夏合宿も佳境。終われば、今度は秋のG1戦線が始まる。
あたしとドゥラさんの次走は、スプリンターズステークス。短距離戦での戦いになる。
(不利なのはあたし。でも、そんなことは気にせず行きます!)
始まる前から諦めない。どんな勝負にも全力で!それが、あたしがみなさんから学んだ大切なことですから!
アイちゃんとイクイちゃんの適性上げも順調、といったところです。
「う~ん、どうもしっくりこないわね。別の方法を試そうかしら?」
「どんなバ場であっても、自分の武器を見失わない。それこそが、上のステージへ至るための条件ですわ」
「ないものねだりをするんじゃなくて、ある武器をどう活かすか?なのでまずは、自分の武器をしっかりと理解する必要があります」
チームにはタキオンさんを筆頭とした凄い人達がいますから、他のチームよりも適性上げは容易!……なんてことはないらしく。知識と上がりやすさは特に関係がないみたいです。
トレーナーさん曰く。
「根本的に向いてないものを改造するんだから、知識だけでどうにかなるものじゃないよ」
「重要なのはコツコツ進むこと。日々の努力が、適性を上げる一番の近道だ」
「……ま、みんなもう全部の適性がAだから、他のチームに比べれば上がりやすいのは間違ってないね」
らしいです。アイちゃんもイクイちゃんも、いつかはきっと、全距離芝ダート問わずに走れるようになってることでしょう!なんかおかしい気がしますけど気のせいです、気のせい。いや、ウチのチームがおかしいのはいつものことなので平常運転です。
話を戻して。次のスプリンターズステークスは電撃戦。ドゥラさんの末脚が発揮される舞台でもあります。この距離になると、対策しようとして対策できるものじゃない。
(消耗戦に持ち込めないのは大前提。なら、どうするべきか?)
道中ペースをガンガン上げて、届かないほどの差をつける。やっぱりこれしかないですね。シンプルですけど、一番分かりやすい方法です。
では、差を広げるにはどうしたらいいか?勿論、決まっています!
「ビーチフラッグで瞬発力を鍛え「委員長は負けませんよー!トリャーッ!」あぁっ!?」
スピード勝負になるビーチフラッグで鍛える、なんですけど。さ、さっきからバクシンオーさんに負け越している……!
「ハーッハッハッハ!ビーチフラッグでも委員長は模範的ッ!またまた勝利ですッ!」
「ま、まだまだぁ!あたしだって負けませんよ!」
「大変花丸な気迫、委員長も嬉しいですよッ!レースに向けて頑張りましょうッ!」
よぉし、負けないぞ!
◇
合宿の練習が終われば、ご飯を食べて、お風呂に入って自由時間。この時間でみなさんいろんなことをやってます。
「というわけで動画を撮りましょう!なにかいいネタはありませんか?」
「苫小牧ネタはどうしたんだいタルマエ君。あいにくだが、人体を発光させるぐらいしかできんよ」
「鉄球の圧縮も、前に食傷気味だと仰っていましたわね。今更なにをしろと?」
大体はタルマエさんの動画に協力してますけど。なんで人体発光に鉄球圧縮が食傷気味になるんだろう……どっちも珍しい光景なのに。
「では、トランプをしましょうッ!楽しいですよトランプ、ぜひともやりましょうトランプッ!」
「ゲーム企画……悪くありませんね」
「やるのは構わないが、絶対に面倒くさいことになるのがひと「面白そうね、わたしもやるわ!」……遅かったみたいだねぇ」
結局はトランプをすることになりました。負けたメンバーが交代で入っていく感じで。
それにしても、チームのみなさんとこうしてトランプかぁ。
「なんかこう、青春!って感じがしますね!」
「やるからには負けない……トランプでも最強を示す」
「あらあら、勝つのは私ですわ。最強は変わらず、ね」
「今はレースで勝ち目がなくても、トランプならあるもの。絶対に負けないっ!」
……全員勝ち気が強すぎてオーラが凄い!青春っぽさとはかけ離れてる!
