ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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ふと思ったんですけど、同世代の逃げ・追込のライバルってエースとシービーだなって。


始まる戦い・有マ記念

 人気と実力を兼ね備えたウマ娘が出走できる年末の大一番、有馬記念。今回もまた、豪華なメンバーが出走を予定していた。

 世界にその名を轟かせるチーム・ミーティアから2名、キタサンブラックとドゥラメンテの2人。もはや説明は不要であり、天皇賞・秋にジャパンカップと負けているが本命候補はこの2人である。その中でも、特にキタサンブラックの方が人気は上だ。

 距離が長くなればなるほど強いステイヤータイプ。いざとなれば全員のスタミナをすり潰すことすらも可能にする、現役最強の1人。今回こそは、と期待するファンも多いだろう。

 ただ、ドゥラメンテもまた負けてはいない。天皇賞・春を2着に入っており、長い距離でも強さをいかんなく発揮することができる。キタサンブラックを一番脅かすのは彼女だと評価されていた。

 

 

 勿論、この2人だけではない。

 

「海外からサウンズオブアースにサトノダイヤモンドも帰ってきたからな。こりゃ、今回の勝負は分からんぞ?」

「シュヴァルグランにサトノクラウン……キタドゥラの2人を倒したんだから、こっちも注目だよな!」

 

 遠征から帰ってきた二冠ウマ娘のサウンズオブアースと三冠ウマ娘のサトノダイヤモンド。極悪の不良バ場となった秋天を制したサトノクラウン、キタサンブラックとドゥラメンテの2人をジャパンカップで下したシュヴァルグラン。特に豪華なメンバーが集っていた。

 全員がG1複数勝利の実績持ち、さらには海外のレース制覇経験者が5名と、かなり豪華なメンツが揃っている。

 ゆえに、ファンの間ではこう言われていた。

 

「過去最高レベルの有馬記念になる」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 控室で、トレーナーと一緒に話していた。ここまでのことと、先の2戦で敗北してしまった事実を。

 

「……僕の予想ではこんな感じかな」

「あぁ。おそらくだが、全員作戦は変えてこないだろう」

 

 勝ったから次も同じ作戦で勝てる、などというものではない。自分の信じているスタイルを崩す気はない、一番の勝ち筋と理解しているから。きっと、そう思っているに違いない。私がそうだ。

 トレーナーとの意見は一致している。とはいっても、私と彼の意見が違えることはほとんどないのだが。

 

(彼にも、随分とお世話になった)

 

 変則三冠を取れたのも、海外のレースで結果を残せたのも彼の手腕によるところが大きい。いや、彼がいなければ成し遂げられなかった偉業はたくさんある。少し考えれば、いくらでも思い出せるくらいには。

 

「ありがとう、トレーナー。私をここまで導いてくれて」

「……どういたしまして」

 

 ライバルにも恵まれた。最も身近にいるキタサンだけではない。シュヴァルにクラウン、アースにダイヤ。海外にもたくさんのライバルがいる。

 思い出すだけでも身体が熱くなる。心の内から闘志が沸き上がって、勝利を欲する。

 鼓動が早くなる。心臓が早鐘を打っている。この激情を。

 

「?ドゥラ、どうしたの。僕の手なんか掴んで……っ」

 

 彼にも共有したかった。だから私は、彼の手を掴んで。

 

「──感じるか?トレーナー」

 

 自身の胸へと導いた。私の、心臓へと。

 トレーナーは、目を見開いている。いったい何をしているんだ?みたいな目で私を見ている。だが、関係ない。彼には、私の鼓動を感じてほしい。

 今も心臓は早鐘を打っている。今にも解放して走りだしたいと訴えかけている。その本能を、トレーナーに知ってほしい。

 

「私は今、ドキドキしている。強者たるライバルと戦えることに、彼女らと競い合えることに」

「……とりあえず手を放してくれるかな」

「この激情を、本能を。有馬記念で解放する。私の走りをどうか、観ていてほしい」

 

 伝えるべきことは、伝えた。後はもう、この時間をゆっくりと……と、思いたいのだが。

 悲しいことに、彼はキタサンの方へも行かなければならない。この時間も、もう終わりだ。

 

