宝塚記念も終わり、無事に上半期のG1レースは全てが終わったことになる。ジャパンダートダービーがあるけど、僕達の中から出走する子はいない。
そうなると、次に待ち構えているのは。
「夏合宿ッ!1000m海上バ場の状態は凪!さぁ、共にバクシンしましょぉぉぉ……」
「あぁ!?待ってくださいバクシンオーさん!しかも勝手に新しいバ場を作ってるし!あたし達以外に走れる子なんて「負けません。最速は私です。ハァァァ!」なんかチームじゃない人が紛れ込んでる!?」
「ライトオ君だねぇ。バ場に関しては稍波、高波、荒波の3種もあるよ」
「バ場も何も海上ですよねあそこ」
夏合宿だね、うん。バクシン水上理論に関しては、毎度恒例になってるし、気づいたらカルストンライトオも紛れ込むようになったね。
ま、いつものことはいいとして。
「今回はアイとイクイを中心に、トレーニングを組み立てるつもりだよ。まだまだ本格的なものはしないけど、2人はそのつもりでいるように」
「もう見慣れた光景なのね……分かったわ」
「分かりました」
ぶっちゃけた話、バクシンオー達はドリームトロフィーに向けた調整、キタサンとドゥラはステータスがほぼ頭打ちな現状、やるべきなのはメンタルトレーニング。陽が落ちてからでもできないことはない。
ってなると、次を見据えるのが大事になってくる。近い将来、アイとイクイがレースで勝つために。
「適性、に関しては……今は考えなくても「そうはいかないわトレーナー!」どうしたの、アイ?」
ぶっちゃけ後回しでもいい、なんて言おうと思ったら、アイに遮られた。えらく気合いが入っているけど……あぁ、なんとなく想像がつく。
「勿論、わたしも全距離走れるようにしてもらうわ!ダートもね!」
「……いいの?僕としては構わないけど、その理由は?」
「チームのみんなは走れるのに、わたしだけ走れないなんて負けてるみたいじゃない!そんなの絶対嫌よ!」
そんなことだろうと思った。気合いがあるならいい、バクシンオー達に協力してもらって、夏合宿は適性上げに臨もう。
アイは決まった。で、後はイクイだけど。
「私も、やります。偉大な先達に並ぶため、ですので」
彼女も、アイと同じように覚悟を決めたみたいだ。なら、夏合宿のテーマは決まったも同然、だね。
(さて、そうなると……タキオンとジェンティルをサポートにつけるとしよう)
あの2人は指導に向いているし、アイとイクイに技術も授けてくれる。タルマエも悪くないから、ジェンティルとタルマエをかわりばんこにつけるのが最適解、か。キタサンとドゥラはトゥインクル・シリーズのレースがあるから除外、バクシンオーは……うん。どうも感覚派なところがあるから、指導には向いてないかな。
(メンタル強化には一番なんだけどね。この辺は適材適所、か)
頭の中で今後のプランを考える。今回の夏合宿も、忙しくなりそうだ。
◇
メインはアイとイクイの適性改造、と決めた通りにトレーニング。
「さてさて、まずは長距離を走る心構えを教えておくとしよう。君達2人とも、長距離は苦手だからねぇ」
「もっとも、すぐに走れるようにして差し上げましょう。よろしくて?トレーナー」
「……さすがに夏合宿中は無理だからね?この合宿中に、適性Gから適性Aまで上げるなんてことはできないからね?」
そんなあなたならできるでしょう?みたいな目されても無理なもんは無理だよジェンティル。本来、適性上げって結構厳しいものだし。みんなホイホイ上がっているように見えるけど、これでも結構苦労しているのだから。
(思えば、最初も割と手探り状態だったなぁ)
バクシンオーを担当した頃にはある程度のノウハウは確立していたけど、資料を漁って徹夜したのは良い思い出だ。何かの役に立つかもしれないと、研究資料には全部目を通していたあの日に懐かしさがある。
結果は、ご覧の通りだ。みんな結果を出せている。
「極論マイラーでも長距離は走れるよ。前例があるからねぇ」
「……え?本当ですか?」
「嘘じゃないよ。それこそ、トレーナー君がいる前からの記録だ。で、長距離を走るのに必要になってくるのは」
タキオンの講座が始まる。アイとイクイは一生懸命、聞き漏らしがないようにノートを取っていた。
ジェンティルも加えての講座、他のメンバーはというと、それぞれ調整をしている。
「バクシンバクシーーンッ!次のサマードリームに向けて、バクシンステイヤーですッ!」
「気合入ってるなぁ、相変わらず。ねぇキタさん」
「ワッショイワッショーーイ!スプリンターズステークスに向けてワッショイでーーすッ!」
「しまったこっちもだ!」
バクシンオーはサマードリームの長距離部門、タルマエはダート部門だ。今回のダートは中距離らしいので得意分野だ。レースもそろそろ、夏合宿の半ばほどにあるから、気合がさらに入っている。
キタサンとドゥラは次走のスプリンターズステークスに向けて。お互いにビーチフラッグをして、加速を鍛えている。一進一退、ではなく。
「また私の勝ちだな、キタサン。たとえトレーニングであったとしても、君に勝ちは譲らない」
ドゥラが大きく勝ち越している形になる。ドゥラの方が加速力は上だし、この結果も当然というべきか。
それでも、キタサンの目は燃えている。
「まだまだ!ここから五分に戻していくよドゥラさん!」
「フッ、それでこそ君だ。次、行くぞ」
「うん!よーし、頑張るぞ~!」