「まぁ予想はしてました」
「いやー、みなさん青春ですねッ!」
「青春、なのでしょうか?」
「多分違うと思うよイクイちゃん」
青春はあんなに殺気を振りまいたりしないし、もっと和気あいあいとしているもののはずだから。
結局トランプはタキオンさんとジェンティルさんの二強で終わりました。下にタルマエさん。
「では、どちらがより上か決めましょうか?ポーカーで」
「まだやるのかい?動画分はもう撮り終わっただろう?」
「むぐぐぐ……っ!」
「落ち着いてアイちゃん。そんな親の仇を見るかのような目でタキオンさん達を見ちゃダメだよ」
アイちゃんもいいとこまで言ったけど、あの3人には敵わずです。いや、あの3人が強すぎるだけなんですけど。全然表情が乱れないし、平然とこちらを騙してきますし。
ドゥラさんは、うん。
「……何故だ。なぜ負けた?」
「表情には出なくても、あそこまで尻尾と耳に感情が表れていたら当然じゃないでしょうか?」
次回に期待、ってことで。いや、あたしも負けまくったんですけどね。タキオンさん達が強すぎます。
ゲームもひと段落したので、浜辺へときました。ドゥラさんと一緒に。
「キタサンも、夜風にか」
「うん。ドゥラさんも?」
「私もだ」
お互いに言葉は少ない。けど、なんとなくこの時間が心地いい。そう考えていると、目の前に人影が見えました。
とても見覚えのある姿。ただ、ここにいるのは想像がつかなくて、珍しい人。
「トレーナーさん!」
「トレーナー、君もか?」
「……あぁ、キタサンにドゥラ。仕事の区切りがついてね。休憩でもしてきたら、って天城さんに言われて」
天城トレーナーに言われなかったら仕事を続行するつもりだったんでしょうか。容易に想像つくけど。
本当に、トレーナーさんはずっと変わらないなぁ。
「トレーナーさん、いつもお仕事頑張ってますよね。人の何倍も」
「仕事、だからね。どうも、手を抜くとかそういうのが苦手で」
「だが、君が倒れたら私はとても心配する。どうか、節度を持って仕事をしてほしい」
「……善処するよ」
「あたしも!あたしも心配しますから!それはもうすっごく!」
誰にも負けないくらい!いえ、比べるものではないことは分かってるんですけど!こう、気持ち的な問題で!
お互いになにかいうわけでもなく、気づけばトレーナーさんと一緒にいました。
「お邪魔だったらかえ「そんなことはない」食い気味に否定するね。なんかごめん」
ただ、話題はやっぱり今後のレースのことです。スプリンターズステークスから始まる、あたし達のG1戦線。秋シニア三冠の戦いに、あたしとドゥラさんは挑みます。
「サトノクラウンとシュヴァルグランに対する警戒は強めた方がいい。あの2人は、夏合宿でさらに強くなっている」
「もとより警戒しているが、見たのか?」
「直接は見てない。けれど、あの2人は明確に変わった。これまでの様にはいかない、僕はそう判断している」
秋シニアの戦いになれば、シュヴァルちゃんやクラちゃんとの勝負になる。そんな2人を、トレーナーさんは警戒していた。
でも、気持ちは分かる。あたしも遠めに見たことがあるけど。
「確かに、何かが変わった。クラウンも、シュヴァルも」
「元からステータスはあたし達並、技術も差がないから……秋シニアは油断できない」
「うん。きっと、一つ一つのレースに全てを賭けて走ってくる。今の2人から感じる圧は、そんな感じだ」
楽しみだ。さらに強くなったクラちゃん達と戦えることが、最高の勝負ができることが。
それに、クラちゃん達だけじゃない。
「ジャパンカップの後には、サトノダイヤモンドとサウンズオブアースも帰ってくる。あの2人もまた、強くなっているだろうね」
「楽しみだ」
海外遠征に言ってるダイヤちゃんとアースさん。2人もジャパンカップ頃には帰ってくるって言ってた。こっちも楽しみだ。
予定の話が終わってひと段落。じゃあ次の話題は?ってなった時に。
「2人は、これまで凄く頑張ってきたね」
トレーナーさんが、唐突に切り出してきた。
「頑張ってきたのは、他のみんなも同じでは?」
