張りだこで……こうしてる間にも、逃げシスのライブが~!」
「「急げ急げ~!」」
改めて特設ステージへ。本当に間に合わなくなっちゃう!
でも、道中でやっぱりファンの人達と会ったわけで。対応しつつどうにかこうにか特設ステージに着いたんだけど……。
「よ、よかった……まだ1曲目の途中だね」
「うん、間に合ってはないけど、被害は最小限で済んだねキタちゃん」
滑り込みセーフぐらいで間に合いました。うん、まだ1曲目だからセーフセーフ。
ペンライトを用意して、他のお客さんと一緒にコール!
「ファル子が逃げたら~?」
「「「追うしかな~い!」」」
この一体感、堪らないな~。みんなが楽しんでいて、こう、ワッショイ!って感じがします。
どうしてここにダイヤちゃんときたのか?理由なんてものはない。
(一緒に過ごすことができればそれでいい。だって、久しぶりにダイヤちゃんと遊ぶんだから!)
深いことは考えない。楽しく過ごすことだけを考えなきゃ!
レースのことも、トレーニングのことも今はお休み。
「ダイヤちゃん。これが終わったらまたグラウンドの方に行こうよ!」
「プログラム的には……あ、トレセン大障害をやるみたいだね」
「うん!ゴルシさんとか、シービーさんが出走するんだって!」
他愛もないことを全力でやり遂げる。思いっきり羽を伸ばす。さ~て、満喫するぞー!
◇
感謝祭ではいろんな出し物がある。申請さえすれば、大体のことは許可が下りるから。
そう、たとえば。
《さぁ今年も始まりました!俺の私の妹選手権!みんな~、ナンバーワン妹を決めたいかー!?》
「「「おおおぉぉぉ!」」」
《熱気も十分、今年も多種多様な妹が勢ぞろいしております!まずは選手入場から》
こんなイベントも。うん、なんていうか。
「なんだろうね、この競技」
「えぇ、キタちゃんは知りたくないの!?ナンバーワン妹!」
「いや、知りたくないわけじゃないけど」
趣旨はよく分かるよ。けど、毎回毎回ここまで熱狂しているのは本当に凄いというか。というかダイヤちゃん、そんなに気になる?
「だって、面白いよ?みなさんの熱気が伝わってきて、キタちゃんも好きそうじゃない?」
「確かに熱気は凄いけど……」
ナンバーワン妹と言われてもピンとこないというか。
ちなみにあたしが参加していなかった前回の感謝祭では、ヴィブロスさんが優勝したらしい。本人が自慢げに語ってたってダイヤちゃんに聞いた。
今回も参加しているらしい。対抗はカレンさん。学園の妹って言われたら、確かに2人が浮かぶかも。
参加者が続々と入場してきてるけど……っえ、えぇ!?
思わず目を見開いて驚く。いや、だって。
「う、うぅ……っ」
「しゅ、シュヴァルちゃん!?」
参加者の中にシュヴァルちゃんがいるぅぅぅ!?確かにシュヴァルちゃんも妹だけど!
でも、このイベントに参加するなんて想像がつかないなぁ。シュヴァルちゃん、人前に出るの苦手そうだし……って、ちょ!?
「──控えろ。万象遍く我の前に跪くがよい」
もっと予想できなかった人が参加してるんですけど!?なんでオルフェさんがいるんですか!確かに妹だけども!