ドゥラに負けないと、闘志を滾らせているみたいだ。こちらも絶好調、ってところだね。
……あの2人も、バクシンオーをスカウトした時からの間柄、か。
(チームの古株、ってところか。大した差はないけど)
バクシンオーをスカウトしてから始まって、ドゥラとキタサンに手伝ってもらっていた日が懐かしい。2人はスカウトされたもんだと思っていたから、ずっと手伝ってくれていたことも。
タキオンからの逆スカウトに、実績を積み上げた結果声をかけてきたジェンティルとタルマエ。海外にはヴェニュに、つい最近もアメリカのウマ娘をどうか見てくれ、とお願いされていたな。彼女はまだデビューしてないけど、VRウマレーターを介して今も指導をしている。
(嬉しい限りだ)
気づけば僕自身も、かなり成長したように感じられる。無機質で、ただ作業のようにこなしていたあの日々はもうない。やりがいがあって、自分がいる意味があって、トレーナーという仕事を続けている。
これからも、彼女達のために万全に。
(下半期のレース、そして──グランドマスターズ。特にグランドマスターズは、かなり凄いことになりそうだ)
主に僕のせいで……いや、うん。まさか三女神様があそこまで強化されるとは思わなかったよ。というか伸びしろがあったことに驚きだよ僕は。
〈おやおや子羊くん。変な顔をしているね、どうしたんだい?〉
気づけば三女神ボディ(メカ)を纏った三女神様達がいた。あれから改良を重ねたので、中々の強度を誇っているとはシュガーライツさんの話。
「……いえ、グランドマスターズが楽しみだな、と」
〈あら~、もう考えているの?勤勉ね、相変わらず〉
〈我々も、貴様のおかげでかなりアップデートされた。楽しみだよ……現代の彼女らと、対決する時が〉
こちらも燃え上がっている。うん、頑張ってほしいね。
ダーレーアラビアン
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行B 差しA 追い込みC
スピード:UA3 1833
スタミナ:UD8 1589
パワー :UC2 1625
根性 :UD2 1527
賢さ :UE9 1496
ゴドルフィンバルブ
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げB 先行A 差しG 追い込みG
スピード:UA1 1819
スタミナ:UD7 1574
パワー :UC3 1638
根性 :UD1 1511
賢さ :UD2 1523
バイアリーターク
適性:芝A ダートA
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行G 差しB 追い込みA
スピード:UA4 1848
スタミナ:UD5 1557
パワー :UC7 1676
根性 :UD3 1533
賢さ :UE5 1454
グランドマスターズも、盛り上がること間違いなしだ。
◇
滾る、滾る。沸々と燃え上がり、私の胸を高鳴らせる。
春の天皇賞で見た景色が忘れられない。私の脳に、深く刻まれている。同チームのシュヴァルグランとサトノダイヤモンドには悪いが、私の興味は……キタサンブラックに向けられていた。
初めてだ。ここまでかき鳴らされるのは。
(生徒会長としての私は、封印しなければならない。もし、いつもの私で挑んだら)
負けてしまう。許されるべきではない。そんなことは、断じて認めない。
「まずは、サマードリームを取る。トレーナー君」
「……なんだい?ルドルフ」
私の変化を感じ取っているのだろう。多くは語らずとも、トレーナー君は全てを理解している。私が何を考え、何をしようとしているのか。頼もしい限りだ。
「長距離部門には、バクシンオーが出走するそうだね?」
「そうだ。彼女が出走してくる。おそらくだけど、グランドマスターズを見据えて、だ」
「そうかそうか。それは重畳」
気づけば、私は目を細めていた。さながら、獲物を狙う肉食獣のように。
「刻んでやるとしよう──皇帝の絶対を」
「それで崩れる相手じゃないけどね。なんにせよ、久しぶりだね。そこまで気合を入れるのは」
「心外だな、トレーナー君。普段の私も全身全霊を尽くしているとも」
「分かっているよ。ただ、心構えは違うだろう?」
その通りだ。今の私は、自分勝手だからね。
サマードリームトロフィーの日はほどなくしてやってきた。元より夏合宿の間に開催される、気づけばあっという間だな。
現在私は5番手の位置。メジロパーマーの大逃げで展開されたレースは、かなり早いペースで進んでいる。
《サマードリームトロフィーもいよいよ大詰めを迎えました。メジロパーマーの大逃げを捕まえんと、サクラバクシンオーとメジロマックイーンが上がっていく!驀進王と名優が争う先行の位置、ビワハヤヒデもこの位置につけているぞ。その後ろにはシンボリルドルフ、そのルドルフをマークするようにライスシャワーがいます!》
だが、
(どうも、マークされているようだが……知ったことか)
踏み抜く脚に力を込める。芝が抉れて、むき出しの土が姿を現す。
大逃げのメジロパーマーは落ちてくる、他3人はこのまま脚を伸ばしていくだろう。
脚に関しては五分。いや、サクラバクシンオーだけは、私すらも超えているかな?ただ、それはあくまで基礎ステータスの話、データだけのもの。
(これほどの気持ちでレースに挑むのは、いつぶりかな?)
