ソシテアナタニ   作:カニ漁船

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決ッ着ッ!


この世界で

 戦いの幕は下りた。有馬記念を制したのはキタサンブラック。最初から最後まで逃げ続け、ライバル達の猛追を振り切っての勝利。最後まで抜かせなかったのは、意地とでも言うべきか。

 ファンはキタサンブラックに声援を浴びせ続ける。ありったけの思いを、感謝の気持ちをキタサンブラックへと送っていた。

 

《見事にレースを勝ったのはキタサンブラック!ただ一人抜け出したドゥラメンテの猛追は、届きませんでした!》

《いえ、抜け出したといっても、3着サトノクラウンとの差は半バ身差。ほぼ差はないといっても過言じゃありません。1着から6着まで、あまり差はないといってもいいでしょう》

《これほどの接戦、これが最強世代!それを牽引するかのように走ったキタサンブラック!見事、有馬記念を制しました!》

 

 実況も開設も興奮気味に話している。見事なレースに、最高のレースを見せてくれた彼女達にありったけの賛辞を送っていた。

 

「すげぇぞキタちゃーん!」

「おめでとう、キタサンブラックー!」

 

 応援の言葉に、キタサンブラックは。

 

「バクシンワッショォォォイ!これが、あたしのお祭りでぇぇぇす!」

 

 両手をいっぱいに広げて、喜んでいた。

 

 

 ドゥラメンテは膝をついて、レースを回顧する。とはいっても、敗因を探すためのものではない。

 

(不意に、口から零れてしまったな)

 

 思い出すのは最後の直線での競り合い。残り50を切って、キタサンブラックに追いついた時に零した言葉。

 

「君は、本当に強い」

 

 もう一度口に出して、再確認する。

 心からの言葉だった。元より知っていたことだが、改めて彼女の実力を認めた。それが、口から零れ出た。

 負けじと競り合ってくる姿。誰よりもプレッシャーをかけられて逃げていたはずなのに、それでも揺らがない精神力。本人の実力に不動の精神が加わることで完成した、キタサンブラックの走り。崩すことを困難にさせる、お祭り娘の真骨頂。

 ドゥラメンテが思ったことは。

 

(──さて、いかにして崩そうか?)

 

 そんなキタサンブラックをどうやって倒すか?すでに次の対戦のことを考えていた。表情に悔しさをにじませつつ、キタサンブラックに勝つためにはどうしたらいいかを考え始める。

 

「まず大前提でスローペースを作られるのは良くないな。ただでさえ最後の勝負根性が……」

「ど、ドゥラメンテさんがなんかブツブツ言ってる」

「哎呀(アイヤー)、あの状態になると、ドゥラメンテさんは反応しなくなるわ。大人しく待つしかないわね」

 

 遠巻きに見ていたサトノクラウンとシュヴァルグランは後ずさる。邪魔をしない方がいいだろう、と先にキタサンブラックへと声をかけることにした。

 

「おめでとう、キタサン。秋天で届いたと思ったんだけどなぁ」

「や、やっぱりキタさんは強いや。おめでとう」

「あ、クラちゃんにシュヴァルちゃん!」

 

 2人が声をかけると、キタサンブラックは嬉しそうに振り向く。観客の声援に応えるのを止め、2人へと向き直っていた。

 

「2人も、凄く強かった。走っている時も感じてたよ、2人のプレッシャー」

「へぇ?それにしては、あんまり効いてなかったみたいだけど?」

「うん、教えられたからね。何事にも揺るがない精神力を持て、って」

 

 自信たっぷりに、チームで学んだことを口にするキタサンブラック。真っ直ぐに2人を見据えて、自信に溢れた立ち姿で相対する。

 

「あたしは揺らがない。どんな時でも一生懸命に走って、レースを走り抜くって決めたから」

「……成程ね。そりゃ強いわけよ」

 

 話して、サトノクラウンは改めて理解する。この揺らがなさ、一生懸命さがキタサンブラックの美徳であり、強さなのだと。シュヴァルグランもまた、自分が憧れていた相手の強さに敬意を抱いていた。

 

 

 強さを再認識した2人。キタサンブラックは──あたりを見渡す。

 

「みんな、みんな。凄く強かった。だからあたしも、ここまで強くなれた」

「キタサン?」

「負けたくないって思いが、勝ちたいって気持ちがあたしの中に根付いて、膨れ上がって。強くなりたいって思ったんだ」

 

 笑顔を見せ、ファンにも視線を向けていた。

 

