目の前にいるのはキタちゃん。大好きな幼馴染、絶対に負けたくないライバル。キタちゃんへ宣戦布告をすることで、私は覚悟を決めました。
(現時点における世界最強のウマ娘。それはキタちゃんとドゥラメンテさんの2人だ)
SNSでも話題になるのはこの2人。海外遠征で結果を残した2人のレースは、世界中から注目されています。勿論、次の天皇賞も。
現時点での評価はキタちゃんとドゥラメンテさんの二強。ちょっと下にアースさんにシュヴァルさんがいる。
私は……シュヴァルさんのさらに下。クラちゃんと一緒の評価を受けていた。その時のクラちゃんとのやり取りを思い出す。
「私は長距離の経験がほとんどないもの。この評価も仕方ないわ」
苦笑いしていたクラちゃんの表情が浮かびます。でも、クラちゃんは少しも勝ちを諦めていない。
「だからこそ、私が風穴を開けるわ。サトノクラウンは長距離も走れる、ってね」
自信満々に答えていた。
私もクラちゃんに触発されて、ファン感謝祭の終わりに挑戦状を叩きつけた。他でもない、親友のキタちゃんに。
「あなたに挑みます、キタサンブラック。たとえ世界最強であっても、ダイヤを砕くことは容易ではありません」
無敗の三冠ウマ娘になった。でも、世間からの評価はキタちゃんよりも下。
許せないわけじゃない。プライドを傷つけられたとか、そういうわけでもありません。相手が強くて私が弱いから、それだけの話です。
だからこそ、挑みたい。強くなった幼馴染に勝ちたい。頂まで上り詰め、なお上を目指す最強に、私の力をぶつけたくなった。
宣戦布告。キタちゃんは──微笑んでいた。
「ッ!」
けれど、一瞬の間にキタちゃんから笑顔がなくなる。私の言葉を、キタちゃんは受け取った。
発せられる圧は尋常ではありません。気を抜けば倒れてしまいそうな、今まで感じたことがないようなプレッシャー。
「ダイヤちゃん」
「っ」
息をのむ。キタちゃんの言葉を、一言一句聞き逃さないように耳を澄ます。
「──受けるよ、ダイヤちゃんからの挑戦状」
いつもと変わらないキタちゃんの声。だけど思わず後ずさりしてしまって、気圧されそうになる。
私の知らないキタちゃんの姿が、競技者としてのキタサンブラックが顔を覗かせます。
「あたしはもう、あの日みたいに慢心はしない。全力で、持てる力を使って走る。だから覚悟してダイヤちゃん……ううん」
「……っ!」
「サトノダイヤモンド」
自分から宣戦布告をしたのは分かっている。それでも、怖気づきそうになる。
私は本当に、今のキタちゃんに勝てるのか?これほど強大な相手に、私はいつもの自分で走ることができるか?不安ばかりが募ってしまう。
押しつぶされそうになる。屈してしまいそうになる。けれど、私はッ!
(……覚悟を決めなさい、サトノダイヤモンド!)
心までは折れません。ダイヤの輝きは不変、決して折れない精神をもって、キタサンブラックに勝ちに行く!それが、私の覚悟です!
一触即発の空気。崩したのは──他でもないキタちゃんだった。
「それじゃあダイヤちゃん、帰ろうか!」
さっきまでの圧が嘘のように消えて、いつものキタちゃんに戻る。私も、プレッシャーから解放されて一息吐けた。それにしても、凄かった……。
(世界で戦って、進化をしたキタちゃん。遠目で眺めたことはあるけど)
目の前で対峙すると、こうまで恐ろしいなんて。
震える身体、勝てるかどうかの不安が押し寄せてくる……むしろ燃え上がります!
「うん、帰ろうキタちゃん」
私も、今日買った物を拾い上げて屋上を後にする。気づけば私達は元通り、いつものように仲良く過ごす。
その間にも、まずは何をすべきなのか?作戦を思い浮かべて、万全の対策を練る。真っ先に出てきたのは、トレーナーさん。
(何をするにしても、トレーナーさんに相談ですね)
トレーナーさんに聞くのが一番ですから。チームの方々にも頼らせてもらいましょう。
打倒キタサンブラック。目標に向けて、全速前進です!