昂る気持ち、抑えられない激情。本能のままに走る今の姿。シリウスやラモーヌが見たら、なんて言うか。私らしくない、と笑うだろうか?
しかし、もう抑えることはできない。この感情を制御することはできない。いいや、
私の道に、邪魔をするウマ娘が──4人。
「道を開けろ」
渾身の力を込める。前を走るウマ娘との差は3バ身程。問題ない。
《最後の直線、先頭で入ってきたのはメジロパーマーですがっ!ここでサクラバクシンオーが来る!サクラバクシンオーが来る!メジロマックイーンも突っ込んできた!さぁ息をつく暇もない攻防が始まッ!?》
全員追い抜くのだから。
「スタートからそうでしたけどっ、変わりすぎでしてよ……ッ!」
「これが、本気を出した皇帝の圧っ、しかしッ!」
「バクシンバクシーーンッ!このままバクシンを貫きますよーッ!」
あぁ、君らは変わらないな。だからこそ、私が
《シンボリルドルフだ、シンボリルドルフが来たッ!ここで上がってきたシンボリルドルフ!マークしていたライスシャワーを振り切って、シンボリルドルフが上がってきた!メジロマックイーンらをすぐさま捕まえる皇帝!シンボリルドルフの走りが、京都の舞台で炸裂する!》
一人、また一人と追い抜いていく。
「ついてくっ、ついて……くっ!」
ライスシャワーが懸命に追いすがるが、私には届かない。
落ちていくメジロパーマーを横目に捉え、追いつく。
「負けんよ、皇帝!データを狂わされたとしても!」
ビワハヤヒデ。
「長距離は私の庭、たとえ皇帝であっても、無礼は許しませんわッ!」
メジロマックイーン。そして。
「バクシーーンッ!」
サクラバクシンオー。古今無双の英傑たちと競り合い、後続からも迫ってくる強者を気にも留めず、ただ自らの走りに注力する。
残り100m。私は抜け出した。
(抜け出したのであれば、やることは一つ)
「駆け抜けるのみ」
領域はすでに全員切っている。私含めて、一人残らず。
《シンボリルドルフ、シンボリルドルフだ!圧巻とも言うべき皇帝の走り!サマードリームトロフィー長距離部門を制したのはッ!【皇帝】シンボリルドルフだァァァッ!1バ身差の快勝、これが皇帝の強さ!いかんなく発揮してくれたシンボリルドルフゥゥゥ!》
ならば結果は、抜け出した私の勝利で確定だ。
呼吸を整える。我ながら、久しぶりの感覚だ。
(全力を出す感覚が、ではない。これはきっと)
「会長さんッ!」
「っ、おや、サクラバクシンオー。どうしたのかな?」
顔を上げて、サクラバクシンオーへと視線を向ける。彼女の目は、煌々と輝いていた。
「なんとも素晴らしいバクシンッ!ここに至ってもまだ、私はまだまだ教えられてばかりですッ!」
「それは、こちらも同じだよサクラバクシンオー。君の猪突猛進とも言うべきスタイルは、私も見習うべきだと常々思っている」
「そうでしょうともッ!なんといってもバクシンですからッ!」
変わらない彼女。その目は雄弁に語っている。次こそは負けない、と。
負けてやるつもりはない。この先も、私は勝ち続ける。
「次はグランドマスターズかな?今後もお互い、切磋琢磨して日々精進していこう」
「勿論ですともッ!」
そう、誰が相手でもだ。
シンボリルドルフ
適性:芝A ダートG
距離:短E マB 中A 長S
脚質:逃げB 先行A 差しA 追い込みB
スピード:US5 1954
スタミナ:UC1 1614
パワー :UC2 1628
根性 :UD1 1513
賢さ :UD4 1549
サクラバクシンオー
適性:芝A ダートA
距離:短S マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しF 追い込みG
スピード:US7 1977
スタミナ:UD6 1568
パワー :UB1 1711
根性 :UD5 1557
賢さ :UE2 1426
【悲報】ドリームトロフィー魔境問題【他も同じ】。おかしい、ドリームトロフィーはこんな魔境ではなかったはず……。