「みなさぁぁぁん!本当に、ありがとうございましたぁぁぁ!」

 

 中山レース場に響き渡るくらいに大きな声で、感謝の気持ちを口にした。

 一瞬静まり返る会場。次の瞬間、爆発的な歓声が上がる。

 

「こっちこそ!ありがとうキタちゃぁぁぁん!」

「ドリームトロフィーでも頑張ってくれよー!」

「これからの活躍も、楽しみにしているからねー!」

 

 どこまでも続く喝采の宴。さながらお祭りのように、有馬記念は盛り上がりを見せていた。

 

 

 その中で、シンボリルドルフは鋭い視線を向ける。口元を手で覆い隠しているが、笑みが隠し切れていない。

 

(成程、これが彼女のスター性……キタサンブラックが持つ、唯一無二の輝き、か)

「百川帰海。彼女の一生懸命走る姿が、人々の心を一つにさせる。この状況を作り出すことを可能にする」

 

 笑っているのは勝利を祝福しているから……だけではもちろんない。シンボリルドルフが笑みを浮かべている理由は、他にもある。察しているトウカイテイオーは呆れつつも、シンボリルドルフ同様鋭い視線を向けていた。

 

有馬記念は長距離にこそ分類されるものの、その実は中距離に最も近い長距離だ。ドゥラメンテの方が有利とも取れる」

「けど、キタちゃんは勝った。適性の差とかは諸々あるだろうけど、ね」

 

 分析をし続ける。その理由はただ一つ──年明けに開催されるグランドマスターズに向けての、攻略だ。

 

「あ~あ、ボクも長距離に出走すればよかったな~。そしたらキタちゃんと戦えたのに」

「フフ、だがテイオーはジェンティルドンナにアグネスタキオンと戦うことになる。油断すれば……」

「油断?するわけないでしょ。勝つのはボクだよ」

 

 グランドマスターズ。トゥインクル・シリーズのウマ娘とドリームトロフィーのウマ娘が戦うことができる、唯一の機会。出走してくるウマ娘は日本のみならず、世界中のウマ娘が対象となっている。まさしく祭典とも言うべきレース。

 シンボリルドルフもトウカイテイオーも本戦に出場予定。強敵たちと鎬を削ることにワクワクしている。

 

「楽しみだよ、彼女らと戦うことがね」

「カイチョーがそんなに楽しみにしてるなんてね~。予選でカフェをボコボコにした時凄い気まずそうにしてたのに」

「……言わないでくれテイオー。そもそもクビ差だからそこまで差もないだろう」

「……」

「カフェも無言で睨むのを止めてくれないか?」

 

 そのために犠牲になったウマ娘もいるが、まぁそれはそれこれはこれだ。

 また、楽しみにしているのはココだけではない。ミーティアのメンバー……とりわけ、サクラバクシンオーは目を爛々と輝かせている。

 

「いやはや、キタさんも成長しましたねッ!学級委員長が花丸をあげましょうッ!」

 

 拍手をしてキタサンブラックの勝利を祝福する。ただその目は、獲物を狙う狩人の目をしていた。

 

「しかーしッ!戦う時は容赦はしませんッ!私は模範的な学級委員長ですので、手を抜くなどということはしませんよッ!」

「学級委員長関係あるのかしら?」

「あまり深くツッコまないであげて、アイ」

 

 サクラバクシンオーもグランドマスターズの本戦にコマを進めている。彼女の出走する距離は、キタサンブラックと同じ長距離だ。最も得意とする距離ではなく、かつて最も苦手にしていた長距離で戦うことを決めたのだ。

 理由は単純。戦いたくなったから。

 

「キタさんの強さをずっと見てきました、彼女の努力を近くで見てきました。だからこそッ!私の中の委員長魂が叫ぶのですッ!キタさんと戦いたいとッ!」

 

 シンプルかつ納得のいく理由。短距離を見限ったのではない、それよりも戦いたい相手がいるからこそ、サクラバクシンオーは長距離を選んだ。

 

「レース場はランダム、バ場の条件も天候もランダムッ!どのような場所であろうと、私はキタさんに勝利してみせましょうッ!えぇ、私は完全無敵の委員長、サクラバクシンオーですのでッ!」

 

 周りに観客がいてもお構いなし。自らの抱負を、中山レース場でさらけ出すサクラバクシンオー。

 無論、この声はキタサンブラックにも届いていた。彼女はサクラバクシンオーの方へと向き、挑戦的な笑顔を向ける。

 大きく息を吸って、宣言した。

 