「ありがとう、トレーナー。私の鼓動を感じてくれて」

「……とりあえず、こういうのは止めた方がいいと思うよ」

 

 彼は呆れたような顔をしているが、安心してほしい。

 

「君以外にやるつもりはない」

「うん、僕にもやめようか」

「断る」

「断っちゃうかぁ」

 

 当然だ。

 

 

 話すべきことも、やるべきことも終わった。トレーナーは控室を後にして、私もパドックへと向かう。

 

(この有馬記念が、トゥインクル・シリーズ最後のレースになる)

 

 悔いは残さない。全てにおいて圧倒的に、私は勝利をもぎ取ってみせる。

 最大の強敵は、やはりキタサンだろう。彼女をどう攻略するかが、私にとってのターニングポイントとなる。

 

(ある程度の予測は立てていても、彼女は割り切ってレースを展開する)

 

 予測があっていても勝てないことはある。安田記念でそう教えられた。

 ……構わない。

 

「君にできて私にできないことはない。君の庭を、私の蹄跡で踏み荒らしてやろう」

 

 力強く、確かな一歩を踏み出して。私は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 トゥインクル・シリーズでの最後の勝負。このレースには、みんなが集まってくる。

 

(クラちゃんにシュヴァルちゃん。海外遠征から帰ってきたアースさんにダイヤちゃん。そして……ドゥラさん)

 

 みんな強い相手。けれどあたしの心は──ドキドキしている。

 なんて言えばいいんだろうか。高揚感、が一番近い。みんなと戦えることに、みんなの本気がぶつかり合うことに、あたしは楽しさを覚えている。

 

(ダイヤちゃんもアースさんも、一筋縄じゃいかない)

 

 それでもあたしは、なんて考えていると。控室の扉をノックしてトレーナーさんが入ってきた。

 

「大丈夫?キタサン」

「あ、トレーナーさん!はい、調子も絶好調で大丈夫ですよ!」

 

 むん、と気合いを入れてアピール。今から演歌を歌えるくらいには絶好調です!

 

 

 控室でやることはいつもと変わらない。作戦の確認ぐらいのことしかしません。

 

「……これも変わらないね」

「いつも通りのことをいつも通りに。バクシンワッショイの気持ちで行きます!」

「いつの間にか定着したね、バクシンワッショイ」

 

 それに、トレーナーさんと話せるのはなんとなく嬉しいですから。こう、話しているだけでテンションが上がります。

 

(思えば、トレーナーさんとも長い付き合いだなぁ)

 

 デビューの順序こそ違いますけど、あたしとドゥラさんは最古参メンバーになる。タキオンさんよりも先に入部していたようなものだし。

 トレーナーさん。あたしが本当にお世話になった人。ここまでこれたのは間違いなくトレーナーさんのおかげで、結果を残せたのもこの人がいたから。

 

(そういえば、トレーナーさんって最初の頃は散々な評価をされてましたね)

 

 今でこそ学園一のトレーナーと言われていますけど、当初は目のことも相まってあまりよく思われていなかった。何を考えているのか分からなくて、目が死んでいる怖い人なんて言われてたっけな。

 けれど、何度も接していくうちに分かった。この人は優しい人だって、一生懸命な人だって分かるようになった。

 

「ふふっ」

「どうしたの?急に笑って」

「いえ、トレーナーさんとのことを思い出して。そういえば、あたしって最初はお手伝いでいたんだな~って」

「あぁ、そういえばそうだね」

 

 付き合いが深くなるほど、理解が深まるほどトレーナーさんのことが分かって。いろいろな一面を知ることができた。ちょっと表に出すのが苦手なだけで、本当は熱いものを内に秘めているんだって。

 あたし達が勝ったらホッとして、負けたら少し落ち込んでいて。でも、あたし達に悟られないために表には出さないようにしている。あたし達が気に病まないようにしているんだろうなって、勝手な想像だけど。

 

(……勝ちたい)

 

 ファンのために勝ちたいって思いがある。みんなに負けたくないからって思いがある。それと同じくらい、トレーナーさんのために勝ちたいって思いがある。

 この人の笑顔が見たい、目に光を灯しているのを見たい。願わくば、それはドゥラさんの勝ちじゃなくて、あたしの勝ちでなってほしい。

 

(この勝負は譲りたくない、誰にも)