観客の人達もあたしと同じなのか、大口開けて固まっちゃってる。その中で聞こえてきたのは。
「あぁ、オル……やはり、オルの輝きが一番だよ」
あ、はい。ジャーニーさんですね。いつも通りですね。あたしたちとジャーニーさんは結構離れてますけど、とても満足そうにしてるのが分かる。
ジャーニーさん、オルフェさんのこと大好きだからなぁ。
「面白そうだねキタちゃん!シュヴァルさんに、オルフェさんまでいるなんて!」
「あ、うん。そうだね」
「?顔色悪そうだけど、気分が悪いの?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
ダイヤちゃんはなにも不思議に思ってなさそうだった。多分、気にしたら負けなんだと思う。
ちなみにオルフェさんは1回戦で敗退してました。理由は明白で、どう考えても企画の趣旨に合う妹キャラではないだろ、とのことで。
「全く、揃いも揃ってオルの魅力が分かっていませんね」
「良い、姉上。中々楽しい児戯であった」
「……オルが満足ならいいでしょう」
あ、楽しかったんだ。
シュヴァルちゃんはいいとこまでいってた。準決勝でカレンさんに負けちゃって、そのまま敗退。
壇上から降りてきたシュヴァルちゃん。たまたま近くを通ったし、なんで出場したの?って理由を聞いてみたら。
「ぼ、僕は嫌だって言ったのに、ヴィブロスが無理やり……も、もう参加しないから!」
「え~?可愛かったですよ?」
「そ、そんなこと言われても参加しないから!」
「あはは……」
顔を真っ赤にしたシュヴァルちゃんは逃げるように会場を後にしました。まぁ、確かに。
「ダイヤちゃんの言う通り、可愛かったよねシュヴァルちゃん」
「うん!妹に欲しくなっちゃった!」
あ、シュヴァルちゃんの逃げるスピードが上がった。速いなぁ、1ハロン10秒台は出てそう。
大会の結果は、カレンさんが勝ったみたい。
「みんな~、カレンの応援ありがと~☆」
「「「うおおおぉぉぉ!カレンちゃぁぁぁん!」」」
熱気が凄かったです、はい……結局、最後まで審査基準が分からなかった。でも、カレンさんは確かにThe・妹って感じがします。
妹選手権が終われば、また別の会場へ。
「そこのお2人さん、ゴルシちゃんの焼きそばはどうでい!」
「あ、じゃあウマ娘盛り一つください!」
「おうおう任せとけ!今ならマックちゃんのパフェもつけ「勝手に私のパフェを持ち出さないでくださいまし!」ぐふっ!?」
道中の屋台でいろんな物を買ったり、適当に遊んで過ごす。夏祭りの子供の様に、両手いっぱいに勝ったものを抱えて歩く。この時間は、やっぱり楽しいな。
次はどこに行こう?そう考えた矢先に頭によぎったのは、トレーナーさんのこと。ファン感謝祭を楽しんでいる……かもしれない、あたしのトレーナーさん。
仕事はしない、って言ってましたけど。
「トレーナーさん、しっかり休んでるのかなぁ」
また無茶してないかな?無理してないかな?トレーナーさん、仕事のことになると信用がなぁ。
勿論全部あたし達のためっていうのは分かってる。気持ちはすっごく嬉しい。
でも!そのせいでトレーナーさんが身体を壊しちゃったら元も子もないと思うんですよ!
「頑張りすぎてトレーナーさんが体調を崩しちゃったら大変だと思わない?ダイヤちゃん」
「またキタちゃんのトレーナーさん無茶したの?たづなさん呼ぶ?」
「ううん、そこまではいってないから大丈夫」
たづなさんは最終手段。大分おかしい会話な気がするけど、それぐらいトレーナーさんは働いている。これでも最初の方に比べればマシになったんだけど、まだ他のトレーナーに比べて多い方だって聞いた。
本当に何であんなに仕事をしたがるんでしょう?不思議だなぁ。
トレーナーさんについてあれこれ考えていると、ふと隣のダイヤちゃんから笑うような声が聞こえてきた。
「ふふっ」
「どうしたの?ダイヤちゃん」
「ううん。今も心配しているってことは、キタちゃん、トレーナーさんのこと大好きなんだなって」
トレーナーさんのことが?うん、それは勿論。
「そうだよ?だってトレーナーさんだもん!」
「っへ?」
「あたし達のことに一生懸命で、頑張ってくれて!だからあたしも頑張るぞーってなれて!」
あたし達に尽くしてくれる。全力でぶつかってくれて、やりたいようにやらせてくれる。道が決まってなくて、デコボコだったり複雑だったりする道を、トレーナーさんが綺麗にしてくれる。全てあたし達のために。
