そして世界を救うため~偽勇者として追放されたけど、俺に聖剣なんて必要ないし、何ならお荷物なんだが?~   作:ナカザキ

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1章 その旅路の意味
1:追放


「アレイン! 貴方は勇者でないのにも関わらず、聖剣を我が物の顔で振るい、尊き『勇者』の名を騙った大罪人です! 今すぐ聖剣を返還し、パーティーを抜けてもらいます!」

 

 聖女クレアは、俺にそんな糾弾を突き付けた。人形のように整った顔を怒りと嫌悪に歪めている。

 

 俺の名はアレイン。苗字はない。歳は16。世界を救う勇者、ということになっている。…一応は。

 

 半年前、審判の台座から勇者の証である聖剣を引き抜き、俺は勇者選ばれた。それから俺はパーティーの仲間たちと共に、有力な魔物と魔族たちを次々と討伐してきた。魔族に蹂躙されて続けた人類はようやく俺たち、というか俺の力によって攻勢に出ることができたのだ。

 

 …そんな俺は今現在、聖女クレアに偽勇者の烙印を押されていた。

 

 場所は町の空き地である。夜中なので人の気配はない。

 

「本当なのかしら? アレインがニセモノだなんて…」

 

 パーティーの仲間の一人、魔法使いマリアンヌが聖女クレアに確認をとる。トレードマークの魔女帽が彼女の動揺を示すように揺れた。

 

「私もすぐには信じられないぞ…」

 聖騎士フェリアも続いた。

 

「今、証拠を見せます。…勇者様。こちらへ」

 

 物陰から出てきたのは俺より少し年下の金髪の少年だった。眉を不安げに寄せている。田舎で羊を追いかけているのが似合いそうな少年だった。

 

「彼はジーク。彼こそが本当の勇者です!!」

 自信満々に聖女クレアが言う。

 

「今から証拠を見せましょう! 聖剣よ! 真なる資格者の元、闇を払う清き輝きを顕現せよ!」

 

 そんな聖女クレアの言葉と共に、俺の腰に吊るしてあった聖剣が振動する。やがて宙に浮かび、ジークとかいう少年の手に跳んでいった。

 

 ジークの手に握られた聖剣は、ままばゆい程の純白の輝きを放つ。あまりに明るすぎて近隣住民の何組かが窓を開けて「一体なんだっ」とこっちを眺めるのが見えた。

 

「こ、これが聖剣の本当の力っ!?」

「なんと美しい…」

 

 マリアンヌとフェリアがその輝きに感嘆の声を上げた。

 

 俺が振るっていた聖剣はこんな暖かな輝きは放たなかった。夜には松明代わりになりそうだし、冬場は暖を取るためにも使えそうである。

 

 羨ましい。

 俺の聖剣は敵を殺す、金属の冷たい光を返すだけだった。

 

「聖女は女神の意志を感じ取り、聖剣を繰る勇者を支える存在! 私にはわかっていました。貴方は勇者などではなく、浅ましい詐欺師、偽勇者であることが!」

 

 偽勇者、か。

 そうだろうな(・・・・・)、とは思っていた。

 

 ただ、別に積極的に騙そうと思ったわけじゃなかったんだ。2割くらいは、本当に自分は勇者なんじゃないか、と思っていた。一応、伝承通りに審判の台座から聖剣を抜いたわけだしな。

 

 ただ、やっぱり聖剣がしっくりきていない、無理やり言うことを聞かせている、という感覚はあった。だったら、この結果は約束されたものだったんだろうな。

 

「アレイン、どうして…?」

「どうして、か。だって勇者ってのは、世界を救う存在なんだろ?」

 

 俺は世界を救いたかった。だからこそ、俺は勇者である必要があった。それだけだ。

 

「貴方にはこのパーティー、出ていって貰います! もう二度と私たちの前に顔を出さないでください!」

 

 聖騎士フェリアがまだ何か言いたげな顔をしていたが、結局は聖女クレアの権幕を前に口を噤んだ。

 

 

 …どうでもいい。いくつか言いたいことはあったが、俺が皆を騙していたことには変わりはない。

 

「そういうことだ。みんな。もしかしたらまた会うかもしれんが、達者でな」

 

 俺は踵を返して、速足で町の暗がりに溶けていった。

 

 3人(とジーク少年)の気配が完全に消えたところで俺は近くにあった木箱に腰掛ける。思わずため息が漏れ出た。

 

 これからどうするか。

 

 やるべきことは決まっている。世界を救うのだ。

 

 しかし、その方法が分からない。

 ほんの1時間前ではあるが、勇者だったことは楽だった。行くべき場所、倒すべき相手が明確だった。俺が道をそれそうになっても周囲がそれを許してくれなかった。それは窮屈ではあったし、心底楽でもあった。今の自分の未来は暗雲が立ち込めている。

 

 …それはそうと、俺がいなくなって、あいつ等は魔族たちを狩れるのか? …まあ、真の勇者であるジーク君が何とかするんだろう。

 

 そんなことをぐるぐる考えていると、突如として足元が輝いた。清らかな光を放つ鎖が地面から俺めがけて飛び出て、俺の四肢を縛る。俺は体をろくに動かすこともできなくなった。

 

「俺の命をとりにきたのか?」

「そうだと言ったら?」

 