 

 ドゥラさんだけじゃない、チームのみなさんにだって負けたくない。あたしが、トレーナーさんを笑顔にしたい。

 なんでだろうか。少し不思議な気持ちだ。こんな気持ち、今までならなかったのに。

 

(でも、悪い気分じゃない)

 

 うん、決めました。

 

「トレーナーさんっ!」

「どうしたの?急に大きな声を出して」

 

 トレーナーさんの手をぎゅっと握る。驚いてるけど、関係ない。

 

「あたし、頑張ってきますね!一生懸命頑張って、勝ちに行きます!」

「……分かったよ。なんで急に手を握ったのかは分からないけど」

「あたしにも分かりません!でも、そうした方がいいと思ったので!」

「分からないかぁ」

 

 勝利を届けるのはあたし。ドゥラさんには譲らない!

 

 

 少しの間握って、トレーナーさんと別れる。きっといつもの位置でレースを見ているんだろうな。

 

「頑張るぞ~、バクシンワッショイ!」

 

 拳を上げて、気合いを入れる。さぁ、お祭り娘キタサンブラック、頑張りますよ!

 

 

 

 

 

 

 中山レース場に集った16人のウマ娘。会場の熱気はとどまることを知らず、上がり続けている。

 

《この日がやってきました、中山レース場芝2500m有馬記念。芝の状態は良バ場の発表、天候も晴れ空が広がっています。気持ちのいい空の下で、ウマ娘達が火花を散らす熱い戦いの幕が、まもなく上がろうとしています》

《今回のレースはね、凄いですよ。海外G1を制覇したウマ娘が5人もいて、G1勝利数が二桁に届いているウマ娘もいるんですから!》

《過去最高レベルのメンバーが集ったといっても過言ではありません。今回の有馬記念も、年末の大一番に相応しいメンバーが集いました。さぁ、まずは紹介していきましょう1番人気の紹介です!》

 

 実況と解説による、上位人気ウマ娘の紹介。キタサンブラック、ドゥラメンテと続いて、サウンズオブアースが3番人気に推されていた。ただ、6番人気までが混戦模様、全くと言っていいほど差がない。この6人のうち誰が勝つのか、それとも伏兵が抜け出すのか。注目が集まる。

 

 

 上位人気の6人は、ライバルとなりうるウマ娘達に鋭い視線を向ける。とりわけ、キタサンブラックとドゥラメンテ以外の4人はやはりというか、この2人に注目していた。

 何度も苦渋を舐めさせられた相手。シュヴァルグランとサトノクラウンにとっては、1回勝っただけでは清算できないほどの敗北を刻まれている。今日も勝つ。そう意気込んでいた。

 サトノダイヤモンドからすれば、大きすぎる壁を教えてくれた相手。海外での経験を経て、今日こそは勝ちに行くと積み重ねていた。

 そして、サウンズオブアース。彼女は予感していた。

 

「あぁ、とても素晴らしい(ブラヴィッシモ)!私の内から溢れる情熱(パッショナート)、キタサン達からも奏でられている……これは、グランディオーソなセッションになる!」

 

 今回のレースは、自分の想像をはるかに超えるような激戦になると。素晴らしい一戦になることを予感していた。

 

 

 レース場にファンファーレが響き渡ると、観客の声援も徐々に落ち着きを見せる。ウマ娘達がゲートに入り、出走の時を静かに待っていた。

 

《一人、また一人とゲートに入るこの瞬間。緊張が走り、発走の時を待ちわびるこの瞬間がたまりません。誰がペースメーカーを務めるか?ペースについていくことができるのか?これから起こるであろう展開を考えると、心臓がバクバクしますね》

 

 最後のウマ娘がゲートに入り、完全な静寂が訪れる。鳥のさえずりすら聞こえそうなほどの静けさの中、ゲートが開くその瞬間を待ちわびる。

 ──そして、その時が訪れた。

 

《最後のウマ娘がゲートに入ります。中山レース場メインレース有馬記念が今ッ、スタートしました!始まりましたレース、キタサンブラックが抜群のスタートを切ります!》

 

 ゲートの開く音が響き、ほどなくしてウマ娘達の駆け出す音が一斉に聞こえてくる。有馬記念が始まった。

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