「あたしもっ、負けません!バクシンオーさんに勝ちます!ううん、バクシンオーさんだけじゃない。世界中のステイヤーを相手に、あたしは勝ちますっ!」

 

 自分が頂点に立つと、最強のステイヤーとして君臨すると大きく宣言した。

 サクラバクシンオーは満足げに頷く。立派に成長したキタサンブラックに、嬉しさを抱きつつも。

 

「えぇ、勝負ですキタさんッ!この学級委員長が、いえ。サクラバクシンオーがッ!胸を貸しましょうッッ!!」

 

 胸をドンと叩いて、宣戦布告を受け取った。もっとも、やり取りの裏でシンボリルドルフらがさらに闘志を燃やしてたがそれは別のお話。

 

 

 一連の会話を聞いていた高村は──笑う。

 

(きっと、凄いレースになる。そのレースを見れる僕は)

「幸せ者、なんだろうね」

 

 ぼそりと、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 有馬記念も無事に終わった。ドゥラを戻すのに大変だったけど、仕方ないだろう。

 

(負けた悔しさがあるからね。その代わり、グランドマスターズのマイル戦は勝つって言ってたな)

 

 気合十分の様子に、どことなく安心感を覚える。強い相手はたくさん出走するけれど、それでも勝つのはドゥラだと思うのは……なんとなく、僕の主観が入ってるからなんだろうな。

 無論、相手はドリームトロフィーで強さを磨いてきた猛者だ。さらには、海外の強豪たちも出走してくる。ドゥラにとって分が悪いのは百も承知だ。

 けど、それでも。ドゥラの強さを信じられるのは。

 

「僕自身も、成長したってことなのかな?」

《そうだよ子羊くん》

「……なんで人の端末に?」

《わたし達もいるわ~》

 

 なんかスマホから声がするなと思ったら三女神様達がいた。どうやって入り込んだのか凄く気になるのだけれど……深くツッコむのは止めておこう。サトノの技術力は凄いってことで。

 

《子羊くんは成長した。とても大きく、ね》

《少なくとも、過去の貴様だと今のような言葉は出てこなかっただろう。自分でも察しているんじゃないか?》

「そうですね。確実に出てこなかった言葉です」

 

 ステータスを見れるからこそ、ある程度の勝敗が分かると信じていたあの時の自分。バクシンオーの勝利を信じ切ることができなかった僕を考えると、間違いなく言える。

 変わった要因はなにか?と聞かれたら、僕はミーティアのみんなのおかげだと自信をもって答えられる。それに天城さんや朝霞さんといったトレーナー陣、倉科君みたいなライバル、トレーナー以外にも、たくさんの人にお世話になった。

 みんなとの関りが、今の僕を作っている。熱のなかった僕に熱をくれて、機械のように生きていた僕を人間に戻してくれた。本当に、感謝してもしきれない。

 

《この世界で、あなたはとても成長した。ウマ娘だけではなく、あなたもまた成長した》

《貴様たちだけではない。周りも巻き込んで成長している。レースだけではなく、レース以外の生き方にさえも影響を与えた》

「……僕一人の力だけじゃないですけどね」

《それでも、君はほとんどの事柄に関わっている。君の影響は少なからずあるかもしれない……なんてこともあるわけだ》

 

 過大評価が過ぎるな。僕がやったことは基本的に手伝いだけ、なんだけどね。それでも、素直に受け取っておこう。三女神様のありがたいお言葉だ。

 

《そうだね、もう一度聞こうか子羊くん》

 

 スマホを通して、三女神様が語りかけてくる。あの日と同じ言葉を、僕に。

 

《この世界は楽しいかい?》

 

 微笑みながら問いかけてきた。この世界は楽しいか、という前と変わらない質問。僕の答えも、あの日と変わらない。

 

「──えぇ、とても楽しいですよ。この世界に来て、トレーナーになって。本当に良かったと思っています」

 

 そして女神様達の表情も、変わらない。

 

《それは良かった》

 

 慈しむような笑顔だ。

 

 

 次の戦いは年明けのグランドマスターズ。それだけじゃない。

 

「アイやイクイのデビューも準備しておかないと。特にアイはもうすぐだから」

《わたしたちに相談してくれてもいいのよ~?》

「勿論、頼らせてもらいます」

 

 未来にも目を向けて、歩いていかないとね。




ぶっちゃけここから先はEXステージみたいなものなのでね()。もちっとだけ続くよ。
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