 質問に、鈴のなるような可憐な声が答えた。真っ白な清楚な法衣。そこからこぼれ出るシルクのような銀髪。端正な顔を嗜虐に歪めるのは、聖女クレアだった。

 

 右手には聖教会に伝わる伝説の杖オーガスト、ではなく月明りを受け鈍く光るナイフが握られている。いつも彼女はオーガストで(俺以外)の人々の傷を癒してきた。しかし今夜はそのナイフで俺の命を奪うつもりなのだろう。

 

 俺はナイフを無感動に眺めながら言う。

 

「…どうしてだ? 半年の短い付き合いとはいえ、一応仲間だっただろう」

「ふん。勇者を騙った大罪人を生かしておく訳がないでしょう。一応あなたにはこの半年間の功績がありますからね。他の2人とジーク様の手前、命を取るとは申せなかっただけのこと。しかし、貴方の存在は必ずや、女神の! ジーク様の邪魔になります。故にここで私が手を下すのです!」

「女神とジーク様の邪魔、ねえ。それはお得意の女神さまからのお告げ? それともお前個人のカン?」

「両者は同じことです」

「なるほど。まあ、どうでもいい、か」

 

 別に誰に命を狙われようと。誰かに認めて貰わなくても。

 俺のやることは変わらない。

 

「ふふふ。まだ質問はありますか? これが最後の機会です。答えて差し上げるのもやぶさかでもありませんよ。なにせ、この鎖はかつて女神が造ったとされる聖縄(せいじょう)。聖剣には及びませんが、それと同じく人の力の枠を超えた神器と呼ばれるものです。貴方ごときでは絶対に抜け出すことは叶いません!!」

 

 なら、折角なんで聞いておこう。

 

「どうして…」

「はい?」

 

「どうして俺が、審判の台座から聖剣を抜けたと思う?」

 

「……………」

「台座も聖剣も遥か昔女神が作ったといわれる人の技術を超えた神器だ。なのに、どうして?」

「そ、それは貴方が、詐欺師で、偽勇者で…」

 

 それは結果だろ。

 答えは一つ。

 

「簡単だよ。女神の力よりも俺の方が強いだけだ」

 

 バギリッッ!!とガラスと鉄の砕けるような音が響いた。俺が女神が造り出したとされる聖縄を引きちぎったのだ。粉々になった聖縄が光の粒子となり、周囲に漂う。

 

 俺は距離を詰め、呆然とする聖女クレアの顔にビンタした。

「ひでぶっっ!!??」

 

 面白い声がでたな。

 

 女神は勇者以外には聖剣を抜けないように審判の台座を作った。だが俺にとっては、少し硬く刺さった釘みたいなものだ。力を籠めれば簡単に抜ける。聖縄とやらも同じだ。確かに硬い鎖だが、引きちぎろうと思えば引きちぎれる。

 

「は、はなぢっ!? よ、よくも婦女子の顔を、本気ではたきましたね!? 正気ですか!?」

 

 ぼたぼたと鼻から真っ赤な血を垂らす聖女が吠えた。

 だが、俺は男女平等主義だ。男が、女が、とか面倒くさい。

 

 それに、

「本気なわけあるか。俺が本気ならお前の首から上は、潰れたトマトみたいに、はじけ飛んでるっての」

 

 さて、どうしてくれようか。俺はポキポキと指の骨を鳴らす。ひいい!と聖女が綺麗な悲鳴を上げた。美声の奴は悲鳴まで聞き心地がいいらしい。

 

 別に命をとられそうになったことはについては、そこまで怒っちゃいない。

 

「私は聖女! 私は女神の声を聴き、勇者と共に歩むもの! 貴方となんてごめんです!」

 

 言うや否や聖女クレアは懐から拳程の球体を取り出して俺に投げてきた。球体は光り輝き大きくなり、俺の半身を飲み込んだ。

 

「神器の1つ『転移の球』です。効果は対象をランダムな地点に飛ばすこと! 空の彼方か、光の届かぬ深海か、未開の樹海か。それがどこかはわかりませんが、どこも命が保てぬ過酷な地でしょう!」

「これは……まずいな」

 

 壊そうと思えば壊せる。が、それをすると、多分あたりが消し飛ぶだろう。

 

 もうこの神器は俺は遥か彼方に飛ばすため、魔力の放出を始めている。これを途中で無理やり破壊すると、神器に蓄えられた魔力が一気に解き放たれて周囲を襲うだろう。町の半分は更地になる筈だ。

 

「お前、神器をいくつ持ってんだよ。全然知らなかったぞ。魔族の討伐との時にそれを使えよ」

 

「うるさい! …命をとれなかったことは残念ですが…二度と私たちの前に顔を出さないでください!」

 

 俺の身体はどんどん転移の球に飲み込まれていく。そして、顔まで飲み込まれた瞬間、俺の視界は黒一面に染まった。

 

 …世界の為、人々の為に頑張ってきたつもりが、最後はこれか。なんともあっけない。

 

 だが、まだ終わらないだろう。どこに跳ぶかは分からないが、どうでもいい。どこでも俺はやっていける。ただ、クレアに対してはもう一発ビンタくらいは食らわせておきたいな。

 

 そんなことを考えながら、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 




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