◇
次の日。さっそくトレーナーさんに相談しました。
「キタサンブラックに勝つ方法、か……その前にまずは、ダイヤの現状を知ろうか」
「VRウマレーター、ですね!」
「あぁ。しっかり予約を取ってあるから、今日は使えるよ」
まずやるべきは今の私がキタちゃんに勝てるかどうか。今私がどの位置にいるかを知るために、三女神様の力を借りることにしました。
多分ですけど、高村トレーナーに聞くのも良いかもしれませんが……ライバル、ですからね。仕方ありません。教えてくれない可能性が。
「高村トレーナーの場合、私のステータスを教えてくれる姿が容易に想像できますね」
「まぁ、うん。教えてくれるだろうね」
苦笑いを浮かべるトレーナーさん。普通はライバルに教えない情報を、キタちゃんのトレーナーである高村さんは普通に教えてくれます。聞かなくても分かるというか。
舐めてるとかじゃないと思う。多分だけど、キタちゃん達のことを信じているから。負けないと思っているから、アドバンテージを捨ててもいいって考え。
ウマ娘に対する絶対的な信頼。うん、キタちゃんたちが大好きな理由も分かるなぁ。
準備を済ませて、いざVRの世界へ。三女神様にはすぐに会えた。
「やぁやぁ子羊くんたち。今日は一体、どんなご用事かな?」
「私のことを教えてください!具体的には、春の天皇賞の展望を!」
「そ、その。僕も知りたい、です。今、キタさん達との差はどれくらいなのか」
「分かった。少し待っていろ」
ウインドウを表示して、いろいろと検索している様子の女神様。待っている間は、すぐにでもトレーニングを始められるように準備運動を。隙間時間の有効活用です。
始めてから数分。女神様はウインドウを消して、私達の方へと向き直りました。
「さて、と。知りたいのは天皇賞の展望、だったね?」
「はい、お願いします!」
「覚悟は、で、できてます」
三女神様は渋い、言いにくそうな表情をしています。本当に伝えていいのか迷っている。もう大体のことは察しがつきました。
「大丈夫です。知らないままよりも知っておいた方が、今後のためになりますから」
「……そっか。それなら、遠慮なく言おう」
息を吸って、三女神様は検索結果を教えてくれた。
「まずだけど、サトノダイヤモンドが勝つ確率はかなり低い。デビューが1年違った差、とでもいうべきかな?向こうの方が満遍なく上だ」
「うっ。や、やっぱりですか?」
「1年違ったぐらいなら何とかなる範囲なんだけどね。望みは0じゃないけど、厳しい勝負になるのは間違いない」
告げられたのは、予想通りのこと。いえ、むしろ勝ち目がある分想像よりはマシですね!絶対に勝てないよ、と言われるのも覚悟してましたから!それで諦めるつもりはありませんけど。
続いてシュヴァルさん。キタちゃんと同じ時期にデビューした彼女は。
「シュヴァルグランは五分……と、言いたいところなんだけどね。多く見積もって3割だ。展開次第ではあるかもしれないね」
私よりも高い。けど、それでも3割ですか。
「て、展開次第っ。でも」
「あぁ。展開次第ということは、キタサンブラックを崩せるかどうかにかかっている。知っていると思うが、彼女を崩すのは容易じゃない」
「逃げにも先行にもシフト出来て、豊富なスタミナですり潰す。並大抵のプレッシャーは効かないもの。シュヴァルグランも厳しいわ」
その条件もまた、厳しいですね。キタちゃんを崩さないと勝機はない。でも、キタちゃんを崩すのはかなり難しい。シュヴァルさんも分かっているのか、難しい表情です。
ここまでは全部悪い情報。落ち込むようなものばかり。ただ、三女神様はわたわたしながら明るい方向に話題をもっていこうとしています。
「ただ、悪いニュースばかりじゃない。今回の天皇賞にはドゥラメンテも出走するのは知っているだろう?」
「は、はい」
「強敵が一人増える……一見デメリットに見えるかもしれないけれど、メリットもあるわ」
ドゥラメンテさんの出走。彼女の存在がいることで生まれるメリット。それはきっと……マークが関係している。
「ドゥラメンテの末脚がいかに恐ろしいかは、キタサンブラックが一番よく知っているだろう。だからこそ、最大限警戒するはずだ」
「マークが分散すれば、それだけ出し抜く機会も増える。彼女ほどの強者ならば問題にしないかもしれないけど、どうしても綻びは生まれるものだ」
「その隙をつくことができれば、勝率はぐっと上がるわ~。雀の涙ほど」
「「ゴドルフィン!」」
確かに、ドゥラメンテさんが出走するのに、キタちゃんが警戒しないわけがない。宣戦布告をして、私に意識が向いてるかもしれないけど、脅威なのはドゥラメンテさんの方。
そうなると、私に対するマークは甘くなる……可能性はある。うん、それなら。
今からもっと頑張れば、さらに勝てる確率は上がる。天皇賞まで残された時間は少ないけど、頑張りましょう!
「ありがとうございます、三女神様。今の私を教えてくださって」
「う~ん、ごめんね?あんまり明るい方向に持っていけなくて。でも、一生懸命な子に嘘はつけないからさ」
「いいえ、むしろ燃え上がりました!頑張ってキタちゃんに勝つぞ~!」
そうと決まれば、まずやるべきはルドルフさんへのお願いです。ルドルフさんはドリームトロフィーの長距離部門で結果を残し続けている方。それに、相手の行動を縛る戦い方も熟知しているからもってこいです。
さらにはカフェさんもいる。カフェさんもステイヤータイプ、強さは折り紙付き。チームの先輩方に師事してもらって、対策を万全にしましょう!
「ルドルフさんカフェさん、いろいろなことを教えてください!」
「天皇賞に向けて、だな。良いだろう、厳しくいくぞ」
「……相手は、強大。微力ながら、お力添えを」
実戦形式のレースで、デバフの使い方や領域の切りどころを教えてもらう。
「いいかい、サトノダイヤモンド。相手がされて嫌なこと、厄介なタイミングが存在する。初見で知るのは難しいだろうが、やらねば勝機はない」
「は、はい!」
「特に、キタさんに生半可なプレッシャーは、効きません。最大の効果を、もたらすためにも、機会を見誤らないように」
「分かりました!」
やれることを全部やって、目指すは打倒キタちゃんです!