だからあたし達もトレーナーさんの期待に応えたい。気持ちが、期待がプレッシャーにならない。むしろ、もっと叶えてあげたいって思う。
ファンの期待と同じくらい応えたい相手。それがトレーナーさんだ。
「これからもトレーナーさんやみんなのために頑張るぞー!」
「そ、そうなんだ……これは、どっちなんでしょうか?」
「なにかいった?ダイヤちゃん」
「う、ううん!何でもないよ!」
ブツブツ呟いたと思ったら、慌てて訂正してる。変なダイヤちゃん。
◇
気づけば夕暮れ。カラスの鳴き声に、テントや機材を片付ける音が聞こえてくる。
「終わっちゃったね、感謝祭」
「うん、なんだかちょっぴり寂しいね」
さっきまでの騒ぎっぷりが嘘のような景色。赤く染まった空も相まって、どことなく寂しい気分になる。
両手いっぱいの荷物を持って寮に帰る。そんな時だった。
「ねぇ、キタちゃん。ちょっと屋上に行かない?」
「屋上に?」
ダイヤちゃんから屋上に行かないかって誘われた。特段用事もないからいいけど。
(どうしたんだろう、ダイヤちゃん。なにか)
覚悟を決めたような表情をしているダイヤちゃんが、凄く印象に残った。
荷物を抱えたまま屋上へ。今日は開放されているけど、誰もいない。
「どうしたの、ダイヤちゃん。ここに来たいなんて」
「……」
ダイヤちゃんは一言も喋らない。来るまでの間も、今も。表情も硬いままで、今日買ったものを大事に下ろして、あたしを正面に見据えていた。
何を言われるんだろう?あたし、なにかやっちゃったかな!?そう心配になってしまう。
「キタちゃん」
楽しそうな声色、ではない。思わずこっちも引き締まるような声だ。でも、どこか
……覚えがある。これは、対戦相手の子達から浴びるのと同じ。
「キタちゃんは凄いね。海外でも結果を残して、気づけば手が届かないところに行っちゃった」
ダイヤちゃんが語りだす。海外のレースはずっと見ていたって、応援していたって。
「私も無敗の三冠を取って、サトノ家に栄光をもたらすことができた。でも、まだ満足できないの」
どうしてダイヤちゃんがここに呼んだのか。きっと誰にも聞かれたくなかったから。
「それに、キタちゃんのレースを観ているとね──走りたくなる。キタちゃんと競いたいって、自分の全力をぶつけたいって思うようになった」
「ダイヤちゃん」
あたしに何を伝えたいのか。レースの時と似たような雰囲気から、大体察せる。
「まだまだ私は未熟。三冠を取っても、キタちゃんの足元にも及ばない」
(そういうこと、なんだね)
ダイヤちゃんはきっと。ここであたしに。
「それでも、私は言うよ」
「……うん」
ダイヤちゃんが頭を下げる。テレビドラマやアニメでお嬢様がするようなお辞儀をして──
「あなたに挑みます、キタサンブラック。たとえ世界最強であっても、ダイヤを砕くことは容易ではありません」
あたしに、宣戦布告をしてきた。
心がざわつく。ヒリついた空気が流れる。あぁ、そっか。
(ダイヤちゃん)
大事な幼馴染。楽しい思い出もなにもかもを共有してきた、大切な親友。少し目を瞑れば、いろんな記憶が甦ってくるくらいには、たくさんの時間を過ごしてきた相手。
そんなダイヤちゃんからあたしは、宣戦布告をされた。
ずっと友達だった。けれども、それ以上に。
(ダイヤちゃんは、あたしのライバル)
本能を刺激される。あたしに挑戦状を叩きつけてきた
ふふ、そっか。あたしも、挑戦される側ってことなんだね。
「ダイヤちゃん」
「っ」
「──受けるよ、ダイヤちゃんからの挑戦状」
遊びの声じゃない。競技者としての言葉、迎え撃つ者として、あたしは応えなきゃいけない。
挑戦されたのは少し嬉しい。相手は幼馴染だ。だけど、手加減するつもりは一切ない。
少し後ずさりをするダイヤちゃん。ううん、違う。
「あたしはもう、あの日みたいに慢心はしない。全力で、持てる力全てを使って走る。だから覚悟してダイヤちゃん……ううん」
「……っ!」
「サトノダイヤモンド」
サトノダイヤモンドの挑戦を、あたしは受けて立つ。キタサンブラックとして、勝負を受ける。
風の音が鮮明に聞こえる学園の屋上。レースのことは考えないようにするつもりだったけど、もう終わったからいいよね。
次の天皇賞も勝つ──あたしの走りで。トレーナーさんやみんなの期待を背負って。
最後のキタちゃんはプリティフィルターが剥がれてキタサンブラックになっている。