「あぁ、うん。そうなんだけどさ。でもここには2人しかいないし、改めて振り返って、頑張ってきたなぁって」
最高のスタートを切ったデビュー戦。あたしとドゥラさんが初めて激突したクラシック戦線。壁の高さを知ったシニアとの混合戦。
国内だけに留まらない。シニア1年目はずっと海外を転戦して、ドゥラさんと何度も戦って。勝って、負けて。追い抜いて、抜かせなくての繰り返し。
日本に帰ってきてからも、早速ドゥラさんと勝負。クラちゃんやシュヴァルちゃん、ダイヤちゃんやアースさんにリッキーさん。日本にいたみんなとも戦ってきた。そして、これからも戦う。
(今でも鮮明に思い出せる。ここまでの道のりを)
悩んでいるあたしに道を示してくれたバクシンオーさん達。その中心にいたのは──ずっと、トレーナーさんだった。
脚のケアを万全にしてくれて、ケガをしないように毎日毎日メニューを調整してくれて。あたしやみんなのために、ずっと手を尽くしてくれた。
ここまでこれたのも全部、トレーナーさんのおかげだ。トレーナーさんがいたからこそ、あたしはここまでこれたんだ。感謝してもしきれない。
「それは君も一緒だ。君がいたからこそ、今の私がいる」
「はい。トレーナーさんがいつも頑張っているからこそ、あたし達も頑張るぞ、ってなれたんですから!」
「……そっか。それなら嬉しいな」
薄く笑みを浮かべるトレーナーさん。やっぱり、笑顔が一番ですね。
そして、トレーナーさんはあたし達を真っ直ぐ見てくる。いつもの瞳で、あたし達から目をそらさないように。
「2人に、聞きたいことがあるんだ」
「あぁ。私でよければ」
「なんでも聞いてください!」
トレーナーさんからの質問。それは。
「今ここで、改めて聞きたいんだ。君達は──どんなウマ娘になりたいのかな?」
あたし達の軸となるもの。あたしを支えるもの、支柱になる思い。きっと、トレーナーさんが聞きたいのはそんなこと。
先に口を開いたのは、ドゥラさんだった。
「私は変わらない。最強のウマ娘、私の血を証明するために走る。私がなりたいのは──最強だ」
うん、ドゥラさんは変わらない。変わらないからこそ、最初からブレない強さを持っていた。ドゥラさんの、一番の強み。
あたしは、最初はよく分からなかった。父さんのようになりたくて、みんなが笑顔になれるようなウマ娘になりたくて。ずっとずっと考えていた。
答えは出なくて、チームのみなさんの凄さに圧倒されるばかりで。悩んでばかりだった。
「ドゥラは変わらないね。キタサンは?」
けど、今は違う。今のあたしには、軸となるものがちゃんとある。
「あたしは、正直器用なタイプじゃありません。ドゥラさんの末脚みたいに、なにか凄い一芸があるわけじゃない」
あたしが見つけた答え。これまで走ってきた中で見つけた、あたしの支柱。
「それでも、全力に、ひたむきに。泥臭くてもいい、華がなくてもいい。全部のレースを一生懸命走ってきました」
これからもそうする。がむしゃらに走り続ける。そして、その先にきっと。
「あたしの走りで、誰かの心を動かせるような、そんなウマ娘になりたいです」
ファンの笑顔が待っている。そう信じているから。
あたしの思いを聞いたトレーナーさんは、かみしめるように目を閉じている。な、なんだかちょっと恥ずかしいような。
「立派な思いだ、キタサン。やはり君は凄いな」
「え、えへへ。アースさん達に負けて、海外遠征でようやく形になったんだけどね」
「柱がある、ということが大事だ。折れない思いは、それだけで武器になる」
ドゥラさんからも褒められた。なんだかむず痒い!
トレーナーさんは、目を開いて。
「そっか。2人とも立派だね。凄く成長した」
優しく微笑んでくれました。
……そういえば、時間は何時なんだろう?
「さて、2人もそろそろ帰った方がいいよ。もうすぐ閉まる時間じゃないかな?」
トレーナーさんが時計を見せてくれて……わわっ!?もうこんな時間!
「早く戻ろうドゥラさん!締め出されちゃうよ!」
「そうだな。すまないトレーナー、ここで失礼する」
「うん。秋のG1戦線、頑張ろうか」
さぁて、秋のG1戦線も盛り上げますよ~!
さぁ、秋のG1戦線の始まりや。